死後の手続き

人が亡くなったときにはどんな手続きが必要か、というのがこの文章の内容である。

人が亡くなったときまず真っ先にしなければならないこと、それはその人の死を証明する「死亡診断書」、あるいは「死体検案書」を医師に書いてもらうことである。これがなければ何も始まらないのであり、治療を受けていた人が病気や老衰で死んだときには死亡診断書、事故や急病による突然死の場合は死体検案書を書いてもらうことになる。

これらは書式に違いはなく一通五千円ぐらい、保険金や遺族年金の請求にも不可欠の書類であり、コピーでは受け付けてくれないこともあるから余分に作っておいた方がよい。医師がいない場合には警察に連絡して警察医に書いてもらうこともできる。

自殺、他殺、交通事故死、などの場合は警察による検視が必要になる。だからそうした場合は医師ではなく警察に連絡する。他殺の疑いがあれば司法解剖が行われ、死体検案書は警察が作成してくれる。

次は「死亡届」の提出である。死亡診断書や死体検案書には死亡届が一緒に印刷されている。それを死亡の事実を知った日から七日以内、国外で死亡した場合は三ヵ月以内に役所へ届け出る。死亡届はほとんどの役所で二十四時間体制で受け付けており、受理されると「火葬許可証」が交付される。手数料は不要である。

火葬許可証がなければ火葬ができず、火葬の段取りがつかなければ葬儀ができない。そのため役所は二十四時間体制で受け付けているのであるが、許可証がなくても火葬場の予約はできるから、本当はそれほど急ぐ必要はない。これは葬儀社に代行してもらうこともできる。

火葬許可証に火葬の終了を証明するはんこが押されると「埋葬許可証」になる。火葬終了後に返してもらうこの埋葬許可証を、納骨のとき寺や墓地の管理者に提出する。私が住んでいる町では菩提寺の和尚が葬儀を行ない、菩提寺の墓地に納骨するという状況なので埋葬許可証なしでも納骨できる。ところが公営の霊園などでは埋葬許可証がないと納骨できない。そのため檀家さんが都市の霊園に墓を移転したとき問題が起きたことがある。埋葬許可証が失われていたからであり、そのため間違いなくこちらの墓地から移すという内容の書類を書き送ったことがある。

     
遺産相続

遺産相続に当たってはまず遺言書の有無を確認しなければならない。遺言書は遺産相続を円滑に進めるために必要な書類であり、これが無いとハンコを貰うために会ったこともない親戚を捜しまわることにもなる。だから必ず書いておくべきものである。

故人の財産は亡くなった瞬間から相続人全員の財産になる。そのため預金などは原則として死亡した時点で凍結され、その後は相続人全員の印鑑証明、遺産分割協議書、除籍謄本がなければ出せなくなる。だから葬儀に必要な費用ぐらいは前もって出しておくべきであるが、死亡後であっても凍結される前に出してしまえば後で銀行から苦情が来ることはない。また凍結された口座でも葬儀の費用ぐらいは銀行に掛け合えば出してくれるらしい。

銀行は口座を凍結するための死亡情報をどこで入手するのだろうか。市役所に勤めている人に、死亡届を受理した人の名前を銀行に連絡しているのかときいたら、そんなことはしていない、新聞の死亡欄を見て凍結しているのではないか、という返事であった。

銀行の側に聞いてみたら、預金者の死亡調査などしていない、たいていは遺族からの連絡を受けて凍結していると言っていた。とすると死後であっても引き出せる確率は高いことになるが、逆に言えば確実に凍結したい場合はこちらから連絡しなければならないことになる。

どこに預金していたか分からないと困ったことになる。商法によると五年間利用がなければ、銀行などの口座は時効で権利が消滅するからであるが、それは法律上の話であってたいていは十年ぐらいは待ってくれるし、権利が消滅する前に連絡が来るはずである。もちろん一番いいのは財産目録を書き残しておくことである。

