ジャータカ物語四九

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、両舌(りょうぜつ)に関連して語った話である。ある日世尊は、六人組の修行者が両舌を使うと聞き、彼らを呼び質問した。

「修行者たちよ。そなたたちの両舌のために、起こっていない争いが起こり、起こっている争いがますますひどくなるというのは本当か」

「本当です。世尊」

「修行者たちよ。離間(りかん。りけん)の言葉はするどい刃物のようなものだ。堅い信頼といえどこれによってたちまち破れる。過去には両舌によってライオンと牛が友情を失い、殺し合ったことがある」。そう言って世尊は過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はその王子として生まれ、成人するとタキシラで技芸を学び、父王が亡くなると王位をつぎ、国を正しく治めた。そのときある牛飼いが森のなかの小屋で牛を飼い、雌牛を一頭そこへ置き忘れて村へ帰るということがあり、その雌牛は一頭の雌ライオンと仲良くなり、森の中で一緒に暮らすようになった。

そこを通りかかった猟師がそれを見て珍しく思い、キノコや山菜などを摘んで献上したとき王に告げた。「王さま。森の中で珍しいものを見ました。ライオンと牛が仲よく一緒に暮らしています」。すると王が言った。

「二匹ならいいが、三匹になるとわざわいが起こるであろう。三匹目が現れたらすぐに教えてくれ」

「かしこまりました」

そしてまた森へ行ったときに確認すると、いつの間にかジャッカルが仲間に加わっていたので、猟師はさっそく知らせに走った。その新しく加わったジャッカルはよからぬことを考えていた。「ライオンと牛をのぞけば、おれがこれまでに食わなかった肉はない。仲を裂いてやつらの肉を食ってやろう」

そしてライオンには「牛があなたのことをこう言ってバカにしています」と言い、牛には「ライオンがあなたを食ってやると言っています」と言って仲を裂いた。そのため殺し合いが始まって二頭とも死んでしまい、ジャッカルは大喜びでライオンと牛の肉を交互に食べた。それを見て王が詩をとなえた。

「いやしい獣のジャッカルが

 ライオンや牛の肉を食えるのは

 するどい刃物のような両舌のおかげ

 離間の語を信ずるものは地に倒れ

 信じないものは天人のように安楽である」

最後に世尊が言われた。「そのときの王は実にわたくしであった」

注。両舌は人の仲を裂く行為のこと、仏教では十悪の一つに数えられている。仲を裂く言葉を離間語というが、両舌という言葉を離間語の意味で使うこともある。なお漢語の両舌には二枚舌の意味もあるから、相手によって違う内容の発言をすることや、前後で違う内容の発言をすることも、両舌ということがある。

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第三四九話

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