2012年7月の話題

★ アレクサンドラ・スム ヴァイオリン・リサイタル
2012年7月31日 トッパンホール

 1989年モスクワ生まれ。芳紀23歳のヴァイオリンの新星、アレクサンドラ・スムを初めて聴きました。
強烈な表現意欲を持ったヴァイオリニストで、音の線が太く音量もゆたかです。前半のシューマンのイ短調ソナタとグリーグのハ短調ソナタは、表現方法が似通っていて、もう少し異なる様式感を出してほしいと思いましたが、後半3作品はそれぞれの精神、性格がよく把握され、多彩なテクニックと旺盛な歌心で立派に弾き分けられていました。
 若い彼女の今後がおおいに楽しみです。
 写真は、会場で仲良しの田中麗子さんとお会いしました。
 麗子さんは、お着物にしても映えるような全体柄のくるぶし丈のワンピース。
 残念ながら写りがまったく甘いのですが、一応記念に。


★ 渡辺克也 オーボエ・リサイタル
2012年7月28日 東京文化会館小ホール

 ベルリン・ドイツ・オペラの首席奏者を経て現在ソロイスツ・ユーロピアン・ルクセンブルクの首席としてヨーロッパを本拠に活躍中のオーボエ奏者、渡辺克也さんのリサイタルが開催されました。
 甘くつややかな音色のオーボエは管楽器の女王様。二枚の非常に薄いリードの間に息を吹き込んで音を出すため、息が足りなくなることがないかわりに、息のスピードが要求される難しい楽器です。
 渡辺さんの演奏はそんな困難をいささかも感じさせない堂々たるものでした。サン=サーンスのソナタの第3楽章で、滅多にないことだそうですが、二枚のリードの間に何か不純物が入ってしまって、それが気になって不本意な演奏になったと、最後のトークで語られ、それを払しょくするためにと、アンコールでその第3楽章を吹いてくださいました。するとどうでしょう、先ほどの本編の演奏も立派でしたが、なんとそれをぐっと上回るスピード感。プロ魂を感じました。
 写真は、終演後、渡辺克也さんと。


★ 英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ聖歌隊 来日記念コンサート
2012年7月27日 東京オペラシティ コンサートホール

 この聖歌隊は大学生だけではなく、小中学生の愛らしい少年たちも参加しています。清純な歌声に暑さもどこへやら、贅沢な納涼の一夜を経験させていただきました。

 写真は、ステージが終わるや、脱兎のごとくホワイエに飛び出して募金箱を手にする天使たちと。


★ 月刊『ショパン』対談〜秋から冬の来日ピアニスト
2012年7月26日 アークヒルズ内 オーガニック・ハウス

 この日は、夜のコンサート前に月刊『ショパン』9月号の対談がありました。お相手は気心の知れた同業の松本学氏。この秋から冬のシーズンに来日する40人あまりの外国人ピアニストについて、これまで聴いてきた印象や今回の来日公演への期待、聴きどころ、今後への注文などについて、お互いの思うところを忌憚なくお話しさせていただきました。かなり勝手なことを言い合ったのですが、大局的に同意見でした。
 それはどういうことかというと、ピアニストはじっくりと勉強して、頻繁にきてくれなくてもいいからひとつひとつのレパートリーをよくよく自分のものにして、よいものだけを持って無理のないスケジュールでよい状態の演奏を聴かせにきてほしい。それにはマネージャーの理解と彼らを育てる姿勢が必要だ。若くて華麗なテクニックに優れ見栄えがよくて一気にブームになるピアニストはつねに何人かいるけれども、そのぱっと売れたときこそ正念場。ここで自分磨きができるかどうかが息の長い活動につながるかどうかの分かれ目だ。といったところで、わたくしたちの意見は一致したのです。

 そのあとは、ほんのちょっと移動してサントリーホールで、マルク・ミンコフスキ指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢の定期公演を聴きました。トランペットのソロが映えたヴァイルの交響曲、91年生まれのパリの若き名手ギョーム・ヴァンサンと金沢出身の田島睦子の息の合ったデュオに聴きほれたプーランク、まさにロワおばさんの語るおとぎ話そのもののように親密で能弁だったラヴェル。ミンコフスキの魔法の棒からは、次々と異なる世界が繰り出されます。オーケストラ・アンサンブル金沢の無駄なく精緻で、それでいてふくよかな音楽。至福のコンサートでした。
 プログラム
 ヴァイル:交響曲第2番
 プーランク:2台のピアノのための協奏曲ニ短調
 ラヴェル:マ・メール・ロワ


