ジャータカ物語十五

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、ある人をあざむく修行者に関連して語ったことである。世尊は、ある修行者が人をあざむく性質を持っていることを告げ、それは今だけのことではなく過去にも同様であったと昔の話をされた。

昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はネズミの胎内に入った。そのネズミは智慧をそなえ、イノシシのような大きな体を持ち、数百匹のネズミの王となって森の中に住んでいた。

そのネズミの群れを一匹のジャッカル(小型の狼)が見つけ、何とか食べてやろうと策を練った。そしてネズミの家の近くで、大きく風を吸いこみながら、太陽に向かって一本足で立ち続けるということを始めた。ネズミの王はそれを見て、「戒を守る者かもしれぬ」と思い、近づいてたずねた。

「尊師よ。あなたはどなたですか」

「私は法を守るものです」

「どうして一本足で立っているのですか」

「四本の足で立つと、大地が私を支えきれないからです」

「どうして口を開けているのですか」

「風を食べているのです。私はほかのものは食べません」

「どうして太陽に向かって立っているのですか」

「太陽を礼拝しているのです」

こうしてネズミの王はジャッカルの口車に乗せられてしまい、「戒を守る者にまちがいない」と信じこんだネズミの王は、それからは朝夕、奉仕のために群れを引き連れてジャッカルのところへ行った。するとジャッカルはネズミの群れが帰るとき、一番うしろのネズミをすばやく捕らえて呑みこみ、口をぬぐってまた立ち続けた。

そうしたことが続いたため次第にネズミの数が少なくなった。そのためネズミたちが口々に言った。「以前この住み家には充分な広さがなく、私たちはひしめき合って住んでいた。ところが今は一杯になることがない。これはどうしたことだろう」

ネズミの王はジャッカルがあやしいと考え、「これは確かめてみなければならぬ」と、奉仕が終わって帰るとき一番うしろを歩いてみた。すると案の定ジャッカルが躍りかかってきた。

それを見たネズミの王は、「ジャッカルよ。これがお前の法なのか。我々をだますために法の旗を振っていたのか」と言うや、すばやくジャッカルに飛びかかって頸動脈を食い破り、ジャッカルの体は戻ってきたネズミの群れに食べられてしまった。最後に世尊が言われた。「そのときのジャッカルは今の人をあざむく修行者であり、ネズミの王は実にわたくしであった」

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第128話

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