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萩谷由喜子の著書16冊 + 楽譜の解説書3冊=19冊

(それぞれの本のカバー写真をクリックしていただければ、内容のご紹介、書評などの詳細ページへ飛びます。)

著書15冊⇒
楽譜の解説書3冊⇒


● 『音楽のある展覧会』
  2019年11月1日 

ホテル・オークラ 別館地下二階 アスコットホール 11月2日〜17日にかけて、日本オーストリア友好150年を記念する『音楽のある展覧会』がホテル・オークラ別館地下二階『アスコットホール』で開催されました。



とてもクラシカルな雰囲気のこのホールは、まさにこの催しにうってつけ。初日前日のオープニング・セレモニーに出席させていただき、ウィーン楽友協会所蔵の貴重な資料の数々、ブラームスと日本の公使夫人との音楽交流の場面を再現した、守屋多々志画伯の大作屏風絵などが拝見してまいりました。

また、ウィーン楽友協会のオットー・ビーバ博士とお話しさせていただくことができました。

  オットー・ビーバ博士と。

 これがお目当ての屏風絵。
 岐阜県大垣市の守屋多々志美術館から運ばれてきました。
 ほぼ、門外不出で、絵の保護の目的から、同美術館でも常設展示を避けています。わたくしは何度か大垣まで出かけて拝見してきましたが、こうして、東京で目にすることが出来ようとは思ってもみませんでした。ありがたいことです。

次の本では、この屏風絵の背景を解き明かします。


 



 

●2019年11月5日 サントリーホール
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団来日公演初日公演 & ウェルカム・パーティー
 今年もウィーン・フィルが来てくださいました。
 そのオープニングとして繰り広げられた「日本オーストリア友好150年記念スペシャル・プログラム』を聴かせていただきました。
 前半は、モーツァルトの『フィガロの結婚』序曲と、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』組曲、後半はヨハン・シュトラウスU世の『ジプシー男爵序曲』から始まって、ヨハン、ヨーゼフ、エドゥアルドのシュトラウス3兄弟のさまざまな趣向を凝らしたワルツやポルカが5曲続くという、これぞ、ウィーン! とため息の出るような魅惑のプログラムです。
 シャンパンの泡のはじけるような、軽快で愉悦感に満ちた音色と、独特のワルツのリズムはこのオーケストラならではのもの。
 終演後のウェルカム・パティーでは、毎年お会いして、現在進行中の次の本関する取材をさせていただいているチェロのウィルフリート・直樹・ヘーデンボルクさんと今年もお会いできたほか、オット・ビーバ博士とまたお会いできました。

 ビーバ博士には、拙著『『蝶々夫人』と日露戦争』を謹呈し、次の本のプランを説明させていただきました。
 左は、小中学校の大先輩にあたる、明治学院大学名誉教授の樋口隆一博士。とても頼もしい先輩です。



● 寺田悦子ピアノ・リサイタル
  2019年10月20日 紀尾井ホール

 寺田悦子さんがデビュー50周年記念の一環として、ショパン・プログラムによる「響き合うソナタ」と題したリサイタルを開催されました。
『葬送』と第3番ロ短調に、もう1曲、晩年の傑作チェロ・ソナタを加えたヘビーなプログラムです。
共演相手は、今期待の有望株、伊藤悠貴さん。お二人の音楽の目指すところが一致して、共感度の高いチェロ・ソナタの世界が開けました。2曲のピアノ・ソナタも長年のキャリアの反映された、円熟味に満ちた演奏でした。とりわけ、ロ短調がおみごと!
終演後のレセプションも大いに盛り上がりました。

レセプションにて。左から、樋口隆一先生、ひのまどか先生、丹羽正明先生、藤田由之先生、主役の寺田悦子さん、大友直人マエストロ、わたくし


● 2019年10月5日〜6日 長岡取材
  長岡市見附の若宮神社 堀口九萬と武石貞松の「友情の双像」に邂逅

左の洋服姿が堀口九萬一(ほりぐち・くまいち)、右の和装が武石貞松

10月5日、仲道郁代さんのピアノ・ワーク・ショップの取材のため、長岡リリックホールにお邪魔いたしました。
 詳しい取材レポートは「音楽の友」12月号に寄せましたが、子どもたちに曲のイメージを膨らませる素晴らしいお話しをされる仲道さんに感動いたしました。
 長岡は、拙著『「蝶々夫人」と日露戦争』に詳しくご紹介しましたように、軍艦の購入を巡ってアルゼンチンと交渉した立役者の外交官、堀口九萬一の故郷です。
 若き日の堀口九萬一は長岡で刻苦勉励、学問を支えに辛い日々に耐えて漢籍と外国語を習得し、やがて東京に出て帝国大学に入学してさらに学問に磨きをかけ、外交官人生を歩むことになります。その大学在学中に生まれた長男が、詩人の堀口大学です。
 そんな堀口九萬一が、勉学時代に励まし合った親友が、漢学者の武石貞松です。二人が語らいあった長呂という地に、昭和35年、地元有志の拠金により、武石の弟の名彫刻家、武石弘三郎が制作した「友情の双像」が建てられた、というので、ぜひ見たいと思ったところ、そこは長岡市の中心部からかなり北の見附というあたりで、しかも、建てられている若宮神社と言うお宮も、地元の方しかわからない場所ときき、あきらめかけました。
 すると、長岡リリックホールの栗林順子専務理事が調べてくださり、中之島地区の師の出張所の坂田哲也係長様の応援をとりつけてくださいましたおかげで、「友情の双像」を眼にすることができました。栗林専務理事様、坂田係長様、本当にありがとうございました。

二人の友情にあやかって、栗林順子専務理事との友情の握手


● 2019年10月2日 小平楽友サークル 10周年記念特別講座
  ルネこだいら レセプションホール

 東京都小平市で2009年から毎月2回開いておりますクラシック音楽講座『小平楽友サークル講座』が10周年を迎えました。
 思えば、2009年前期に、小平市主催の講座として10回開講したあと、このまま解散せずに続けたい、というメンバー有志の音楽への愛と情熱が燃え上がって発足したのがつい昨日のことようですが、それから早くも10年、講師として毎回いろいろなお話しをさせていただきながら、ご一緒に独奏曲からオペラまで、さまざまな音楽作品を鑑賞してまいりました。
 今回は10周年を記念して一般の方も対象とした公開講座を企画し、ゲストとして、世界的に活躍されておられるピアニスト、仲道郁代さんにいらしていただくことができました。
 会場は、いつもの小平中央公民館からこの日だけ、「ルネこだいらレセプションホール」に移し、広くご来場を呼び掛けましたところ、130席が満席です。
 10月27日に、仲道さんがシューマン・プログラムによるリサイタルを開催されることと、わたくしが今年『クララ・シューマン』を出版したことにちなみ、『シューマンの愛』をテーマといたしました。
 仲道さんは、シューマンのピアノ・ソナタ第1番の抜粋、『謝肉祭』より、『キアリーナ』『ショパン』『エストレッラ』、ピアノ協奏曲抜粋、『幻想小曲集』の終曲『歌の終わりに』などをレクチャー付きで演奏してくださり、シューマンという作曲家の人物像についても、大変興味深い考察を話してくださいました。ピアノももちろん素晴らしく、お話もお上手なので、みなさま、目を輝かせて聴き入られます。2時間があっというまにすぎ、大盛況理に記念の会を終えることができました。
 ご来場のみなさま、そして、小平楽友サークルの役員さん、メンバーのみなさま、本当にどうもありがとうございました。
 小平楽友サークルは現在『ピアノ協奏曲シリーズ』継続中です。毎月、原則として第一、第三水曜日午前10:00から12:00に、小平中央公民館で開講しております。いつでも見学におこしください。どの回からでも入会はご自由です。

小平楽友サークル・メンバー集合写真、仲道郁代さんを囲んで

仲道さんとクララとのスリー・ショット


● FM-Tokyo トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ収録
  2019年8月7日

 お陰様で、『クララ・シューマン』は、讀賣、日経、赤旗、東京新聞の各紙にお採り上げいただくことができ、重版となっております。
 先月は Web ラジオに出演させていただきましたが、今度は FM-Tokyo の田中美登里パーソナリティからお話があり、同局の「トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ」という番組でクララ特集をしていただきました。
 30分番組ですので、長い曲は全曲かけられないのですが、それでも、クララの代表作『ピアノ三重奏曲ト短調』や『ロベルト・シューマンの主題による変奏曲』『スケルツォ』などと、ロベルトからクララにプレゼントした『クララ・ヴイークの主題による変奏曲』、ブラームスがクララへの手紙に書き添えた「高い山と深い谷からあなたに千回の挨拶を贈ろう」の主題、これは実は、交響曲第1番のフィナーレ、序奏後半部でホルンが吹奏する有名な主題ですが、こういった曲をご紹介しながら、田中さんと楽しく対談してまいりました。
 放送はクララの200歳のお誕生日、9月13日になるべく近くということで、9月8日、日曜日の早朝4時30分から5時までです。
 お早い時間ですので、下記でお聴きいただければ幸いです。
トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズ | TOKYO FM |
2019/09/08/土 28:30-29:00 http://radiko.jp/share/?sid=FMT&t=20190908043000

写真(左)は、半蔵門 FM-Tokyo 第4スタジオで、田中美登里パーソナリティと。
写真(右)は6月27日、天王洲アイルのWebラジオの収録スタジオで、飯田有抄さんと。


● 小平楽友サークル10周年記念特別講座のお知らせ
 
 小平市中央公民館で、2009年4月以来、毎月2回続けてまいりました小平楽友サークルのクラシック音楽講座が今年で10周年となりました。
 最初の半年間は小平市の運営でしたが、そのあと、自主講座に移行して、何から何までメンバーの自主運営により今日までやってまいりました。
 会場取り、資料印刷、機材の準備、あとかたずけ、経理、事務全般、クリスマス会のお料理まで、本当にメンバーの皆々様のお手をわずらわせて、感謝に耐えません。ありがとうございます。
 しかも10月2日、10周年を記念して特別公開講座を企画していただきました。
この回だけ、会場を西武新宿線小平駅至近の「ルネ小平レセプションホール」に移し、時間も午後2時からとして、ゲストに仲道郁代さんをお迎えした特別講座『シューマンの愛!』を開催いたします。
このテーマは、聡明で気配り上手な仲道さんが、拙著に因んで考えてくださいました。
 仲道さんとわたくしとのシューマン夫妻を巡る対談を中心に、合間にシューマンの『ピアノ・ソナタ第1番』抜粋、『謝肉祭』から『キアリーナ』他、『幻想小曲集』から何曲かなどを仲道さんに弾いていただくことになっております。
 この講座のみの一般参加もお待ちしております。1,000円の前売り券のお申し込みは、小平楽友サークル代表:山田さん、電話:042-345−8862までお気軽にどうぞ。


● ネット・ラジオ番組生出演のお知らせ
  2019年6月27日 18:15〜

OTTAVAというネットラジオ局の番組に生出演いたします。
担当の飯田有抄さんのお招きにより、「おめでとうクララ!生誕200周年記念特集」というテーマで飯田さんとおしゃべりをさせていただきます。
クララの曲もたくさんかけます。
お時間がございましたら、ぜひ、お聴きくださいませ。

ウェブサイト:https://www.music-facilitator.com/


● しんぶん赤旗 日曜版 読書ページの『本と人と』コーナーに『クララ・シューマン』をお採り上げ戴きました。
  2019年6月16日
このたび書き下ろしたクララの伝記についての取材をしていただいた時に、
「女性作曲家はなぜ少数だったのか?」についてもかねてから考えていた「3つの壁」論を述べましたら、
それについてもまとめてくださいました。


● 仙台国際音楽コンクール ピアノ部門 レポート執筆
  2019年5月31日〜6月2日 セミ・ファイナル 旭が丘日立システムズホール

 今年は、3年に1度開催される仙台国際音楽コンクールの開催年。
 コンクール事務局からの依頼を受け、ピアノ部門セミ・ファイナル3日間、1日4名、計12名のコンテスタントの演奏評を、毎日、翌日会場配布の「ニュースレター」に執筆する仕事を担当してきました。
 ウェブ・ページにもアップされていますので、下記をクリックしてご高覧ください。
★1日目 小林海都、パク・スホン、佐藤元洋、ダリア・パルホーメンコ https://simc.jp/wp-content/uploads/2019/06/7th-simc-Vol.17_June1_2019.pdf
★2日目 バロン・フェンウィク、平間今日史郎、チェ・ホンロク、ハン・キュホ https://simc.jp/wp-content/uploads/2019/06/7th-simc-Vol.18_June2_2019.pdf
★3日目 ツァイ・ヤンルイ、イリヤ・シュムクレル、キム・ジュンヒョン、樋口一朗 https://simc.jp/wp-content/uploads/2019/06/7th-simc-Vol.19_June3_2019.pdf

12名のうち、佐藤元洋、ダリア・パルホーメンコ、バロン・フェンウィク、平間今日史郎、チェ・ホンロク、キム・ジュンヒョンの6名がファイナルに進出することになりました。


● 仙台国際音楽コンクール ピアノ部門ファイナル、ガラコンサート
  2019年6月6日〜9日
いったん東京へ戻り、6日からファイナルを聴きに再び仙台へ行き、6日〜8日のファイナル、及び、9日のガラコンサートを聴き、フェアウェル・パーティーに参加してから帰ってまいりました。
 コンクール全体について、同コンクールの事業報告書に総評を寄せることになっています。
 結果は下記ページからご覧ください。  コンクール全体について、同コンクールの事業報告書に総評を寄せます。
https://simc.jp/wp-content/uploads/2019/06/7th-simc-Vol.20_June-8-2019-1.pdf

 中央の金メダルが、第1位のチェ・ホンロクくん(韓国)、隣の長身、銀メダルが第2位のバロン・フェンウィクくん(アメリカ)、その右が第4位の佐藤元洋くん(日本)、その左が第6位のキム・ジュンヒョンくん、ホンロクくんの左の銅メダルが第3位のダリア・パルホーメンコさん、その左が第5位の平間今日史郎くん(日本)

 優勝者、チェ・ホンロクくんは、演奏中には古武士風のこわい雰囲気でしたが、ステージを降りれば、意外に可愛らしいシャイな若者でした。
「コンクールでは、ベートーヴェン、モーツァルト、チャイコフスキーの3つのコンチェルトを演奏されましたが、どれが一番よくお弾きになれましたか?」  すると、恥ずかしそうにお顔をクシャクシャにして、全力で全否定。
「ええーっ!! どれも全然よくありません」
「韓国内でのお勉強のあと、ザルツブルクに留学されたのですよね」
「はい、1年半ほど前から、ザルツブルクでギントフ先生について勉強しています」
「来年のショパン・コンクールは視野に入れておられますか?」
「はい、参加したいです。実は、4年前2015年のショパン・コンクールのときは、応募方法がよくわからなくて書類に不備があり、参加できなかったんです」

 第2位のバロン・フェンウィクくんはご両親に付き添われての初来日。
「ボク、なにしろアメリカ人でしょ。クライバーン大好き。ずっと憧れてきました。小さい時からクライバーンがチャイコフスキー・コンクールに優勝した時のCDを擦り切れるほど聴いて、いつか、ボクもチャイコフスキーをオーケストラと共演したいと夢見てきました。夢が叶い、しかも2位をいただけて幸せです」

 第3位のダリア・パルホーメンコさんは、セミ・ファイナルの時からすでに紅一点。ステージごとに異なる美しいドレスと響き豊かな演奏で、会場を盛り上げてきました。馥郁とした肉厚な音の持ち主です。写真はフェアウェル・パーティーで、フェンウィクくんと。

 仙台国際ホテル、2階の、なんと、これまたさよならしたばかりの「平成の間」で開かれたフェアウェル・パーティーでの、ホンロクくん、佐藤元洋くん、平間今日史郎くん。
 コンクールさえ終わってしまえば、みな、屈託のない若者のお顔になるのが嬉しいですね。爽やかな3人です。
 実は、これを書いている昨晩(6月13日)も渋谷区営大和田さくらホールで開かれた「プレトニョフ・ピアノ・リサイタル」で佐藤くんと再会。ご実家の掛川から、こだま号で上京されたとのこと。


● 「クララ・シューマン」が紹介されました。  2019年6月1日 日本経済新聞 読書欄
 


● 千代田区かがやき大学 萩谷由喜子のクラシック講座
    【珠玉のヴァイオリン名曲シリーズ】第1回 瀬崎明日香・佐々木祐子リサイタル

2019年5月16日 千代田区九段下 かがやきプラザ ひだまりホール
   今年度前期のかがやき大学講座は上記タイトルのもと、古今のヴァイオリン名曲を訪ねます。
 第1回は豪華に、第一線演奏家おふたりをお迎えしたライヴ・コンサート。
 ヴァイオリン名曲とあれば、講座のみなさまにぜひ、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの双璧、第5番『春』と第9番『クロイツェル』を、名手の生演奏でお聴きいただきたいと考え、この2曲を贅沢に並べました。こんなわがままなお願いを快く聞き入れてくださったのは、ヴァイオリニストの瀬ア明日香さんと、ピアニストの佐々木祐子さん。お二人は、パリ国立高等音楽院留学時代以来の音楽仲間。ありがたいことです。
 当日は、皇居北の丸のお堀を背に、明日香さんのヴァイオリンが艶やかな音で朗々と鳴り、祐子さんの剛柔自在なピアノがそれを支え、あるいは対話して、絶品の『春』と『クロイツェル』が鳴り渡りました。解説のあと、お二人の演奏に耳を傾けながら、つくづく名曲だと改めて感じ入っておりました。
 演奏のあと、それぞれから、これまでやってこられた中で、音楽家ら何を受け取り、これからもどう取り組んでいきたいかという、胸打たれるお話もいただきました。明日香さん、祐子さん、ありがとうございました!!
(写真)ひだまりホールのステージの背は、皇居北の丸のお堀です。
    濃紺のドレスの祐子さん、ピンクのドレスの明日香さんと。


● 別府アルゲリッチ音楽祭東京公演
2019年5月24日 オペラシティコンサートホール
   大分県別府市を本拠とするアルゲリッチ音楽祭の東京公演が開かれました。
 アルゲリッチ本人ももちろん出演、オーケストラは全員ソリスト・クラスの水戸室内管弦楽団。アルゲリッチがソロを弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番の指揮は、長年の音楽盟友、小澤征爾マエストロ。とくれば、もう大変な盛況です。
 しかも、おそらくご退位後初の、上皇・上皇后両陛下のクラシック・コンサートのご鑑賞。
 二階の正面席に着かれますので、そのすぐ回りは閣僚や議員さん。その周辺にわたくしども音楽関係者が弾除けに配されました。
 上皇后さまは上品なダークグレイ系の軽やかな洋装でおいでになられました。
 令和初の、クラシック・コンサートへのおなりに、陪聴させていただくことができ、嬉しい限りです。
 詳しい演奏批評は『モストリー・クラシック』6月発売号に。
(写真)ロビーで写していただきました。


