バトルメックとはなんぞや?
クルツ:「さてさて、しょっぱなから前途多難な様相を呈したこのコーナーだが、めでたく第二弾 だ」 リオ:「最後の最後でズタボロじゃったけぇね、あんまりぶっちゃけすぎなんじゃ」 クルツ:「そうはいうがな、大佐。世には『正しいことをすれば、世界の半分を怒らせる』という」 リオ:「なにが大佐じゃい、うちまでぶち怒られたけん、もちっと塩梅を考えんとダメじゃ」 クルツ:「衝動をもてあます」 リオ:「・・・・・・ホンマに反省しとるんか?」 クルツ:「正直すまんかった、これ終わったらラーメン食べにつれてってやるから、それに免じて 機嫌直してくれ」 リオ:「まったくもう・・・・・・で?今日のお題はなんなんじゃ、クルツ?」 クルツ:「今日は、ずばり『バトルメック』だ。やはり、なにごとも掴みが肝心。バトルテックにおい て、最大の売りであるバトルメック。これを後回しにする理由はどこにもないからな」 リオ:「掴みでスベったら、次は無いけんね」 クルツ:「それはとっくに覚悟完了だ。というわけで、初めましての方も毎度ありの方も、ようこそ 整備員の休憩室へ。このコーナーの解説役、トマスン・クルツと、アシスタントのリオ。 当コーナーは、この二人で進めていこうと思う」 リオ:「リオじゃ、よろしゅう」 クルツ:「さて、今回、バトルテックにおける、いろんな意味で最強陸戦兵器『バトルメック』、通 称メックについて説明していこうと思う」 リオ:「いよいよじゃね」 クルツ:「そうだな、なにしろ、この俺の飯のタネだ。いやがおうにも盛り上がってくる」 リオ:「そうじゃね、なにしろ、日本人が大好きなロボじゃ」 クルツ:「そうだな、俺が思うに、日本人ほどロボをこよなく愛する民族もおるまい。てなわけで、 さっそく始めてみよう。まずはバトルメック、母国語のつづりだと『Battlemech』となる。 ちなみに、ばとるめっちじゃないからね、リオちゃん?」 リオ:「ぶちむかつくのぅ、大人のくせにひつこいんじゃ」 クルツ:「フハハ、正直すまんかった。気を取り直して、お互いクールにいこう。さて、バトルメッ クだが、これは一種の造語だ。『Mech』と言うだけに、おそらく『mechanism』ひいて は『Mecha』などを起源にし、なおかつそれに準ずる意味合いを持つと思われるな」 リオ:「確か、メカって『人型戦闘兵器』っちゅう意味の和製英語なんじゃろ?」 クルツ:「そのとおり、というか、そういう見方が強いではあるな。だから、平たく言や『戦闘ロボ』 ってことになるんだが」 リオ:「なんか、まんまじゃのぅ」 クルツ:「そうだな、しかしシンプルだが意味合い深くていいと思うぞ。『えむえす』とか『えーてぃ』 などの先例と比べても、決してひけをとらない、いいネーミングだと俺は思うがな」 リオ:「そうじゃね」 クルツ:「さて、それでは、機体概要に入りたいところなんだが。このバトルメック、例によって、こ こからはメックと呼ぶが、ネーミングの良さという幸先いいインターフェイスを持つにもか かわらず、本国アメリカじゃともかく、日本では苦笑失笑、実に不本意な扱いに甘んじ ている」 リオ:「なんで?」 クルツ:「それは前回も話したとおり、そのみてくれが大きい。だがもうひとつ、日本の戦闘ロボ ファンにとって、ありとあらゆる意味で『たまらない』要素がある」 リオ:「たまらない要素?」 クルツ:「それじゃ、リオ。これとこれ、なんていう名前だっけか?」 リオ:「ライフルマンにローカストじゃろ、それくらい余裕で知っとるけん」 クルツ:「ブッブー、残念でした。これらはみんな、日本のアニメーションの戦闘ロボだ」 リオ:「なんじゃいそりゃ」 クルツ:「うむ、これらは、姿かたちはメックでもメックではない。