ジャータカ物語二三

これは師がマガダ国のタボーダ園に滞在されたとき、サミッディ長老に関連して語ったことである。ある晩サミッディ長老は寝ずに修行にはげみ、太陽が昇ると沐浴し、上着を手に持って体を乾かしながら川岸に立っていた。その姿はみごとに作られた黄金の像のように美しく、彼がサミッディ(栄え)と呼ばれたのはそのためであった。その美しい姿に心を奪われた一人の天女が長老に話しかけた。

「修行者よ。あなたは若さにあふれており、黒髪が美しく、賢明で、愛らしい。そのようなあなたが、愛欲を享受せずに出家生活を送ることに何の意味があるのでしょう。まず愛欲を楽しみなさい。それから出家して修行するべきです」

長老が言った。「天女よ。私は今すぐにでも死ぬかもしれない。自分がいつ死ぬのか知らないのだから、たとえ若さにあふれていても苦悩を滅ぼす修行につとめねばならない」。天女は親しみを得られず消え失せた。

このできごとを長老が世尊に告げると、世尊が言われた。「サミッディよ。そなたがその天女に誘惑されたのは今回だけのことではない。その天女は昔から多くに修行者を誘惑してきたのである」。そして請われるままに過去の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はカーシ国のあるバラモンの家に生まれ、成長すると一切の学芸を身につけ、仙人として出家し、禅定と神通を得て、ヒマラヤ地方の湖の岸に庵を結んで住んでいた。

ある晩、仙人は寝ずに修行にはげみ、太陽が昇ると沐浴し、樹皮の衣を一枚まとい、一枚を手に持って体を乾かしながら立っていた。するとその美しい姿に心を奪われた一人の天女が、仙人を誘惑しようと詩をとなえた。

「修行者よ。あなたは楽しむことを知らない

 楽しみを知らずに托鉢をしている

 まず楽しんでから托鉢をしなさい

 時がむなしく過ぎ去らないうちに」

仙人も詩をとなえた。

「私は自分がいつ死ぬか知らない

 それは覆われていて私には見えない

 だから楽しまずに托鉢をする

 時が過ぎ去らないうちに」

詩を聞くや天女は消え失せた。

世尊がさらに言われた。「そのときの天女はそなたが会った天女であり、そのときの修行者は実にわたくしであった」

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第一六七話

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