「・・・・・・できれば、こう言うことは、これで最後にして頂きたいものですね」

「これはこれは、差し上げた人形では、不足でしたか」

「そうではありませんよ、支援の件については感謝しています。ですが、個人的な問題を、それも、他所の組織を使うのは、どうにも承服しかねるものでしてね」

「そうでしょうか?私は後継者の力を磨き、貴女は部隊の名声を得た。これ以上の僥倖は、無いのではありませんか?」

 その言葉に、スターコーネルの目に、微かな敵意にも似た光が走る。

「どこで知ったかは知りませんが・・・とは言えませんね、貴女達なら、たかが氏族の二線級部隊司令官のことなど、たやすく調べられるでしょうし」

「そう、気を尖らせないで頂きたいですね。貴女達も、いずれその力で『視る』でしょう。遠くない未来、世界は大きく動きます。

 私は、ドラコの武人であると同時に、かつて、テラが『地球』と呼ばれていた、遥か古の技を継ぐもの。その力は、他の誰でもない、『あれ』にのみ伝え残さなければならないもの。そして、時が来れば、『あれ』にとって、絶対に必要となるものです。

 人形の力を借りたとは言え、見事鞘を抜き放ち、敵と相見えたこと。この鬼をして、天晴れと言わしめた。その魂を、さらに磨き光らせるためなら、冥府魔道に堕ちようとも、本望と言うもの」

 静かだが、鬼気迫るその言葉に、スターコーネルは大きく息を吐き出す。

「私は常々、貴女達、中心領域人が恐ろしいと考えるようになりましたよ」

「『人っ腹生まれ』には、『人っ腹生まれ』なりの矜持と言うものがあるのですよ。伊達に己が血肉を分け与え、この腹からひねり出しているわけではないのですよ」

「・・・・・・そうでしょうね、それが、私達『氏族人』が、貴女達に勝ち得なかった理由なのかもしれませんね」

「そうとも限らないでしょう、貴女達には貴女達の理念があり、私達には私達の理念がある。ただ、それだけですよ」

 彼女は、静かな笑みを浮かべながら、相手の言霊を希釈させていく。

「ですが、しばらくは、貴女の所に『熊』を誘い出すのは控えましょう。『あれ』もしばらく動けない、そして、貴女の都合と言うものもある」

「・・・・・・そうして頂けるのなら、幸いですよ」

 スターコーネルは、心底うんざりした表情で応える。その声には、決して軽くは無い疲労が滲み、浮かび上がる。

「それと、貴女の所の『彼』。いかなることがあろうとも、決して手放さないように」

「・・・・・・・・・え?」

「来たりし時、『彼』次第で、この部隊の行くべき道が変わる。と言うことです。・・・・・・どうやら、無駄話が過ぎたようですね。では、この辺りで失礼させて頂きますよ」

「ええ、肝に銘じておきましょう」