あの世≠ナ待機中

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あの世≠ナ待機中

 俺は知らなかったね。あの世≠ェこんな風になっているなんて。
 ここでは、みんな魂だけなんだ。
 その魂が、いろんな色や光をまとって、ふわふわしてやがる。見渡す限り、ふわふわの花畑みたいなもんだ。遠くはかすんで見えないが、どこまで行っても、果てしがなく、こうなんだってさ。
 ただし、魂は人間だけじゃねえ。動物も、虫も、植物もいる。それに、遠い星の世界≠フ生き物たちもいる。そいつらは、人間の魂とはちょっと様子が違うから、見分けがつく。
 動物の魂はしゃべれねえが、飼い主の魂に気がつくと、犬や猫なんか、喜んで寄ってくるらしいから、よかったよ。お互い、退屈しないで済むってもんだ。
 何しろここには、風景ってもんがねえ。地面も空も、川も海もねえんだから。ただ、どこまでも薄明るくて、色々な色や大きさの魂が漂っているだけ。
 それでも、生きていた時、知っていた人を探そうとすれば、すぐわかる。魂には、その人の気配があるんだ。
 大抵、向こうが待ってるもんだよ。知り合いが、あの世≠ノやって来るときにはさ。魂だけになっても、現世……演算中≠フ世界の様子は見えるんだ。見ようとすればさ。
 だから俺も、近藤さんや土方さんに出迎えられたよ。総司もいた。俺や斎藤は、ちょっと合流が遅れたけどな。
 俺たちがあの世≠ニ考えていたここ≠ヘ……この世≠ェ終わるまでの待合所みたいなもん、らしい。
 この世≠ニいうのは、既に大昔から無数に繰り返されていて、今も、俺たちの生きていた宇宙≠ェ演算展開中≠ネんだそうだ。いや、ここで知り合った学者たちに聞いた話だけどさ。
 学者連中は、俺より先に死んだ奴も、後から死んだ奴も、それぞれ夢中になって、星の世界≠フ連中と話をしているさ。中には、俺たち人間より、うんと進んだ文明の連中もいるらしいから。
 予定では、この宇宙≠ヘ数百億年後に終わるらしい。そうしたら、俺たちはまた、次の宇宙≠ノ出演するんだとさ。
 魂ってのは、そうやって繰り返し、再利用されるらしい。
 誰が、何のために利用しているのかなんざ、俺にはわからねえよ。どうでもいい。俺はここで、仲間に会えただけで満足なんだから。それにまた、来世≠ェあるんなら、そこでも会えるんだろ。きっとまた、大暴れしてやるさ。
 ところであんた、電気紙芝居≠フ役者さんだと言ってたな。俺の役を演じたことがあるって?
 そいつぁ照れるが、有り難うよ。
 俺の仲間たちのことが、後世に伝えられるってのは、嬉しいぜ。みんな、とびきりの男たちだからよ。
 まあ、あんたもここ≠ノ来たからには、会いたかった魂に会って、あれこれ聞くがいいぜ。星の世界の生き物と話をするのは、かなり難儀らしいがな。
 問題は、これから先の長い長い待ち時間、何をするかってことなんだ。
 魂だけだと、剣を振り回すこともできねえ。ものを食うこともないし、財産を集めることもない。
 できることは、他の魂と話をすることくらいか。
 聞いて知恵をつけたからって、新しく生まれ直す時には、全部忘れちまうらしいんだが。
 だって俺もあんたも、直近の前世≠フことしか覚えてないだろ。
 いったい何百回、何千万回、世界≠やり直しているのか、知らねえ。いつになったら終わるのか、終わりはないのか、誰にもわからねえ。
 これが輪廻≠チてことなら、気が遠くなるやな。
 とりあえず俺は、仲間たちと、この世界≠探険して回るさ。距離はあって、ないみたいなもんらしいが、知らねえ魂は無数にふわふわしてやがる。話を聞くだけでも、けっこうかかるだろ。
 あんたも好きにしなよ。じゃあな。
 あん、俺が何を急いでいるかって?
 この世≠フ時間とあの世≠フ時間は、流れ方が違うかもしれないから、もうすぐにでも、待機≠ヘ終わるかもしれねえだろ。
 その時、後悔しねえようにしたいのさ。
 ほんとに何百億年もあったら、退屈しきって腐るかもしれねえけどな……

   

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