● 第24回宮崎国際音楽祭 台本執筆公演の立ち合いと取材
2019年5月9日〜12日
 今年で第24回を迎えた宮崎国際音楽祭。
 そのメイン・プログラムの一つ、エクスペリメンタル・コンサートは、毎年、どなたもよくご存じの名曲(マスターピース)ではなく、日ごろあまり耳にする機会のない隠れ名品に焦点を当てた、実験的プログラムを看板に掲げています。
 今年は、明治の洋楽導入初期以来、日本にどのような作曲家が出現して、どのような作品を書いたのか、創成期の人々の拓いた道の上に、その次世代はどんな花を咲かせたのか、というテーマのもと、幸田延、瀧廉太郎、山田耕筰、平尾貴四男、黛敏郎、矢代秋雄の6人の作曲家の作品が採り上げられることになりました。
 説明抜きで、いきなり聴いていただくのもわかりにくく、また、せっかくの演奏がもったいないことですので、ご案内役として、女優の西田ひかるさんをお迎えし、西田さんに日本の洋楽の歴史ストーリーや曲の背景を語っていただくことになりました。
 その台本執筆を仰せつかりましたので、せっかくなら、西田さんに幸田延に扮していただき、延自身の曲と教え子筋にあたる瀧廉太郎と山田耕筰の曲を解説していただくというプランを思いつきました。すると思いは膨らんで、わたくしの手持ちの着物や帯、帯留め、刺繍の半衿、髪飾りの中から、幸田延の雰囲気のあるものを選んで、西田さんに身に着けていただくのはどうだろうか、とひらめきました。
 第二世代の平尾、黛、矢代については、ドレス姿に変身していただき西田さん本来のキャラクターで語っていただく趣向です。台本も二稿、三稿を重ね、リハーサルから立ち会い、細かい部分は少し手を入れましたが、5月10日の本番は西田さんに素晴らしい幸田延を演じていただくことができ、野平一郎、徳永次男、漆原啓子、漆原朝子、川田知子、古川展生、川崎和憲さんら超一流揃いの出演者さまのおかげで、好評を頂戴できました。
 一旦、東京へ帰り、終盤の二公演を聴きに再度宮崎へ。
 最終日のコンサート形式オペラ『ラ・ボエーム』の公演評を『ハンナ』に執筆いたしました。

(写真左から)幸田延に扮した西田ひかるさん。  会場入口、ロビーにて筆者


● 『クララ・シューマン』に頂戴したレビュー
2019年4月21日
   今月、ヤマハミュージックメディアから発刊されました近刊『クララ・シューマン』が、最大瞬間風速ではありますが、Amazonの『19世紀以後のクラシック音楽』部門で第1位にランキングされているのに気づき、びっくりいたしております。  みなさま、本当にありがとうございました。  アマゾンに、いずれも5つ星で3件のレビューも頂戴しておりますので、面映ゆくは存じますが、それらをここにご紹介させていただきます。 河原亮さま
可憐な少女の横顔のイラスト。「音楽家の伝記」「はじめに読む」「10歳から読める」などの言葉に、おおかた伝記特有の予定調和、深刻な部分は薄められ、“大人の”部分は枝打ちされ、ロマンチックなシンデレラ・ストーリーか悲劇のヒロイン仕立てになっているのだろう。そんな軽い気持ちで読み始めて、読み進めるうちに驚いた。これは本来の意味での伝記、本当の意味で、「はじめに読みたい」教育的な一冊なのである。
 たとえば「はい、これ読んでおきなさい」と子どもに手渡してそれっきりにしておくというような、そういう意味での「伝記」ではない。これは、母子で一冊ずつ持って同時に読む、対話しつつ読む、そんな人生の案内書のような性格を持つ。これはそれこそクララとその父ヴィークのようなピアニストや芸術家を目指す父子が語り合いつつ読む、そんな風景をさえ想像させるような一冊。“芸術家の身の上”に立った一冊であると感じた。
 何よりも書かれている文体、日本語が素晴らしい。客観的で簡潔な描写でありながら親愛の情がこもっている。読んでいくうちに、頭の中が整理され、国語の力までがついていくようだ。クララ・ヴィークという少女は、12歳の時にかのゲーテの前でピアノを演奏するなど、その生涯のはじめは光に満ちている。しかし、すべてが光に包まれた一生、運命の寵児というタイプではない。光が強ければそれだけ影も濃い、そんな性格をもった生涯なのだ。
 シューマンとの結婚を最後まではばむ父。精神の病に冒され早世する夫。身体面でも経済面でも弱い多くの子や孫たちを育てるべく、旅から旅へのコンサート活動に明け暮れる日々。しかし彼女は、その“現実”に立ち向かい、その現実と切り結ぶ。それを運命、天命と感じている女性、そこにこそ愛の実現があると感じている女性、愛と創造の狂おしいほどの現場を見てしまった女性として。
 それはワーグナーの妻コジマのような形而上的な夢に浸れる境遇ではない。またウーマンリブや権利の主張に明け暮れるそんなゆとりもない。自らの最も身近から、夫や家族や友への、日々の所作から入る営み。それは我が国で言うなら、与謝野晶子や樋口一葉などに見られる気位や品格ではないか。本書を読みつつ、そんなことまで考えた。およそ一人の女性というものにどれほどの仕事ができるのか?──それを教えられるという意味でも、本書は人生の少しでも早い時期に、父母の支えとともに読みたい一冊だ。
 痛みに満ちた生涯ではあるが、健やかな痛みだ。本書を読みつつそんな言葉が口をついて出る。ブラームスとの関係についても、家族ぐるみのつきあいなども含め、奥行きの広いものとして描かれており、ブラームス自身の葛藤や愛、クララ自身の迷いやゆらぎなども、すべて淡々と“人間”であるがゆえの命の鼓動として見つめられている。
 本の袖にあるQRコードから“音楽の言葉”を聴きつつ読むという点でも、本書は画期的だ。
作曲者としてのクララ自身の作品、病に陥ってからのシューマンの作品を耳にする時、そこに音楽だからこそ物語れる“言葉”の領域というものが広がる。
 本書を読んだ後は、なじみのシューマンやブラームスの作品が違って聞こえてくる。たとえばブラームスの交響曲第三番や四番なども、クララのために捧げられた英雄交響曲、クララの生涯を伴奏し続けた者にのみ生み出せる、悲劇的哀歌と聞こえてくるほどに。

向日葵さま
 記念すべき生誕200年を迎えたクララ・シューマンの画期的な伝記が、日本人著者の手によって刊行されたことを、まず心から喜びたい。クララ・シューマンの名は、日本でも比較的よく知られている。ただし、それはあくまでも、作曲家ロベルト・シューマンの妻としての知名度にすぎない。一歩踏み込んだクラシック・ファンなら、彼女がピアニストであったことや、シューマンとの結婚を父親に猛反対されながら、それを乗り越えて愛を実らせたこと、しかし、幸せな結婚生活は長くは続かず、夫シューマンの悲劇的な死に遭遇しなければならなかったことまでは知っている。
 そこまでの事実がクラシック音楽受容の歴史の浅い日本でもある程度周知されている背景には、戦前に原田光子女史が著した『真実なる女性クララ・シューマン』という名著の存在がある。その後も、児童書からマンガ本にいたるまで、クララの伝記はすべてこの原田本に即して書かれてきた。近年は、海外のクララ伝記の訳本も何冊か登場しているが、今回書き下ろしされた、萩谷由喜子著『クララ・シューマン』は、原田本から実に70数年ぶりの日本人著者によるオリジナルのクララ伝記である。
 クララを長年研究してきた著者の精査と眼を通して描かれた、詳細で誠実なクララの人生トレースであって、登場人物の生き生きとした会話なども、第一次資料を踏まえて著者が書き起こしたようだ。原田本とその系統の簡略伝記類、訳書などは、ロベルト・シューマンの悲劇的最期をクライマックスとして、そのあとの記述が極端に短い。しかし、クララはシューマンの死からちょうど40年も困難な人生を生きた。、この後半生に、ピアニストとしての公的生活にも、ブラームスとの交関係友を含めた私生活にも、本書の帯にある「世界発のワーキング・マザーのピアニスト」としての生き方にも、多くの語られるべきことがらがあるはずだった。本書は、そこを、丹念に、温かな目線で掘り起こし、多くのページを割いている。
 さらに、クララの作曲家としての業績も検証している。しかも、クイック・アクセス機能がついているので、本書に言及のある音楽作品を簡単に耳にできる。そうした点から、冒頭に書いたように、本書を「画期的」と評した。児童書としても子どもの眼を読書と人生、音楽へと目覚めさせること疑いなく、おとなにとっても新鮮な感動に満ちている。

リパッティさま
 クララ・シューマンといえば、原田光子さんの「真実なる女性クララ・シューマン」という名著があり、ロベルト・シューマンをささえた名ピアニストとしての姿が流麗な筆でえがかれていた。
今回の萩谷由喜子氏の新著は、その後の研究も踏まえ、19世紀という女性にとって厳しい時代に、一個の音楽家として、さらに妻、母、祖母として生き抜いた稀有な生涯が活写される。当時の時代背景、音楽事情、メンデルスゾーン、ショパン、ブラームスらとの交流などもきめ細かく描かれ、より広い視点からのクララ・シューマン像を提示したものといえる。
 子供向きのシリーズの一巻であるが、その内容は極めて充実し、大人にとっても読みごたえがある。この著者ならではのよく整理された読みやすい文章なので、優秀な子供にとっては上質の文章にふれる格好の読本となるだろう。
QRコードで実際の音楽が聴けるのもありがたい。たとえば、16歳のクララ作曲のピアノ協奏曲(ロベルトの協奏曲と同じイ短調!)で、ピアノとチェロが歌いかわす部分の美しさには陶然とさせられる。
 戦前(昭和16年)に出版された原田本から70余年、クララ・シューマン生誕200年の記念年に新しい時代の名著が誕生したのをよろこびたい。これを読んだ子供たちが活躍する頃はどのような時代となっているのだろうか。

◆4月7日の読売新聞 読書欄「読書情報」にも、書影つきでご紹介いただきました。
よみうり堂 本 読書情報  10歳から読めるクラシック音楽入門書「音楽家の伝記はじめに読む一冊」シリーズが、ヤマハミュージックユージックメディアから創刊された、萩谷由喜子さんによる書き下ろし第一弾は、今年生誕200年を迎える『クララ・シューマン』。
 幼少時から天才と騒がれたクララは、若い頃から優れたコンサート・ピアニストとしてヨーロッパ中で華々しく活動した。ドイツ・ロマン派の作曲家ロベルト・シューマンと結婚した後も、子育てをしながら演奏活動を続け、夫の作品を世に広めた。世界初の「ワーキング・マザー・ピアニスト」の生涯を、豊富なエピソードでたどることができる。1,600円。


● NHKラジオ深夜便の収録
2019年4月19日
   昨年発刊した『『蝶々夫人』と日露戦争』をNHKラジオ深夜便がとりあげてくださることになり、同番組の「明日への言葉」というコーナーに出演させていただいて担当の遠藤ふき子アナウンサーとの対談を収録いたしてまいりました。
 ラジオ深夜便では以前にも、ラジオ・エッセイ・コーナーなどで、幸田延、瀧廉太郎、宮澤賢治のお話をさせていただいてまいりましたが、今回は、尊敬するベテラン・アナウンサー、遠藤ふき子氏との対談形式でしたので、すべて話題をリードしていただき、
大船に乗った気持ちで、心おきなくお話しさせていただくことができました。
 放送は5月24日の早朝4時台の40分間ほどです。『オペラ史を彩った明治の女性を追って』と題し、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』創作に関わった明治の日本女性、大山久子女史のことと、なぜわたくしが、幸田延、田中希代子、諏訪根自子、クロイツァー豊子、そして大山久子と、明治以後のクラシック音楽受容、発展に寄与した日本女性を追い続けているのか、次に何を書こうとしているのかをお話しております。
 ご都合があいましたら、どうぞ、ご聴取くださいませ。

写真はNHKのスタジオで。


● ダンスとクラシック音楽のコラボレーション “スターズ・イン・ブルー”
2019年3月9日  芸術劇場コンサートホール
   世界的な舞踊家マニュエル・ルグリさんが、絶大な信頼を置く3人のダンサーとともに来日し、日本の若手トップ・ヴァイオリニスト、三浦文彰さん、ロン=ティボー制覇の実力派ピアニスト、田村響さんと組み、“スターズ・イン・ブルー”と名づけた、見どころ、聴きどころ満載の豪華コラボレーションを繰り広げました。
 ダンスと音楽は、どちらが主でも従でもない、まったく対等な関係。しかもどちらも質が高く、目も耳も奪われる魅惑の公演でした。
 公演終了後、2階のテアトロで開催された乾杯のレセプションで、出演の皆様と懇親の時間を持たせていただくことができました。

(左写真)三浦文彰さん、ハンブルク・バレエ団のプリンシパル、シルヴィア・アッツォーニさん、田村響さんと。
(右写真)ルグリさん、ウィーン国立バレエ団専属ピアニストの滝澤志野さんの真ん中に挟んでいただきました。
滝澤さんの奏でる厳粛なバッハにルグリさんが振りをつけられた『Moment』は、ごく普通のTシャツとパンツというコスチュームで演じられた究極の身体表現でした。人間は体ひとつでここまで、自己表現ができるものなのだ、と感嘆しました。


● 日本経済新聞文化欄にイギリス・ロイヤル・オペラ記事を執筆
2019年3月9日
  今秋、来日するイギリス・ロイヤル・オペラ。演目は『オテロ』と『ファウスト』です。
どちらも格調高い文学作品が原作。作品の来歴とみどころ、今、この両作品が日本で上演される意味などに触れました。


● 江東区講座『明治150年のクラシック』全6回が無事、終了いたしました。
2019年3月13日

 昨年10月から毎月1回、半年間にわたって開催した、近代日本のクラシックの歴史をたどる講座が、最終回の『宮澤賢治の聴いたクラシック』をもって無事に終了いたしました。
 メンバーのみなさまとは一回ごとに距離が縮まって和気あいあいとなり、最後はお別れがつらいほどに。おなごりを惜しみつつ、卒業記念写真を撮りました。
 担当の高橋さん、三木さん、ありがとうございました。


♪♪ 新刊書『クララ・シューマン』 の予約受付が開始されました!
2019年3月10日
 東京学芸大学附属竹早小学校に通っていた大昔、当時の古い校舎の2階に厳粛な雰囲気の図書室がありました。
 なんだか、低学年の子が入ったら叱られそうでこわかったのですが、あるとき、勇気を出して扉を開けると、係の先生が優しく応対して貸し出しカードをつくってくださり、本の借り方を教えてくださいました。クラスごとに設置されている学級文庫を読み尽くしてしまっていたわたくしは、それからは図書室へ遊びに行って、そちらの書棚を物色するのが楽しみとなりました。
 そこで出会ったのが、子ども向きのクララ・シューマンの伝記でした。著者の名も装丁も、詳しい内容も忘れてしまいましたが、お父さんにロベルト・シューマンとの恋愛を猛反対された少女ピアニストのクララが、ピアノにも励みながら辛抱強い努力を続けて、ついにロベルトとの愛を実らせる部分は強く印象に残りました。それが、クララとの出会いの原点です。
 それから、ずーっとクララ一筋で生きてきたわけではもちろんありませんが、折に触れては、クララを思い、クララに関する情報をできるだけ集め、いつの日か、クララをより深く知りたいと願う方々にそうした情報をお届けしつつ、わたくしなりのクララ像をお伝えできたら嬉しいことだ、と願ってまいりました。
 2002年に出版した単著『五線譜の薔薇』は12人の女性音楽家の評伝集ですが、その巻頭にもクララを書きました。でも、何しろ、一冊の12分の1というページ数ですし、そこに反映させた情報はもう17年も前のもので、クララへの認識も当時のわたくしとしては精いっぱいのものではあっても、至らない点が多々ありました。
 その後、作品に目を向けて楽譜の発刊を思い立ち『クララ・シューマン ロマンス〜女性作曲家のピアノ作品集』を当時のショパンから、さらに『クララ&ロベルト 愛の軌跡』をヤマハミュージックメディアから刊行いたしました。
 そうこうするうちに、昨年、20年がかりの宿題『“蝶々夫人”と日露戦争』をようやくのことで上梓したあと、
 ヤマハミュージックメディアから、音楽家の伝記「はじめに読む一冊」シリーズ刊行に伴い、その第一弾の書き下ろしとして、クララを書いてはどうか、とのお話をいただきました。それも、今年2019年がクララの生誕200年にあたるので、記念年の発刊とする、という、タイムリミットのあるお話でした。
 光栄に思ってお引き受けしたものの、書きたいことは頭の中にあふれていても時間が限られておりますため、最後の頃は睡眠時間をクララに捧げることになりましたが、幸い、河西恵里さんという、クララにも匹敵する才媛編集者さまのお励ましとご努力により、ついに形とすることができました。それがいよいよ3月23日発売と決まり、ただいま、アマゾンほかの予約受付が始まりました。
 クララの伝記と言えば、何といっても、昭和16年!に原田光子さんが執筆された『真実なる女性 クララ・シューマン』という名著がございます。わたくしが小学校のときに読んだ子ども向き伝記も、それが底本だったことは間違いありません。現在までに、日本人執筆者の書いたありとあらゆるクララの伝記は、すべて原田本が底本です。
 拙著『クララ・シューマン』はもちろん、その名著も参考とさせていただいてはおりますが、その後にあきらかとなった新情報、手に入る限りの資料も参照して、ロベルト・シューマン没後のクララの生き方、ブラームスとの交遊関係、及び、シューマン家の子どもたちの人生にも紙幅を多く割き、さまざまなエピソードや知られざる事実を織り込みつつ、著者・萩谷由喜子の感じたクララという女性像の彫琢に主眼を置いた伝記です。
 原田光子さんという偉大な先達の名著から実に78年ぶりとなる、日本人著者の書下ろしによるクララの伝記ということになります。原田本を既読の方にも、そうでない方にも、お読みになられて絶対にご損はさせません。
    アマゾン等でご予約いただけましたら、たいへん嬉しく存じます。
    アマゾンへは、こちら(音楽家の伝記-はじめに読む1冊-クララ・シューマン-萩谷-由喜子の頁)をクリックしてください。


●齋藤秀雄賞 授賞式とレセプション
2019年2月5日  青山アクアヴィット
 実績と将来性のある優れたチェロ奏者1名に毎年贈られる『斎藤秀雄賞』の今年度の受賞者に、15歳からイギリスで研鑽を積んだ伊藤悠貴さんが選ばれ、その授賞式とレセプションが開かれました。
 大好きなラフマニノフと、長年過ごしたイギリスのチェロ音楽の魅力を伝えていきたいと、生き生きと受賞の弁を述べられ、カサドの無伴奏チェロ組曲から1曲を披露してくださいました。

