1 ケース検討
本当に在宅死の覚悟はできていた?〜多発脳梗塞と肺癌合併の1ケース
福祉の森診療所 赤荻栄一
訪問看護ステーションはなもも 中澤由君子
ケース:81歳男性 多発脳梗塞、右肺癌 介護度:要介護5 主介護者:長男
本人家族の希望:病院で治療は受けたくない
経過:糖尿病で外来診療中のところ、平成25年11月初めから嚥下困難が出現。近くの耳鼻科から自治医大耳鼻科へ紹介され、そこで検査を受けて耳鼻科領域には問題なしと言われた。ただし、MRIで、多発脳梗塞、右肺癌と診断された。嚥下困難は脳梗塞による仮性球麻痺*として、11月25日内科病棟へ入院。胃瘻造設の提案があったが、本人と家族は希望せず、経鼻チューブを挿入して経管栄養を続け、退院することになった。しかし、退院が決まったところで誤嚥性肺炎を併発。肺炎軽快後、2月にやっと退院。
2月24日、初回訪問。仙骨部に褥瘡形成。ポケットがあるため、上下に切開を加えた。経管栄養は、1日にエンシュアH 2缶と500〜600mlの水分。それでも、一回の摂取水分量が多いと逆流により誤嚥が起こった。したがって、1日の水分量は、誤嚥の状態を見ながら可能な限り増やすという指示にした。
3月末には原因不明の下血あり。アドナの投与で様子を見たが、翌週には軽快。痔からの出血と思われた。4月になり、縟瘡は軽快傾向。ただし、血圧が下がり、デイサービス時に入浴させてもらえない状態が続いた。4月下旬、喘鳴が出現。体温も上昇傾向。誤嚥による肺炎と診断したが、家族は入院を希望せず、このまま見て行くことにした。経鼻チューブを交換すると喘鳴は軽減したが、呼吸状態はしだいに悪化し、5月6日自宅で死亡を確認した。
*球麻痺:舌、口腔、咽喉頭部のマヒを起こす延髄の疾患による麻痺。仮性球麻痺は、多発性脳梗塞などで同様の症状を起こしたもの。
問題点:
・家族も本人も、病気に対する理解はできていたか?
嚥下困難の症状が出始めた時は、市内の耳鼻科を何か所も受診。最後に自治医大で脳梗塞と診断され、しかも肺癌もあると言われたところからあきらめの気持ちが出てきたのかもしれない。
・本人の本当の希望はなんだったのか?
・それに対して家族はどう考えていたのか?
・なにが家族に入院をためらわせたのか?
・尊厳死のような形になったが、それで本当によかったのか?
本人も家族も治療を望まなかった。経済的な理由もあったようだ、と。
このケースは、主介護者の長男が昼は勤めに出てしまうため、話ができにくいという状況だった。そのため、病状や今後のことについてじっくり話すことができなかった。そのうちに、状態が急変し、あっという間に亡くなってしまった。やはり、関わりの最初に病状やこれからの見通し、さらに本人と家族の気持ちを確認しておくという原則を忘れないことが大事だということを思い知らされた。
平成26年度第3回定例会(8月5日総和中央病院)