比良山 正面谷
平成二四年一月十七日(火)快晴
この日は雪を見に比良山へ行ってきた。行程は正面谷(しょうめんだに)、金糞峠(かなくそとうげ)、中峠(なかとうげ)、の往復であった。
この日は快晴のため夜間の冷えこみが厳しく、登山口で車を降りるとき早くも凍りついた雪の上で転びそうになり、金糞峠までは踏み固められたガチガチの雪道になっていた。比良山はアイゼン無しで登れる山だと思っていたが、この日はアイゼンが欲しくなった。
十年ほど前、青ガレというガレ場に花が供えられていたことがあり、それ以後、正面谷は通行禁止になっている。おそらくそこで死亡事故があったのであろうが、今も正面谷の道はよく踏まれている。この日、会った人が言っていたように、この道が危険というなら山などどこも歩けない、みんなそう思っているのだろう。
この寒さの中、奥ノ深谷で釣りをしている人がいた。
「この寒いのに釣れますか」
「せいぜい数匹ですね」
「ねらいは何ですの」
「イワナ」
川岸にテントを張っているとかで、もうひと晩泊まってから帰るという。
「すると晩めしはイワナの塩焼きですね」
「もったいないからイワナは持って帰ります」
なお冬の渓流は禁漁になっているので、このまねをしてはいけない。キャンプをしているならここだろうと、下山のとき近くの広場を見に行ったら、小さなテントが雪に埋もれるように立っていた。
密漁者と別れてヨキトウゲ谷へ入る。急に雪が深くなり、その雪のなかに数人分の足跡が谷の奥へと続いていた。足跡をたどって行くと谷が狭くなるごとに雪が深くなり、カンジキを着けてさらに詰めていくと、突然、木の上から強い日射しでゆるんだ雪が落ちてきた。そこからは上を見ながら歩き、十二時十分に中峠着、いい時間になったので今日はここまでとした。
峠の上から眺めると、武奈ヶ岳(ぶながだけ)が雪で真っ白にかがやいており、反対側には木の葉に隠れて見えないはずの堂満(どうまん)岳が冬枯れの林を透かして見え、真っ青な空に飛行機雲が一本流れていた。風は強くはないが吹きさらしの峠の上は凍えるほど寒かったので、風から身を隠すように風下の斜面に腰を下ろし、日だまりの中で静けさと雪景色を充分に味わってから下山した。
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