エピローグ
事件のあった御島山荘の隣町に捜査本部が置かれた辻菜警察署がある。逮捕された小山はここで取り調べを受けた。全ての犯行を認め、本格的な捜査をするために県警本部に護送することになった。担当したのは菊池だった。菊池は部下の警察官3人と共に留置所にいる小山に会った。
「小山、久しぶりだな」
「ああ、同期のお前が来てくれるとは嬉しい限りだ」
「今からお前を県警に護送する」
「そういえば…」
「ん?」
「お前、取り調べのときいなかったな」
「ああ、もともとは県警二課だからな」
「ほう、お前も県警に推挙されるようになったか」
小山は笑いながら言った。
「じゃあ、行こうか」
「そうだな」
小山はゆっくりと立ち上がった。
捜査本部が置かれている辻菜署2階にある会議室、本部長の森岡警視正はタバコをふかしながら一息ついていた。
「やっと終わったな」
部下にそう言った。そこに刑事が駆け込んでくる。
「大変です!」
「どうした?、そんなにあわてて」
「小山に逃げられました」
「何!?」
森岡は驚いた様子で立ち上がった。立ち上がったと同時に膝を机の角にぶつけた。
「いてて…、ったく!、担当していた刑事は何をやっていたんだ!」
「菊池と警察官3人、拳銃を奪われて殺されていました」
「なっ!?」
森岡は絶句した。警察署の端にある留置所の入り口で死体が4つ転がっていた。菊池刑事は腕を折られた後、胸を撃たれていた。他の警察官も頭や腹に数発撃ち込まれていた。近くには座布団が置かれていた。座布団には弾が貫通したと思われる跡があった。
「おそらく、この座布団を使って音を消したのでしょう」
留置所のところでは鑑識が忙しく動き回っていた。
「それで小山の行方はどうなっている?」
「緊急配備をしましたが捕まえるかどうか…」
「くそっ!、彼奴は一体、何者なんだ?」
森岡は苛立ちを隠せなかった。小山がただの警察事務だと思えなかったからである。
小山の素性は警視庁に問い合わせて初めて分かった。森岡は電話の受話器に向かって怒鳴った。
「どうしてもっと早く情報をくれなかったんだ!!!」
「わかってくれ、こちらの事情も…」
相手は警視庁の幹部らしい。
「こっちは警察官4人も殺されているんですよ。もし、そんな奴だと知っていたらこちらにも手の打ちようがあったものの」
そう言って受話器を切った。
「どうしたんですか?」
「小山の素性がわかった」
「何者です?」
「奴は警視庁テロ対策室にいた凄腕だ」
「なっ!?」
部下も驚いていた。
「そ、そうしたらなぜ総務なんかに…」
「ある事件で同僚を死なせてしまってからは腑抜けになってしまったんだそうだ。それでテロ対策室から外事課、警護課などを経て最終的には総務課に回されてしまったらしい」
「ある事件とは?」
「さあな、そこまで話してくれん。連中も何を考えているんだか…」
森岡は頭を悩ませた。翌日、小山は包囲網を突破して完全に行方をくらませたという報告が入った。
小山は都内にいた。都内のある空きビルに潜んで腰には3つの拳銃が差し込まれていた。
「ふぅ…、当分は大丈夫だな」
小山は一息ついた。
「あそこはいい隠れ蓑だったよ」
小山は微笑しながら言った。あそことは警視庁総務課のことである。
「もともと経歴を隠される部署にいると他の県警は油断するからな。さてと、俺には1つ目的ができたな」
腰に差していた拳銃の1つを取りだした。奪った4つの拳銃のうち、1つは留置所で使い果たしていた。拳銃を見ながら、
「俺の作戦が失敗したのは初めてだった。失敗という文字は死を意味する。だが、俺に対する死じゃない、奴に対する死だ」
小山は薄気味悪い笑いを見せた。
「さてと、奴を殺すには十分準備をしてかからないとな。今度は奴の死か俺の命かどちらかが尽きるまで勝負してくれる」
そう言うと空きビルのガラスが入っていない窓に向かって一発発射した。凄まじい音と共に小山は姿を完全に消したのである。次なる血を求めて…。
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