藤原岳(ふじわらだけ。一一四〇メートル)
       
 平成二二年四月八日(木)快晴

藤原岳は滋賀と三重の県境をなす鈴鹿山脈の一峰。春一番に咲く福寿草の群生地があることで知られ、その花を見ようと三月から四月にかけて入山者が急増する山。今回の目的は八合目から九合目にかけて群生する福寿草を見ること、そして花はねらい通り満開の状態であった。自生する福寿草を見たのは初めてであった。

ところが福寿草はたくさん咲いているのに、他の花はヒロハアマナが二輪のみ。福寿草が春一番ということは、他の花はこれからということか。この山は秋の花もすばらしいと教えてくれた人がいた。

登山口は鈴鹿山脈と養老山地を分ける谷の中にある。関ヶ原と四日市を結ぶこの谷を走るのは初めてだったので、国道三六五を走るのも楽しみにしていた。この道は江戸時代に地方を視察して回った巡見使が通った道ということで、巡見(じゅんけん)街道の名が今も残っている。

山全体が石灰岩でできているため、伊吹山や鈴鹿山脈北部の山は、あちらこちらでセメント工場に山の一部を削りとられている。とくに伊吹山などは、これでは百名山が一つ消滅すると心配になるほどひどい削られ方をしている。

藤原岳も登山道から見えない東の尾根がごっそり削られている。山頂の避難小屋から眺めると、東側の丘のはずれに林道が少し見える。そこが削られているところ。無残に削られた山を見ると「この罰当たりめ」と言いたくなるが、「自分の山を削って何が悪い。あんたの家はセメントを使ってないのか」と言われると返す言葉がない。

藤原岳や伊吹山は中腹から上には高木が生えていない。これは石灰岩の硬い地盤に根が張れないのが原因だと思う。この山のふもとは屏風を立てたような急斜面になっていて、その急斜面のすぐ下まで民家が建てこんでいる。そのためこの辺りはしばしば土石流の被害を受けてきたという。

この日の行程は、聖宝寺(しょうほうじ)下の駐車場に車を置いて聖宝寺道を登り、大貝戸道(おおかいどどう)を下山して車にもどる、という一周コース。駐車料金は三百円、ただし紅葉の季節には千円いただきますとあった。西藤原小学校下の観光駐車場も三百円。

下山した大貝戸道の登山口には、トイレと休憩所を備えた十数台分の無料駐車場があった。もちろんこの駐車場を知っていたらこちらに駐めたのであるが、ここは入る道が分かりにくい。二つの登山口は徒歩で十五分ほどの距離、トイレは山頂と聖宝寺にもある。

     
出発

聖宝寺下にある鳴谷(なるたに)神社にお参りして出発。神社と聖宝寺は急な階段で結ばれている。聖宝寺からはジグザグの急登となり、一合目にある小さな滝が長命水という唯一の水場。石灰岩の山は水が伏流するためどこも水場が少なく、この沢もここから上には水は流れていなかった。

四合目で杉の植林帯を抜け、振りかえると養老山地が見えた。聖宝寺道と大貝戸道が出合う八合目から福寿草の群生地が始まる。山頂があるのはカルスト台地に特有のなだらかな丘の上、山頂を滋賀と三重の県境が通り、手前の丘には避難小屋の藤原山荘がある。この日は快晴で遠目がきき、展望丘(てんぼうおか)と呼ばれる山頂からは、伊吹山、白山、さらには乗鞍岳もかすかに見えた。

二〇年ほどまえ御池岳(おいけだけ)からここまで縦走して来たことがある。そのときここには背の高い笹がびっしりと茂っていたが、今は笹がずいぶんと小さくなった。これは増えた鹿が原因である。

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