天蓋掃除の話

年末大掃除のとき、これまで手を付けたことのなかった本堂の天蓋(てんがい)を掃除してみようと思いついた。天蓋というのは頭上につり下げる傘のような形をした飾りであり、インドの王侯貴族が外出するとき、その頭上にさしかけた日よけの傘に由来するものとされ、仏像の上に吊るものを仏天蓋(ぶってんがい)、和尚の上に吊るものを人天蓋(にんてんがい)という。

そこでまずは汚れ具合を点検してみようと、脚立の上に立って天蓋の上をのぞいてみたら、おどろく程どっさりとほこりがたまっていた。昭和八年と日付が入っているから設置してから七三年が経過しているが、まちがいなくその間一度も掃除をしていないのである。とんでもないものを見てしまったと思いながら、覚悟を決めて脚立の上に大きな掃除機を持ち上げ、掃除に取りかかった。へたをすれば掃除機もろとも転がり落ちる危険な仕事であり、掃除機のゴミ袋を一度交換しなければならなかった。

天蓋の上の部分の掃除が終わったら、今度は天蓋に吊り下げてある六本の瓔珞(ようらく)のほこりが気になってきた。ほこりは上にたまるものなので、上から見るとよく目に付くのである。瓔珞は金色の小さな部品をほそい銅線で編んだ帯状の飾りであり、その起源は宝石などを紐で連ねて首や胸に下げた装身具だという。

そこでまずハタキをかけてみたところ、ハタキが少し引っかかっただけで、劣化していた銅線が切れてしまった。それにハタキをかけたぐらいでは、ホコリは取れないことも分かった。瓔珞の掃除にはどこの寺も手こずっていると思う。

この瓔珞のホコリをあっという間に掃除する方法を考え出した。まずホコリを落とさないように静かに瓔珞を天蓋からはずし、風呂場へ運んでシャワーで洗い流すのである。こうすれば簡単にホコリがとれる。あとは乾かしてから吊り下げ、形を整えてやればよいのである。

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