大慧禅師発願文
大慧宗杲(だいえそうこう。一〇八九〜一一六三))禅師の発願文(ほつがんもん)をご紹介したい。大慧禅師は一般にはあまり知られていないが中国宋代の臨済宗を代表する禅僧である。
この発願文の内容は前後ふたつに別れていて、前半部分は出家生活における目標や決意、後半部分は臨終時や死後に関する願い、となっている。道場で修行していたときには、何も思わずに唱えていた発願文であるが、最近その終わりの部分に心をひかれるようになってきた。
「臨命終のとき、少病少悩、安住正念、末後自在にこの身を捨ておわって」というような臨終を、私も迎えたいと願うようになってきたからである。大慧禅師がこのような臨終を迎えたかどうかは不明だが、おそらく願いは成就したことと思う。
大慧禅師発願文(だいえぜんじ・ほつがんもん)
ただ願わくは某甲(それがし)、道心堅固(どうしんけんご)にして、
長遠不退(ちょうおんふたい)、四体軽安(したいきょうあん)、
身心勇猛(しんじんゆみょう)、衆病(しゅびょう)ことごとく除き、
昏散(こんさん)速やかに消(しょう)し、無難無災(むなんむさい)、
無魔無障(むまむしょう)、邪路に向かわず、
直に正道(しょうどう)に入って、煩悩(ぼんのう)消滅し、智慧増長し、
頓(とん)に大事を悟って、仏の慧命(えみょう)を続(つ)ぎ、
諸(もろもろ)の衆生を度して、仏祖の恩を報ぜんことを。
次に冀(こいねげわ)くは某甲、臨命終(りんみょうじゅう)の時、
少病少悩(しょうびょうしょうのう)、七日已前(しちにちいぜん)に、
預(あらかじ)め死の至らんことを知って、
安住正念(あんじゅうしょうねん)、末後自在に、この身を捨て了って、
速やかに仏土(ぶつど)の生じ、面(ま)のあたり諸仏に見え、
正覚(しょうがく)の記を受け、法界(ほっかい)に分身して、
遍(あまね)く衆生を度せんことを、
十方三世一切諸仏(じっぽうさんぜいっさいのしょぶつ)、
諸尊菩薩摩訶薩(しょそんぼさつまかさつ)、
摩訶般若波羅蜜(まかはんにゃはらみつ)。
語句の説明
○「正覚の記を受ける」は、「汝はこの時、この場所で、悟りを開き仏になる」と、仏さまから成仏の証明を与えられること。あるいはここでは、自分の悟りを仏さまに認可してもらうことを意味しているのかもしれない。
○「法界」は意識の対象となるすべての存在。一切世界。
○「法界に分身する」は法界と一つになること。法界に充ち満ちている不生不滅の命と一つになること。
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