というか、一部メックのデザイン が、実は日本製アニメーションのメカニックデザインを拝借している。しかし、ライセンス 取得に法的な不備がありすぎて、迂闊で残念な事になっていることに、FASAはイマイ チ気づいてなかったらしい」 リオ:「はあ?」 クルツ:「これらはもちろん、日本製のアニメ作品に登場した戦闘メカ達だが、(クラスター本部検 閲により削除)おぼえていますか、俺の歌を聴け。一万年と二千年前から愛してるから、貴 方と合体したいで有名な、日本を代表するメカデザイナー、(クラスター本部検閲により削 除)氏がデザインしたメカだ」 リオ:「なんじゃかのぅ・・・・・・その人、ぶち怒ったん違うんか?」 クルツ:「ハハハ、というか、氏曰く『怒る気にもなれない』んだそうだ。なんというか、氏の性格か らして、分かるような気がするけどな」 リオ:「じゃけど、これはいくらなんでもあんまりじゃ。やってええことと悪いことがあるじゃろ」 クルツ:「そのとおりだ。だからと言っちゃなんだが、FASAは、ゴールデンハーモニーから訴え られて、裁判所からしこたま怒られたというオチがついた」 リオ:「ゴールデンハーモニーって、前に話しとった、ロボテックってアニメ作った会社?」 クルツ:「そうだ、よく覚えていたな。ここは、タツノコプロと正式に契約している。となるとどういう ことか、正式に関連デザインを使って商売できるということだ。そうとなれば、デザインの 使用ライセンス取得に下手こいた会社とどっちに分があるか。それは、いうまでもない だろう」 リオ:「あったりまえじゃけん、ずるっこはだめじゃ」 クルツ:「ともあれ、この一件で、FASAは一部メックのデザインを使用することができなくなった。 そうなったメックは、後の企画で新規にデザインが起こされたとは聞く。ただ、日本アニ メに由来するデザインは、本国のファンではアンダーグラウンド的に支持はされている、 らしい」 リオ:「なんじゃかのぅ・・・・・・」 クルツ:「ハハハ、とはいえ、管理人自身も、このデッドコピー気味なデザインは好きらしい。他の メックデザインも、本国版デザインの方が好きなんだそうだ」 リオ:「変わりもんじゃのぅ、なんで?」 クルツ:「管理人が言うには、『装甲や機体性能の概念』が妙に説得力があるから。ということらし い。たとえば、ドラゴンというメックなんだが、日本版のデザインであるところのドラゴンは 、管理人の目では、どこをどうひっくり返してみても、時速80キロという猛スピードで駆け ずり回る機械には見えないんだそうだ」 リオ:「ふぅん」 クルツ:「ここに、本国版デザインのあなどれなさがある。確かに、第一印象はかなりなもんだが、 性能緒源と照らし合わせてみると、破綻なくデザイン中に納められている辺りがすごい。 たとえば、ウィットワースというメックが居るが、こいつの弱点のひとつに、足のもろさがあ る。オリジナルデザインをみると、実に貧相な足をしていて、なるほど足が弱いと言う設 定に説得力を持たせている」 リオ:「確かに、言われてみるとそうじゃのう。けど、なんちゅうか、日本版メックって、オリジナルと はまったく別モンになっとるけん」 クルツ:「ちなみに、それらのデザインは全て、件のデザイナー氏によって手がけられ、よく言え ば日本風、悪く言えば、オリジナルとはまったく別物のデザインになった。まあ、多少面 影はあるけどな。だが、まさに時代の皮肉としか言いようがない。ちなみに、『転用』され たデザインには、なんと、日本のロボデザインの大御所中の大御所である(クラスター本 部検閲により削除)大先生のものもある。たとえば、主役メカがシャドウホークになり、その 他の量産メカもグリフィンになったりサンダーボルトになったりと大忙しだ。