春 の 山



白い桜

雪山の兎

ワタスゲ

イワカガミ

サラサドウダン

オオタカの巣
 今春の(平成23年)花見山の桜は、一体どうしたというのだろうか?

 例年なら、小さな山全体を華やかなピンク色に染めてしまうのに、今年

の桜はピンク色を無くして白い。

福島原発からは60キロ離れているのに、3月12日と15日の二度の水

素爆発事故で、放射線汚染されてしまったのだろうか? 

モモやレンギョウの花の色には変化はなかった。

 私は、今まで見たことのない白いサクラに悲しみを感じた。東日本大震災

の犠牲になられた方たちを悼んでいるかのようだ。でき上がった花見山の

写真は黒枠の額が似合いそうで、私は泣きたくなるような切ない写真を眺

めた。

 5月に入ると、山の雪が消え始めるが、福島市西方の吾妻山の残雪が兎

の形状になる時期がある。農作業の種まきを始める時期に現れる雪形で、

種まき兎ともいわれる。私の好きな季節の一風景である。

 そして、5月半ばになると、吾妻山にイワカガミ(イワウメ科)が咲く。

しかし、今年の1月の記録的な降雪は花の季節を遅らせたようだ。6月半

ばになってようやく咲いているという情報を得て、山へ車を走らせた。

風を避けるように、岩陰や草むらの中にうつむいて咲くピンクのイワカガミ

は可憐だ。四方を見渡せば山のあちこちに残雪があり、まだ荒涼とした景

だ。浄土平の湿原にはイワカガミのほか、ワタスゲ(カヤツリグサ科)が丸い

綿帽子の果穂をつけ始めているだけで、私はすぐ引き返すことにした。

 山を下る沿道の藪の中に、サラサドウダン(ツツジ科)、そしてタニウツギ

(スイカズラ科)が咲いていた。私の車の出現にあわてた小猿が、ようやく

ガードレールによじ登って、谷の草むらの方へと転がるように降りていった。

「そんなにあわてなくとも大丈夫よ」私は車の中でひとりごちた。

 私が時時車を止めては下りて写真を撮っていると、老ご夫妻が乗られた一

台の車が私を通り過ぎて行く。そして、私が追いついてしまう。

その方は車をすぐ道の脇へよけられる。私は、すみません、と頭を下げて追

い越す。そしてまた、私が車を止めてシャッターを切っていると先ほどの車が

追いついて、と、まるでシーソーゲームのようであった。

失礼ながら山道にはあまり慣れていらっしゃらないようだ。福島県の浜通り

地方の車ナンバーであった。福島市に避難されていらっしゃる方と察しられ

た。気晴らしにドライブされたのかもしれない。一時でも心が癒されたであろ

うか。そうあってほしい、と願った。


 私は山を下り、ほっとして、何気なく林の方を見渡すと、赤松の木に鳥の

巣をみつけた。小枝で組まれた頑丈そうな巣である。望遠レンズなので実際

の大きさはわからないが大きな鳥の巣らしい。鳥の姿は見えないけれど

シャッターを切った。後日、何の巣であるのか、専門の方にお尋ねした。

オオタカの巣であった。そういえば、浄土平で、グレーのオオタカが、ゆっくり

と空を旋廻して獲物を探していたのを、私はしばらく目で追っていたのだった。

また、夏の花を見つけに行こうと、毎日、外へ出るたびに、西の空の吾妻連

峰を眺めている。