今昔物語その三十
今は昔、大和の国の宇陀(うだ)郡にひとりの女人が住んでいた。心の清らかな、決して人を傷つけたりすることのない女人であった。
この女には七人の子供があり、家が貧しくて食べ物にもこと欠くような状態であったのに、毎日沐浴して身を浄め、家の内外をきれいに掃除し、藤の皮で織った粗末な着物で野に出ては、菜を摘んできれいに調理して盛りつけ、にこやかな笑顔で人に勧めるのを常としていた。
その正直な心に神仙が感動し、やがて女は神仙に仕える身となり、ついには春の野に出て菜を摘んで食するに、自ずからなる感応により知らぬまに仙草を食べ、空を飛ぶことができるようになった。心の清らかなものは、仏道修行しなくても、女の身であっても、仙人になれるのである。
出典「今昔物語集。巻第二十。第四十二話」
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