今昔物語その二十

今は昔、法広寺という寺に平珍(びょうちん)という僧が住んでいた。平珍は幼いときから修行を好み、つねに山中で修行を重ね、霊場や行場と名のつく所はすべて行き尽くしていた。

老いを迎えると法広寺を建ててそこを終の棲家とし、寺の中に別に小さなお堂を造って、中を極楽浄土のごとく飾りつけ、心をこめて阿弥陀仏を礼拝し、「この功徳により命終のとき威儀を乱さず極楽往生したい」と願った。

そして臨終を迎えると、弟子たちに念仏三昧をおこなわせ、にわかに弟子の一人を呼び寄せると言った。「空中に音楽が近々と聞こえてきた。これは弥陀如来が我れを迎えてくださる前兆にちがいない」

平珍は清浄な衣を身に付け、西に向かってきちんと坐り、合掌して念仏を称えながら亡くなった。弟子たちはこれを見て貴び感激し、泣きながらいよいよ念仏を称えた。

出典「今昔物語集。巻第十五。第十七話」

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