ジャータカ物語五四
これは師が祇園精舎に滞在されたとき、ある言うことをきかない修行者に語ったことである。世尊がその修行者にたずねた。「そなたは人の言うことを聞かない人間だというが、それは本当か」
「本当です。世尊」
「そなたが人の言うことを聞かないのは今だけのことではない。そのため過去にはベーランバ風に打たれて身を滅ぼしたのだ」。そう言って世尊は過去の話をされた。
昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はアパランナ禿鷲という名の禿鷲の王に生まれ、群れをひきいて禿鷲山に住んでいた。その息子のミガーローパは並はずれた体力を持ち、仲間のどの禿鷲よりも高く舞い上がることができた。それを見た仲間の禿鷲たちが王に言った。「あなたの息子は高く舞い上がりすぎています。あれではやがて身を滅ぼします」
王が息子を呼んで言った。「息子よ。お前はあまりに高く舞い上がっているというが、高く上がりすぎると身を滅ぼすことになる」。そして詩をとなえた。
「息子よ。お前は高く飛びすぎる
そのことが私の心をくもらせる
求めてならないことをお前は求めている
大地が小さな四角い畑のように見えたなら
息子よ。そこから引き返せ
そこから先に行ってはならぬ
空を飛ぶいかなる鳥であろうと
自らを不死なるものと思ってその先へ行けば
風のために命を落とす」
ところがミガーローパは父の言葉を無視して高く舞い上がり、父が話した境を目にしても上昇を続け、黒い風のなかに入っても上昇を続け、そしてベーランバ風に打たれて虚空の中に砕け散った。最後に世尊が言われた。「そのときのミガーローパは言うことをきかぬそなたであり、アパランナは実にわたくしであった」
出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第三八一話
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