他にもいろいろ あるが、正直、枚挙に暇がないのは実に楽しい」 リオ:「なあ、その辺の話はもうええけん。なんか、泥沼じゃ」 クルツ:「そうだな、それじゃいきなり前提に入ろうか。まず『バトルメックとは、バトルテック世界に おける、最強の陸戦兵器である』という一大定義がある」 リオ:「ぶちでっかく出たのぅ・・・・・・」 クルツ:「そうだな、しかし、それにはきちんとした技術的根拠がある。まず、陸戦兵器の至上命 題である攻守走、これは、重量クラスによって差はあるが、どれも戦車、装甲車、歩兵 に対して十分脅威となる性能をもっている。特に、際立つのが防御能力の高さだ」 リオ:「でも、バトルテックの時代の戦車だって、装甲は同じくらいあるけん」 クルツ:「装甲はな、だが、メックには装甲の他に中枢機関というものがあって、機体強度が設定 されていることは前に話したよな。装甲を撃ち抜かれたら即、搭乗員や動力機関を直撃 する戦車と違い、メックは機体構造の強度と装甲値をプラスしたのが防御力となる。そう すれば、既存の装甲戦闘車両とメック、どちらが打たれ強いのかは明白だ」 リオ:「それはそうじゃけど・・・・・・」 クルツ:「それに、メックの装甲自体も、その性能は半端じゃない。ちなみに、西暦2007年時点 で最強の誉れも高い対装甲火砲、ラインメタル製44口径120ミリ滑腔砲Rh120の砲撃 が直撃したとしても、軽量級メックですら一撃で撃破することはできない。あと、メックの コクピットは頭部にあり、ほとんどがキャノピー式になっているんだが、なんと、一見精神 衛生上非常によろしくない仕様であっても、Rh120の砲撃一発程度なら直撃にも耐え られるという優れものだ」 リオ:「ラインメタルの120ミリ滑腔砲って、だいたいの戦車をイチコロにできるんじゃろ?」 クルツ:「そうだ、メックの中でも装甲が薄いとか何とか言われている頭ですら、このありさまだ。 極論すれば、現用戦車の正面装甲並の防御力があるということになる。そして、足や胴 体などの重要部分に関しては、もはや言うまでもなしだ。」 リオ:「ぶちごっついのぅ」 クルツ:「そうだな、メックはグラウンドゼロにでもいない限り、核兵器の熱線や衝撃波にも耐えら れるという優れものだ。極端な言い方をすれば、21世紀前半時点までに存在したありと あらゆる火器をもってしても、メックがどうこうなるとは思えない。確実なのは、戦術核弾 頭を搭載した巡航ミサイルを直撃させる。と、こんなもんかね」 リオ:「なんか、バケモノじみてきたのう・・・・・・」 クルツ:「そう、化け物だ。メックは、まさに戦場の怪物とも言うべき存在なんだよ。とはいえ、今ま での例は、強襲級や重量級に関しての話だ。中量級や軽量級の機体の場合は、『それ なり』の防御力であるということは、一応補足しておく」 リオ:「でも、やっぱメックは凄いのぅ」 クルツ:「ああ、決戦兵器の名は伊達じゃない。だから最初の頃は、メックに乗れるのは、それな りに高い身分や地位の、いわゆる特権階級とされる人間がほとんどだった。もっとも、今 では裸一貫から叩き上げたケースも珍しくないが、これは中の人がある意味特殊でスペ シャルで二千回というか、天稟と運と実力を自分の流れに持っていけたケースと言って いいかもな」 リオ:「ごっついのぅ、で、てんぴんって、なんじゃ?」 クルツ:「平たく言えば『神様からもらった才能』ってやつだ。ともあれ、メックに乗れる人間が、い わゆるひとつの『セレブ』であることは普遍の事実だ」 リオ:「嫌なセレブじゃのぅ、同じセレブなら、ハナヱ姉ちゃんみたいなセレブがええけん」 クルツ:「ほう?」 