 写真(左から)
(1枚目) 伊藤悠貴さん、審査委員の長木さんと。
 (2枚目) ソニー音楽財団の軽部さん、審査委員長の堤剛先生、伊藤さん、長木さん。
 (3枚目) NHK交響楽団の出口さん、サントリーホール総支配人の市本さんと。


● 新国立劇場 ワーグナー『タンホイザー』
2019年1月30日  新国立劇場オペラパレス
 2007年に新制作された『タンホイザー』の、2013年に続く3度目の上演です。
 今回の指揮は、イスラエル生まれ、バレンボイムのアシスタントから出発して現在はヨーロッパとアメリカで広く活躍するアッシャー・フィッシュ。
 ピットには、水谷晃コンマス、東京交響楽団が入りました。いくらか、この指揮者には不慣れなのかもしれません。まあ、ワーグナーは難しいですね。
 演出は、ハンス=ペーター・レーマン。奇をてらったところのない、安心してみられるプロダクションで、人物の配置、動きも無理がなく、物語の流れがよく伝わってきます。照明の使い方にも優れ、衣装も中世風を基調としながら普遍性も踏まえられています。今後も新国立劇場の安定レパートリーとして定着していくことでしょう。
 タイトルロールは、バイロイトでもこの役を歌ったトルステン・ケール。ドイツのオーケストラで首席オーボエ奏者を務めた後、テノール歌手に転向された方だけあって、器楽にも通じる歌心が感じられました。ヴェーヌスに、ベテランのアレクサンドラ・ペーターザマー、エリーザベトに若手のリエネ・キンチャ。いずれも新国立劇場初登場ですが、良い意味で張り合って、お二人とも声量、歌いまわし、存在感ともにさすがと思わせるものがありました。
 ヴォルフラムのローマン・トレーケルもよく響くバリトン。領主ヘルマンの妻屋秀和、ヴァルターの鈴木准、ビーテロフの萩原潤、ハインリヒの与儀巧、ラインマルの大塚博章、牧童の吉原圭子ら、日本人歌手の健闘も嬉しい限りです。  (写真)ロビーで、飯盛泰次郎先生とお会いし、間に挟んでいただきました。  つい、今も芸術監督でいらっしゃるように錯覚してしまうのですが、お客様としておみえになられているとのこと、そういえばそうですね。
 4年間、さぞ、ご苦労がおありだったことでしょうが、おかげさまで、素晴らしいリングとパルジファルを堪能させていただきました。本当にありがとうございました。


♪ クシシュトフ・ヤブウォンスキ ピアノ・リサイタルとレセプション
2019年1月21日  オペラシティ コンサートホール
 1985年の第11回ショパン国際ピアノ・コンクールに、第1位のブーニン、第2位のマルク・ラフォレに続く第3位入賞を果たしたポーランドのピアニスト、クシシュトフ・ヤブウォンスキさんが久々に来日し、オペラシティコンサートホールで、オール・ショパン・プログラムによる、リサイタルを開きました。
 幕開けの嬰へ短調のポロネーズop.44が弾き進まれるうち、ポーランド特有の悲哀と悲憤のこもったノスタルジックな情感、ZALが会場を満たしていき、ショパンを聴く喜びとともに、ポーランドの歴史に思いはせて、一種の厳粛さを味わいました。
 7番のワルツがチャーミングに、けれども、これもどこかにZALを漂わせて奏された後、奥深い人生観のこめられたノクターン第13番、激情と哀感に彩られた革命のエチュード、と続き、美しく繊細な序奏つきの華やかなポロネーズで第1部終了。
 休憩後の第2部では、遺作の嬰ハ短調のノクターン、スゲルツォ2番、感動的すぎる『舟歌』、やはりこれこそバラードの最高傑作であることを再認識させられた1番、堂々たる『英雄』ポロネーズが披露されました。
 非ポーランド人であっても、ショパンの名手はもちろんいらっしゃいますが、ヤブウォンスキさんを聴くと、やはり血は争えぬもの、と感じざるを得ません。
 終演後、ポーランド大使館主催のレセプションがあり、少しだけ、ヤブウォンスキさんとお話ししました。
日本でこのような機会を持つことができ、嬉しいとおっしゃっておられました。


● 2019年1月11日
    遅れ咲きながら、新年のご挨拶

 すっかり、更新をおやすみしているうちに、新たな年も旬日を過ぎてしまいました。
 このつたないページをお訪ねくださった皆様、まことに、まことに、申し訳ございませんでした。

 更新がおろそかになりましたのは、ひとえに、怠慢のゆえでございました。
 ただ、昨年は、生まれ育った地にささやかな家が建ち上がり、秋にようやくネット環境も整いましたので、
 霜月あたりから、きわめてスローなペースで、漸次に転居を進めておりました。
 今日はミカン箱いくつかの書籍、次は資料類、あるいはCD類、寒くなったのでコートと、
 本当にゆっくりとモノを移してきました。いつ完全に引っ越しできるか、情けないありさまですが、
 今はともかくも、生地に戻れた喜びに浸りながら、仕事机に向かっております。

 この寒さに、引っ越し作業は止まりました。暖かくなったら、大きな家具やピアノや楽器類を運びたいと思います。
 でも、ピアノを業者さんにお願いする前に、その手前にあるモノ、モノ、モノを何とかせねばならず、とても手がつきません。(涙♪)

 というわけで、元気に新しい年を迎え、平常通り、コンサートとオペラ通い、講座と執筆に励んでおりますので、ご安心くださいませ。
 どうぞ、本年もよろしくお願いいたします。
 左写真は2018年10月10日 新国立劇場『魔笛』
   もう一枚右写真は、2018年12月6日 千代田区かがやき大学 萩谷由喜子のクラシック音楽講座  交響曲シリーズ
   ベルリンの壁崩壊記念 バーンスタイン指揮『第九』、受講生有志の皆様と。
 同講座の新年度は5月16日から5回シリーズで開講します。詳しくは、新年度の千代田区広報をご覧くださいませ。

● 2019年1月11日
  サントリーホール/ウィーン・シュトラウス・フェスティバル・オーケストラ、ニューイヤーコンサートのプレ・レクチャー 
 メルセデスベンツ日本株式会社様主催のニューイヤー・コンサートトにプレ・イベントとして、
  ホールのバックステージツアーが開催されました。そのレクチャー講師にお招きいただき、
  シュトラウス一家の物語や、ウィンナ・ワルツの独特なリズムのわけ、本日の曲目の聴きどころなどを、
  お話いたしました。

  オペラシティコンサートホール/東京シティフィルハーモニック管弦楽団第321回定期演奏会
  夜はオペラシティで、シティ・フィルの今年最初の定期演奏会です。
  飯盛泰次郎先生が、ブラームスの3番と1番に、重厚なだけではなく華麗な響きも加えた、ジューシーな演奏を聴かせてくださいました。
  14型ですが、上手奥のコンドバス7挺がズシリと効いて、1番第2楽章の高音弦とのやり取りなど、くっきりと明瞭でした。

  楽屋にお訪ねしましたら、藤岡幸夫マエストロとお会いし、両マエストロに挟んでいただきました。(写真)


● 千代田区 かがやき大学 『萩谷由喜子のクラシック音楽講座 交響曲を極める! その2』
2018年11月8日より始まります。


● 江東区民センター 『明治150年のクラシック』


2018年10月31日より、毎月1回、全6回、夜の講座が始まります。
江東区民センター  東京メトロ東西線、東陽町駅より3分
これからでも、お申込みいただけます。
江東区民センター(電話03-3644-8111)まで、お電話くださいませ。


● オペラ『蝶々夫人』〜お話と演奏で綴る蝶々夫人と竹久夢二の謎
2018年10月6日 新百合ヶ丘 麻生市民館
 3連休の初日、新百合が丘の麻生市民館大ホールを会場として、上記のようなコンサートが開催されました。
 前半は、大正期に活躍した画家で詩人でもあった竹久夢二の作詞による大正ロマン名歌などをお送りし、後半はプッチーニのオペラ『蝶々夫人』の名アリア、二重唱などでつないだオペラのダイジェスト公演です。
 竹久夢二とプッチーニのオペラ『蝶々夫人』には、実はいくつかの接点がありました。
 夢二は、オペラの原作小説の先行作品、ピエール・ロティ」の短編小説「お菊さん」を知っていて、それを題材とした「蘭燈」という歌を書いていました。そればかりではなく「ある晴れた日に」の楽譜の表紙絵も彼の作品でした。

 ソプラノの石田祐華利さん、メゾ・ソプラノの飯森加奈さん、テノールの伊東大智さん、ピアノの御園生瞳さんのご出演を得て、夢二のお話を語り、後半では、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』のストーリーを、アリア、二重唱、オーケストラ音楽などの抜粋を差し挟みながらお送りいたしました。
 ご来場のお客様からは、
「漠然と知っていた蝶々夫人の、物語や聴きどころがやっと全部わかりました」
「簡潔に、このオペラを体験できました」
「これって、実話なの?」などなど、
前向きなご感想、ご質問をおよせいただけ、終演後におひとりおひとりとお話して、ご質問にもお答えすることができました。

 歌手の皆さま、オーケストラ・パートをおひとりで表現してくださった、頼もしすぎるピニストの御園生さん、映像監督の林健志氏、及川音楽事務所に感謝。

(写真左)左は石田祐華利さん、右は飯森加奈さん。楽屋で。
(写真右)蝶々夫人のお衣裳の石田さんと。


(写真左)夢二の描いた「ある晴れた日に」の楽譜表紙絵
(写真右2枚)終演後のサイン会で。


● 城北学園 第43回音楽鑑賞会 曲目解説トーク
 ユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ
2018年10月5日 城北学園講堂

 学校法人城北学園は城北中学と城北高等学校からなる、中高一貫教育の男子校です。
 同学園の第43回音楽鑑賞会に、世界に名だたる弦楽アンサンブル、「ユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ」が出演されるということで、その曲目解説トークを依頼されて、初めてこの学校へ行ってまいりました。

 音楽鑑賞会は午前の部と午後の部の2回公演。
 午前の部は中3、高2、高3、午後の部は中1、中2、高1の生徒さんが対象です。
 「ユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ」は、この2回を下記のような、すべて異なるプログラムで構成されました。
曲目解説を書き上げて先方へ送ったのち、中学生、高校生の男の子向きに、どんなお話をしようかと考えながら学園に向かいます。同学園は、上板橋駅から徒歩10分です。池袋駅から東武東上線に乗ろうと、改札を入りますと、「あっ、モーツァルト!」。ディヴェルティメントK.136の冒頭が流れてきたので、はっとしました。どうやら、快速と急行の発着ホームのサイン音のようです。ちょっと嬉しくなりながら、目的駅は普通列車の止まる上板橋駅なので、普通ホーム、3、4番線へ。列車に乗り込み、久々の東上線乗車に緊張しながら発車を待ちます。いよいよ発車。すると、何と!「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第3楽章メヌエットが響き渡ったのです。ホームによって、同じモーツァルトでも曲を替えてあったのですね。
そうだ、今日の曲目の中に「アイネ・クライネ」があったはず。それなら、東上線通学の生徒さんたちは毎日2度ずつ、これを聴いている、と気づきました。
 演奏会に先立ち、山口先生からこの演奏会の意義についてお話があり、次いで、音楽の前田先生が、ヴァイオリンとヴィオラの違いについて説明され、愛用のヴァイオリンで「タイスの瞑想曲」の一節を奏でられました。澄んだ美しい音色、情感のこもった名演でした。
 次が、解説トークの番です。どんな話題から、若い生徒さんたちに関心を持っていただこうかしら。そこで、勇気を振り絞って前田先生の楽器をお借りし、例のメヌエットの真似事のそのまた真似事らしき曲を弾いて、「この曲、聴いたことのある人」と呼びかけますと、「ハイ」「ハイ」「ハイ」まことに勢いよく、たくさんの手が上がりました。「よく、耳にしておられましたね。では、この曲の名前はなんでしょう?」。すると、ばったり手があがりません。そこで、「今日はホンモノのこの曲を、世界的な方々の演奏で聴けます。曲の名前はその時のお楽しみ」と前振り。他の曲をさくさくっと、解説させていただきました。
 「アイネ・クライネ」の第3楽章メヌエットに入ったとき、それまで夢のお国に遊んでおられた生徒さんの何人かが、音楽に反応してくださったのは、とても嬉しい出来事でした。
 午後の部には「アイネ・クライネ」がないので、昼休みに別ネタを仕入れようと、メンバーのヴィオラ弾き兼、団の音楽監督でもあるロマン・バラショフさんにお話をうかがいました。彼らはこれまでに、世界80都市以上を回り、ツァーの総距離は地球37周、人口10人当たり1頭の熊のいる、シベリアの果てのアナディという町にも遠征なさったそうです。
 午後は、そんなお話を交えました。

(写真左)音楽監督のロマン・バラショフさんと
(写真右)左から、山口先生、校長先生、バシュメットさん、前田先生と。

★午前の部
ロッシーニ : 6つの四重奏のソナタより 第3番 ハ長調
チャイコフスキー : ヴィオラと弦楽合奏のための「夜想曲」
武満 徹 : 弦楽のための3つの映画音楽より
「黒い雨」より “葬送の音楽”
「他人の顔」より “ワルツ”
ロラシヴィリ : ヴィオラと弦楽のための「ノスタルジー」より “アダージョ”
W.A.モーツァルト: セレナード 第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
★午後の部
グリーグ : 2つのノルウェーの旋律 作品63
ブラームス : クラリネット五重奏曲 ロ短調 作品115より“アダージョ” (バシュメットによるヴィオラと弦楽合奏のための編曲版)
チャイコフスキー : 弦楽セレナーデ より “ワルツ”
武満 徹 : 弦楽のための3つの映画音楽より「ホゼー・トレス」より “訓練と休息の音楽”
ストラヴィンスキー : ヴィオラと弦楽のための「ロシアの歌」
シュニトケ : ヴィオラと弦楽のための「ポルカ」
ハインドリッヒ : ハッピーバースディ変奏曲より ポルカ タンゴ チャルダーシュ


● 東京オペラプロデュース ギュスターヴ・シャルパンティエ『ルイーズ』
2018年9月22日 新国立劇場中劇場

 フランスには「シャルパンティエ」姓の著名作曲家が少なくとも3人おられるようです。ひとりは、17世紀に活躍したマルカントワーヌ・シャルパンティエ、次に、20世紀半ばまで存命していたギュスターヴ・シャルパンティエ、そしてもう一人が、現代フランスのジャック・シャルパンティエです。そのうちの、ギュスターヴ・シャルパンティエのオペラ『ルイーズ』を鑑賞してまいりました。
 タイトル・ロールのルイーズは、お姫様でもお嬢様でもなく、近代市民社会のごくごく庶民階層の娘。お針子であるところは、仕事を持つ女性の先駆けといえます。
 そんな彼女が恋に落ちた相手は、仕事らしい仕事もない、芸術家気取りの若者。そこで、両親は猛反対。葛藤を経て、ルイーズは成長します。
 ルイーズの両親の小さな家庭やお針子の仕事場である、ドレス・メーカー、つまり20縫製作業場のようすなど、当時の市民社会の諸相が生き生きと描かれていました。
 登場人物が非常に多く、とりまとめが大変だったことと思います。


● ひろしまオペラ・ルネッサンス公演 モーツァルト『イドメネオ』
2018年9月23〜24日 広島アステール・プラザ
 下野竜也さん指揮の広島交響楽団、岩田達宗さんの演出で、モーツァルトの『イドネネオ』が広島初演されました。
 舞台は、トロイ戦争期のギリシャ、クレタ島。
 クレタの王イドメネオはトロイアとの戦いに勝利を収めての凱旋時、大嵐に遭い、帰国後最初に出会った者を生贄とする海神と約束して、なんとか生還します。
 命からがらクレタ島にたどり着いた彼が最初に出会った人物とは、彼の生死を案じて真っ先に浜に駆けつけた、最愛の息子イダマンテでした。
 最大の人災である戦争と、不可避の天災である大嵐。そして、破ることのできない海神との約束。果たしてイドメネオとイダマンテの運命やいかに。
 晩年の4大オペラの影に隠れがちですが、問題提起の大きさはそれらを上回るものがあり、現代に通じるものがある大作です。
 岩田さんの人間愛に満ちた演出と、下野さんの生命力に満ちた音楽に打たれました。

 タイトルロールの山岸玲音さんの声量と声の張り、上に伸びる音域、ダイナミックな演技に驚嘆。

(左写真) 下野マエストロは各場面を彩り豊かに描き出し、一人一人の歌手にきめ細かく合わせて音楽をつけておられました。

(右写真) 人間考察に優れ、人々への愛に満ちた演出をなさる岩田達宗さんと。

     *詳しい公演批評は『ハンナ』11月号に。


● ミッシャ・マイスキー インタビュー
2018年9月10日 ホテル・オークラ別館 水仙

 チェロのミッシャ・マイスキーさんが、何と、50回目の来日を果たされました。

 9月8日には、サントリーホールで「70歳バーステー記念演奏会」を開催され、長女のピアニスト、リリーさん、長男のヴァイオリニスト、サーシャさんと協演されました。
 そんなマイスキーさんに、いろいろとお話をうかがいました。
 とてもフレンドリーなかたです。

    *8日のリサイタルの公演評は「音楽の友」11月号に。インタビュー記事は同12月号に。


2018年8月27日 大垣取材
● 守屋多々志美術館、大垣城、郷土館
 岐阜県大垣市の『守屋多々志』美術館には、わたくしの憧れの女性を描いた、四曲一隻の屏風絵が収蔵されています。繊細な日本画であるため、常設展示は避けて、年に1〜2回程度、テーマ展示の折にだけ公開される貴重な絵画です。
 7月21日〜9月21日までの第71回企画展『女性を描く』に際して、この屏風絵が展示されていることがわかりましたので、大垣まで出かけて参りました。
 この女性にお会いしたくて最初に大垣を訪れたのが2004年の夏でしたが、展示情報のリサーチ不足により、ご麗姿を拝むことが叶いませんでした。その後なかなか機会がなく、2015年の暮れに展示中との情報をいただいて出かけ、初めてお会いすることができました。
 今回は2回目のご対面。初めてお会いした3年前はただただ感動して、細部を見落としていましたが、今回は、前回に気づかなかった諸点も発見することができ、守屋画伯の緻密な取材力、構成力にさらに感嘆いたしました。

 そのあと、大垣城、郷土館を取材しました。こちらはともに3回目です。
 実は、この絵にまつわる詳しい物語を、ただいま執筆中なのですが、例によって、長期にわたっておりまして、いつ、ご覧に入れることができるのか甚だ心もとない状態です。それゆえ、敢えて今回の取材をご報告することで帰りの橋を焼いてしまい、自分を叱咤し、怠け心を戒めようという魂胆ではございます。しかし……。

