ジャータカ物語四

これは師が祇園精舎に滞在されたとき、ある聞き分けのない修行者に語ったことである。世尊がその修行者にたずねた。

「そなたは聞き分けがないというが、本当か」

「本当です。尊師」

「修行者よ。そなたの聞き分けがないのは今だけのことではない。前世も同様であった。そのため蛇にかまれて命を落としたのだ」。そう言って世尊は過去の話をされた。

昔、バラナシでブラフマダッタ王が国を治めていたとき、菩薩はカーシ国の大金持ちの家に生まれ、分別ある年齢に達すると、愛欲のわざわい多きことを知り、また世俗からの離脱に利益を見出したので、ヒマラヤで仙人としての出家生活に入った。そして五つの神通と八つの禅定を得て、五百人の苦行者の師となった。

あるとき一匹の毒蛇の子供が、習性に従って這いまわりある苦行者の所にやって来た。その苦行者は息子に対するような愛情を蛇に対して起こし、竹筒に入れて育てた。蛇は竹のなかに住んでいたため竹坊と名付けられ、苦行者は竹坊の父と呼ばれた。毒蛇を育てている者がいることを聞いた仙人は、彼を呼んでたずねた。

「そなたが毒蛇を育てているというのは本当か」

「本当です」

「毒蛇は信用ならないものだ。育てるのは止めなさい」

「お師匠さま。あれは私の息子です。私はあれなしには生きていけません」

「そなたはその蛇のために命を失うことになるであろう」

数日後、苦行者たちは果実を採りに出かけ、たくさんの果実を見つけたので数日間そこに滞在した。そのとき竹坊の父も一緒に出かけたが、竹筒に入れた毒蛇は持っていかなかった。彼は帰ってくるとすぐに「竹坊に餌をやろう」と竹筒を開け、「息子よ。お腹が空いただろう」と手をさしのべた。ところが空腹のため腹を立てていた毒蛇は、その手に噛みついて苦行者を死に至らしめ、森の中へ入っていった。仙人は弔いののち、苦行者たちに詩でもって訓戒した。

「大事なことを忠告されても従わない者は

 やがて死んで横たわる

 竹坊の父のように」

仙人はその後もヒマラヤで四つの崇高な境地を修め、寿命が尽きると梵天の世界に生まれ変わっていった。

最後に世尊が言われた。「修行者よ。そなたは聞き分けがなかったため、前世では毒蛇にかまれて腐乱することになった。そのときの竹坊の父はそなたであり、その他の衆はいまの仏の衆徒であり、集団の師は実にわたくしであった」

出典「ジャータカ全集一〜十。中村元監修。春秋社。一九八四年」第四三話

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