闘神烈伝(前)
今日は、みんなでハナヱさんの部屋にお呼ばれだ。なんでも、 『猛獣が部屋に迷い込んできたから、何とかしてください』 とのことだった。とは言え、俺の立場じゃ、できることは知れている。だから、申し訳ないとは思ったが、当番明けの夜恒例の、対人交渉シミュレーションにいそしんでいたアストラ先生と、部屋で、モペットのキャブレターを組み立てて遊んでいたリオ介を誘って、ハナヱさんのお部屋へレッツらゴー、と言うわけだ。 え、猛獣ってなんだって?ハッハッハ、わかってるくせに。お前も、結構人が悪いな。 ハナヱさんの部屋に来て、毎度楽しみなのは、彼女の刀剣コレクションを見せてもらうことだ。いや、コレクションと言うのは、妥当な言い方じゃないな。中には、彼女自身が討ち取った戦士や剣士のものだった剣もある。 であるからして、古今東西、ありとあらゆる種類の刀剣があって、まるで、ちょっとした博物館だ。 そして、今日もまた、変わった奴を見つけたので、さっそく由来を聞いてみる。 「ハナヱさん、この、刃の付き方が逆になっている刀はなんなんですか?これじゃ、戦うとき、圧倒的に不利じゃないかと思うんですけど・・・・・・?」 「ああ、これですか。これは、『サカバトー』と言って、『不殺』を信条にしていた、伝説の人斬りが佩いていたと言う刀ですよ」 「サカバトー・・・・・・ですか、それじゃ、まともに斬り合った時、相手を殺傷しないために、わざわざ刃を背中に着けているんですか」 「ええ、そうですよ。笑っちゃいますよね、『不殺』なんて言ってても、この刀で打ち込まれたら、却って峰打ちより酷いことになりますよ。まあ、良くて骨折、当たり所が悪ければ、内臓破裂はイケますね。早い話が、普通に撲殺ですよ。 しかも、峰に刃を乗せている辺り、未練がましくて、私的にはダメダメですね。まあ、モノとしては面白いから、つい落札しちゃいましたけど」 「なるほど・・・・・・」 「あ、そうそう、もう一振り、似たようなもので変なのがあるんですよ。見てみます?」 「ええ、どれですか?」 ハナヱさんはそういうと、ほぼ武器庫と化したクローゼットの中から、一本の長大な刀を取り出した。 「これは・・・・・・?」 すらりと抜き放たれた、その刀身を見ると、なんと、今度はどこにも刃が立てていない。 「なんです・・・・・・これ?式典用の装飾刀ですか」 「いえ、これも立派な実戦用の刀ですよ?」 「はあ?それじゃ、こんなに刃が鈍るまで、手入れされなかったってことですか?」 「いえいえ、この刀は『シン・ロー・エン』と言う銘なんですが、とある部族の長が使っていたものだそうです。本当に必要な時以外は、紙一枚切ることができなかったそうです」 「なんですか、そりゃ」 「まあ、私が試し切りしてみた限りでは、巻藁だろうと牛肉半身だろうと、ズバズバ切れましたけどね。最初の持ち主がどうだったかは知りませんけど、刀に使われているようじゃ、まだまだですよ」 「はあ・・・・・・・・・」 どうも、このお嬢さん。刀剣の話となると、饒舌になるばかりか、その物言いに容赦が無くなる。まあ、人って、そんなもんだから気にはならないけどな。 「わっ!わあっ!?こ、この剣、い、今しゃべったけん!!」 心底驚いた表情で、うちのリオ介が、突然、素っ頓狂なことを口走っている。剣がしゃべっただ?そんな、馬鹿なこと・・・・・・。 「あ、リオちゃん。それ、とってもラッキーだよ?この『ヴァイフーチェンタオ』は、剣に気に入られた人にしか声が聞こえなくて、本当にめったに話さないんだから。 大昔に、大連戦士団って言う、戦士の一人が使っていたものらしいんだけど、オークションの時に聞いたら、お話しする剣だっていうから、面白そうで落札したのに、滅多に話さないから、ちょっと損した感じだったんだ。とっても高かったのに」 ・・・・・・なんですと? 『年増とくっちゃべるほど、暇しちゃいねーよ』 ちょっと待て!今本当に何か聞こえたぞ!? 「・・・・・・リオちゃん、その剣持ってっていいよ」 目が据わりまくった不思議な笑顔で、ハナヱさんは、引き出しからのしを取り出すと、それを、この薄気味悪い剣に貼り付けた。 「う、うちもいらないけん」 そりゃそうだろう、俺だって、やると言われたって欲しくない。 「おー、ボカチン。こいつぁ、いったいなんだぎゃー?」 ついぞさっきまで、ひとんちを荒し回った件について、アストラからきついお小言を食らい、不貞腐れた様子で茶菓子をつまんでいたディオーネだったが、彼女も何か興味を引くものを見つけたらしく、ハナヱさんを呼びつける。 