ジャータカ物語八
これは師がカピラ城近郊のニグローダ樹の園に滞在されたとき、親族である王家の人々に語った話である。
「王家の人々よ。親族間で争うことは好ましいことではない。鳥に生まれたものでさえ、結束しているときには敵を打ち破ることができたのに、仲たがいしたときには大きな破滅におちいったのである」。そう言って請われるままに過去の話をされた。
昔バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はウズラとして生まれ、何千羽ものウズラの王になって森の中に住んでいた。そこに一人のウズラ捕りがいた。彼はウズラの鳴きまねをしてウズラを一ヵ所に集め、そこに網を投げて一挙にたくさんのウズラを捕らえる、というウズラ猟の名人であった。
ある日、ウズラの王が仲間を集めて言った。「このままでは我々はウズラ捕りのために破滅させられる。私はあの男から逃げる方法を知っている。これからはあの男が網を投げたら、すぐに網の目に頭を入れてみなで網を持ち上げ、いばらの茂みの上に運ぶがよい。そうすれば網の下から逃げ出せる」
ウズラたちは「分かりました」と答え、次の日、網を投げられると言われた通りに網を持ちあげ、いばらの茂みに持っていって下から逃げ出した。そのためウズラ捕りは、いばらの茂みにからまった網をはずすのに暗くなるまでかかり、それからは毎日、獲物を持たずに帰ることになった。そのためウズラ捕りの妻が腹を立てて言った。
「あんたは毎日、獲物を持たずに帰ってくるけど、きっと他に養わなければならない人ができたのね」
「そんなものはいないよ。最近はウズラどもが結束して行動し、網をいばらの上に持っていってしまうのだ。だが心配するな。そういつまでも仲よくできるわけがない。そのうちウズラどもは争いを起こすだろう。そのときにはお前を笑顔にさせてやる」。ウズラ捕りはそういって詩をとなえた。
「和合しているときは
鳥たちが網を持ち去る
争いが起きれば
おれが鳥たちを持ち去る」
数日後、一羽のウズラが餌場におりようとして、うっかりほかのウズラの頭を踏んでしまった。
「何で頭を踏むのだ」
「そんなに怒るなよ。うっかり踏んだのだから」
そう言って彼らは口論を始め、争いはいつまでも収まらなかった。それを見てウズラの王は考えた。「仲間同士で争いをするものには破滅が待っている。彼らが網を持ち上げなくなったとき、ウズラ捕りは機会を得る。このような場所にいてはならない」。そして仲間をつれてよそへ去って行った。
数日後、ウズラ捕りがやって来て、鳴きまねをしてウズラを集め、群れの上に網を投げた。そのとき一羽のウズラが言った。「網を持ち上げてみろ。頭の毛が抜けるぞ」。すると別の一羽が言った。「お前が持ち上げるときには翼の羽根が抜けるぞ」。こうして言い争いをしている間にウズラはみな捕まり、ウズラ捕りは妻を喜ばせることができた。
最後に世尊が言われた。「王族たちよ。このように親族間の争いは好ましいものではない。仲たがいは破滅のもとである。そのときの愚かなウズラはダイバダッタであり、賢明なウズラは実にわたくしであった」
出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第三三話
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