ジャータカ物語三七

これは師が竹林園に滞在されたとき、ダイバダッタが師を殺害しようとしたことに関連して語ったことである。昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はハトに生まれ、ハトの首領となってたくさんの仲間とともに、森のなかの岩山の洞窟に住んでいた。

その洞窟から遠くない別の洞窟に、戒を守る一人の苦行者が住んでいた。そのためハトたちはしばしば話をききにその苦行者のところへ行った。その苦行者は長くそこに住んだのちどこかへ立ち去り、今度はニセの結髪(けっぱつ)苦行者がその洞窟に住みついた。それを見たハトの首領は、仲間とともに新しい苦行者に近づき、挨拶し、歓迎のことばを述べた。そしてそれから五十年間、ニセの苦行者はそこに住んだ。(結髪苦行者は苦行外道の一つ。髪をたばねて髷に結うことからこう呼ばれる)

ある日、近くの村に住む人がこの苦行者にハト肉の料理を施与した。苦行者はその肉のおいしさに驚き村人にたずねた。「これはいったい何の肉か」。「ハトです」。彼は考えた。「私の洞窟にはハトがたくさんやって来る。あれを食べない手はない」。そこで彼は、米、ギー(牛乳から作った油)、牛乳、カミンの実、胡椒などを用意し、こん棒を衣の下に隠しもって洞窟の入口にすわり、ハトが来るのを待った。

そこへ仲間とともにやって来たハトの首領は、ニセの苦行者が何か良からぬことをたくらんでいるのを見抜いた。「いつもとちがう格好ですわっている。態度もおかしい。これは調べてみなければならない」。そう考えて風下に行きにおいを嗅いでみた。「こいつは我々の仲間の肉を食べたに違いない。近づいてはならぬ」。ハトが寄ってこないのを見て、ニセの苦行者は詩をとなえた。

「私は五十年もこの岩窟に住んでいる

 羽毛あるものよ。卵生のものよ

 かってお前たちは恐れることなく

 心安らかに私の手もとにやって来た

 今日はなぜ寄ってこないのか

 私が別人だと思っているのか

 それともお前たちはよそに住む別の鳥か」

ハトの首領も詩をとなえた。

「アージービカ教徒よ

 われわれはお前の正体を知った

 邪悪なことを考えているお前に近づくほど

 われわれは馬鹿ではない」

それをきいたニセの苦行者は、「お前たちを捕らえそこなった。どこへでもさっさと行ってしまえ」、と言ってこん棒を投げつけたが当たらなかった。ハトの首領が言った。「お前は私たちを捕らえそこなったが、四悪所に落ちそこなうことはない。お前が今後もここに住むなら、村人たちにあれは盗賊だと教えてお前を捕らえさせよう。だからお前こそさっさと立ち去るがよい」。そのため苦行者はそこに住むことができなくなった。

最後に世尊が言われた。「そのときの戒を守る苦行者は舎利弗尊者であり、ニセの苦行者はダイバダッタであり、ハトの首領は実にわたくしであった。

参考文献「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第二六九話

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