彼女が見つけてきたのは、木か何かの植物系素材でできた細い棒を、皮紐で束ねた、えらい原始的な造りをした剣だった。 「ああ、それは『シナイ』と言ってですね。剣術を志す者が、剣の基礎を身に着けるために用いるものなんです。カーボンファイバー製の、軽量でメンテナンスフリーなものもありますが、手入れの手間を惜しんだり、使いやすさ優先と言うのは、そんなものは私に言わせれば邪道ですよ。やはり竹で・・・・・・あいたぁっ!?」 おわっ!なんてことを!? 「いきなりなにするんです!?痛いじゃないですかっっ!!」 「ふへっ、おーげさな奴だぎゃ。こんくれー、てーしたこたぁねーだぎゃあ~?」 手にしたシナイで、いきなりハナヱさんの頭をド突き倒したディオーネは、まったく反省の色も無く、なぜか勝ち誇った表情でニヤニヤ笑っている。 ・・・・・・お前の血は、何色だよ。 「よぉし・・・・・・それなら、ディオーネさんも、ひとつ味わってみますか?・・・・・・でぇもぉ、ブたれるのぉ、コワいですよねぇ?イタいのぉ、イヤですよねぇ?いいんですよぉ、別にぃ。無理にぃ、とは言いませんからぁ。ええ、ええ、言いませんともぉ」 ハナヱさん、あなたの血も、何色なのでございましょうか。 「くぅあぁぁぁ・・・・・・言ぅてくれるだぎゃ」 ハナヱさんの言葉に、その柳眉を吊り上げたディオーネは、おもむろにタンクトップを捲り上げて、あらわにした背中をハナヱさんに向けて、どっかりと座り込んだ。 「ぃよぉし、一発バッチコイだ・・・・・・ッギャァオオオオオオッッ!?」 もう何も言いますまい。 「ぃいいぃぃ痛てえぇぇぇっっ!メチャクチャ痛てぇだぎゃあ!死ぬほど痛てぇだぎゃあ!肉が!骨が!体の芯までシミるだぎゃあ!コタえるだぎゃあぁぁぁっっ!!」 まさに、熱湯をぶっかけられた猫のごとく。ディオーネは、背中に真一文字の真っ赤な打撲痕を浮き上がらせて、タタミ・カーペットの上を、あらん限りの悲鳴を上げてのたうち回って悶絶している。 かと思ったら、いきなり跳ね起きると、俺めがけて飛び掛るように突進してきた。 「うおぉぉぉ――んっっ!クルツ―――ッッ!!ボカチンがヒデェんだぎゃああ!うちはちょっとふざけただけなのに、思いっきりうちをシバキ倒したんだぎゃああぁぁっっ!!」 「なんでそうなるんですかっっ!?」 ・・・・・・俺、帰っていいデスか? まったく、ゴーストベアーとの悶着を、どうにか小康状態まで持ち込めたとは言っても、もしかしたら、まだその辺を、執念深い連中がうろつきまわっているかもしれないって時に、何をのんきに遊んでいるんだか・・・・・・。こう言のもアレだが、これじゃ、ジークも浮かばれない。 「まったくですね」 「ええ、本当に・・・・・・ぅおお!?」 イ・・・イオ司令・・・・・・。 さて、我らがイオ司令。山のような残業を終わらせ、やっとこ自分の宿舎に戻る途中、なにやら騒がしい声が聞こえる。で、何事かと見てみれば、今や、例の面子の溜まり場と化している、ハナヱ・ボカチンスキー准尉の宿舎からだった。 と、言うわけで、ハナヱさんの部屋を訪れたイオ司令に、俺達は、戦士にふさわしくない行動について、小一時間たしなめられた。 「戦友同士の親睦を深めることについては、悪いとは言いません。ですが、戦士たるもの、常に時と場合をわきまえておくように。それはクルツ君、あなたも同じですよ。その三本のコードの意味を良く考え、そして、行動するように」 「申し訳ありません、以後、気をつけます」 イオ司令の訓戒が終了し、彼女は、『本当は、明日の一斉訓示で話そうと思っていたものですが』と前置きする。そして、さっきまでのバカ騒ぎの余韻など、跡形も無く吹っ飛ばされるような話を聞かされた。 「所属不明の・・・エレメンタル、ですか?」 「ええ、森林管理局の職員の目撃情報と、緊急派遣された調査隊の報告を元に、イレース全土のエレメンタル管轄部隊に照会した所、当該地域及び時間帯において、演習及び任務で稼動したバトルアーマー隊は存在しないとの報告を受けました。 となれば、私達ノヴァキャット以外の勢力に所属するバトルアーマー隊が、このイレースに潜伏しているとの見方が、ギャラクシー本部より出ています」 なんてこった、俺達の近所を、得体の知れないエレメンタル共がうろついてるって訳か・・・・・・? 「ゴーストベアーの傘下にある、レイザルハーグの航空部隊の前例もあります。それに、アルシャイン・アヴェンジャースの蜂起に端を発するこの紛争、まだ解決をみたと言える段階でもありません。 この事態を受けて、私達のクラスターも対策本部を設置。