(写真左から)
新幹線の名古屋駅で東海道本線に乗り換え、30分ちょっとで大垣駅に着きました。
大垣駅南口を出て、駅前大通をまっすぐ10分ほどあるくと、左手に大垣市守屋多々志美術館が聳えています。
守屋多々志美術館のエントランス
夏空に大垣城の白壁が映えます。


● 上森祥平 J.S.BACH × B.BRITTEN
2018年8月25日 東京文化会館小ホール
 チェロの上森祥平さんが毎年この時期に開いているバッハ無伴奏組曲全6曲に関連曲まで添えたエネルギッシュなコンサートも、今年で11回目を迎えました。
 以前はバッハの各曲にそれぞれ小品1曲、もしも別の組曲ならその中の一つの楽章を添えたプログラムでしたが、昨年から、何と、ベンジャミン・ブリテンの3つの無伴奏組曲全曲を丸ごと弾いて、バッハに対峙させるという、とてつもないプログラムに挑戦されています。ですから、無伴奏組曲を全部で9曲、一回のコンサートでお弾きになるわけです。
 バッハ1番、ブリテン1番、バッハ4番と弾いて30分休憩、バッハ2番、ブリテン2番、バッハ3番と弾いて30分休憩、最後のステージでバッハ5番、ブリテン3番、バッハ6番と9曲を貫徹されたあと、アンコールとして小学1年生のご長男、颯太くんのヴァイオリンと共演してバッハのト長調メヌエット。
 13:30スタートで19:30フィニッシュの長時間コンサート。
 過去10年の間にはステージを借りての奥様へのプロポーズも実現されたそうで、今やついにご長男をゲストに迎えるところにまで漕ぎつけられました。
 まさに、上森さんの歴史そのもののようなシリーズです。
 このコンサートを、小平楽友サークルのメンバー有志と共に鑑賞する実体験講座も今年で3回目。今回はメンバーのご友人、お身内含め、8名の方とともにバッハ、ブリテンの世界に浸りました。皆様から大満足のお声が・・・。

      ※公演評は『モストリークラシック』10月号に。


● 千代田区かがやき大学 前期講座5回、無事終了
2018年6月14日〜7月12日
 6月14日のライブ・コンサート“『蝶々夫人』と日露戦争”を第1回として、その後毎週木曜日に開講してきた“萩谷由喜子のクラシック音楽講座”が7月12日で無事、終了いたしました。これで、かがやき大学の本年度前期講座は終わりましたが、後期に、今度は隔週木曜日全3回を予定しております。日程は以下の通りです。
    11月8日  木曜日 13:30〜15:30
    11月22日 木曜日 13:30〜15:30
    12月6日  木曜日 13:30〜15:30
   ※千代田区広報に詳細がございますので、区民の方はその要領でお申し込みくださいませ。
    区民以外の方で受講ご希望の方は、萩谷由喜子まで直接、ご連絡くださいませ。
    yukiko99@io.ocn.ne.jp

写真は、6月14日のライブ・コンサート“『蝶々夫人』と日露戦争”
ソプラノの萩原みかさん、ピアノの藤井麻理さんをお迎えし、オペラ『蝶々夫人』に使われた日本音楽原曲と、オペラでの楽曲の対比をサンプル演奏付きでお話しながら、この悲劇のストーリーも追いました。


● レクチャー・コンサート予告
2018年10月6日

 小田急線新百合ヶ丘至近の麻生市民館大ホールで、チラシのようなコンサートを開催いたします。
 『蝶々夫人』と竹久夢二、さあ、どんなつながりがあるのでしょうか。
 蝶々夫人に石田祐華利さん、ピンカートンに伊東大智さん、スズキに飯森加奈さんを迎え、腕達者のピアニスト、御園生瞳さんに、オーケストラ役を担っていただきます。


● 小平楽友サークル、第19シリーズ 予告
2018年9月〜2019年1月

 小平楽友サークルは2009年前期の小平市主催市民講座『音楽史の中の女性たち』が終わったとき、もっと続けたいという受講者有志のご希望により、自主運営サークルとして同年後期から発足しました。
 大きなテーマに沿った10回のシリーズを、年に前期、後期、2シリーズ続けてきて、この9月からは第19シリーズを迎えます。
 7月20日に終了した第18シリーズでは、『生誕160年のプッチーニ』をテーマに、彼の生涯と作品を追い、全部で12作あるオペラのうち、『マノン・レスコー』『ラ・ボエーム』『トスカ』『蝶々夫人』『つばめ』『ジャンニ・スキッキ』『トゥーランドット』の7作を鑑賞いたしました。

7月18日 第18シリーズの打ち上げとして、メンバー有志でランチ懇親会を開きました。公民館ご近所の「大野家」さんの和室にて。
海鮮丼、冷ややっこ、小鉢、お味噌汁、香の物、お茶にアイスコーヒーまで出してくださる、超良心的なお店で、
今回のシリーズの感想、今後のご希望、おひとりおひとりの音楽との関わりなど、ゆっくりおしゃべりいたしました。

 第18シリーズでは、オペラに浸っていただきましたので、次の第19シリーズ、第20シリーズは一転してその対極の絶対音楽に飛びまして、『交響曲の名峰を歩く!』を全20回でお送りいたします。
 会員の皆様のリクエストも採り入れ、次のようなカリキュラムを組みました。
 本当は、「交響曲の父」から始めたかったのですが、お気の毒なことに、この方の作品には、咄嗟のリクエストがあがらなかったのです。「父」は縁の下の力持ちなのでしょう。
 でも、次シリーズではご紹介する予定です。そんなわけで、リクエストの多かった交響曲からまず耳を慣らし、次シリーズで一歩踏み込むというコンセプトです。

 小平市民以外のメンバーもたくさんおられます。ご関心のある方はぜひ、おいでください。見学も大歓迎いたしております。
  連絡は、山田洋子代表:042−345−8862
  原則として毎月、第1、第3水曜日 午前10:00〜12:00
  武蔵野線、新小平駅10分、 西武多摩湖線、青梅街道駅3分、小平中央公民館にて。

第19シリーズ:交響曲の名峰を歩く.その1
2018年
9月5日:第1回 モーツァルト 第38番『プラハ』、第41番『ジュピター』
9月19日:第2回 ベートーヴェン 第6番『田園』、第7番
10月3日:第3回 ベートーヴェン 第九、戦争交響曲『ウェリントンの勝利』
10月17日:第4回 シューベルト 第7番『未完成』、第8番『ザ・グレイト』
11月7日:第5回 ベルリオーズ『幻想交響曲』
11月21日:第6回 ブルックナー 第4番
12月5日:第7回 ブラームス 第1番 第4番 『大学祝典序曲』
12月19日:第8回 チャイコフスキー 第6番『悲愴』 序曲『1812年』
2019年
1月9日:第9回 マーラー 第5番
1月23日:第10回 シベリウス 第2番、スクリャービン 第4番
※次の第20シリーズ『交響曲の名峰を歩く』その2で、このほかのシンフォニストたち、ハイドン、メンデルスゾーン、シューマン、ドヴォルザーク、エルガー、リヒャルト・シュトラウス、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、それにマーラーの第9番他をとりあげる予定です。
第19シリーズの進行中にいただいたご意見、ご希望もどんどん反映させていきます。


● りとるぷれいミュージック 25周年記念、志鳥音楽賞受賞後100回記念
   〜〜萩谷由喜子のレクチャー・コンサート 華ありて 夢に来ませ〜〜

2018年7月15日 西国分寺 小俣家の感動的な古民家ハウスにて
 ヴァイオリニストの瀬ア明日香さん、ギタリストの松尾俊介さんという名手お二人のご出演を得て、大盛況のうちに終了いたしました。
 最新刊“『蝶々夫人』と日露戦争”に因んだコンサートとさせていただき、第一部では、オペラ『蝶々夫人』と、あの歴史的な日露戦争との奇しきつながりをお話したあと、オペラのストーリーに沿って、その中に使われた日本音楽をお二人に演奏していただきながら、それらの原曲をプッチーニに教えたのが、当時の駐イタリア特命全権公使夫人の大山久子であったことをレクチャーいたしました。
 日本を舞台とするオペラ『蝶々夫人』を書いたプッチーニは勿論イタリアのオペラ作曲家、大山久子の夫、駐伊大山綱介公使は、日露戦争に必須だったイタリア製の軍艦二隻を日本が購入できるように尽力した功労者ということで、日本とイタリアは深いご縁があります。
 しかも、今年はプッチーニ生誕160年、明治150年。
 そんなことから、お二人は、イタリアのパガニーニが書いた『デュオ・コンチェルタンテ』で幕開けを飾ってくださいました。
 第二部では、明日香さん独奏による、バッハの無伴奏ソナタ第3番、お二人のデュオでエルンスト原曲『夏の名残の薔薇』変奏曲、ピアソラ『タンゴの歴史』を演奏していただきました。ピアソラの国アルゼンチンは、軍艦二隻のもともとの発注国でした。
 ご来場の皆さま、まことにありがとうございました!!

終演後、“『蝶々夫人』と日露戦争” サイン会をさせていただきました。
蝶々柄の、縦絽の着物を着用しております。


ご参考までに、レクチャーコンサートのパンフレットを掲げさせていただきます。


♪ 「 HANNNA」4月号、引き続き「音楽の友5月号」に『蝶々夫人』と日露戦争 の書評が掲載されました。




♪ 『読売新聞』3月25日 日曜版 読書欄「著者来店」欄にお採り上げいただきました。


♪ 『日本経済新聞』3月17日、土曜日、読書欄に『蝶々夫人』と日露戦争 が紹介されました。


● 新国立劇場 オッフェンバック『ホフマン物語』
2018年3月6日 新国立劇場オペラパレス
 フィリップ・アルローの、創意に富みながら、わかりやすく説得力のあるプロダクションです。
 指揮はセバスティアン・ルラン、管弦楽は東フィル。
ホフマンにディミトリ―・コルチャック。3話を通じた悪役のトマス・コニエチュニーはこれまでの東京《春》音楽祭のリング・シリーズに、ヴォータン、さすらい人を好演したバス・バリトン。抜群の存在感でした。悪者がいいと映えます。

 幕間に、音楽総監督の飯守泰次郎先生に、前々からご報告していた拙著を謹呈いたしましたところ、「おっ、ついにできましたね」と喜んでくださいました。先生ご夫妻とご一緒に。


● 日本フィルハーモニー交響楽団 第698回東京定期演奏会
2018年3月3日 サントリーホール
 下野竜也マエストロを指揮台に迎え、ソリストには下野マエストロご推薦のチェロのルイジ・ピオヴァノさんが出演され、非常にめずらしいプログラムが実現しました。
 幕開けに、スッペの喜歌劇『詩人と農夫』序曲を日フィルのチェロ首席、辻本玲さんの明晰な音のソロつきで聴き、
 次いで、歴史に翻弄された20世紀韓国出身の作曲家ユン・イサンのずしりと重いチェロ協奏曲をピオヴァノの独奏で堪能したあと、
 後半に、マクミランの奇曲というか、貴曲『イゾベル・ゴーディの告白』。魔女裁判で裁かれた実在の女性をテーマとした、とてつもない変拍子の難曲です。

   終演後、楽屋で下野さんに拙著を謹呈させていただきました。
実は、この本の中に『軍艦マーチ』に言及しているのですが、2016年に、生のオーケストラ演奏で聴いた同曲の指揮が下野さんでした。その話も書かせていただきました。


♪ クラシックニュースに 『蝶々夫人』と日露戦争 インタビュー動画がアップされました。
2018年2月23日

 クラシックニュースにインタビュー動画がアップされました。

    インタビュー動画はこちらをクリック

 とてもおはずかしいのですが、この本の世界を知っていただきたいので、ぜひ、ご覧になってくださいませ。


● 『蝶々夫人と日露戦争』まもなく店頭に!

拙著『蝶々夫人と日露戦争』がいよいよ2月25日付で発行、書店の店頭には22日頃から並ぶことになりました。
皆さま、是非、ご高覧くださり、読後の感想をお聞かせ願えれば幸いです。
ネット書店各社でも、送料無料で予約ご注文いただけます。



● 第24回 志鳥音楽賞 授賞式とレセプション
2018年2月9日 アルカディア市ヶ谷
 今回は、バスの佐久間伸一氏が1987年以来率いてこられた熊本シティ・オペラ協会に、
わが恩師、志鳥栄八郎先生の遺志を継ぐ音楽賞、志鳥音楽賞を授与させていただきました。


● リヒトクライス 第24回演奏会
2018年2月3日 オペラシティコンサートホール
 合唱指揮者、鈴木茂明氏の指導のもと、高田三郎先生の作品のみを歌い続ける合唱団の総体リヒトクライスが24回目の演奏会を迎えました。

 今回も高田先生夫人の留奈子先生が合唱に参加され、長女のピアニスト、高田江里さんと、そのお嬢さんの夫君のバリトン、大森いちえい氏が、啄木の詩による高田歌曲を演奏されるなど、大いに盛り上がりました。
 大森いちえい氏は素晴らしいバリトンで、新国立劇場にもしばし出演されておられます。
 ご夫妻の間に挟んでいただきました。


● 第5回ハンガリー子どものためのバルトーク国際ピアノコンクール 報告会
2018年1月30日 ハンガリー大使館
 ハンガリーは、子どもたちにごく幼少期から歌やリズム遊びを通じて自然に音楽に親しませるメソードが普及する世界屈指の音楽教育国です。
同国で子どものために開かれているこのコンクールは、コンクールとはいっても優劣を競い合う場ではなく、意欲のある子どもに研鑽の機会を与えようとするもので、昨年の第5回には日本からも数名が参加して全員が賞に輝きました。
これを支援し、審査員の一人を務めたのが、ハンガリーと日本両国にルーツを持つ国際的ピアニスト、金子三勇士さんです。
金子さんからのお招きでその報告会にお邪魔し、若い方々のキラキラとした演奏に接してきました。
ラスクでお馴染みの、ガトー・ハラダさまもこのプロジェクトのサポーターです。
ティー・パーティーには同社の美味しいラスクがふんだんに供されていました。


   (左写真)ガトー・ハラダの原田節子専務取締役、金子三勇士さんと。
(右写真)ピアノ傍らには、ハンガリーの誇り、フランツ・リストの胸像が。


● サントリーホール 新春懇親レセプション
2018年1月26日 サントリーホールブルーローズ
 サントリーホール恒例の新春懇親レセプションです。
 堤剛館長の力強いご挨拶に続き、駐日本オーストリア大使、フーベルト・ハイッス氏のご発声で乾杯を唱和し、そのあとひとしきり歓談のひとときがもたれました。
 サントリーホールの今年の主催公演についても、美しいフィルムを上映しながら、河野彰子部長が紹介してくださいました。
 昨年はホール改修中でレセプションができませんでした、堤館長のお話にありましたが、一年飛んだことに全く気付きませんでした。2年ぶりの楽しく有意義な顔合わせ会でした。
 演奏家の方、同業の評論家、事務所やレコード会社関係のほか、各地のホール関係の方が多数おみえでした。


   (左写真)同業の那須田務氏、日本オペラ振興会の総監督、ソプラノの郡愛子先生、評論界の大先輩、丹羽正明先生と。
(右写真)フーベルト・ハイッス オーストリア大使と。


● 『蝶々夫人』と日露戦争 カバー・デザイン
 レセプションのあと、大手町の中央公論新社へ。
 新著の表紙デザインが4案、出来ていました。

 

   どれもきれいで、捨てがたく思われましたが、編集委員の郡司典夫氏の御言葉「暖色系が好評です」に従い、これにしようと思います。


● 日本フィルハーモニー交響楽団 サントリー定期演奏会
2018年1月26日19:00〜、27日 14:00〜サントリーホール
 小林研一郎マエストロの喜寿記念シリーズの完結編です。
 昨年4月は、べトーヴェンの7番を、両陛下ご来臨のもとで熱演され、大成功を収められましたが、今回はその続きとして、もうひとつ7を重ねて、77になさるということで、難曲、ブルックナーの7番です。
 前半は、ロシア出身、ウィーンに学び現在パリを拠点に活躍中のヴァイオリニスト、アレクサンドラ・スムさんを迎えたシベリウスの協奏曲。
 金曜ソワレと土曜マチネの2公演です。
 プログラム解説をご依頼いただき、さらに、土曜公演のプレトークを仰せつかりましたので、この両日はサントリーホールで長い時間を過ごしていました。
 特筆すべきことに、ゲスト・コンサートマスターとして、なんと、徳永二男さんという豪華さ。やはり、これほどの大物がコンマス席に坐られると全体の音が変わりました。そんなお話も、プレトークでさせていただきました。

 

   (左写真)コンマスの中のコンマス、徳永二男先生と。
(右写真)喜寿とは信じ難い若さのコバケンと。マエストロ楽屋で。


● ジャパンアーツ 新春懇親パーティー
2018年1月16日 ホテル・ANA・インターコンチネンタル
 恒例の新春パーティーです。
 今年のジャパンアーツ招聘の海外演奏団体、注目公演の紹介があり、二瓶社長から本年の抱負とご挨拶がありました。何といっても、所属アーティストの皆さんとわいわいおしゃべりできるのが嬉しいことです。
(左写真) チョ・ソンジンさんが来日されていました。久々の再会です。
 ひのまどかさんとのスリー・ショット。
 この日の翌日、都民劇場で、ソンジンさんの進境著しいリサイタルを拝聴しました。
 ショパンコンクール優勝時よりも、一段とのびのびとして、主張が明快な演奏に打たれました。

(右写真) ピアノの若き巨匠、金子三勇士さんと。
 デビュー頃からのお付き合いなので、つい、「みゆうじちゃん」とお呼びしてしまうのですが、「かえって嬉しいですよ」との寛大なお言葉をいただきました。
 益々のご活躍です。


   (左写真) 音楽評論界の大先輩、東条先生(左)、日フィルの平井理事長と。
(右写真) 同業の寺西基之氏、那須田務氏とともに、大躍進中のソプラノ、小林沙羅さんを囲みました。


● 新国立劇場 開場20周年記念式典とバレエ
2018年1月8日 新国立劇場オペラパレス
 東京初台にわが国初のオペラハウスとして新国立劇場が開場して早くも20年。
 20年余年前、甲州街道の初台交差点を通りかかるたびに、高い塀で囲ってある中で、なにやら壮大な工事が進んでいるのをちらりと眺めては、いったいどんな施設になるのだろう、日本もヨーロッパ並みにオペラ専用劇場を抱くところまできたとは素晴らしいことだと、胸をどきどきさせたのを思い出します。
 そのコンセプトやキャパシティ、運営形態等をめぐって、いろいろと議論もありましたし、今も数々の課題を抱えていることでしょうが、ともかくも、国立ということで、まずまずリーゾナブルなチケット価格で、年間10演目の質の高いオペラ公演が提供されているのは嬉しいことです。
 この日の記念式典は、飯守泰次郎先生の指揮する国歌で幕が上がり、来賓、主催者側それぞれのご挨拶に続き、同劇場バレエ団の精鋭たちによるバレエ・プログラムが演じられました。
 そして、ホワイエでレセプションがありました。

