ジャータカ物語四六

これは師がコーサンビーのバダリカ園に滞在されたとき、ラゴラ尊者に関連して語ったことである。ある日、説法場で修行者たちが「友よ。ラゴラ尊者はよく教えを学び、よく反省し、よく戒めを守る人です」と話し合っているところに世尊がやって来た。

「修行者たちよ。ここで何の話をしているのか」

「これこれの話です」

「ラゴラがよく教えを学び、よく反省し、よく戒めを守るのは今だけのことではない」。そう言って世尊は過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はバラモンの家に生まれ、成長するとタキシラであらゆる技芸を学んだが、やがて欲を捨てて仙人になり、修行して禅定と神通力を身につけ、心の統一を楽しみながらヒマラヤの森の中に住んでいた。あるとき仙人が塩と酢を手に入れるため辺境の小さな村へ行くと、仙人をうやまう人々がここに住んでほしいと近くの森に草庵を建てた。

その村にシャコ(キジの仲間)獲りの猟師がいた。彼はシャコを篭で飼ってよく鳴くように仕込み、その鳴き声をおとりにして一度にシャコをたくさん捕らえ、それを売って生計を立てていた。あるときそのおとりのシャコが、「私のせいで多くの仲間が殺される。これは私の罪だ」と考えて鳴かなくなった。すると猟師は棒でシャコの頭をたたいてむりやり鳴かせた。

シャコは悩んだ。「私は好きで鳴いているのではない。仲間が殺されてもいいと思っているのでもない。しかし私が鳴くことで、仲間は殺されるし、猟師は殺生の罪を犯すことになる。はたして私に罪はあるのだろうか。この疑問に答えてくれる人が誰かいるだろうか」

ある日、猟師はシャコをたくさん捕り、喉が渇いたので仙人の草庵に立ち寄って水を飲み、横になって休んでいるうちに眠ってしまった。そこでシャコは、「この修行者なら私の疑問に答えてくれるかもしれない」と篭の中で詩をとなえた。

「私の鳴き声のために

 多くの仲間が殺される

 私が原因を作っているのだから

 私に殺生の罪があるのだろうか」

仙人も詩をとなえた。

「鳥よ。心に悪意がなければ

 そなたに起因するといえどそなたに罪はない

 罪を犯さぬものに

 悪業の報いはない」

シャコはこれをきいて迷いがなくなり、猟師は目を覚ますと仙人に別れの挨拶して立ち去った。話が終わると世尊が言われた。「そのときのシャコはラゴラであり、仙人は実にわたくしであった。

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第三一九話

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