★ 群馬交響楽団演奏会
2012年7月19日 すみだトリフォニーホール

少し早く着きましたので、ふと思いついて、あの東京新名所をバックに。
すみだトリフォニーホールからは一直線。歩けばそれなりの距離なのでしょうが、すぐそこのような気がします。


★ 牛田智大 ピアノ・リサイタル
2012年7月17日 オペラシティ コンサートホール

 今春、ユニバーサルミュージックからCDデビューを果たした12歳(中学1年生)のピアニスト、牛田智大(うしだ・ともはる)君が堂々、リサイタル・デビューを飾りました。
 智大君の演奏は小学校4年生くらいのときから聴いてきました。音がとても美しく、自分の言葉で音楽を語ることのできる坊ちゃんなので、遅かれ早かれ、この日を迎えることと想像していましたが、まさかこんなに早くプロ・デビューされるとは、予想をはるかに超えていました。これからがたいへんでしょうが、いろいろな体験を重ねて、ゆっくりビッグに成長されんことを心より祈念いたします。

 写真は恩師の金子勝子先生と。


★ 日本フィルハーモニー交響楽団 演奏会
2012年7月13日 サントリーホール

 『日フィル・シリーズ』再演企画として、いずれも日フィルが過去に初演した邦人作曲家の作品を再演するコンサートが開かれました。
 下野竜也マエストロがそれぞれの曲にみずみずしい命を吹き込みました。
 プログラム
  戸田邦雄:合奏協奏曲《シ・ド・ファ》
  山本直純:和楽器と管弦楽のためのカプリチオ
  黛敏郎:弦楽のためのエッセイ
  松村禎三:交響曲第1番
 山本直純作品は箏、三味線、尺八各1名、邦楽打楽器3名、竜笛、ドラムス、ギター各1名の全部で9名ものソリストがオーケストラと共演する贅沢で華やか、多彩な表情を持つ聴きどころ満載の奇想曲です。

 (左)写真は、左から尺八の石垣征山さん、箏の片岡リサさん、三味線の野澤徹也さん。
 (右)若い方々が和楽器を支えておられるのをみると、嬉しくなり、胸が熱くなります。間に挟んでいただきました。


★ 新日鉄音楽賞授賞式とコンサート
2012年7月9日 紀尾井ホール

 今年の新日鉄音楽賞の『フレッシュアーティスト賞』は、昨年のジュネーヴ国際音楽コンクールピアノ部門に日本人として初の優勝を飾った若手ピアニスト萩原麻未さん、『特別賞』は卒寿を迎えた現在も現役、納得のいくまで考えぬいた音で紡ぐトーク・コンサート『音楽を聴きたいって何なの?』を20回以上にわたって開催してきた超ベテラン・ピアニストの室井摩耶子先生に授与されることになり、その授賞式と受賞記念コンサートが7月9日、紀尾井ホールで開催されました。
 萩原さんの演奏はこれまでに2度、いずれもこの同じ紀尾井ホールで聴いていますが、このホール音響によくマッチする、おおらかで伸びのよい音の持ち主。瞬発力にも優れています。この日は、ドビュッシーの『前奏曲集』第1巻から『音と香りは夕べの大気に漂う』『アナカプリの丘』『雪の上の足跡』『西風のみたもの』『亜麻色の髪の乙女』『ミンストレル』、メシアン『4つのリズム・エチュード』より『火の鳥T』、ショパンのソナタ第3番ロ短調を披露。
多彩な音色のバレットを駆使して、次々とめくるめく世界を繰り出したドビュッシー。作曲家自身は聴き手の観念を縛りたくないと、各曲のタイトルを楽譜の最後にそっと記したのですが、萩原さんの演奏からはそれぞれの曲の世界がファンタジーゆたかに広がって、それも決して固定されたものではなく、さまざまなイメージを喚起してくれる、啓発力にあふれたものでした。
 ショパンは初めて聴きましたが、音色感も多彩でダイナミクスの幅も広く、たいへんピアニスティックなショパンでした。
 室井先生は、モーツァルトの『アダージョ ロ短調』 KV540を深みのある音で聴かせてくださり、弟さんの学友だったという音楽ジャーナリストの富永壮彦氏と興味深いステージ対談を繰り広げられました。