 

   (左写真) 宮田亮平文化庁長官。とても気さくな、金属工芸の巨匠でいらっしゃいます。
(右写真) 右から、エッセイストの山田美也子さん、飯守先生の奥様、日経の池田卓夫さん、わたくし、飯守先生


● 新年のご挨拶と新著『”蝶々夫人”と日露戦争』のご紹介
2018年1月1日
 あけましておめでとうございます。
 飛行機の窓から撮った、富士山と横須賀港の写真を新年のご挨拶とさせていただきます。


 横須賀港を掲げさせていただいたのは、2月に中央公論新社から発刊されることになりました新著『”蝶々夫人”と日露戦争』のプロローグの舞台が横須賀だからです。
 プッチーニのオペラ『蝶々夫人』の初演は1904年2日17日。日露開戦は同月8日。
 『蝶々夫人』には日本音楽がたくさん採り入れられていますが、それをプッチーニに教え、助言したのは、当時の駐イタリア公使夫人の大山久子女史でした。
 そのまったく同時期に、日本は日露開戦に向けて二隻の軍艦『日進』『春日』を、血の涙の苦労の末に購入したのですが、その受け取りとジェノヴァからの送り出しに粉骨砕身努力されたのが、久子の夫の大山綱介公使でした。
 大山夫妻は、妻が大作曲家に日本音楽を仲介して音楽の国際交流に寄与する一方、夫は卓越した外交努力を払って軍艦の受け取りに心血を注ぎ、結果として、この二隻の軍艦が日露戦争の勝利に一役も二役も買ったことによって、日本の国際社会での地位向上に大きく貢献しておられたのです。
 夫妻はいわば、音楽と外交の両輪となって任務をまっとうした、理想の外交官カップルでした。これはぜひ、その背景まで詳しく探って、『蝶々夫人』と日露戦争をめぐる歴史の証言として、きちんとまとめておきたいと思い、本書を書きました。
 構想から20年もかかってしまいましたが、ようやく発刊の運びとなり、今最終作業に没頭いたしております。

 ご高覧頂ければ嬉しく存じます。

写真上:お正月らしく富士山を掲げました。熊本からの帰りの飛行機の窓から撮りました。横須賀までよく見えたので、とても嬉しくなりました。今度の新刊『”蝶々夫人”と日露戦争」は、明治37年2月16日にこの横須賀港に二隻の軍艦『日進』と『春日』が入港する場面から始まります。
写真下:2017年10月27日、マッサチュッコリ湖畔、トッレ・デル・ラーゴの邸宅の傍に建つプッチーニの像と。


● 小山実稚恵 「ベートーヴェンの想い」(2018年2月10日)のためのプレ・レクチャー・コンサート
2017年12月19日 青葉台フィリアホール
 6回に亘った"作曲家の想い"シリーズ、の最終回は「ベートーヴェンの想い」です。
 2018年2月10日の本公演に先立ってプレ・レクチャー・コンサートが開かれ、小山さんと対談形式で演奏作品についてお話させていただきました。
 その演奏作品とは、ベートーヴェンの最後の3つのソナタという、作曲家の至高の境地です。
 もちろん、小山さんの本公演と変わらない真摯な演奏付きです。
 最後に質疑を受け付けさせていただいたところ、驚くほど活発なご質問が次々と飛び出し、皆様の熱意に圧倒されました。

写真:小山実稚恵さんと
 


● 熊本シティオペラ協会公演 新作オペラ『笛姫』初演
2017年12月10日 熊本県立芸術劇場演劇ホール
熊本シティオペラ協会が地元阿蘇に材をとった新作オペラ『笛姫』を初演しました。
 同オペラ協会は、東京藝術大学卒業後ミラノでオペラを学ばれ、帰国後30年間にわたって熊本から質の高いオペラ公演を発信してこられた佐久間伸一氏の主宰するオペラ団体です。
 今回上演された新作オペラ『笛姫』は、太古の昔の阿蘇地方を舞台に、大和朝廷の阿蘇侵略に恋人と父親を奪われながらも、心をこめて笛を吹き続け、その妙なる調べによって恩讐を克服してふるさとを平和へと導き、みずからは息絶えるという、笛の名手の物語です。
 原作と台本は熊本県文化協会常任顧問の大江捷也氏。作曲は新進の樹原孝之介氏。管弦楽は熊本シティフィルハーモニーオーケストラ。指揮は同オペラ協会とゆかりの深い名指揮者、神宮章氏、演出はベテランの中村敬一氏。
 ヒロイン笛姫に熊本屈指のソプラノ、福嶋由記氏、ヒロインから仇と狙われながらも彼女と恋に落ちる大和朝廷軍の司令官ヤイミミに、藤原歌劇団のトップ・テノール、村上敏明氏、ヒロインの父で阿蘇の里長に藤原歌劇団のバス、田中大揮氏、総監督の佐久間伸一氏はヒロインの幼馴染ホムラも演じて舞台の要となりました。
 熊本ヴェルディ合唱団、NHK熊本児童合唱団の合唱も明澄な響きで物語をよく支え、熊本バレエ研究所のダンサーによるバレエもステージに花を添えていました。装置や衣装もまさに太古の阿蘇を彷彿とさせるものです。
 ヒロインを演じた福嶋さんは、以前に『ドン・カルロ』のエリザヴェッタを拝見したときにも感心しましたが、今回、またひときわ、お声が伸びて、歌唱演技ともに一段と立派になられたように感じました。
 何よりもよかったことは、キャスト、スタッフ、関係者一丸となった固いチームワークがステージから伝わってきたことです。主役クラスの皆さんはもちろん好演でしたが、誰かが一人で圧倒的に目立つということではなく、脇を固める歌手の方々を含め全員むらのない優れた歌唱と演技でそれぞれの役を全うされ、結果として見事な名舞台を作り上げていたことに感動しました。
 難しい日本の古語を含めた台詞やアリアを暗譜で歌われた努力にも敬意を払いたく思います。
 実は、村上さんについては、このわずか2週間後、『オペラ彩』公演『トゥーランドット』で初カラフを演じられたのも拝見して、素晴らしいカラフに驚きました。その公演評は『ハンナ』2月号に書きましたので、そちらもご覧ください。

写真(左):『笛姫』のポスター
写真(中):ヒロインの笛姫に扮した福嶋由記さん。髪は自毛で結われました。
(右):福嶋さんを取り囲むコーラスのみなさん

     


● ヤングプラハ国際音楽祭出演者による大使館コンサート
2017年11月16日 チェコ共和国大使館
 チェコの首都、プラハで毎年開催されているヤングプラハ国際音楽祭。その出演者たちによるコンサートが、広尾のチェコ大使館で開かれました。
 ドヴォルザーク、スークといったチェコの作曲家の作品をメインに、若い演奏家のみなさんが熱演されました。

写真:トマーシュ・ドゥプ チェコ共和国駐日特命全権大使と。


● 仲道郁代さん、30周年記念 オール・シューマン・リサイタル
2017年11月5日 東京文化会館小ホール
 キャリア30年とは信じ難い、少女の愛らしさを持つピアニスト、仲道郁代さんが、思い出多きシューマンを採り上げ、記念リサイタルを開催なさいました。常にも増して、気合の入ったシューマンに思わず引き込まれ、一音符も逃すまいと聴き入りました。

 終演後、「精養軒」を会場とするパーティーにお招きいただいたので、日フィルの平井理事長と二人で、ぶらぶらと「精養軒」までお散歩し、写真まで撮ったあと、受付で来意を告げますと、「こちらではございません」と。ええっ!! びっくりして、それなら文化会館2階の「精養軒」だったのかと思いましたら、それも違うそうで、なんと、もう1軒、上野に「精養軒」がありました。
 西郷さんの左後ろ「3153(さいごうさん)」ビルの3階でした。
仲道さんの30年の歩みを温かく見守ってこられたお客様が多数集まられ、和気藹々としたパーティーとなりました。
(写真左)
 てっきりここだと思った「精養軒」前で、日フィル、平井理事長と。(まだ間違いに気づいておらず、二人とも一番乗りかなと、嬉々としています。案内状をよくみればよかったのに)
(写真右)
 第三の「精養軒」パーティー会場で、ジャパンアーツの大内会長夫妻、読響の小林理事長、日フィルの平井理事長らと。


● イタリア取材旅行
2017年10月26日〜31日

 すっかり、更新をお休みしてしまい申し訳ございません。現在抱えているテーマの取材の仕上げにと、イタリアに出掛けておりました。早く更新を再開しようと思いつつ、成果がまとまらないまま日々を重ねてしまいましたが、とりあえず、取材地のみ、ご報告させていただきます。

 ミラノを振り出しにまずジェノヴァに向かい、港を取材いたしました。そのあと、ヴィアレッジョ、トッレ・デル・ラーゴ、ルッカ、ピサとトスカーナ地方を回り、ピサからフィレンツェに出て、フィレンツェからミラノに戻って帰ってまいりました。
 旅行で得られた情報を整理して、なんとか、形にしたく思います。


● 福間洸太朗 ピアノ・リサイタル
2017年10月11日 サントリーホール
 福間洸太朗さんは、今や世界に誇る日本出身のピアニストになられた、と痛感いたしました。
 もう10年以上前に、当時のマネジメントを手掛けていらした故・佐藤方紀さんのご紹介で初めてお会いしたのもここ、サントリーホールでした。
 その後めざましいご躍進ぶり。当夜は満席。
 前半がリストとショパン、後半がラフマニノフ、スクリャービン、ストラヴィンスキー。ことに後半にパワー全開。

     ※詳しい公演評は『音楽の友』12月号に。

(写真)日経、池田卓夫さんと楽屋でスリーショット。大ステージを無事終えて、晴れやかな笑顔の福間さん。


● 北欧音楽祭すわ2017
10月7日〜9日 下諏訪総合文化センター
 長野県下諏訪町で毎年開催されている音楽祭に、初めて、お邪魔してきました。
 日フィルを創設、シベリウスの交響曲全曲を日本に紹介するなど、日本の音楽界に多大な貢献のあった名指揮者、渡邉暁雄先生の父上、渡邉忠雄牧師様が下諏訪のご出身。そんなご縁から、暁雄先生は、この地のアマチュア・オーケストラ、諏訪交響楽団を長年指導なさるなど、この地との結びつきを大切になさいました。
 19回目となる今回の音楽祭の目玉公演は、暁雄先生の御長男、渡邉康雄氏のピアノ・リサイタルです。
 オール北欧プログラムによる、北国の澄んだ空気のように引き締まった演奏でした。後半のグリーグ、抒情小曲集抜粋は全体でひとつのドラマを感じさせるもので、とても美しい配列です。粒立ちのよいピアノの音からは、各曲を書いたときの作曲家の心象風景があざやかに浮かんできました。


(写真左) 会場入り口の掲示
(写真中) 左は、康雄さんの作陽音大教授時代のお仲間で、ミュンヘン、ハレなどのオーケストラの首席を長く務められた、日本を代表するヴィオリストの兎束俊之先生ご夫妻。わたくしは康雄さんご夫妻の間に挟まりました。
康雄さんは渡邉家のご長男。三男の民雄さんとわたくしは小中学校の同級生で今も仲良し。康雄さんも同じ小中学校の先輩です。
(写真右)あまりに身長差があるわたくしのために、縮んでくださった康雄さん。二人で爆笑しています。


● 東京二期会 プッチーニ:オペラ『蝶々夫人』
2017年10月7日 東京文化会館
 二期会の名プロダクションの中でも屈指の傑作、栗山昌良演出の『蝶々夫人』です。
 今回のタイトルロールは、大村博美さん、森谷真理さん。日程の都合上、森谷さんの回を拝見してきました。
 ピンカートンは宮里直樹さん。お二人ともゆたかな声量の持ち主です。

     ※詳しい公演評は『ハンナ』12月号に

(左写真)会場で、まことにめずらしいというより、日本語初の、初演版の対訳リブレットを販売しているのに気づき、喜んで購入しましたら、販売担当のそのお方こそ、この初版リブレットの翻訳者、注釈者、編集者の河原廣之氏だったのです。
 素晴らしいお仕事です。
 河原氏と、シャープレス役の今井俊輔さんに贈られたスタンド花の前で、記念写真を撮りました。
 わたくしの付け下げの柄も、扇面に蝶々をあしらったもので、下のほうには単独の蝶が飛んでいます。
 帯留めは、祖母の形見の翡翠。藤の花彫刻ですが、父が赤ちゃんのとき、祖母に抱かれていて元気に足をバタバタさせてヒビを入れてしまったため、18金の飾り細工でヒビを隠して補強してあります。昔の職人さんのすごワザです。
(右写真) 別の帯に合わせたときの写真ですが、拡大するとこんな感じです。


● 新国立劇場 ワーグナー『神々の黄昏』
2017年10月4日 新国立劇場オペラパレス
 飯守泰次郎先生の手掛けてこられた『ニーベルングの指環』4部作がついに最終作を迎えました。故ゲッツ・フリードリヒのプロダクションです。
 午後2時開演。途中、45分と35分の2度の休憩を挟んで約6時間の長丁場。
 9月28日のゲネ・プロも拝見していたので、1度目でよくわからなかったところや意識の朦朧としたところを何とか補完出来ました。
 オーケストラは小森谷巧コンマスの読響。
 相手が大曲だけに、多少のことはありましたが、そこは名手揃い、ぐいぐいとエネルギッシュに進みました。
 最大の立役者は、『ラインの黄金』では貫禄あるローゲを演じ、『ワルキューレ』ではジークムントを、『ジークフリート』と本作『神々の黄昏』でジークフリートを歌いきったステファン・グールドでしょう。
 ブリュンヒルデのペトラ・ラングも立派な歌唱。その妹役で、姉に指環をラインの乙女たちに返すよう説得しに来るヴァルトラウテに、ヴァルトラウト・マイヤーという大ご馳走。しなやかで美しいお声に感嘆しました。ハーゲンのアルベルト・ベーゼンドルファーも好演。グートルーネの安藤赴美子さん、アルベリヒの島村武男さん、ノルンの竹本節子さん、池田香織さん、橋爪ゆかさんら日本人歌手の健闘も嬉しい限りでした。

 (右写真)エントランスホールには、勅使川原茜さん作の見事な秋のオブジェが。


● 呉、江田島取材
2017年10月2日 広島平和記念公園、呉、江田島
 昨日の晴天とはうって変わり、秋雨の降りしきる安芸路です。まず、平和記念公園に向かい、記念碑に詣でてドームに合掌したあと、広島駅からJR呉線で呉へ、呉で海上自衛隊資料館を取材、フェリー乗り場から『古鷹』に乗船して江田島へ渡りました。
 今年の2月にも一度来ていましたので、道順はさすがによく覚えていました。
 お目当ての海上自衛隊幹部候補生学校、海上自衛隊第一術科学校を見学し、教育参考館で取材目的をお話しましたところ、館長さま、スタッフの方からたいへん好意的な対応をしていただけました。まことに、ありがとうございました!
 おかげさまで、勇気が湧いてきました。なんとか、この取材、形にして、ご恩に報いたく思います。


(写真 左から1枚目)海上自衛隊呉史料館の外観。手前にあるのは、本物の潜水艇。中に入らせていただきましたら、限られたスペースを実に賢く、有効活用しているのに驚きました。
(左から2枚目)これは、潜水艇内の3段ベッド
それにしても、このような狭い閉塞空間に長期間生活しながら、任務を果たされる、昔なら海軍軍人、今なら海上自衛官の方々に心より敬意を表します。
ことに、「掃海」といって、平和なはずの海に仕掛けられた機雷を発見駆除して、安全な航海を取り戻すための地味な、しかし勇敢なお仕事は海軍以来、今も続けられていますが、その崇高なお仕事によって、これまでに多くの海軍軍人、海上自衛官の方が一つしかない大切な命を犠牲にされました。頭がさがります。
(3枚目)江田島のシンボルである山の名をとった『古鷹』が呉と江田島を連絡しています。
(4枚目)江田島の海兵学校が、現在はこのような名称になっています。
(5枚目)秋雨にけぶる呉港


● ひろしまオペラ・ルネサンス モーツァルト『コジ・ファン・トゥッティ』
2017年10月1日 広島アステール・プラザ


 川瀬賢太郎さんの指揮、岩田達宗さんの演出による『コジ・ファン・トゥッティ』を拝見してきました。



終演後楽屋で。左から大阪交響楽団の二宮さん、関西二期会の堀田さん、川瀬マエストロ、筆者、日経新聞の池田さん、広島在住の作曲家、徳永さん、ピアニストの伊藤さん
     ※詳しい演奏批評は『ハンナ』11月号に。


● 学校法人桐朋学園アリオン江戸音楽振興基金
     第4回「アリオン桐朋音楽賞」・「柴田南雄音楽評論賞」授賞式とレセプション

2017年9月29日 丸の内 日本工業倶楽部
 会場の日本工業倶楽部は、丸の内北口を出て、信号を渡ってまっすぐ皇居方面へ歩いて2分ほどの右側、風格のある建物です。
 以前に一度、演奏連盟のパーティーにお招きを受けて足を踏み入れ、そのクラシカルな雰囲気に強く魅了されておりましたため、今回も招待状にここが会場とあるのを発見して狂喜、とても楽しみに出かけました。
 2階のステージ付きのお部屋で授賞式と、受賞者演奏があり、続いてお隣のお部屋でレセプションとなりました。  本賞のピアノ演奏では、中学3年生の千葉百香さんが受賞。リストの「パガニーニ・エチュード」6番イ短調と、「ハンガリー狂詩曲」2番嬰ハ短調を見事に演奏されました。「柴田南雄音楽評論賞」は、鐵百合奈さんと堀内採虹さんのお二人が受賞されました。