再度、警戒態勢を強化すると共に、アンノウンの発見と、それらの活動に対する阻止行動を展開することとします」 またエレメンタルがらみか・・・・・・しかも、この間お引取り願い損なった、ゴーストベアーの連中か・・・・・・。こいつは、またぞろやっかいなことになりそうだ。まったく、今さら行っても仕方ないことだが、あの公爵殿も、自分の領地惜しさで、本当に余計なことをしてくれたもんだ。 そして翌日、イオ司令が臨時に設けた一斉訓辞で、クラスターは俄然騒然とした雰囲気に包まれる。特に、軽量級メックの搭乗員は、ここがチャンスとばかりに大張り切りだ。ちょこまか動き回るエレメンタルには、やはり無駄に機動力にあふれまくった軽量級をぶつけるのが一番だ。 まあ、中量級や重量級メックも、もはやここまでって時は、基地や人員の損害度外視で出張ることになっている。他の隊員達も、対戦車ロケットランチャーをカートン単位で準備したり、禁断の兵器、レーザーピストルやレーザーライフルをお蔵出ししているが、いかんせん数が少ないもんだから、取り合いになっている。 とにもかくにも、これだけ皆が神経質になっているのは、この前の冬季白兵戦演習がトラウマになっているからだろう。あの演習で、重傷軽傷問わず無傷で済んだのは、うちのリオとハナヱさんくらいなもんだ。 いくら普段『戦士階級』とおだて上げられていても、エレメンタルの前では、子猫同然にいたぶられまくったのが効いているんだろう。しかも、今度は純度100パーセントの敵ときている。 ともあれ、あの時と違うのは、使用武器無制限一本勝負と言った所だ。だから、警戒はしていても、士気の方は、無駄に高い。なんと言うか、雪辱戦。といった意味合いもあるのかもしれない。 まあ、益体も無いカースト批判はほどほどにして、俺も自分の装備を何とかしなきゃならない。と、言うわけで、俺的によさげなものをチョイスし終わったあと、ハナヱ・ボカチンスキー准尉殿の様子を見に行ってみることにした。 すると、准尉殿、相当お困りの御様子だった。 「困りました」 「はあ」 「実はですね、私の巫王村雨、帝都の鍛冶師に打ち直しに出しているんですよ」 「打ち直し、ですか・・・・・・?やはり、ダークの連中との一件で・・・・・・」 「そうなんです、ですから、代わりの剣を見繕っているんですけど、エレメンタル相手となると、これがなかなか、いいのが見つからないんです」 「そうですか・・・・・・」 「重装甲かつ重武装、そんな相手に太刀打ちできる剣なんて、そうそうありませんしねぇ・・・・・・。ああ、こんなことなら、あの時、オークションに『ザンテツ・ソード』が出品されていた時、無理してでも落札しておくんだったなぁ・・・・・・」 お悩みのようデスね。しかし、こういう状況でも、まだ佩刀にこだわる辺り、ハナヱさんらしいとも言える。もっとも、彼女がこの銀河系で一番信頼している武器が、刀剣であるのだから仕方が無いのかもしれない。 その時、部屋のインターホンが鳴った。なんだろうな。 「はい・・・はい・・・・・・わかりました、今すぐ参ります。はい、どうも有り難うございました」 「ハナヱさん、何かあったんですか?」 「ええ、何か、私宛に荷物が届いているそうなんですが・・・・・・」 「荷物?」 「ええ、今、ハンガーに保管してあるから、すぐ取りに来てくれって、ジャックさんが」 ハンガーに置いとかなきゃならない荷物なんて、いったいなんなんだ? 「とりあえず、ハンガーに行ってみますね」 「そうですね」 面白そうだから、俺も見に行ってみよう。 「おー、准尉。これだでこれ、おっ、クルツも一緒かみゃあ」 ハンガーを訪ねると、アサルトライフルを小脇に抱えたジャックが、フォークリフトのアームの上に載せたままの、なにやらデカイ木箱の前で待っていた。・・・・・・しかし、いったい何が入ってるんだ? 「なんかよー、取り扱い注意、っちゅうか、今さっきまで、『オニワバン』とかゆー連中がおったんだけどもがよー。この荷物も、奴らが持ってきたでよ。人の力じゃ運べねーし、どえりゃー重てーでよ。なんか、そーとー大事なモンがはいっとるよーだで」 「御庭番!?で、ジャックさん!その方達は・・・・・・!?」 「おー、おみゃー達が来るのを見て、帰ってったでよ」 「あ・・・そうなんですか・・・・・・」 「あ、でもよー、そこのシノブっちゅー奴から、手紙預かったでよ。おっ、そー言えばアイツ、准尉そっくしだったでよ。ありゃ、准尉の妹さんかなんかかみゃあ?」 「あ、いえ、そう言う訳じゃないんですが・・・・・・。