ジャータカ物語四一
これは師が竹林園に滞在されたとき、ダイバダッタとコーカーリカに関連して語ってことである。ダイバダッタが尊敬と利徳を失ったとき、コーカーリカは人々にこう告げてまわった。
「ダイバダッタ長老は人類最初の王マハーサンマタの血統であり、オッカーカ王から連綿と続く王族の出であり、禅定に熟達し、三蔵を熟知し、蜜のような教えを説く聖者である。だから長老に布施せよ。長老に仕えよ」
ダイバダッタもまたコーカーリカを賞讃してまわった。「コーカーリカは北部のバラモンの出であり、真理を説く聖者である。だからコーカーリカに布施せよ。コーカーリカに仕えよ」。こうして互いにほめ合うことでご馳走を得ていた。
ある日、修行者たちが説法場で話をしていた。「友よ。ダイバダッタとコーカーリカは、互いに偽りの徳をたたえ合ってご馳走を得ている」。そこへ世尊がやって来た。
「修行者たちよ。ここで何の話をしているのか」
「これこれのことです」
「彼らがご馳走を得るために偽りの徳をたたえ合うのは今だけのことではない」。そう言って世尊は過去の話をされた。
昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はジャンブ樹の樹神として生まれ、あるときそのジャンブ樹の実をカラスが食べていると、そこへジャッカルがやって来た。そして「カラスのありもしない徳をたたえて実を食べよう」と詩をとなえた。
「妙なる声を持つ
鳴くものの中で最上のもの
ジャンブ樹の上にいる若い孔雀のような
不死なる鳥は何ものであろうか」
するとカラスも詩をとなえた。
「由緒正しい者のみが
由緒正しい者をほめることを知っている
若い虎のような友よ
ジャンブ樹の実を食べたまえ」
そう言って枝を揺すって実を落とした。それを聞いたジャンブ樹の樹神が今度は詩をとなえた。
「死体を食べるカラスとジャッカルが
偽りの言葉でもって
相手をほめ合っている
とても聞いておれるものではない」
そして恐ろしい姿をあらわし、二匹を追い払った。最後に世尊が言われた。「そのときのジャッカルはダイバダッタであり、カラスはコーカーリカであり、樹神は実にわたくしであった」
参考文献「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第二九四話
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