リオ:「ハナヱ姉ちゃん、居室じゃジャージとか着て質素なフリしとるけど、服とかバッグとか、ぶち 上等じゃけん」 クルツ:「そうなのか?まあ、実家は金持ちらしいからな・・・・・・いやいやいや、今はそういう話じゃ ないだろ、人様の財布を云々してどうする」 リオ:「喰いついてきたのはクルツじゃけん」 クルツ:「だが、私は謝らない。それはともかく、かつてはメック乗りといえば、今話したように貴族 や領主・・・いやどっちも一緒か。とにかく、そういった連中が多かった。『赤の公爵』と呼 ばれているドラコ連合のハシド・リコル公爵なんて割かし有名だな。ちなみに、橋戸リコル と書くとよりいっそうドラコ人っぽいんだがそれはともかく。ちなみにこのオッサン、(クラス ター本部検閲により削除)なマネをしてくれた」 リオ:「ホンマ、『空気読め、オッサン』じゃのぅ」 クルツ:「まったくだ。ともあれ、メックに乗れるということは、いわば『選ばれた人間』だったわけ だ。とはいえ、第一次世界大戦当時、戦闘機が貴族出身の将官でしか乗れなかったも のが、第二次世界大戦を通して21世紀前半ともなると、それこそスラム街出身であって も、努力と才能如何でパイロットになることも可能になった。という流れに近いだろうな」 リオ:「そうなんか・・・・・・でも、ディオーネ姉ちゃんとかは貧乏じゃけん。毎日同じ服着とるし、こ ないだも、うちらの冷蔵庫から、レーションとかジュースとかかっぱらって喰ぅとったけん」 クルツ:「・・・・・・それで妙に中身がすっきりしてたのか。まあ、それはそれでいいけどな。今さら 言うだけ無駄だ。それはともかく、金銭感覚や経済の概念が中心領域と違う氏族世界 で、貧乏呼ばわりはいかがなものかと思うが、氏族人の場合でも、メック戦士になるとい うのは相当な出世だ。なにしろ、競争率は数十倍から百倍近くの超難関だ。それに、下 手を打てば自分の命がないわけだしな。ともあれ、世に言う『エリート』という共通事項は 変わらない。」 リオ:「じゃったら、もうちっとカッコよくして欲しいけん。あれでセレブとかエリートとか言われても、 ちっともピンとこないけぇね」 クルツ:「気持ちはわからんでもないけどな」 リオ:「とにかく、メックに乗れるんは、凄い人、っちゅうことになるんじゃね」 クルツ:「そうなるな、中の人も凄いが、メックもある意味で凄いところがある。たとえば、さっき話 した名家が所有するメックには、代々家宝として受け継がれているといった機体も多い。 極端な話になると、数百年間乗り継がれている機体も存在するらしい」 リオ:「そんなんで、よぅ動いとるのぅ・・・・・・」 クルツ:「それをいうなら、原型機のロールアウトが2、300年前というのが当たり前な世界がメッ クだ。そして、もちろん、生産が続いている機種は普通にある」 リオ:「そんなに?」 クルツ:「そうだ、ひとえにバトルメックという工業製品が、技術到達点においての水準が極めて 高レベル。というのもあるんだろうが、考えられる大きな要因が存在する」 リオ「大きな要因?」 クルツ:「そうだ、この世界での技術水準は、ほぼ停滞しているといっていい。いいや、むしろ大 戦のたびに衰退したといってもいい。製造販売元であるはずのメーカーですら、オリジ ナルそのままの生産を続けることができなくなったという、笑うに笑えないケースもザラ だ。新規技術の開発はちまちまと出てきてはいるが、現存する資料と調達可能な資材 を元に研究し再現するという、プロジェクトでエックスな歌が流れそうなほどのメーカー サイドの多大な企業努力によって成り立っている側面もある」 リオ:「メーカーさんも、頑張っとるんじゃのぅ」 クルツ:「だね。それでも、ほとんどはレプリカ気味な生産が主流で、場合によっちゃダウングレ ード版で市場に出されることもある。