あ、それより・・・・・・」 「おー、ほい、これが手紙だでよ」 「すみません、ありがとうございます」 ハナヱさんは、ジャックから手紙を受け取ると、食い入るように読み始めた。 「そ・・・そんな・・・・・・、こ、これは・・・・・・!」 ハナヱさんは、緊張した面持ちで、差し渡し3・4メートルはありそうな木箱を振り返った。 「クルツさん!バールはありませんか!?」 「え?あ、はい、どうぞ」 ウォーハンマー並にデカい、大型バールを受け取ったハナヱさんは、気合の入った表情で腕まくりをすると、木箱の釘を引き抜きにかかった。あ、そうそう。ウォーハンマーつっても、メックじゃなくて、原始人の武器の方な、念のため。 「なんか、えーもんはいっとるよーだぎゃ」 「ああ、何が入ってるんだろうな・・・・・・あ、マスター」 「ローク隊長、どえりゃー勇ましいカッコしとるけども、見回りしてきたんかみゃあ?」 「おー、まーな。いや~、あんなでっけぇ図体しとるくせに、どこにも見あたらねーでよ」 基地周辺の探索から戻ってきたマスターは、物足りなさそうな表情を浮かべながら、淹れたてのコーヒーに口をつける。 「まー、収穫はあったでよ。さっきまで、この近くをうろついとったらしい跡が、いくつか見つかったでよ。とりあえず、ポイントと状況をイオに報告しといたけどみゃあ」 おお、さすがだ。 「いやはや、それにしても、リオ坊のやつ。いつの間にか、司令の付き人みてーになっとってまあ。くるくる、よー働いとったでよ」 「あ、そうですか」 リオを司令の所に預けたのは、もし万が一のことがあった場合、あそこなら、警備も一番厳重だし、一番安全だと判断したんだが。マスターに相談した所、司令の快諾を取り付けてくれたってわけだ。マスターの話を聞く分には、お茶汲みその他、諸々の雑用に精を出しているらしい。 「けどまあ、そろそろ気ぃ引き締めた方がえーかもしれんでよ」 「・・・・・・え?」 「俺が見てきた様子だと、連中、もうこの近くに来とるでよ。こーなったら、ここでどーにかせんとならなくなったみてーだでよ」 いきなり、縁起でもないことを言ってくれるマスターに、その場にいた全員が顔色を変えた。 「隊長、それでは・・・・・・?」 「おー、クルツがリオ坊を司令部に預けたことな、どーも、大正解だったよーだで」 残ったコーヒーを飲み干すと、マスターは珍しく厳しい表情を浮かべる。 「今も、奴ら、出てくる頃合を計っているはずだでよ」 「待ってください、隊長。それでは、ここでのんびりしている場合じゃないのでは!?」 「四六時中気ぃ張ったところで、どーしよーもねーだぎゃ。どーせ来るとわかっとるんなら、いつでも切り替えられるように備えとったほーが、よっぽどえー動きができるでよ。イオにもそれは言ってあるだで、防衛線の配置も、それにあわせて置き直してあるでよ」 アストラの言葉に、余裕を崩さない表情で答えたマスターは、ほんの一瞬、イタズラ小僧のような笑みを浮かべた。 「それに、ちっとばっかし、仕掛けもしといたでよ」 マスターがそう言った瞬間、基地近くの森の中で、物凄い爆発音が轟き、10メートル以上はありそうな土柱が炸裂するのが、ここからでもはっきり見えた。 「なっ!?」 アストラは、肩に立てかけていた、ムラタ式アンチマテリアルライフルを構え、弾かれるように立ち上がった。いや、アストラだけじゃない。俺もディオーネも、それぞれの武器を手に取った瞬間、敵襲を告げるサイレンが、基地中に鳴り響いた。 「LB20-Xの砲弾は、さすが強烈だぎゃ。いくらバトルアーマーでも、榴散弾をまともに踏んづけりゃー、跡形もねーだぎゃ」 「え、LB20-X・・・・・・!?」 「おー、俺の見立てじゃー、足跡の様子から言って、1個ポイントスターってとこだで。ま、どっちみち、無事じゃーすまねーだでよ」 イタズラが図に当たった子供のように、マスターは楽しそうな笑みを浮かべている。マスターが使ったのは、ただの榴弾砲ではなく、対バトルメック榴散弾だ。こいつは、ショットガンのように、小型の徹甲弾頭が無数に飛散する奴で、至近距離でこいつをブッ放せば、メックの装甲をズタズタに引き裂いちまうほどの威力がある。 そんなのが足元で爆発した日には、踏んだ本人のみならず、周りにいる連中も絶対無事で済むはずが無い。マスターも、イタズラのようなノリで仕掛けた割には、そのチョイスには、なかなか容赦が無い。 その後すぐ、クラスター総出で捜索隊が編成され、マスターが仕掛けた、お手製メガトン地雷の爆心地の調査に向かったわけなんだが、ちょいとこれは、良い子のみんなや素敵な奥様には絶対見せられない、それはもう、たいそうヒドいことになっていた。 