(左写真)左から、堀内さん、千葉さん、鐵さん
(右写真)レセプションで、桐朋学園の梅津学長、音楽評論家の平野昭先生と。


● バイエルン国立歌劇場 日本公演 ワーグナー『タンホイザー』
2017年9月25日 NHKホール
 ドイツの歌劇場の雄、バイエルン国立歌劇場が6年ぶり、7度目となる来日公演を果たしました。
 演目は『魔笛』と『タンホイザー』。後者は今年5月に現地で新制作初披露されたばかりのホットな注目作です。
 指揮は同歌劇場の音楽監督キリル・ペトレンコ。彼の音楽は柔軟で、構えたところや作為的な山場づくりもなく自然体で流れ、かつ、音の立ち上がりのよいものです。非常に聴き易く、おかげで、この作品の愛と救済のメッセージ性が浮き彫りとなりました。
 演出、美術、衣裳、照明はすべてイタリア人のロメオ・カステルッチ。美術大学で学んだ方だけあって、美術作品をみるかのような舞台です。序曲では弓矢を手にした女性たちが舞台奥の幕の陰から次々に姿を現し、整然と美しく並んで客席に向かって弓を構えます。
 音楽がバッカナールに入ると、彼女たちはくるりと向きを変えて後方正面に映し出されたギリシャ美人風の顔の一部、その目に向かって次々に矢を射かけ始めました。最初は、映像のマジックかと思いましたら、そうではなくて、実際に弓を放っています。24人の女性たちから放たれる矢の総数は実に700本。映像の目は、いつしか耳に変化しています。観客の目を射る、耳を射るステージをこれからご覧いただきましょう、というメッセージでしょうか。24人の女性は全員が長い黒髪。植物繊維風の長いスカート。上半身は何もまとっていません。実に美しい場面でした。
 驚いたのは、ヴェーヌスのいでたちです。異様なぜい肉の垂れ下がりを思わせる人肌色のスライムを装着して、同じく醜悪な肌色スライムの男たちの山に坐して、官能の歌を歌うのです。美神どころか、肉欲に果てに肌という肌のたるみきったその姿は無残そのものです。愛と官能の世界であるヴェヌスベルクは、この演出によって、すでに明瞭に否定されているわけです。
 他にも、領主一行が血の滴る大鹿を引いてくる、その血を象徴するデザインのマントをタンホイザーが羽織るなど、挑発的な細工が多々あります。
 舞台は幕を追うごとに光量を落としていき、もっとも暗い第3幕ではエリーザベトが寝台に身を横たえたときが彼女の死を表しているようです。でも、そこにまだ存在するかにみえたタンホイザーも、すでに第2幕で背に矢を受けて倒れましたので、あのとき、肉体から魂が離れたものと思われます。
 舞台上の二つの寝台には、何度も何度もキャスターつき担架で死後の変化を表す人体が運ばれ、入れ替えられて、最後は灰となり、気の遠くなるほど長い時の経過が表現されます。
 こうしたカステルッチの演出はきわめて問題提起的で、ワーグナーの意図について改めて考えるよいきっかけとなりました。
 タイトルロールは初役となるクラウス・フローリアン・フォークト。
 単に甘い声というだけではなく、第3幕の『ローマ語り』の長丁場では最後までスタミナを持続させて次第に絶望色を深めていくあたり、さすが、当代一流のワーグナー・テノールです。
 エリーザベトのアンネッテ・ダッシュは透明感のある純な声質。ヴェーヌスのエレーナ・パンクラトヴァは濃密な声でたっぷりと歌い、存在感がありました。
 ヴォルフラムはマティアス・ゲルネ。この人のリート・リサイタルは何度か拝聴し、その都度感嘆しきりですがが、オペラにもそのリートの歌唱が生きていました。『夕星の歌』はもうリートの世界です。
(写真)公演プログラムの表紙

       ※公演評は『ハンナ』11月号に


● 萩原みか ソプラノ・リサイタル
2017年9月24日 市ヶ谷ルーテルセンター
 ソプラノの萩原みかさんが、さまざまな色合いの歌を歌い分けるリサイタル・シリーズ「Colors」が第7回を迎えました。
 前回同様、ピアノの藤井麻理さんとフルートの福島明佳さんが共演なさり、藤井さんは息のあった伴奏をつけ、福島さんはそのうちの数曲に、ご自身のアレンジによるおしゃれで小粋なオブリガートを添えました。
 終演後、主役のみかさんには面会の方々が引きも切らず、ひとことご挨拶するだけで失礼したため、ご一緒の写真が撮れませんでしたが、藤井さんと福島さんとは仲良くスリー・ショット。みかさんのお写真は、プログラム掲載のものを借用いたします。
     ※詳しい演奏批評は『音楽の友』11月号に。

(右写真)左がピアノの藤井さん、右がフルートの福島さん。ドレスの色合いを揃えていらっしゃいます。


● サントリーホール/チェンバーミュージック・ガーデン
     三重奏の愉しみT ヘーデンボルク・トリオ 日本デビュー・リサイタル

2017年9月22日 サントリーホール ブルーローズ
 ザルツブルク生まれのヘーデンボルク三兄弟、ヴァイオリンの和樹さん、チェロの直樹さん、ピアノの洋さんによる「ヘーデンボルク・トリオ」が日本でお披露目コンサートの運びとなりました。
 和樹さんと直樹さんはウィーン・フィルのメンバーとして、それ以外のシーンでもこれまでに日本で数々のコンサートに登場されていますが、お兄様二人とは10歳ほど年の離れた末っ子、洋さんは、正式にはこれが日本初登場。
 以下の曲目に、一緒に育った三人ならではの、気心の通じ合ったアンサンブルを聴かせてくださいました。
   ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第1番 変ホ長調 作品1-1
   ハイドン:ピアノ三重奏曲第31番 変ホ短調
   ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調

 最後のブラームスがあまりに熱く熱く盛り上がり、客席全員、興奮の渦のうちに終わったので、直樹さんから「皆様、お疲れさまでした。この熱さのままお帰りになられると、おやすみになれないと思いますので、ハイドンのジプシー・トリオから、ゆっくりな楽章をアンコールとしてお届けいたします」というご挨拶があり、温和で優美なハイドンを聴いてほどよく熱狂を冷ましてから終演となりました。
 客席には、三人のお父様、お母様はもとより、94歳になられるおばあさまもおみえになって、熱心に耳を傾けていらっしゃいました。


(左)左から、洋さん、和樹さん、直樹さん
(中)ヘーデンボルク直樹さんには、あるテーマのために数年前から長期取材中。
   なかなか実りませんが、今夜の彼らの熱い演奏を聴いて、わたくしも挫けずにこのテーマを追い続けようと、決意を新たにいたしました。いつの日か、皆様に成果をご披露できますよう、努力いたします。
(右)三兄弟のお母様の従姉妹、中野智子さんとともに、「こんな幸せな夜はない」と喜色満面のパパ、シュテファンさんを囲み、3人でVサイン。
   シュテファン・ヘーデンボルク氏は、ザルツブルク・モーツァルテウム・オーケストラの名ヴァイオリニストです。


● 広上淳一と京都市交響楽団 第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート
2017年9月18日 サントリーホール
 1984年、26歳のときに「第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクール」に優勝して国際的キャリアを踏み出した広上淳一マエストロ。その後、フランス国立管、コンセルトヘボウ管、ウィーン響、ロンドン響など、世界のメジャー・オーケストラとの共演を重ねてこられました。
 2008年4月からは京都市交響楽団第12代常任指揮者として、この西の名門オーケストラと密度の濃い音楽を発信され、その活動が評価されて、2014年度第46回サントリー音楽賞を受賞されました。
 その記念コンサートでは、次のプログラムが演奏されました。
   武満徹:フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム
   ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27
 武満先生の『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム』を実演で拝聴するのは2回目です。作曲者が一貫して追求してきた特殊配置によるオーケストラ作品で、もちろん、楽器編成にもユニークなアイディアが凝らされています。
 ステージ上は、弦楽器と管楽器、下手の2台のハープを核として、そのまわりに、5群の打楽器が配置され、それぞれを打楽器のソリスト5人が担当します。彼らの衣裳は、曼陀羅の5色、すなわち、青、赤、黄、緑、白。これは、作曲者によると「曼陀羅の中心に座す、5仏が発する色と同じ」だそうで、それぞれ、水、火、大地、風、エーテル(空気、無)を表します。関西を中心に活躍する5人のパーカッショニスト、中山航介さん、宅間斉さん、福山直子さん、大竹秀晃さん、高橋篤史さんが、各色のシルクサテンのドレスシャツに黒のパンツ、というきりりとしたいでたちで客席の通路に姿を現し、クロタルという鐘を鳴らしながらステージにゆっくりと上がられました。もうそれだけで、東洋的な神秘感が漂います。
 パーカッションの種類も多彩で、そのうちの鈴は客席2階の両サイド上部に吊られ、この5色の長いリボンがつけられてステージの奏者がこれを振るわせて鳴らす、という趣向です。オーケストラの音楽も、5つの主要モティーフを用い、5度音程が頻出するなど、「5」に因んで、曼陀羅の世界を表現するものでした。

 ラフマニノフの2番は、彼特有の甘美なリリシズム、ロシア的な憂愁、憧憬とノスタルジーに満ちた大作で、30歳頃から着手され、1906〜07年に滞在したドレスデンで書き上げられました。演奏頻度はけっこう高いので、何度も聴かせていただいていますが、この夜ほど、曲のディティールがよくみえ、各部での作曲者の想いが理解できた晩はなかったように思います。
 それほど、広上マエストロと京響の演奏は、表現の振幅が大きく、ラフマニノフの感情の発露とその発展、激情的な爆発まで、みごとに音にのせて聴き手に伝えるものでした。とりわけ、第3楽章の天にも昇っていくかのような、限度というものを知らない無尽蔵の表現は胸に迫りました。再現部を導き出す時の驀進的にアッチェレランドは、限りなく優しく柔和に奏された終結部と好対照をなしていました。


(左)終演後、バックステージで。ゲスト・コンミスを務めた会田莉凡さん、広上マエストロ、お祝いに駆けつけた高関健マエストロ
(中)小山実稚恵さんの祝福を受けるマエストロ。「涙が出ちゃった」と実稚恵さん。
(右)マエストロを囲んで、同業の片桐卓也さん、寺西基之さんと。


● 読売日本交響楽団 第200回土曜マチネーシリーズ
2017年9月16日 東京芸術劇場コンサートホール
 2017年4月に読響首席客演指揮者に就任したコルネリウス・マイスターさんのお披露目コンサートです。
マイスターさんは、1980年ドイツ・ハノーファー生まれの37歳。
 (左写真の著作権者は読響)
21歳でハンブルク国立劇場にデビュー、24歳でハイデルベルク市立歌劇場音楽監督、30歳になる2010年から、ウィーン放送響の首席指揮者兼芸術監督を務めているという逸材で、日本では2006年新国立劇場『フィデリオ』を振り、14年に読響初登場、『アルプス交響曲』で好評を得たのが今回のポストに繋がりました。
 この日はまず、スッペの喜歌劇『詩人と農夫』序曲。
 序奏では、遠藤真理さんのチェロのソロが映えます。主部はきびきびと進み、再現部のシンコペーションのところなど、確信にみちて前にのめっていき、驀進的なアッチェレランドがかけられて爽快でした。
 次いで、ダニール・トリフォノフさんを迎えて、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番。
 ピアノは彼好みのFAZIOLI。ソロが縦横無尽に駆け巡るこの協奏曲は快男児トリフォノフさんにぴったり。FAZIOLIの深みのある神秘的な音色は第1楽章の冒頭部に冴え、その一方、ショパンのエチュード『大洋』の影響濃厚な大カデンツァもFAZIOLIで聴くと迫力満点です。
 このコンチェルトは作曲時21〜22歳という若きプロコフィエフの自信にあふれた野心作で、第3楽章の間奏曲には、のちのバレエ『ロメオとジュリエット』の『騎士たちの踊り』の萌芽が聴きとれます。爆発的なフィナーレは、胸のすくような快演でした。アンコールに、バレエ『シンデレラ』より『ガヴォット』。
 後半は『田園』交響曲。マイスターさんの構成力と牽引力も見事でしたが、読響が誇る管のソリスト陣がいずれ劣らぬ妙技を聴かせてくれました。

    右写真は、トリフォノフさんのソロショット、同氏とのツーショット。
    2010年のショパン・コンクールでお会いしたときから早7年。
    あの頃はやんちゃな少年風で、第2位のゲニューシャスさんと仲良くふざけておられたのが印象に残っています。
    今ではお髭も伸ばして、とてもお兄さんになられました。


● 新日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール・シリーズ
2017年9月14日 サントリーホール
 上岡敏之シェフがマーラーの5番をとりあげました。組み合わせたのは、とても贅沢なことに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。
 このカップリングだけでも魅力的な上に、ピアノのソリストはハンガリー出身のデジュー・ラーンキさん。
 かつては、ゾルターン・コチシュさん、アンドラーシュ・シフさんとともに「ハンガリーの三羽烏」と呼ばれた、同国を代表する名ピアニストです。このうち、指揮者に転じたコチシュさんは昨年11月6日、来日を目前にして惜しくも亡くなられましたが、シフさんとラーンキさんは円熟を深めています。
 この夜のラーンキさんのソロも気品に満ちたもので、過剰表現は一切なく、作品本来の持つ奥行きと幅の中で各楽想の要素を最大限に生かして、起伏ゆたかな流れがつくられていました。
 ピアノの音色が抜群に美しいので、ソロから語り掛けるように始まるこの曲にぴったりのソリストです。第2楽章など、ベートーヴェンの意図に敵った(と思われる)まことに崇高な演奏でした。
 後半のマーラーの5番はシェフにもオーケストラにも気合が入り、全員、真剣勝負そのものです。
 冒頭のトランペット・ソロ、服部さんもよく決めました。他の管楽器陣も大健闘で、フルートの白尾さん、オーボエの金子さん、クラリネットの重松さん、ファゴットの河村さん、テューバの佐藤さん、みなさん、立派なソロで曲を引き締めました。
 山口さん、宮下さん、奥村さんのトロンボーン・セクションも壮麗な音響を奏出し、ティンパニとパーカッション・チームも曲の各部に精彩を添えていました。
 欲を言えば、……どこのオーケストラにとっても頭の痛いところかもしれませんが、このクラスの曲のホルン・セクションの主力が自前だったら理想的ですね。
 上岡シェフの棒は曲の流れを大切にしたもので、歌う部分はまことに甘美に歌いました。特に第4楽章のアダージェットなど、上岡さん全身から歌が溢れ出るのが視認できるほどでした。崔コンマス、その棒に渾身で応えていらっしゃいました。
 テンポは全体としては速めで演奏時間は70分ほど。でも、前述のように歌を大切にしているので、その中で緩急の振幅が自在でした。

 (写真)
 ラーンキさんを楽屋にお訪ねしました。
 いつも来日リサイタルのときは、プログラム・ノートを書かせていただいています。
 奥様のエディットさんとのデュオや、息子さんのフェロップさんとのトリオも聴かせていただいていると申し上げたら、お顔をほころばせてくださり、11月にエディットさんとまた来日されるというお話でした。


● サントリー芸術財団サマーフェスティバル2017
   日本再発見 “戦中戦後のリアリズム”〜アジア主義・日本主義・機械主義〜

2017年9月10日 サントリーホール
 片山杜秀氏プロデュース日本再発見シリーズ、今回は、戦中戦後のリアリズムに焦点を当て、4人の作曲家による4作品が採り上げられました。
★尾高尚忠(1911〜1951):交響的幻想曲《草原》作品19 1943年
★山田一雄(1912〜1991):おほむたから(大みたから)作品20  1944年
★伊福部昭(1914〜2006):ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲  1941年
★諸井三郎(1903〜1977):交響曲第3番作品25         1944年
 指揮は下野竜也マエストロ。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団、三浦コンマスです。(同日同時刻、近藤コンマス率いる東フィル別動隊はオーチャードホールでバッティストーニ・マエストロと『オテロ』2公演目)
 尾高尚忠先生は、小中学校の大大先輩にあたりますし、ご長男の惇忠先生ご夫妻と親交を持たせていただいておりますため、親近感ひとしお。
1943年7月に完成、翌年初演、何回か演奏されたあと、演奏機会のなかったという交響的幻想曲《草原》を耳にできて、本当に幸せでした。
 モンゴルの草原をイメージなさって書かれたそうですが、それほど東洋的ではなく、もっと普遍化された、伸びやかでロマンティックな草原の風を感じました。いくつかの楽想がメドレーされる作品で、行進曲風のところは草原の騎馬民族の勇壮な行進を思わせました。
 山田一雄先生の曲『おほむたから』は、「天皇の統べる大和民族の宝」、といった意味でしょうか。
 これは本当にまったく、マーラーの5番を聴いているような気持になりました。というか、堂々と、マーラーの5番を踏まえて、その上に大和の宝の花を咲かせていらっしゃるのですね。オーケストラ法はさすがです。
 伊福部昭先生の協奏風交響曲は、ピアノ協奏曲としての要素と交響曲の要素を具えた野心作で、これでもか、これでもかというほど確信的な日本旋法が用いられている一方、ピアノにはトーン・クラスターによる不協和音や、上下行する幅広いグリサンドなど、メカニカルな技法が多用されていました。
 ソリストは、小山実稚恵さん。あとでお話を伺いましたら、この曲がお好きとのことで、鍵盤を叩くようなクラスター打鍵も、無理ないタッチを心がけておられるため、手に負担などないとのことでした。
 アンコールは伊福部昭『七夕』。オルゴールのような音色を用いた、ひそやかで静謐な小品です。実稚恵さんの選曲センスが光ります。
 最後の諸井三郎先生の交響曲第3番は、もっとも普通に西洋クラシックを感じさせる楽曲です。
 とてもワーグナー風だと思って聴いているうち、スケルツォ楽章ではブルックナーがガンガン出てきました。壮大でした。


(写真左)
楽屋で、小山実稚恵さん、音楽評論家の岡部真一郎氏と。
実稚恵さんのドレスは、演奏作品に合わせて、グリーンの縮緬風生地に松竹梅や小菊などを飛ばしたお着物柄。こまやかなご配慮です。
(写真右)
尾高尚忠先生のご長男、尾高惇忠先生と下野マエストロ。
尾高先生、下野さんを激賞されておられました。

左から、尾高先生の奥様、メゾソプラノの尾高綾子先生、惇忠先生、下野マエストロ。
「僕も親父のこの曲を聴いたのは初めてですよ。何しろ、僕が生まれた年に初演された曲だけれど、そのあとは機会がなかったからね。まさに、草原。とてもロマンティックだね。オリジナルのスコアは、僕のところにありますよ」と、惇忠先生が感慨深げにコメントしてくださいました。


● Bunkamura バッティストーニの『オテロ』
2017年9月8日 オーチャードホール
 演奏会形式ですが、ステージの奥行きを生かして奥に合唱、手前にオーケストラ、東フィルを排し、歌手は客席際をメインに、奥でも歌いました。
 映像が見事な効果を上げ、さらに、2階下手バルコニーには、トランペットのバンダ。
 いろいろ、感じるところはありましたが、バッティストーニの前進的な音楽運びには感動しました。
 終演後、レセプションで西村社長の意気込みと、マエストロの抱負など、うかがいました。


(写真左から)マエストロと  マエストロとスタッフのみなさん  マエストロのご挨拶


● 東京都交響楽団第838回定期演奏会Aシリーズ
2017年9月4日 東京文化会館
 ハオチェン・チャンさんが、大野和士マエストロの棒で、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を独奏しました。
 オーケストラ合わせもぴたり。
 大きい方のカデンツァも起伏豊かな演奏で、終わるのが惜しまれるほどでした。
 後半は、3番つながりで、同じラフマニノフの交響曲第3番。