(左) 萩原麻未さんは授賞式には純白のドレスで臨まれ、シックな黒のドレスにお着替えして演奏されました。どちらもお似合いでしたのに、白のドレス姿を写しそこねて残念!
(中)  いつも若々しい室井先生、栄えあるご受賞、本当におめでとうございます。
(右) 新日鉄音楽賞選考委員の百瀬喬氏(わたくしの左)、寺西基之氏(室井先生の右)らとともに楽屋で。


★ 学習院OB管弦楽団 第65回定期演奏会
2012年7月8日 学習院百周年記念会館

 尊敬する三石精一先生の指揮による学習院OB管弦楽団の演奏会を聴かせていただいてきました。 ヴィオラ席の2プルト内側には、生き生きと演奏なさる皇太子殿下のお姿がありました。
 プログラム
  リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲
  ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調  ソリストは若手のホープ佐藤彦大くん
  チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調
(左)いつもながら、背筋のピンと伸びた美しい指揮姿で躍動的な演奏を聴かせてくださった三石精一先生と。

(中)憂愁と情熱を湛えた素晴らしいラフマニノフを弾いた佐藤彦大くん。難関ベルリン音楽大学に合格したばかり。今秋から留学生活を送ります。

(右)梅雨の晴れ間で強い日差しの一日でした。百周年記念会館前で、三石先生の奥様、純子さんと。


★ 七夕の雅楽
2012年7月7日 東京オペラシティ コンサートホール

 天の王さまの娘、織女は機織りの名手。牛飼いの若者、牽牛も働き者でした。恋に落ちたふたりはめでたく一緒になりますが、甘い生活が楽しくてならず、あれほど勤勉だった過去を忘れ果て、毎日ふたりで仲良く語らって倦むことを知らなくなり、機織りも牛の世話もそっちのけ。人々は着るものにも畑仕事にも困るようになりました。
 そこで、天の王さまはふたりを引き離して間を天の川で隔て、一年に一度しか会えなくして反省させようとした、というのが七夕にまつわる物語です。
 七夕の日だけ、天の川にカササギが橋をかけてくれるのでふたりは会うことができるのですが、そのたった一年に一度の逢瀬も雨が降ればカササギの橋はかからず、デートは叶いません。
 そんなロマンティックな七夕の夕べ、雅楽のコンサートが開かれました。

 わが国に古くから伝わるこの伝統音楽を、現代のわたくしたちはあまりにも知らなすぎますね。
でも、このたび、関係各位のみなさまの努力で絶好の入門コンサートが開催されました。ありがたいことです。
第2回は来年1月27日に同会場で開催予定です。
 写真は、雅楽コンサートのサポーター、主催事務所アマティの入山功一社長と次回ポスターの横で。


★ ベートーヴェンとブラームス
2012年7月1日 東京文化会館大ホール

 山下一史指揮、都響の演奏会。3Bからバッハをのぞいたふたりの大作曲家の大曲がプログラムを飾りました。
 プログラム
  ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102
  ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調
 イ調つながりで、ブラームスの短調協奏曲とベートーヴェンの長調交響曲の取り合わせ。
 二重協奏曲のソリストは、渡辺玲子さんと長谷川陽子さん。 おふたりともソリストとして大活躍中ですが、共演は初めてとのこと。
 そもそも、ブラームスの二重協奏曲はたいへんな傑作のわりに、実演機会が多くありません。名手ふたりをバランスよく揃えるのが難しいことと、曲そのものがとてつもない難曲であるためでしょうか。
 終演後、おふたりとちょっとお話をしました。
 深いグリーンのドレスが色白なお肌によく映える玲子さん。
 「ずいぶん前に、向山佳絵子さんと一度弾いて以来ですね。このドレス、ジャングルみたいでしょ?」
 ブラームスがチェロ協奏曲を遺してくれなかったことは陽子さんにとって痛恨の極みだったことでしょう。でも、これがあっただけでもよかったですね。
 「本当は、この曲のあとに、ブラームスはチェロ協奏曲を書くつもりだったようですよ」と陽子さん。
 お着替えがすばやくて、鮮やかなパープルのステージ・ドレス姿を逃したのが残念。

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