ゴーストベアーの連中には、本当に気の毒だが、一歩間違えれば、俺達がこうなっていたわけだから、まあ、お互い様、と言うことで納めてもらいたい。 それにしてもまぁ・・・・・・こりゃ、ひでぇや。 ・・・・・・すみませんねぇ、手厚く弔わせて頂きますので、どうか、気を悪くなさらないでくださいよ・・・・・・。 あの騒動が収まった後の後片付けも、どうにか始末をつけることができた。後は、戦死者、と言っても、うちからはそんなのは出なかったので、ゴーストベアーのエレメンタル一個スターの埋葬と葬儀の準備だけ。と言うことになった。 しかし、一応念のため、と言うか、警備体制は継続中だ。ハンガー、司令本部周辺等の重要エリアは、イオ司令の許可がなければ立ち入りはできなくなっている。とりあえず、テックや戦士階級はあらかじめパスが発給されたが、それ以外の人間は門前払いされる。無理に押し通そうとすれば、当番についている重武装の警備部隊が、たちどころにすっ飛んでくる寸法になっている。 おまけに、そうなったら最後、今日の騒動は、イレース全ての部隊に報告が行っているから、近所にあるクラスターがおっとり刀で駆けつけてくる。 そして、マスターと言えば、当番任務の交代と申し送りを終わらせると、ひと眠りするのだと言って、さっさと宿舎に帰ってしまった。マスターの指揮下にある隊員も、同様に、疲れきった表情を貼り付けた顔で、三々五々、自分の宿舎へと帰っていく。 俺達テックも、別班と交代して、本日の業務は終了と相成った。・・・・・・しかし、なんかこう、一気に緊張の糸が切れた。と、言った感じだ。実際、俺も疲れた。リオは、明日迎えに行くとして、俺も今日はもう休もう。 当番任務の解除に伴い、自室待機に移行したことで、ディオーネは、自分の居室に戻るなり、ベッドにもぐりこんで丸くなる。そして、生来の寝つきの良さを遺憾なく発揮し、毛布の中でうとうとしかけた時、肩を揺すられ、不機嫌そうな唸り声と共に目を開けた。 「・・・・・・て下さい・・・・・・起きて下さい、ディオーネさん」 「んあ~~・・・・・・ったくも~~・・・・・・なんだぎゃこんな時間にぃ~~・・・・・・」 「夜分遅くすみません、ディオーネさんにお願いしたいことがあるんです」 「ぅあ~~・・・・・・お願いぃ~~・・・・・・・・・?」 「はい、折り入ってお願いが」 「・・・・・・今何時だと思っとるだぎゃ、明日また来るだぎゃ」 「そんな事言わないでください、ディオーネさんにしかお願いできないんですよ」 「うちにぃ~~・・・・・・?」 「ええ、是非とも」 「・・・・・・明日来るだぎゃ」 「あっ!ちょっと、待ってくださいっ!」 「でぇい!うるせーだぎゃ!!こちとら当番明けで眠ィんだでよ!夜中にくだらねーこと抜かしてるんじゃねーだぎゃ!帰ェーれ帰ェーれ!!」 一切の言葉を取り合おうともせず、再び毛布の海に潜行を開始したディオーネに、ハナヱは、跳ね上がる眉をどうにか押さえながら、引きつった笑みを浮かべていたが、それはすぐさま、蛇の笑みに変形した。 「むにぃ~~・・・・・・どゅえあっっ!?」 「こぉんばぁんわぁ」 「んなっ!?ななななななっ・・・・・・何やってんだぎゃおみゃーはっっ!?」 突如、毛布の中にもぐりこんできたハナヱの気配に、ディオーネは、全身に鳥肌を浮き上がらせて悲鳴を上げる。 「私もぉ、明日までぇ、ここでお待たせさせていただきますねぇ」 「何たーけたこと抜かしてんだぎゃ!寝るなら、おみゃーんちで寝るでよ!!」 「ん~~?なぁにかおっしゃいましたぁ~~~?」 「ぎっ!ぎひぃぃぃぃぃぃっっ!?わかった!わかったから!!股の間に足入れてんじゃねーだぎゃああぁぁ!!」 全身に絡み付いてくるハナヱの手足の感触に、さしもの彼女も、生理的に受け付けない攻撃の前に、一も二もなく、悲鳴と共にベッドから転げだしていた。 「ったくもー、ハンガーに入りてーなら、クルツにでも頼みゃーえーだぎゃ。それをわざわざ、人が寝とる所に押しかけてきてからに・・・・・・」 「クルツさんの所に行ったら、お休みだったんですよ」 「おみゃーな~~・・・・・・なら、うちは叩き起こしてえーっちゅう了見かみゃあ」 「真夜中に、お休みになっている殿方を起こすなんて、はしたないじゃないですか」 「ケーッッ、さりげなく点数稼ぎかみゃあ。ったく、ごくろーさんだぎゃ」 「それ以前の問題ですよ、眠っている方に点数稼ぎも何もないでしょう」 「ヘーヘー、おつかれさん」 夜の隊庭を歩くハナヱとディオーネは、お互いたわいのない会話を続けながら、お目当てのハンガーに向かう。