我が一生
品田 せい
一九三五年に生れしわれ「小学校」は「国民学校」
山村の地主の父は教師にてわれら親子は町に住みたり
一九四五年「日本」が大反転す 我が家もまた
農政の変転ゆゑに帰村せし我が家一向にはか百姓
子供等のつたなき力も頼らるる山村農家のきびしき生活
十二歳の少女の吾が労力が学業よりも優先さるる
通学のゆるき山道四キロは詩歌の生るる教室なりき
山村の中学校にて異端なる教師と吾と 縁の不思議
高校の汽車通学の三年間車中は唯一の読書の時間
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二枚目
無一物の婚家なりせば吾は稼ぐ家事一般は姑にまかせて
新設の市立保育園にて園長の補佐役たのしき我が三十代
次々に頼られるなか養育にかかはりし児の死にも逢ひたり
出でがたき身となりて我ひたすらに「小説」の中に心泳がす
老耄の姑と身障の夫持ちて看取りひとすぢ我が五十代
姑は逝き病夫も逝きてひとり身の旅行三昧我が六十代
ひとつ家に子孫と住みて穏やかなありがたき日々我が七十代
今しわれマウスペインターのボランティアいつまでもと祈る七十四歳