相続人の一人が行方不明で生死が分からず遺産相続ができない、という場合には、失踪宣言をすれば相続が可能になる。ふつうの行方不明では七年間、戦地や沈没した船で行方不明というような場合には一年間、生死が不明なら失踪を宣言できる。また認定死亡の制度もある。事故や災害で死亡は確実なのに遺体が出てこない場合には、死亡認定をするように家庭裁判所に申請できる。

     
保険と年金について

国民健康保険の被保険者あるいはその扶養家族が亡くなったときは、自治体から三万円から七万円の葬祭費が給付される。社会保険の場合は事業主を通じて五万円の埋葬料が給付される。また業務上あるいは通勤途上の事故などで亡くなったときは、労災保険から葬祭料が支給されることがある。ただしこれらは申請しなければ出ない。

生命保険に加入していた場合、死亡後二ヵ月以内に死亡保険金請求書を取りよせ、二年以内に受給手続きをする。問題がなければ五営業日以内に保険金が支払われる。

自殺の場合はどうなるのかというと、法的には保険会社は支払う義務はないが、実際には約款で「契約日から三年以内に自殺したときは保険金を支払わない」と定めている会社が多く、その場合には三年を過ぎていれば支払われる。この約款の理由は、自殺する人が生命保険に加入することが稀であること、自殺するつもりで加入しても三年後までその意思を持ち続けている人がほとんどいないことなどである。

高額医療費の払い戻し制度もある。同一の月に、同一の医療機関で、同一の診療を受けて、一定の金額をこえた場合には、こえた医療費の払い戻しが受けられる。だから故人が診療を受けていた場合には確認した方がよい。窓口は国民健康保険のときは所轄の健康保険課、社会保険のときは社会保険事務所である。

国民年金、厚生年金、共済年金、などの年金を故人が受給していたら受給を停止しなければならない。そして遺族年金が給付される場合には申請する。遺族年金の額は年齢や家族構成によって違いがあり、窓口は勤務先の最寄りの社会保険事務所、あるいは市区町村の国民年金課である。

ひき逃げや通り魔などの犯罪で死亡し、犯人不明で加害者から補償を受けられないという場合、犯罪被害者基本法が適用されれば国から補償を受けられる。窓口は警察署、申請期間は犯罪を知った日から二年以内、最長で犯罪が起こってから七年以内である。

     
その他

移植のための臓器提供をするには本人と家族の承認が必要であり、この場合、家族は本人死亡の前に提供する意思のあることを連絡しなければならない。それでないと間に合わないからである。

献体を希望する場合は生前に献体登録をしておく。これには三親等までの了承と署名が必要であり、事情が変わればいつでも取り止めることができる。そして登録した人が亡くなったら二十四時間以内に連絡する。遺体の搬送や火葬などは解剖する大学がやってくれるが、遺骨が返ってくるのは早くて一年後、遅くて三年後になる。遺骨を大学の納骨堂に納めることもできる。

認知症や知的障害などの理由で判断能力が十分でない人には成年後見制度がある。障害がある人の生活や財産を管理する後見人を生前に定めておき、死後の手続きや遺産相続の手続きもやってもらうのである。ただし後見人が相続人になったときは、その後見人は遺産分割協議をおこなうことはできない。

生活保護を受けていた人が亡くなったときには葬祭扶助を受けることができる。葬儀をしてくれる人がなく、葬儀の費用も残していない場合には、行政が葬儀をしてくれるのであるが、読経も戒名もなしの葬儀になる。

行旅死亡人(こうりょしぼうにん)いわゆる「行き倒れ」があったときは、警察が遺体を調べて遺族に連絡する。身元が分からなかったり、遺族が遺体の引き取りを拒否した場合は、警察が自治体に引きとりを依頼する。自治体は遺体を火葬にし、遺骨の引き取り手がなければ無縁の遺骨として合葬する。

参考文献「人は死んだらどんな手続きが必要か」寺門興隆2009年四月号

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