たとえば、ブラックナイトやエクスターミネイターのオ リジナル機は、単機で連隊規模の部隊を統括指揮出来ながら、なおかつ強烈な腕っ節 をもっていたり、ゴーストが囁く機動隊じみたステルス機能を持ち、物理的視認を完全 に無効化するという、一歩間違えれば卑怯なまでの性能があったが、今現在普及して いるタイプには、それがない。というのが、まあ、一例だ。ただ、コムスターは、そのオリ ジナルを保有していると噂されているが、まあ、その辺は想像にお任せ、ってやつだ」 リオ:「でも、それじゃ、使う方は納得せんのとちがうんか?」 クルツ:「それは確かにあるだろう、だが、それは、オリジナルが問題なく生産されている状況で あった場合、ということが前提になる。オリジナルより劣ったとしても、十分戦力として形 になるだけまだいい方だ。なにせ、稼動するメックがなによりも貴重なこの世界では、そ んな贅沢は言っていられない。どこかで落としどころを見極め、妥協するしかない状況 でもあるんだ」 リオ:「そうなんか」 クルツ:「ああ、そうだ。事実、運の悪い機体になると、現存する機体が破壊されれば、それこそ 永遠にこの世から消えてしまいかねない、レッドデータブック気味なメックもある。だか ら、過去の技術データが発見されたりすると、途端に大騒ぎになる。場合によっては、 軍事行動に発展することもある」 リオ:「なんちゅうか、アホそのものじゃのぅ。力の限り踊らされとるけん」 クルツ:「そうだな、氏族が怒るのも無理はない。自業自得とは言え、気の遠くなるような時間を かけて積み上げてきた人類の叡智を、自分達で喰い潰しあっているような有様だから な。まったくもって救われない」 リオ:「でも、なんでそんなことになったんじゃ?」 クルツ:「いい質問だな、それはだな、西暦2786年から3030年のおよそ二世紀半にかけて、中 心領域において『継承戦争』なる大戦があった。これらは、第一次から第四次と続いた が、このとき、お互いの軍事的重要拠点をノリノリで叩きまくったという経緯がある。相手 に致命的なダメージを与えるには、急所をピンポイントで潰すのが一番だからな」 リオ:「そうじゃね、ケンカの基本じゃけん」 クルツ:「だね。でだ、もちろんその中には、メックやそれに関連する技術の生産拠点も含まれて いた。そして、お互いが我に返るともう時すでに遅し、あったはずの技術がものの見事 に失われていた後だった。効果を狙って頑張ったあまり、それが度を越して効果的過ぎ たんだな。てなわけで、メックをはじめとして、あらゆる分野での工業製品は、もはや、か つてのハイエンドかつゴージャスな性能を再現することは不可能となってしまったんだ ね、これが」 リオ:「アホじゃ・・・・・・」 クルツ:「まったくもってそのとおり、『戦争は愚かですね』とか『戦争は悲惨ですね』とかいう台詞 が、俄然輝きを放つ瞬間と言ってもいい。それだけ、四度に渡る継承戦争で失ったもの は、まさに取り返しがつかないものだったんだ。だから、新機種や後継機種の開発によ って、従来機種を更新し、旧型機として切り捨てる。といった、従来の合理的な選択を する余裕がなくなった。という事情も存在すると言える。だから、数世紀前の軍事工業製 品が、未だに現役で居られる土壌があるんだろう。だが、時代の皮肉と言うのか、それら 技術の停滞と荒廃が、メックの優位性を不動のものにしたとも考えられるんだ」 リオ:「なんで?」 クルツ:「技術というのは、基礎理論が完全に失われてしまえば、再び復元するのは非常に困難 だ。現物があったとしても、サンプルを基にして全てを解析しようとしても、とんでもない 手間と金がかかる。