ジャータカ物語四三
これは師が祇園精舎に滞在されたとき、ダイバダッタに関連して語ったことである。「修行者たちよ。ダイバダッタが恩知らずなのは今だけではない。昔もそうであった」。そう言って世尊は過去の話をされた。
昔、バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はヒマラヤ地方でキツツキとして生を受けた。ある日そこに住むライオンが、のどに骨を突き刺して抜けなくなり、のどが大きくはれあがった。そのためライオンは食べることも、獲物を獲ることもできず、衰弱して木の下に横たわっていた。えさを探していたキツツキがそれを見て枝の上から話しかけた。
「ライオンさん。どうしたの」
「のどに骨が刺さり、痛くて食べることも獲物を獲ることもできないのだ」
「骨をとってあげてもいいけど、そんなことをしたら私は食べられてしまいそうだ」
「恐がることはない。食べたりしないから助けてくれ」
それならばと、キツツキはライオンに口を開けさせ、「こいつは信用できない」と閉じられないように口に棒を立て、口のなかに入って骨をとり除くと、外に出て慎重に棒をはずした。そして傷が回復し獲物が捕れるようになったとき、ライオンを試してみようと詩をとなえた。
「尊敬すべき獣の王よ
私はあなたのために
できる限りのことをした
何かお礼がもらえるのだろうか」
ライオンも詩をとなえた。
「たえず肉をくだき血をすする
私の口の中に入っていながら
おまえはまだ生きている
それが最大のお礼ではないか」
キツツキがまた詩をとなえた。
「恩を忘れて礼をいわない者
恩を知ることすらない者
そういう者からはすぐに立ち去るがよい
憎んだり、ののしったりすることなく」
最後に世尊が言われた。「そのときのライオンはダイバダッタであり、キツツキは実にわたくしであった」
出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第三〇八話
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