ジャータカ物語四〇

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、スダッタ長者の甥に関連して語ったことである。その甥は親が残した四億金を酒のために使い果たしてしまい、金を恵んでもらおうとスダッタ長者に会いに行った。すると長者は「商売をしなさい」と千金を与えたが、彼はそれも酒のために使い果たしてしまった。

そしてまた恵んでもらいに行くと、長者は今度は五百金を与えたが、それもまた飲んでしまい、またもらいに行くと粗末な服二枚を与えられ、それも飲んでしまってまた行くと、今度は襟首をつかまれて追いはらわれ、寄るべもなく野たれ死んだ。

ある日、スダッタ長者は祇園精舎で世尊に会いその甥の話をした。すると世尊は「そなたがどうして彼を満足させることができよう。過去に私は、あらゆる望みをかなえてくれる瓶を彼に与えたが、それでも満足させることはできなかった」。そう言って請われるままに過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はある豪商の家に生まれ、家を継ぐと布施などの善行につとめ、死ぬと神々の王、帝釈天に生まれ変わった。その豪商には子供は息子一人しかおらず、豪商の家の地下には四億金が埋められていた。

豪商が亡くなると、その息子は家のまえにあずま屋を作って人々を招き、毎日酒盛りをして暮らした。そして酒におぼれ、女におぼれ、「歌はどこだ。踊りはどこだ。軽業はどこだ」といって財産を使い果たし、ボロをまとってうろつくようになった。

帝釈天は息子の困窮を知ると、子供に対する愛情から天界から下り、あらゆる望みをかなえてくれる瓶を与えて言った。「この瓶がある限り、財産がなくなることはない。よく気をつけて守るがよい」。ところが息子は相変わらず酒を飲み、ある日、酔っ払って瓶を放り上げて遊び、手を滑らせて落として割ってしまった。そしてまたボロをまとってうろつくようになり、やがて野たれ死んだ。

最後に世尊が言われた。「そのときの瓶を壊した息子は今のそなたの甥であり、帝釈天は実にわたくしであった」

参考文献「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第二九一話

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