『名作の条件』

<質問>
 名作というのは、どういうのをいうのでしょうか? また、名作の条件というようなものはあるのでしょうか? あったら、ぜひ教えてください。私も、まねをしてみたいと思いますのでー。
 ところで、まねをするのは良いことでしょうか、悪いことでしょうか?
 できれば、その答えもお願いしたいのですが……。
      (福岡市のH・Hさん)

<名作の四つの条件>
 古今東西で、数えられないほどの小説や随筆、あるいはエッセイ、戯曲が発表されてきました。人間の創造力、創作力というのは、全くもってすごいですね。さすがは、神様の姿に似せて作られた、といわれるだけのことはあります。
 ところで、名作といわれているものは、やはり、それだけ価値があるわけですから、これから文章を書こうと思っている人、あるいは書いているのだけれど一向に上達しないと嘆き気味の人のために、H・Hさんの質問を選びました。
 まず作品には、大きな柱が四本ある、と覚えてほしいのです。
 一、 主題(テーマ)
 二、 素材
 三、 構成
 四、 表現力(文章力)
 この四つの要素が絡まりあって、作品を作りあげているのです。ですから、名作といわれるものは、この四要素を、すべてクリアーした作品ということになります。一つでも欠けたら、残念ながら失敗作ということになります。
<評価の分かれどころ>
 では、四要素が欠けた場合のことを説明しましょう。分かりやすく述べますと、栄養失調の体と考えたら理解が早いでしょう。
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二枚目
 テーマが稀薄な作品は、「何が書かれているのか、さっぱり分からない」という批評になります。つまり、作者が訴えたいこと、言いたいことが、よく出ていないというわけなのです。これでは書いた意味がありません。労力と原稿用紙、それにペンとインクの損失です。いいえ、まだあります。時間をムダに使用したという悔いが残ります。何といってもテーマは明瞭に出してください。
 では素材を生かしきっていない作品の場合は、どういう批評になるのでしょうか?
 さしずめ、「不器用な作家だ」というレッテルが貼られるでしょう。もしかしたら、書く姿勢を問われるかもしれません。「何を考えているのか」とーー。
 いま述べました「テーマ」と「素材」の二つは、密接な関係にあります。たとえば、テーマを樹木の幹にたとえますと、素材は小枝と考えて差し支えありません。
 次に、構成という栄養素が欠けた場合のことを考えてみましょう。
 構成は文字どおり骨組みという意味ですから、タテとヨコをみっちり計算して図面を引かなくてはなりません。計算を間違えると、ガタピシした家同様、何とも陳腐なストーリーができあがることになります。それでも面白ければ問題はありませんが、まず読むに堪えないものになるでしょう。
 こうした構成の失敗は、テーマを作者がよく把握しないで組み立てたときに起こりがちです。テーマと、しっかりにらめっこをして、つまりテーマを笑わせて(手の内に入れて)から組み立ててください。ここは頭の柔軟さが問われるところです。天才、秀才と自負している読者諸兄姉の腕の見せどころです。本領を発揮してほしいものです。
<表現力が最大のポイント>
 いま私は、「本領を発揮して……」と構成の段で述べました。しかし、本当に本領を発揮すべきなのは最大の関門である、この「表現力」という部門です。表現力は文章力ともいわれています。この表現力で、作家は苦しんでいます。「文体」と一般的に言われているものも、分かりやすく述べますと、「表現する術」ということにほかなりません。
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三枚目
「何ともはや、下手だなあ」
 そんな感想が読者の口を突いて出た場合は、表現力の劣る拙い作品ということになります。
そういう作品ですと、読者は最初のページで本を閉じてしまうでしょう。
 もの書きは、実はこの表現力で苦労するわけです。みっちり勉強するのは、一にも二にも、この表現力を養わんがためなのです。表現力がなくては、説得力のある文章、作品は書けません。じっくり描写できるだけの表現力を身につけて、初めて、いい作品ができあがることになります。
 下手な文章を書かないために、では、そのコツを述べてみます。
  @擬音や擬態語を用いない。
  A語尾まで、きちんと書く。
  B文体に、「……と思う」という言葉をなるべく用いない。
  C「……のように」という表現も、なるべく用いない。
  D助詞を省かないで、きちんと書く。
  Eセンテンスは短く。
 たったの六箇条ですが、これだけ身につけただけでも、文章はぐんと上達します。この段は、別に章を設けて詳しく解説しますので、ここではこれだけにしておきます。
<結論>
 つまり、名作と呼ばれる作品は、テーマ、素材、構成、表現力という四要素を、すべてクリアーしているということになります。要するに、栄養のバランスがよくとれているわけです。
 ところでまねをしてよいかーーというご質問ですが、「芸術は模倣である」ともいわれていますから、最初のうちは「まね」をしてもいいでしょう。
 よい文章を学ぶには、名作といわれている作品を書き写すという方法もあります。これは、文章の味や呼吸を自分のものにする一つの手段として最高の勉強法でしょう。
 でも、亜流になってはいけませんから、ほどほどにということも忘れないでほしものです。