(写真)ハオチェン・チャンさんと再会


● サントリー芸術財団サマーフェスティバル2017
       戦前日本のモダニズム “忘れられた作曲家” 大澤壽人

2017年9月3日 サントリーホール
 大澤壽人という作曲家の作品を初めて聴きました。
 大澤壽人は明治39年ですから1906年、神戸生まれ。
 土地柄、外国人音楽家に接する機会が多く、フランスのピアニスト、アンリ・ジル=マルシェクスの来日公演を聴いて啓発され、音楽家を志望します。
 昭和5年に渡米し、ボストン大学音楽学部、及びニューイングランド音楽院で作曲を学びました。滞米中には、ナチスに追われたシェーンベルクがアメリカに移住してきたので、その教えも受けたそうです。その後フランスに移り、エコール・ノルマノ音楽院で、デュカスとブーランジェに師事しています。あの時代の最高の教授陣です。
 昭和11(1936)年に帰国。帰朝記念演奏会を開きますが、最先端モダニズムの作風は当時の日本には受け容れられませんでした。戦時中は思うような作品を書くことも叶わず、戦後ようやく、のびのびと自らの心に敵う作品を書き始めますが、昭和28年、1953年に47歳の若さで急逝しました。
 このコンサートでは、そんな大澤の才能の再検証を目的として、黄金期30年代のオーケストラ作品3曲が山田和樹と日フィルによって演奏されました。
 最初の曲は、佐野央子さん独奏のコントラバス協奏曲の世界初演でした。
 この、縁の下の力持ち楽器のための協奏曲を書いたのは、ボストン交響楽団の大立者で、コントラバス奏者出身のクーセヴィツキーに捧げるためでした。ハイポジションの多用された難曲ですが、佐野さんは立派に弾いておられました。ただ、カデンツァ以外ではソロの音がオーケストラに埋もれがちなのが残念でした。
 2曲目は福間洸太朗さんの独奏でピアノ協奏曲第3番変イ長調。
 これは、1938年に、マキシム・シャピロの独奏で初演されていました。サブタイトルに『神風』とあるように、当時話題の朝日新聞社報道用飛行機『神風号』へのオマージュ作です。『神風号』の東京、パリ100時間以内飛行、という世界記録達成の快挙と、当時ベルギーのブリュッセル留学中だった諏訪根自子が同地で『神風号』を出迎え、飯沼飛行士と塚越航空機関士に花束を手渡したエピソードは、拙著『諏訪根自子 美貌のヴァイオリニストその劇的生涯』に詳述しましたので、この曲には格別の親近感を感じました。
 曲は、飛行機のエンジン音の模倣から元気に始まります。第2楽章は静かな夜間飛行の描写で、上野耕平さんのジャズ風サックスが冴えました。福間さんのソロは、曲のよさを十二分に引き出していました。
 後半の交響曲第1番は作曲から約80年後の世界初演。これが1930年代のモダニズムか、と興味深く謹聴しました。
(写真)大澤壽人(1906〜1953)


● サントリーホール リニューアル記念 ダイワハウス スペシャル Reオープニング・コンサート
2017年9月1日
 7か月間にわたる改修工事を経たサントリーホールが、9月1日、リニューアル・オープンしました。
 エントランスでは、この日一日限りという、真紅のアスター菊と純白のカーネーションの生花アレンジメントが迎えてくれました。館内に足を踏み入れると、やはりお祝いカラーの花々が飾り付けられて、まことに華やかです。
 コンサートの前半は、東京佼成ウインドオーケストラの抜粋メンバー「TKWO祝祭アンサンブル」とオルガンによる、ガブリエーリ、バッハ、ヴィドールなどの祝賀の気分に満ちたプログラムです。オルガンのソリストは88年イタリア生まれのダヴィデ・マリアーノさん。
 後半は、晴れのReオープニングのために、ジュゼッペ・サッバティーニ・マエストロが念入りに選び、出演者を鍛え上げてきたロッシーニの『ミサ・ソレムニス』です。37歳でオペラの筆を折ったロッシーニは、後半生、バリに居を構えてイタリア座の支配人などを務めながら、いくつかの宗教曲と小品のみを手掛けました。
 もちろん、お料理にも腕を振るって、「ロッシーニ風……」という創作料理をたくさん創案します。それらのほとんどには、フォアグラがふんだんに使われていたせいか、晩年はなかなかにメタボ体型となり、その弊害にも苦しんだのですが、まあ、一度しかない人生を悔いなく生きた人だったと思います。
 さて、『ミサ・ソレムニス』は亡くなる5年前の1863年に小編成で書かれ、3年後にロッシーニ自身がフル・オーケストラ版に編曲した晩年の傑作です。
 当夜のオーケストラは東京交響楽団。これに、オルガンと金管アンサンブルも加わりました。ソプラノは吉田珠代さん、コントラルトはソニア・プリーナさん。テノールはジョン・健・ヌッツィオさん、バスはルベン・アモレッティさん。合唱は東京混声合唱団とサッバティーニ・マエストロの薫陶を受けたサントリーホール・オペラ・アカデミーの精鋭たち。
 臨機応変な表現力を持つこの合唱陣が当夜の主役と言ってよいほど、卓越した力量を発揮していました。合唱指揮の鬼原良尚さん、稽古ピアノの古藤田みゆきさんの功も讃えたいと思います。

 終演後には、ブルーローズでサントリーホール心尽くしのレセプションが開かれて、記念の一夜に幕が下ろされました。


(左)エントランスの生花アレンジメント
(中)レセプションで。左からJesc音楽文化振興会の堤正浩理事、読響の小林敬和理事長、仲良しのフリーアナウンサー朝岡聡さん、日フィルの平井俊邦理事長
(右)サッバティーニ・マエストロと


● 清水和音 ピアノ・リサイタル
2017年8月30日
 清水和音さんの名曲ラウンジ「芸劇ブランチコンサート」が好評理に進行しています。今回は初のリサイタル。
ラフマニノフの前奏曲『鐘』から始まり、10人の作曲家による小品名曲10曲が演奏されました。
 最後のリストの超絶技巧練習曲より『夕べの調べ』は息を飲む美しさでした。

       詳しい公演批評は『ショパン』10月号のカラーページに。

 (写真) 楽屋で、和音さんと。この日の小品類を収載したCDのライナーノートを書かせていただいています。


● 佐藤彦大さん、恵藤幸子さんの結婚披露宴
2017年8月26日 椿山荘


 ピアニスト同士のお似合いカップル、佐藤彦大さんと恵藤幸子さんの結婚披露宴にお招きいただき、幸せのおすそ分けに与ってきました。
 ともに、モスクワ音楽院で学ばれたお二人、長いロシア生活ではいろいろな困難もあられたそうですが、手を携えて乗り切ってこられ、今後は日本を拠点に活動なさいます。
 可愛らしい幸子さん、どうぞ、お幸せに。


● 出光賞受賞記念コンサート&レセプション
2017年8月23日 東京オペラシティコンサートホール
 意欲、素質、将来性などの観点からクラシックの新進音楽家を顕彰する「出光音楽賞」の第27回受賞者が決まり、8月23日に東京オペラシティコンサートホールで受賞者ガラコンサートが開催されました。
 今回の受賞者はオーボエの荒木奏美さん、ソプラノの小林沙羅さん、ピアノの反田恭平さんの3名。
 コンサートでは、沼尻竜介マエストロ指揮の日フィルと共演して、荒木さんと反田さんは協奏曲、小林さんはオペラ・アリアを披露しました。

 93年茨城県出身の荒木さんは東京藝大4年次在学中から東京交響楽団の首席として活動してきた実力派。コンクール歴も豊富です。モーツァルトのオーボエ協奏曲ハ長調を、時に甘く、時に愁いに満ちて表情豊かに歌いました。
 東京藝大と同大学院修了後、ウィーンとローマに学び、2006年に国内デビュー、2012年にはソフィア国立劇場で欧州デビューも果たした小林沙羅さんは、それぞれキャラクターの異なるグノー『ファウスト』のマルグリート、レハール『ジュディタ』のタイトルロール、グリーク『ペール・ギュント』のソルヴェイグを入魂の名唱で歌い分け、会場を沸かせます。
 唯一の男子、反田さんは高校在学中の2012年に第81回日本音楽コンクール第1位を受賞した期待のホープ。2014年にはモスクワ音楽院に首席入学。2016年、席数2000のサントリーホールでいきなりリサイタル開き、悠々完売しただけではなく、秋には3夜連続異種プログラム・リサイタル、それも追加公演も含め、6夜公演を成功させた、驚異の若手です。  わたくしも、それらの一部を聴いて、テクニックと表現力に舌を巻いてきました。この夜は、思い出のある曲だというラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』を快演なさいました。
(左写真)左から、反田恭平さん、小林沙羅さん、荒木奏美さん


(左)反田恭平さんと
(中) 小林沙羅さん、出光賞選考委員の池辺晋一郎先生と
(右)レセプションでは久々に梯剛之さんとお会いしておしゃべりに花が咲き、バリトンのヴィタリ・ユシュマノフさんをご紹介させていただきました。ヴィタリさんは、9月21日に、東京文化会館11:00開演「上野deクラシック」にご登場、リサイタルをなさいます。


● 『ハンナ』連載『聖女vs悪女オペラの迷宮』9月号のヒロインは「マリー・テレーズ」
2017年8月20日頃発売

 連載第17回として、元帥夫人ことマリー・テレーズを採り上げました。

 先日、鑑賞したばかりの、グラインドボーン歌劇場&二期会提携公演『ばらの騎士』にも言及しています。

 写真は同公演時に。


● 演奏会形式・オペラ《夕鶴》のプレ・レクチャーのお知らせ
2017年8月19日 ティアラこうとう 中会議室
 東京シティ・フィルが、ティアラ定期第50回を記念して、
9月30日(土)14:00より、團伊玖磨先生のオペラ《夕鶴》を高関健マエストロの棒で、演奏会形式上演いたします。
 つうに、腰越満美さん、与ひょうに、小原啓楼さん。

 それに先立ち、《夕鶴》の聴きどころをご紹介するプレ・レクチャーが予定され、講師としてお話させていただくことになりました。
 シティ・フィルの志田団長と対談形式で画像、CD鑑賞も交えて進めます。

 ティアラ友の会の会員様が対象だそうですが、  参加ご希望の方は、萩谷由喜子のメール  yukiko99@io.ocn.ne.jp までお申し込みください。
 左写真は《夕鶴》のイメージ写真。鮫島有美子さんのつうです。


● 下野竜也プレゼンツ! 音楽の魅力発見プロジェクト第4回 《新世界より》徹底大解剖―オーケストラ付レクチャー
2017年8月12日
 アイディアマンのマエストロ下野竜也さんの指揮、お話、企画監修により、かの名曲、ドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》を徹底解剖するというレクチャー・コンサートが開かれました。
 主催はすみだトリフォニーホール、会場はもちろん同ホール。オーケストラは、ここを拠点とする新日本フィルモニー交響楽団。

 会場に入ると、スクリーンいっぱいに、威厳あるお髭の肖像(左写真)が映し出されています。
 ちょっと見たことのないドヴォルザークね? こんな写真もあったのかしら? と思いつつも、その時はそれ以上、考えませんでした。
 やがて登場した下野さん、挨拶抜きにいきなりオーケストラを指揮して、《新世界より》の第2楽章を演奏します。
 有名な《家路》の部分。なんと、オーケストラの楽員が「♪遠き山に、日は落ちてー」と歌いだしたのです。
 演奏が終わると、客席に向き直った下野さん「今日は仕掛け満載ですよ」と語られ、「その手始めが先ほどの肖像です。実はあれはドヴォルザークではなく、ノーベルなんです。似ているでしょ。」とタネあかし。会場がどよめきます。
 下野さんご自身、ノーベルの肖像を初めてご覧になったとき、ドヴォルザーク(下)とそっくりと思われたのだそうです。
 右写真が本物のドヴォルザーク

 続くレクチャーは、《新世界より》がいかにドヴォルザークの非凡な才を表しているかについて語るもので、もしも凡庸な作曲家ならこうなる、というヴァージョンと、実際の《新世界より》の演奏を対比させながら進められました。
 例えば、シンバルの使い方。ご存知の方も多いことでしょうが、この曲では、シンバルがたった1カ所、本当にただのひと打ちだけ、鳴らされます。凡庸な作曲家ヴァージョンでは、派手にガンガン鳴らす、という見本演奏のあと、本当のこの曲の千両役者のごときシンバル演奏部分を示してくださいました。
 それはどこかというと、第4楽章が始まってから1分半ほどのところです。しかも弱奏ですので、気をつけていないと知らずに過ぎてしまいます。
 でも、このシンバルのひと打ちを境に、世界ががらりと変わります。
 そんな楽しいレクチャーでした。

 アンコールは、同じドヴォルザークの《わが母の教えたましい歌》。
 原曲は歌曲ですが、本日のオーケストラ・ヴァージョンでは、歌のパートを古部賢一さんの絶品のオーボエが歌いました。
 すみだトリフォニーホール&下野マエストロのこのユニークな企画は今回で4回目。
 来年もこの時期に予定されています。
 どんな仕掛けが飛び出すか、ご興味のあられる方は、ぜひ、足をお運びください。

 左写真は終演後、楽屋で、下野さんと古部さん。


● 中村紘子先生 一周忌
2017年7月26日 ご自宅
 早いもので、昨年のこの日に亡くなられた、中村紘子先生の一周忌が催されました。
 久々にご自宅にうかがう道すがら、この道を通って、ここのこんなお店を横目にみて、この信号をこう渡って(渡り方にコツがあります)、うかがっていたことが懐かしく思い返され、それだけで胸がいっぱいになりました。
 庄司薫先生に一周忌のお悔やみを申し上げていたら、不覚にも涙がこぼれてしまいましたが、庄司先生のほうがよほどお辛いのに、やさしく「ご飯、食べていってよ」とおっしゃってくださいました。


お部屋の中は、白のカサブランカや胡蝶蘭でいっぱい。
主を喪ったスタインウェイは寂しそうです。


● 小平楽友サークル 第16シリーズの打ち上げランチ会
2017年7月19日 小平『夢庵』
 2009年に発足、年間に、10回講座を2シリーズ継続している、小平楽友サークルの第16シリーズが7月19日に完結。恒例のランチ会が開催されました。
 いつもの大黒屋さんが別団体の貸し切りだったため、近くの『夢庵』の和室で、美味しいランチ(写真撮るのを忘れて残念!)をいただきながら、これからの講座へのご希望や、クラシック音楽への想いなどを皆様に話していただき、ご質問のあった、楽器演奏と右利き、左利きの関係について、わたくしがお答えするなどして、おおいにお話がはずみました。

 お店を出てから気づき、残っておられたメンバーの方たちと写真を撮りました。

 第17シリーズ『世界名曲紀行・その2』は、9月6日開講。10回のうちにはいつもオペラを入れていますが、今回はフランスを含むので、皆さんのご希望から多数決により、マスネの『ウェルテル』を鑑賞することになっています。
また、ライヴ・コンサートも予定。東京芸術大学を卒業して、ただいまドレスデン留学中の新進ピアニスト、佐渡建洋さん(写真)をお迎えいたします。

  佐渡建洋さんは、迫昭嘉先生の愛弟子。

 マスネのオペラ『ウェルテル』全幕鑑賞、佐渡建洋さんのリサイタルを含む、17シリーズは9月6日から、小平中央公民館で始まります。
 原則として毎月、第一、第三水曜日の、午前10時から12時までですが、
 佐渡さんリサイタルについては、12月6日、水曜日の午後2時から4時といたしました。会員以外の方も、ぜひ、聴きにいらしてください。

 お問い合わせは、小平楽友サークル代表・山田洋子さん(電話:042−345−8862)まで。講座の見学や入会お申込みもお待ちしております。


● 読売日本交響楽団 第604回名曲シリーズ
2017年7月7日 東京芸術劇場
 飯守泰次郎先生が読響名曲シリーズに登場。ネルソン・フレイレをソリストに迎え、以下のプログラムが演奏されました。
  ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 作品83
  ワーグナー:舞台神聖祭典劇『パルジファル』〜 第1幕への前奏曲、聖金曜日の音楽
  楽劇『ワルキューレ』〜 ワルキューレの騎行
  歌劇『タンホイザー』序曲
 ネルソン・フレイレを聴くのは久しぶり。しかも、このような大曲ですので、いったいどんな演奏かと八分の期待、二分の不安。
 結果は、かりそめにも二分の不安を抱いたわが身を恥じました。
 盤石の基本テクニック、非常に大きなスケール感、見通しのよい構成感、随所に燃え上がる情熱と裡に秘めた繊細さ、作品の内奥に迫る洞察力。鍛え上げたピニズムは揺るぎもなく、そこへ73歳の円熟と遊び心も加わって、この名曲の奥の深さにあらためて目を見開かされる名演を堪能させていただきました。
 後半のワーグナー・ハイライトは、もう飯守カラー全開。愛と情熱のワーグナーです。もちろん、すべて暗譜。
 曲順がおもしろくて、最後の『パルジファル』から逆に『タンホイザー』へと遡るものでしたが、こうした辿り方からも、作曲家の軌跡がみえてきて、興味深く拝聴しました。

 写真は、終演後、楽屋でマエストロご夫妻、音楽評論の諸先輩方と。なかなか撮れない顔合わせかと思い、ご許可をいただいて掲載させていただきました。


● 小山実稚恵さんをお祝いする会
2017年6月29日 ホテル・オークラ アスコットホール
 一昨年にデビュー30周年を迎えられ、昨今ますます充実した活動を展開しておられる小山実稚恵さんのお祝いの会が開催されました。
何といっても最大の慶賀は、平成28年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されたことですが、そのほかにも、2006年からスタートした「12年間・24回リサイタル・シリーズ」がこの11月の第24回でいよいよ完結予定であること、デビュー30周年を記念する新譜CD「ゴルドベルク変奏曲」がちょうど30枚目のアルバムとしてリリースされたこと、初の著書「点と魂と〜スイートスポットを探して」が出版されたことなど、いくつものお祝い事が重なりました。
 芸術院会員の堤剛先生、Bunkamuraの西村友伸社長、指揮者の大野和士マエストロ、広上淳一マエストロ、澤和樹芸大学長他の各界の重鎮が発起人として親交のある方々に呼びかけたところ、かなり広いホテル・オークラのアスコットホールが一杯になるほど多くの参加者が集まって、口々に小山さんを祝福しました。
 小山さんの飾り気のないお人柄を反映して、和気藹々としたパーティーとなり、堤先生との二重奏、大野マエストロ、広上マエストロとの『運命』2台6手版の演奏も繰り広げられて、会場は沸きに沸きました。


