吾妻山(あづまさん。一九七四.七メートル)

 平成二五年十月七日(月)晴

吾妻山は福島と山形の県境につらなる吾妻連峰全体を指す山名。つまりこの連峰に吾妻山という峰は存在せず、そしてこの連峰で一番高いのは西吾妻山(にしあづまさん。二〇三五メートル)、つぎが東吾妻山(一九七四.七メートル)であるから、この連峰を代表する峰を選ぶとすれば西吾妻山ということになる。

また吾妻山は百名山の一峰であり、深田久弥氏は白布高湯(しらぶたかゆ)温泉から登る西吾妻山のことを中心に吾妻山のことを書いているから、百名山めぐりをする場合も西吾妻山に登るのが本筋である。ところが西吾妻山の印象は、下調べのときも、白布峠から眺めた姿も、地味で面白味に欠けるというものであった。もっともそのぶん秘境の温泉から登る秘境の山という雰囲気はあったが。

それに比べると、東吾妻山の登山口がある浄土平(じょうどだいら)周辺には見るべきものが多い。磐梯吾妻スカイラインが通る浄土平は、広い駐車場を備えた観光の拠点になっていて、その周辺には、吾妻小富士(あづまこふじ)、一切経山(いっさいきょうざん)、高層湿原、いくつかの池、などの見どころがある。

また無料化されたスカイラインからも、手軽に標高一七〇〇メートルの景色を楽しむことができ、途中にある展望台「双竜の辻」からは磐梯山(ばんだいさん)と安達太良山(あだたらやま)を一望できる。双竜はこの二つの百名山を指しており、双竜の辻は作家の井上靖氏による命名である。

ということで私は見どころの多い東吾妻山に登ることにした。本当は二つとも登ればいいのだが、一日では無理なのである。行程は、浄土平から出発、酸ヶ平(すがだいら)、一切経山、酸ヶ平、鎌沼(かまぬま)、姥ヶ原(うばがはら)、東吾妻山、景場平(けいばだいら)、鳥子平(とりこだいら)、桶沼(おけぬま)、浄土平、という一周コース。

浄土平にある高層湿原には木道が敷設されていた。一切経山は中腹からガスを噴出する火山、山頂の北側には「吾妻の瞳」と称される紺色の水をたたえた五色沼(ごしきぬま)がある。火口湖と思われるこの丸い形をした沼はたしかに瞳に似ている。この魅力的な沼のせいか、この山は登山者が多かった。

東吾妻山はなだらかな見かけの割に歩きにくかった。オオシラビソの樹林帯の中を行く道はどこもぬかるんでおり、むき出しになった木の根も滑りやすいく、景場平へ下るときにはとくに注意が必要であった。

いったん車にもどり、運動靴に履きかえて吾妻小富士も一周した。この山は小さな噴火口を山体とする可愛らしい山。この噴火口は五〇分もあれば一周でき、その一周路を観光客が革靴で歩いていた。今回は標高差三百メートルということで楽な道ばかりであったが、楽なだけに思い出になることも少なかった。

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