そして、ハンガー前に設置した、警備隊仮設詰め所の前に差しかかった時、レーザー・ライフルを構えたジャックが、対装甲戦フル装備で身を固めて立ちふさがった。 「よーし、そこのふたり。そこで止まって、パス見せるでよ。持ってなけりゃ、諦めてとっとと引き返すでよ。それと、言っとくけど、変な真似したら、こっちを狙っとる、ムラタ式アンチマテリアルライフルが火ィ吹くでよ」 「なーにたーけたこと言ぅとるだぎゃ、おみゃーは。うちだぎゃ、うち。ディオーネだぎゃ。それと、こっちは下僕のハナヱ」 「誰が下僕ですか!」 「おみゃーだぎゃ」 「なんでですか!?」 「どっちが下僕でもええでよ、で?おふたりさん。こんな時間に、何の用だがや」 ふたりのやりとりに苦笑を浮かべつつ、その間に割って入りながら、ジャックは彼女達に用向きを尋ねる。 「ん?ああ、だから、このハナヱの奴が、荷物の中身が気になってしかたねーっちゅーとるだで、うちが付き添いで来てやったんだでよ」 「ああ、昼の奴かみゃあ。えーでよ、奥のほーに置いてあるだで、探してみるとえーでよ。あ、そーそー。バトルアーマーのメンテナンスデッキの辺りな、その辺を見てみるでよ」 「ご丁寧にありがとうございます、ジャックさん」 「おみゃーもマジメなやつだぎゃ、ごくろーさん」 「ま、それが売りだで」 ふたりが、ハンガーへ入っていくのを見送った後、ジャックは、ゆっくりと振り返りながら、その表情を険しく引き締めた。 「で、そこのもーひとり。どーせ、おみゃーはパスは持ってねーがや」 ジャックの声に、暗闇の中から滲み出すように、ノーム・バトルアーマーが、暗闇の中から、ゆっくりとその巨体を現した。 「どーやって、ここまで潜りこんだか知らねーけどもが・・・・・・ま、お嬢ーさん方が、奥に引っ込むまで待ってくれたんは、感謝するでよ」 ジャックは、レーザー・ライフルのリミッターを解除する。そして、ヘルメットのバイザーを下げ、戦闘開始を宣言するように腕を振り、合図を送った。 「・・・にしても・・・・・・おみゃーのかーちゃんは、・・・・・・いったい何本釘打ちゃー気が済むんだぎゃ・・・ったく」 「厳重なのは仕方ないじゃないですか・・・これは・・・貴重なものなんですから・・・・・・よっと!」 巨大な木箱に、これでもかというくらいに打ち付けられた、五寸釘の大群。それらに、特大バール片手に奮闘しているふたりの背後で、突然凄まじい爆発音が轟き、爆風が彼女達の背中に叩きつけられた。 「のわっっ!?」 「きゃあっっ!・・・・・・な、なにが・・・・・・!?」 驚く暇もそこそこに、とっさに起き上がったふたりの耳に、いくつもの銃声や爆音が聞こえてくる。 「敵襲・・・・・・?まさか、エレメンタルの生き残りがいた・・・・・・って、なにやってんですか!こんな時に!?」 突然着ているものを脱ぎ散らかし、下着姿になっているディオーネに、ハナヱは思わず眉を吊り上げて叫ぶ。 「たーけ!おみゃーもグズグズしてんじゃねーだぎゃ!さっさと服脱いで、バトルアーマー着装するだぎゃ!!」 「な、なんで服を脱がなきゃ・・・・・・!」 「たーけ!仕様だぎゃ!!」 「し・・・仕様・・・・・・?」 「ボケっとしてんじゃねーだぎゃ!吹っ飛ばされてーんか!!」 「わ、わかりました!!」 ディオーネの叫ぶ通り、ハンガーの外から聞こえてくるのは、紛れも無い戦闘のものであり、しかも、それは徐々に激しさを増していく。ハナヱは、かなぐり捨てるように服を脱ぎ捨てる。 「あっコラ!?だからって真っ裸にならんでもえーだぎゃ!!」 「えっ!ええっっ!?」 ディオーネの制止に、ハナヱは、脱ぎ捨てた下着を慌ててはき直し、先に着装を終えたディオーネに手伝われて、バトルアーマーを着装する。 『こ・・・これ、ちょっと大きすぎるんですけど・・・・・・』 『アジャスターがあるだで、そいつで調整するだぎゃ。元がエレメンタルの連中が着るもんだで、気休め程度だけどもが、やらんよりマシだぎゃ』 『は・・・はい』 『ともかく、応援が来るまで、ここでしのぐでよ』 『わかりました』 ディオーネのバトルアーマーは、ハナヱを背中にかばうように、ハンガーの外を注意深くうかがう。 『・・・・・・どうですか、ディオーネさん』 『こいつぁ・・・どえりゃーことになっとるだぎゃ』 『どうするんですか』 『敵は、ノームが一匹。攻撃力はあっちが上だどもが、その分ノロくせー奴だぎゃ。そこに付け込んで、こいつで取り押さえるか、さもなきゃ、ブッ潰すだぎゃ』 『・・・・・・けど、どうするんです?