ジャータカ物語三九

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、あるふとった娘に恋いこがれた修行者に語ったことである。世尊がその修行者にたずねた。

「修行者よ。女のために出家生活が嫌になったというのは本当か」

「本当です。世尊」

「誰に恋いこがれているのか」

「あるふとった娘です」

「その娘はそなたにとって危険な存在だ。過去にそなたはその娘の結婚式のご馳走にされたことがある」。そう言って世尊は過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はマハーローヒタという名の牛に生まれ、弟の牛といっしょにある家で働いていた。その家には一人のふとった娘がいて、結婚することが決まっていた。そのため結婚式のご馳走にしようと、サールーカという名の豚をミルク粥で飼っていた。ある日、弟の牛が兄に言った。

「兄さん。私たちが働いているおかげで、この家の人たちは暮らしていけるのに、役にも立たない豚にミルク粥を与えていながら、私たちがもらえるのはワラと草だけ。こんなことがあっていいのだろうか」

「弟よ。あのミルク粥をほしがってはいけない。結婚式の日にどうなるか見ているがいい」。そう言って兄は詩をとなえた。

「サールーカをうらやむな

 彼は死の食事をとっている

 気にせずにワラを食べよ

 これは長命のしるしだ

 もうすぐここに

 従僕をつれた客がたくさんやってくる

 そのときサールーカは

 鼻を上にして横たわる」

そして数日後、サールーカは婚礼のご馳走にされたのであった。最後に世尊が言われた。「そのときの娘は今のふとった娘であり、サールーカはそなたであり、弟の牛は阿難尊者であり、マハーローヒタは実にわたくしであった」

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第二八六話

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