ジャータカ物語十六

これは師が竹林精舎に滞在されたとき、ある反逆する修行者に関連して語ったことである。昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はトカゲとして生を受け、成長するとトカゲの王となって、何百匹もの仲間とともに川岸の大きな洞窟に住んでいた。

その息子の幼いトカゲは、一匹のカメレオンと親しくなり、やがてカメレオンに抱きついて遊ぶようになった。そのことをほかのトカゲが王に報告すると、王は息子を呼んで言った。「息子よ。お前はカメレオンと友達になったというが、今後、彼らと交わってはならぬ。カメレオンは信用できぬ者たちだ。彼らと交わるとトカゲ族みんなが滅びることになる。すぐにやめなさい」

ところが何度言われても、息子は交際をやめなかった。そのためトカゲの王は、「あのカメレオンのせいで恐ろしいことが起きるだろう。そのときのために逃げ道を作っておかねばならぬ」と穴を掘らせた。

やがてトカゲの息子は大きく成長したが、カメレオンは小さいままであった。ところがそれでもトカゲの息子はカメレオンに抱きついて遊んだので、カメレオンは「このままではつぶされてしまう」と恐怖心を抱くようになった。

ある暑い日に雨が降り、蟻塚からたくさんの羽アリが出てきた。するとその羽アリを食べに、トカゲが蟻塚に集まってきた。そのトカゲを狙って、今度はトカゲ捕りがやって来た。彼はこん棒と穴を掘るためのスコップを持ち、犬をつれていた。それを見たカメレオンはトカゲ捕りに話しかけた。

「何をしに来たのです」

「わしはトカゲを捕りに来たのだ」

「それなら何百匹もトカゲがすんでいる洞窟を知っています。藁の束を持ってついて来なさい」

そう言ってカメレオンはトカゲの群れが住む洞穴に案内した。トカゲ捕りは早速、洞穴の入口で藁を燃やし、煙は洞窟の中に充満した。そのためトカゲたちは息ができなくなり、恐怖におびえながら洞窟から逃げだしてきた。トカゲ捕りはそれをこん棒で次々に打ち殺し、逃げたトカゲは犬に殺された。カメレオンのためにこの恐ろしい事件が起こったことを察知したトカゲの王は、逃げ道から逃げ出しながら詩をとなえた。

「悪人と交わることは

 決して安楽をもたらさない

 カメレオンがトカゲ族を滅ぼすように

 大きなわざわいをもたらすことになる」

話が終わると、さらに世尊が言われた。「そのときのカメレオンはダイバダッタであり、息子のトカゲは反逆する修行者であり、トカゲの王は実にわたくしであった」

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第一四一話

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