このバトルアーマーには、弾薬は搭載されていませんよ』 『レーザーくれーなら、充電してある分だけでも撃てるだぎゃ。それに、この先の居住区。そこにゃー、クルツ達ボンズマンの宿舎があるだぎゃ。寝起きを狙われたら、ひとたまりもねーはずだで、この場でなんとかせんことにゃーの』 『あ・・・・・・!』 『でな、うちが前に出るだで、おみゃーは後ろで援護してくれみゃあ。慣れねー機体だろーから、無理はさせられねーだぎゃ』 ディオーネは、バールを拾い上げると、その感覚を確かめるように振り回す。生身の人間にとっては戦鎚並のサイズも、バトルアーマーが持つと、小枝のように頼りない。 『・・・・・・わかりました、お気をつけて』 『おー、任しとくだぎゃ。お~し・・・いっちょ、いくでよ!!』 前屈姿勢のまま、ジャンプジェットを全開にしたバトルアーマーは、巧みな姿勢制御を繰り返しながら、滑走する飛行機のように疾走すると、銃弾やレーザーの飛び交う真っ只中へと突撃を開始した。 『ジャーック!生身でエレメンタルの相手は無理だぎゃ!!ここはうちに任せて、おみゃー達は援護をするだぎゃ!!』 『ディオーネ!?』 ジャックの目の前を、疾風のように駆け抜けたバトルアーマーは、敵味方入り混じる激しい弾幕の中に飛び込む。そして、単機で暴れるノームの胸に、竜巻のように爪を振り回す白熊の紋章を確認するや、弾丸のように突貫した。 『こいつぁ、くれてやるだぎゃ!!』 バトルアーマーは、激突も辞さない勢いでノームに突撃し、すれ違いざま、振りかざしたバールの爪を、正確にバイザーに叩きつけた。 鮮やかなピンポイント攻撃に、周囲から驚嘆の声が漏れる中、ディオーネは急制動と同時に、足元から激しい火花を撒き散らしながら旋回し、その巨体に似合わない俊敏な動きで走り出す。 突然現れ、奇襲を仕掛けてきた敵に対し、ノームは敵意を剥き出しにして振り返るや否や、SRMで迎撃する。しかし、どこからともなく発射されたレーザーが、それらをことごとく空中撃破した。 『よっしゃ!ボカチン!!』 的確なハナヱの援護に、ディオーネは快哉を叫びながら、スタート前のスプリンターのように身を低くすると同時に、ジャンプジェットの水平噴射で加速すると、自らを砲弾に変えた体当たりを炸裂させた。 そのインパクトの瞬間、大気を振動させるほどの轟音が轟き、ノームの巨体がよろめきながら動きを止める。そして、間髪入れずジャンプしたバトルアーマーは、ノームの顔面に膝蹴りを叩きつけ、そのまま、空中で姿勢を整えると同時に、胸板を蹴り潰さんばかりの前蹴りを浴びせかける。 『シャアッッ!』 着地と同時に、ノームに体勢を立て直す暇を与えず、バトルアーマーは体当たりと同時にジャンプジェットを全開にし、がっぷり四つに組んだまま、ノーム諸共メックバンカーに激突し、強化フェロクリートの壁面に亀裂を走らせた。 『くたばれ!熊公!!』 激突の衝撃から、一瞬早く体勢を立て直したディオーネは、突き刺さったままのバールめがけて、バトルアーマーのマニュピレーターを叩きつける。しかし、ノームも振り上げた腕でパンチを弾き、返礼とばかりにヘビーマシンガンを乱射する。 『諦めが悪ぃだぎゃ!!』 全身の装甲に着弾する弾丸が、激しい火花を上げるにも構わず、ノームの首根っこを引き掴み、バンカーの壁に組み伏せるや否や、狂ったように背後のフェロクリートに何度も叩きつけた。 破砕ハンマー並の衝撃の連打を受け続けたバンカーは、耐えかねた悲鳴のような轟音と共に壁面が砕け、バトルアーマーとノームは、もつれ合うように土煙の中に姿を消す。 しかし、次の瞬間、再び、大音響と共に現れたバトルアーマー達は、全身に激しい憤怒を漲らせながら、再び激突を開始した。 『っがぁあああああああああああああああ!!』 憤激の怒声を上げながら、むき出しになった鉄骨を、バンカーの破損部から力任せに引きちぎり、それを振り上げるや否や、バトルアーマーはノームを激しく打ちのめす。 『往生せいやあああああああああああっっ!!』 ノームを滅多打ちにするバトルアーマーは、もはや、目の前の敵を粉砕することのみに支配されたかのように、破片や火花が、まるで肉片や鮮血のように飛び散るなか、容赦なく鉄骨を振り下ろし続ける。 『ディオーネさん!熱くなり過ぎです!!』 完全に逆上しているようなディオーネに、思わずハナヱがそう叫んだ瞬間、なすがままにされていたはずのノームが、突然その身を起こすと同時に、ハンマーのようなキックがバトルアーマーの胸板に炸裂した。 暴走するダンプカーが激突したような衝撃に、バトルアーマーは吹っ飛ばされるように転倒し、投げ出された鉄骨が、甲高い音を上げながら転がり飛んでいく。 