今昔物語その二十四

今は昔、加賀の国にひとりの女がいた。女は豊かな資産をもつ人の妻として長く裕福に暮らし、夫が亡くなってからは道心が起こったため一人を守って住んでいた。

その家には小さな池があった。その池にいつの間にか蓮が生え、花が咲いた。女はその蓮の花を見るたびに、「この花の盛んなときに極楽往生したい。そしてこの花を阿弥陀仏に捧げたい」と願い祈った。そして花の季節になると、蓮の花を摘んで郡内にあるすべての寺の仏に供えて回った。

そうこうするうちに歳月が積もり、老境に入った女はやがて身に病を受けた。それは花の盛りの時であったので、女は病になったことを喜んだ。「長年の願い通り花ざかりのときに病を受けた。これを思うに必ず極楽に往生する縁があるのだろう」

女は親族や隣人を家に呼び集め、食べ物や酒を勧めながら告げて言った。「私は今日この世界を去ります。お目にかかるのは今日だけとなりました。皆さまの長年のご親切は決して忘れません」

この言葉を聞いた人々は悲しくも貴く思うこと限りなかった。そして女は末期も貴く亡くなった。その夜、池で咲く蓮の花はことごとく西を向いていた。それが極楽往生の証しだと知ると、人々はみな涙を流して貴んだ。

出典「今昔物語集。巻第十五。第五十二話」

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