ましてや、そのサンプル自体がどこにあるか分からないくらいのレア もん状態じゃ、完全な復元は難しいなんてもんじゃない」 リオ:「でも、できないわけじゃないんじゃろ?」 クルツ;「そりゃそうだ。だが、バトルテックの世界は万年戦争状態だ。そして、各陣営とも諜報員 が24時間営業で命としのぎを削り合っているという、緊迫しているにもほどがある状況 だ。そんな中で、のんびりじっくりリバースエンジニアリングやら研究やらで金や時間を 浪費している暇はない。それに、枯れた技術であっても、即戦力になるものが現場では 歓迎される。とりあえず、多少は持ち直しつつあるとはいえ、ものによっては21世紀前半 時点における水準に届かないような分野も多々ある」 リオ:「そうなんか?たとえばどんな」 クルツ:「たとえば、電子演算による精密な索敵、測距、照準などは、その最たるものと言ってい いかもしれない。これらはいずれも、迅速かつ必中の攻撃に欠かせない重要な要素だ。 『先ず撃て、然らずんば必ずや真っ先に被弾する』と、第二次世界大戦におけるドイツ 陸軍機甲部隊教範も言っているように、相手の機先を制することは、戦場における不変 の金言だ。しかし、これまで電子の目に頼っていた技術が使えなくなった。となると、代 わりになるものはなんだと思う?リオ」 リオ:「う〜ん・・・・・・うちら、人間の目?」 クルツ:「ディモールト、いい答えだ。有視界、つまり、お互いの姿が確認できる状況における戦 闘になれば、機体特性によるアドバンテージだの、運用理論に基づく戦術だのと言う小 賢しい理屈は無意味だ。そこでは、純粋に『強い者』のみが覇権を握る。長距離精密砲 撃能力を持つ火砲を失った戦車、高機動誘導能力を持つミサイルを失った戦闘機、だ が、バトルメックは違う。強靭な機体強度、卓越した機動力、そして、充実した火力。そ れら全てを併せ持ったバトルメックが戦場の覇王となることは、時代の必然と言ってい いだろうな」 リオ:「じゃけん、軍艦とかには、ぶち上等な電子装備があるけん」 クルツ:「確かにな、だが、あるというだけだ。船が沈められて、搭載している装備が失われたら、 さっき言ったとおり『ハイそれまでよ』という事態になりかねん。だから、どこの陣営でも軍 艦は可能な限り温存するし、よほどのことがない限り、なるべくお互い攻撃しないようにし ている。それに、艦船クラスの大型装備ならともかく、メックや航空機、軍用車両に搭載 できるほどの小型かつ精密な電子装備というのは、一見地味だがハイパーテクノロジー の塊みたいなもんだ。こんな状況下で、おいそれと量産できる代物じゃない。唯一開発・ 生産のノウハウを保有していると言われるコムスターですら、トップシークレット扱いなわ けだしな」 リオ:「持っちょっても貴重品過ぎて使えん、ちゅうわけなんか」 クルツ:「そうだな、それに近い状況だ。だからこそ、基礎体力がものをいうんだ。そして、メックは その基礎体力が図抜けて高い。ということになるんだよ。メックは失ったものなど何も無 い、たとえそれらの技術が復元され、世に出回ったとしても、それはメックに更なる力を 与え、戦場の覇王どころか魔王にしてしまうだけだ。いずれにしても、その地位は揺るぐ ことはないだろう」 リオ:「ぶちごっついのぅ、そうなるんか」 クルツ:「そうなるんだ、カッコいいだろう?」 リオ:「うん!」 クルツ:「そうだろう、そうだろう。さすが未来のメックウォーリアー、わかっていらっしゃる。たとえ 夜店のブリキロボと言われようが、80年代アニメゲストメカと言われようが、バトルメック モアザンミーツジアイズ、カッコいいとは、こういうことさ」 |
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