『こ・・・この!・・・・・・げ』 起き上がろうとした瞬間、突然、凄まじい重量となってのしかかってくるバトルアーマーに、ディオーネは、全身から冷たい汗が噴き出すのを感じた。 『チ!やっぱりもたんかったか!!』 ジェネレーターの機能低下を訴えるインジケーターに、腹の底から湧き上がる不吉な感覚を押しやりつつも、鉛の鎧のようなバトルアーマーを、全身の力を叱咤しつつ立て直す。 しかし、急速にエネルギーを失っていくバトルアーマーは、関節が錆び付いたブリキ人形のように、ぎこちない動きで姿勢を保つのが精一杯にまで、出力は低下しきっていた。 『ぬあっっ!?』 再び繰り出されたキックを、とっさに両腕でかばうようにガードした途端、装甲やフレームを通して、骨を砕きそうな衝撃が生身の腕に走る。 『このガキャア・・・調子にのってんじゃねーだぎゃ!!』 続いて繰り出されたパンチを、力任せに叩き落し、カウンターの一撃を顔面に炸裂させた。しかし、ノームは先ほどの返礼とばかりに腕を振り上げると、鉄槌のような一撃をバトルアーマーの肩口に叩き込み、激しい衝撃音と、鮮血のような火花と撒き散らせながら、バトルアーマーを地面に叩きつけた。 『ディオーネさん!私が代わります、後退して下さい!!』 バトルアーマーのバイザーに向けて、レーザーポッドの狙いをつけたノームに、別のレーザーが、金属崩壊の火花を散らしながら次々と直撃し、ノームは、新手の出現に、警戒しながら振り返った。 『今のうちに!離脱してください!!』 正確な射撃でノームの動きを牽制しながら、ハナヱのバトルアーマーが、ハンガーから出て来るのが見える。そして、ノームが気を取られているその間に、エネルギーが尽き果てたはずのバトルアーマーが、疲労困憊した人間のような動作で、再び立ち上がった。そして、ディオーネの返事は、ハナヱの言葉を拒絶した。 『前にでてくるなっちゅーたがや!おみゃーは、早くクルツんとこ行っとくだぎゃ!!』 『ディオーネさん!?なにを馬鹿なこと言ってるんですか!!』 『クソたーけ!おみゃーはおみゃーの仕事をするだぎゃ!!』 『なっ・・・ちょっ、待ってください!ディオーネさん!!』 『・・・・・・ここで後ろを見せても、そのまま前に進んでも、結果は同じことだ!』 一方的に打ち切られた通信に、ハナヱが悲鳴じみた声を上げた瞬間、バトルアーマーはその拳を振り上げ、ノームに向かって絶望的な突撃を始めた。 『ディオーネさん!!』 次の瞬間、ハナヱが見たものは、迎え撃つように放たれたSRMの直撃を受け、炎に包まれるバトルアーマーの姿だった。 『いやぁあああああああああああああああああああっっっ!!』 信じられない、信じたくない光景を目の前に叩きつけられ、ハナヱは全身から絶叫を上げた。 『馬鹿です!あなたは、大馬鹿野郎です!!』 ハナヱは、子供のように大粒の涙を流しながらも、再びハンガーの奥へと駆け出した。 『自分はエネルギー切れの機体で戦って!私には余裕のある機体を残して!そんなに私は《お嬢ちゃん》なんですか!!』 涙交じりの罵声を叫びながら、ハナヱは、さっきまで、彼女と悪戦苦闘していた木箱の前に立つと、それを、バトルアーマーのマニュピレーターで、力任せに粉砕した。 そして、その中で、眠りから覚める時を待ち続けていたかのように横たわる、巨大な剣に手を伸ばした。 その全長は、優に3メートル以上はあろうかという、常軌を逸した大刀。ハナヱは、その柄を握り締める。しかし、その野砲の砲身のような鯉口は、溶接されたかのように微動もしない。しかし、それは、ハナヱにとって、驚くには値しない。 それは、剣に魂が宿ることの証。初めて握る剣の鞘が、自らを手に取るものを試すことは、ごく当たり前のこと。 今、目の前にある巨人剣は、ただ巨大なだけの剣ではない。その中に息づく魂を宿した、紛れも無い神刀の眷属。 ハナヱは、初めて巫王村雨を手にした、幼い頃の自分を思い出す。 『剣は、抜くものではない。解き放つもの』 この世界で、最も畏れ、そして最も敬愛する者の言葉が、ほろ苦い笑みと共に蘇る。そして、機械の手を通して伝わる剣の感覚に、静かに自分の合気を重ねながら、祈りにも似た言葉を囁く。 『砕錮巌陀、どうか、私に力を貸してください』 ハナヱの言葉が終わると同時に、微かなに響いた、澄んだ音色と共に、巨人剣の鍔は、静かに鯉口を離れ、その秋水を鞘走らせていた。 闘神烈伝(前) |
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