(左) 堤剛先生との二重奏  (右) 藝大同期の大野和士マエストロと小山さん。


   (左) 広上淳一マエストロと小山さん。
(右)広上さんの手にしているのは鍵盤ハーモニカ。『運命』のオーボエ・カデンツァを鍵盤ハーモニカで見事に演奏されました。


   (左) 小山さんのご挨拶
(右) 左から、寺西基之氏、、小山さん、西村社長、わたくし、NHKラジオ深夜便の村島ディレクター


● 舘野泉 若き名手たちとともに
2017年6月28日 銀座ヤマハホール
 舘野泉先生が、ご長男のヴァイオリニスト、ヤンネ舘野さん、ヴァイオリンと尺八の亀井庸州さん、チェロの多井智紀さん、トロンボーンの新田幹男さんとのコラボレーション・コンサートを繰り広げられました。
 多彩かつ、内容ゆたかなコンサートでした。
 開演前に時間がありましたので、イグジット・メルサ8階にオープンした「駿河湾さんせん」で、駿河湾直送の海の幸を味わいました。
 トルコブルーのお皿に美しく盛られているのはマグロの生ハム、黒の角皿にこぼれんばかりに鎮座するのは、駿河湾のしらすのかき揚げ、お寿司のネタは飛び切り新鮮でした。


  


● サントリー音楽賞・佐治敬三賞 授賞式&レセプション
2017年6月26日 ホテル・ニューオータニ 鳳凰の間
 1969年に制定された「サントリー音楽賞」は、毎年、わが国の洋楽の発展にもっとも顕著な功績のあった個人、または団体に贈られてきました。
 その第48回2016年度の受賞者に、「ベートーヴェン・ソナタ全集」の録音を積極的に継続して完結させ、その記念として各地で質の高いリサイタルを開催したピアニストの小菅優さんが選ばれ、このほどその授賞式とレセプションが開催されました。
 また、2001年から毎年、チャレンジ精神に満ちた企画で、かつ、公演成果の水準の高いすぐれた音楽公演に贈られている「佐治敬三賞」は、「伶楽舎第十三回雅楽演奏会〜武満徹・秋庭歌一具」(音楽監督=芝祐靖)に贈呈されました。


  (左)左から、堤剛 サントリー音楽賞代表理事・サントリーホール館長、小菅優さん、芝祐靖氏、文部科学省の藤原章夫氏
(右)ご挨拶する小菅優さん

  (左) 左から、矢代秋雄先生の若葉夫人、サントリーホールの長谷川さん、わたくし、岩谷産業の岩谷紀子さま
(右) 東響の元団長、金山茂人氏と現団長の大野順二氏と。大野氏は超長身なので画面から少し上が少し入りきりませんでした。申し訳ございません。


● 山田和樹&日フィル マーラー・ツィクルス完結編と打ち上げパーティー
2017年6月25日 オーチャード・ホール
 ボヘミアのユダヤ人家庭に生まれ、オーストリアで活躍した作曲家グスタフ・マーラー(1860〜1911)には、番号を持つ完成作の交響曲が9曲あります。
 山田和樹マエストロと日フィルは一昨年から、これら9曲を番号順に年に3曲ずつ採り上げ、各回に武満徹作品を組み合わせた全曲シリーズ(ツィクルス)を継続してきましたが、この6月25日の第9番で完結を迎えました。
 生への憧れと荒々しく訪れを告げる死の葛藤をスケールの大きな演奏で描き出した第1楽章、田舎風の舞曲のひなびた味わいの中にパロディ的性格を浮き彫りにした第2楽章、激しく吹き荒れながら、決して響きが濁らなかった第3楽章、これまでのすべての煩悶が昇華されて気高く、美しく、静謐に結ばれたフィナーレ。おみごとでした。

 終演後、ホール2階のビュッフェで打ち上げパーティーがあり、スポンサーの東京エレクトロンの東哲郎代表取締役会長、BUNKAMURAの西村社長、日フィルの平井理事長のご挨拶、武満徹先生の浅香夫人と長女の真樹さんのご挨拶、そしてこの偉業を達成された山田和樹マエストロから謝辞と完結のご感想があり、ともに歩んだ日フィルの扇谷泰朋コンマスからも感無量との完結の辞がありました。


   (左から)東京エレクトロン東哲郎代表取締役会長のご挨拶  BUNKAMURAの西村友伸社長のご挨拶  武満真樹さんと武満浅香さん  山田和樹マエストロの完結の弁


(左)西村社長、東会長夫人、山田マエストロ、BUNKAMURAの役員様と  (右)終演直後にステージ裏で、右は音楽評論家の佐野光司先生


● 小山実稚恵の世界 12年間24回シリーズの第23回
2017年6月17日 BUNKAMURAオーチャードホール
 過日、レクチャー・サロンのお相手をさせていただいた小山実稚恵さんの本公演。
 シューマンの『幻想小曲集』、ベートーヴェンの最後から2番目のピアノ・ソナタ作品110、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ第21番変ロ長調が、ゆたかな膨らみと限りない心情表現をもって演奏されました。とりわけ、ベートーヴェンの作品110に寄せた愛惜と昇華の想いが、胸に刺さりました。

左写真は終演直後にパック・ステージで。
右写真は、小山さんのサポーターの皆さま、小山さんのご母堂さま(わたくしの向かって左隣)とともにホールの一階フォアイエで。

 今回のコンサートにはNHKの取材が入っていました。
 6月28日、水曜日、午前7時からの『おはよう日本』で放映がありました。


● 東京フィルハーモニー交響楽団 第110回オペラシティ定期シリーズ
2017年6月14日 東京オペラシティ コンサートホール
 渡辺一正指揮の東フィル、オペラシティ・シリーズを拝聴しました。
 いつ聴いても、心惹かれるリストの交響詩『プレリュード』が幕開けを飾り、次いで、リスト国際コンクールに優勝したばかりの阪田知樹さんをソリストに迎えたリストのピアノ協奏曲第1番、後半はブラームスの交響曲第4番というプログラムでした。
 プレリュードというのは前奏曲一般のことですが、リストのこの交響詩はこれを固有名詞としています。
 彼はこの曲を、人生は死への前奏曲である、との位置づけのもとに、永遠なる死の世界へのほんの前奏曲に過ぎない人生とその対極にある死を、オーケストラによる交響詩の形で描き出したのです。わたくしはこの曲を、リストの人生観、死生観が窺われる宇宙的視座を持つオーケストラ曲と認識しているので、聴くたびに身が引き締まります。
 渡辺一正さんの演奏は、大上段に振りかぶったところのない自然体のもので、それゆえに、リストの達観が滲み出ていたように思えました。
 ピアノ協奏曲は3つの楽章が切れ目なしに演奏される、単一楽章スタイル風のわかりやすい協奏曲ですけれども、リストならではのピアニズムが要求されるので、これを弾いてさまになるピアニストというと、限られてしまいます。
 阪田知樹くんの演奏は、曲を隅々まで知り尽くし、リストの表現希求にも鋭い洞察を巡らせた理想的なものでした。
 さらに、知樹さんはソリスト・アンコールとして、リストの『ラ・カンパネッラ』を弾き始められのですが、あら、ちょっと違うわ、とびっくり。
 実は彼の弾いたのは、お馴染みの現行版ではなくて、それ以前に出版した初版だったのです。
 現行版より音符の数も多く、難度の高い、恐るべき版です。
 そういう版にしっかり目配りし、ちゃんと弾きこなしてしまう若きヴィルトオーゾに乾杯!!

写真は、幕間に阪田知樹くんの楽屋で。


● 浜離宮ランチタイム・コンサート 仲道郁代&ミヒャエル・コフラー
2017年6月12日 浜離宮朝日ホール
 このシリーズのプログラム解説を書かせていただいて早くも10数年になります。
 11:30開演、休憩をはさみ、13:00すぎまでという時間帯です。最近はご無沙汰していたのですが、今回はぜひ拝聴したくて出掛けました。
 ピアノの仲道郁代さんはランチタイム・コンサートの常連アーティストのおひとり。
 今回は、留学時代によく共演されていたというフルートのコフラーさんとの久々のお顔合わせです。コフラーさんはかつて弱冠20歳にしてミュンヘン・フィルの首席に抜擢されたという名手で、今回は、フルート・オリジナルのドップラー『ハンガリー田園幻想曲』、ボルヌ『カルメン幻想曲』のほか、ヴァイオリンが原曲のモーツァルトのト長調ソナタ、そしてなんと、フランクのソナタまで、唖然とするほどの名人芸を披露なさいました。
 終演後、仲道さんに、コフラーさんを紹介していただきました。とてもフレンドリーな方でした。


● 新国立劇場 ワーグナー:『ジークフリート』
2017年6月10日 新国立劇場オペラパレス
 飯守泰次郎先生が音楽芸術監督任期中に完結を目指すワーグナーの楽劇4部作、故ゲッツ・フリードリヒ演出の『ニーベルングの指環』もいよいよ佳境に差し掛かりました。
 6月1日に初日を迎えた4部作中の第3作『ジークフリート』は、生まれる前に父を亡くし、誕生と引き換えに母を亡くして、小人族のミーメに育てられた、荒ぶるティーンエイジャーの成長物語です。
 ミーメは、この壮大な指環争奪物語の発端をつくった小人アルベリヒの弟で腕のよい鍛冶屋ですが、兄から奴隷の如く手荒に扱われて、兄がラインの乙女たちから奪ってきた黄金から指環と隠れ頭巾をつくらされ、出来上がると強引にとりあげられました。
 ところが、大神ヴォータンは、神々の城を巨人兄弟に建設させた報酬に、義妹フライアを与えるのが惜しくなり、奸計を用いてアルベリヒから黄金と指環、隠れ頭巾を強奪し、それを巨人兄弟に支払うのです。あまりといえば、あんまりなやり口ですね。無念きわまりないアルベリヒは指環に呪いをかけ、その呪いがすぐに奏功し、巨人兄弟は仲間割れして弟ファーフナーが兄ファーゾルトを殺します。ここまでが第1作『ラインの黄金』です。
 その指輪奪還のためには比類のない英雄が必要と考えたヴォータンは、人間女性との間に男の子ジークムントと女の子ジークリンデの双子を誕生させますが、この兄と妹は幼くして離れ離れとなって、筆舌に尽くしがたい苦労の末に巡り合い、兄妹にして男女の仲となります。本来なら、このジークムントがそのまま英雄として指環奪還をすればよかったのに、ヴォータンの正妻フリッカが、夫の不義の子とその実の妹との相姦などまかりならぬ、と正論を振りかざしてヴォータンをやりこめ、ジークムントを死に至らしめたために、英雄の役割は、ジークリンデの胎内に宿っていた息子に継承されるわけです。
 これが第2作の『ワルキューレ』です。ワルキューレというのは、ジークリンデの逃亡を助けたヴォータンの娘ブリュンヒルデの役職名ですが、このブリュンヒルデの母はヴォータンの正妻のフリッカではなく叡智の神エルダです。だからこそ、フリッカは、ヴォータンに彼女のことも罰させるのです。彼女はジークリンデとジークムントを助けようとしたことで、フリッカにそそのかされた父の怒りを買い、神格をはく奪されて、焔の岩山で長い眠りにつきました。
 さて、第3作『ジークフリート』では、腹に一物あるミーメに育てられたみなし子、ジークフリートが、大蛇に変身して指環を守っているファーフナーを退治して、指環と隠れ頭巾を得ます。それを巻き上げようとしたミーメはジークフリートの刃に倒れ、大蛇の血をなめたジークフリートは途端に小鳥の言葉を解するようになり、その言葉に導かれて焔の岩山に眠る戦場乙女ブリュンヒルデのもとへ到達し、彼女の眠りを覚まして恋人同士となります。
 今回の『指環』4部作では、第1作で火の神ローゲを演じたステファン・グールドが、第2作ではジークムント、第3作、第4作ではジークフリートに扮するのが大きな聴きどころで、他にも、ヴォータンのグリア・グリムスレイも複数作に通演しています。
 この二人も素晴らしいのですが、今回はミーメのアンドレア・コンラッドが狡知にたけた、しかし、どこかユーモラスで憎めないところがあり、かつ悲哀感も感じさせる、卑屈な小人を実に好演していました。
 北欧調のグリーンの映える舞台も印象的でした。歌手だけで4羽、ダンサー1羽、計5羽も登場した森の小鳥については、あまりに原色でセクシャルな衣装に対して初日に批判のお声もあったそうで、5月29日にゲネプロを拝見したときとは少し変わって、歌手4人は穏当なものになっていました。


● 渡辺健二 ピアノ・リサイタル
2017年6月9日 東京文化会館小ホール
 昨年11月6日、来日を目前にして65歳で世を去ったハンガリーのピアニスト、コチシュ・ゾルターンを偲んで、故人と親交の深かったピアニスト、渡辺健二氏がリサイタルを開催されました。
 リスト音楽院に学ばれた渡辺氏は、わが国屈指のハンガリー、ピアノ音楽の大家で、先ごろまで東京芸術大学音楽学部長の大任を果たされながら、定期的なリサイタルを継続されてこられました。
 今回もきりりとした演奏ぶりでした。

       ※詳しい演奏批評は『音楽の友』8月号に。


● ハオチェン・チャン ピアノ・リサイタル
2017年6月8日 紀尾井ホール
 1990年6月3日、上海生まれのハオチェン・チャンは、5歳でデビュー、6歳にしてオーケストラと共演し、
2009年の第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで第一位を獲得した逸材です。
 ヴァン・クライバーン以後に来日したとき、2度ほど聴いてその逸材ぶりを目の当たりにし、少し話もしていました。
 今回の来日リサイタルには、プログラム・ノート書いていたので、終演後、バックステージに飛んでいきましたら、
前にお話したときのことをよく覚えていて下さり、話が弾みました。
 シューマンの《子どもの情景》の抑制のきいた表現から、プロコフィエフの《戦争ソナタの》のエネルギッシュで超テクニカルなピアニズムまで、
らくらくと、表出できる、とてつもないピアニストです。
 音楽性とテクニック、両要素を具えていて、あれほどのピアノをお弾きになるのに、お人柄も温和で誠実。
 秋には、大野マエストロとラフマニノフの3番を予定されています。


● 「スターピープル」2017年summer号「宮澤賢治特集」に執筆

 2017年6月7日発売の季刊誌「スターピープル」は宮澤賢治特集号です。

 同号に、「賢治の宇宙」《音楽編》を執筆しています。

 賢治が、スターピープルのひとりではなかったかという観点でまとめました。


● 小山実稚恵 24回シリーズ、第23回のプレ・レクチャーサロン
2017年5月30日 オーチャードホール
 小山実稚恵さんの12年間24回リサイタル・シリーズいよいよこの秋で完結。
6月17日の第23回に先立つレクチャーサロンが5月30日に、いつになく多数の皆様のご参加を得て和気藹々と開かれ、トークのお相手を務めさせていただきました。今回の演奏曲目は以下の3曲。
    ♪シューマン:『幻想小曲集』全8曲
    ♪ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番作品110
    ♪シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調
 それぞれの聴きどころを解説させていただき、曲に対する小山さんの想いなどをうかがいました。
 小山さんは一部の曲の演奏も聴かせてくださりながら、いつものやさしい語り口で、誠実に丁寧に、質問に答えてくださいました。
 NHK『おはようニッポン』の収録が入っていましたので、たぶん、6月17日過ぎに、一部の映像が放映されるのかもしれません。


写真右:この写真を送ってくださった、後藤愛子さん(右)、そのご友人の「土の器」さんこと、中沢一恵さんと。


● 熊本シティオペラ協会30周年記念公演 佐久間 伸一 バスリサイタル
2017年5月28日 熊本県立芸術劇場
 東京藝術大学卒業後二期会オペラ研究所を経て渡伊、数々の国際コンクールで上位入賞を重ねたバス歌手、佐久間伸一氏は87年帰国後、熊本シティオペラ協会を主宰して熊本のオペラ普及に貢献してこられました。
昨年4月、同協会の『椿姫』公演予定の数日前に震災に直面され、やむなく公演延期となられましたが、メンバー、支援者一丸となった多大なご努力の末に今年1月に無事上演に漕ぎつけられました。
 今回は佐久間氏ご自身の9年ぶりのリサイタルですが、個人のリサイタルというよりも同協会30周年を記念するとともに震災復興祈念を込め、多くの助演者一体となって盛り上げた、たいへん意義深い公演でした。
 若い演奏家の方々による合奏団をバックとする古典歌曲独唱もあれば、奥様の渡辺ゆみこさんのピアノ伴奏によるトスティ歌曲や日本歌曲、神宮章氏指揮、砂泊宇希さんのピアノによる熊本シティオペラ協会ヴェルディ合唱団による『ナブッコ』の合唱曲とマスカーニの合唱曲など、多彩な演目が上演されました。
 なかでも、ソプラノの福島由紀さんと共演した『ドン・パスクワーレ』の平手打ちの歌は、佐久間氏の広い芸域を示しておみごとでした。
    ※詳しい演奏批評は『音楽の友』7月号に執筆いたしました。


写真左:往きの飛行機の窓から撮影した阿蘇の山々


● 第22回 宮崎国際音楽祭取材
2017年5月12日〜15日
 青葉萌え、風薫る5月、今年も南国宮崎にお邪魔してきました。
 2011年から毎年うかがっているので、今回で7回目となりました。あの東日本大震災直後の2011年のときは、宮崎の地に震災被害こそなかったものの、原発事故の影響から音楽祭に出演の決まっていた多くの海外アーティストの来日が取りやめとなり、果たしてこれで開催できるのか危ぶまれる中、徳永二男音楽監督の粉骨砕身の努力と、ピンカス・ズーカーマンの温かな協力で実現の運びとなったことを、今も鮮やかに思い出します。
 今年もズーカーマンが会期後半の柱となり、そのほかウィーン・フィルの元コンマス、キュッヒルさん、広上淳一マエストロらの出演で盛大な音楽祭が繰り広げられました。
 なかでも、最終日のコンサート形式オペラ『 椿姫 』は、このとてつもなく負担の多いタイトル・ロールを初役でみごとに歌い上げた中村恵里さん、いつもながら惚れ惚れするテノールを響かせた福井敬さんらの好演、そして、広上淳一指揮、音楽祭祝祭管弦楽団の音量豊かでニュアンスに富んだオーケストラ・ワークによって、全聴衆の胸に深い感動を呼び起こしました。詳しいレポートは『音楽の友』7月号に……。

(右)今年のテーマカラーの花々で飾り付けられた、宮崎県立芸術劇場の階段アプローチ

(左)音楽祭の立役者、左から、河野知事、徳永音楽監督、広上マエストロ
(中)左から河野知事、『椿姫』アルフレードを熱唱した福井敬さん、ヴィオレッタで聴衆の感涙を誘った中村恵里さん、知事夫人、県立芸術劇場の佐藤館長
(右)カラフルな美女アーティストたちに囲まれてご機嫌の佐藤館長


● 千代田区 かがやき大学講座『クラシック・ジャケットの女性十選』
2017年5月8日、15日&22日
 4月のライヴ・コンサートを含め、4回にわたって、CDの表紙を飾った美女絵とそのCDに収録された楽曲についてお話した、かがやき大学の講座が無事、終了いたしました。
 写真は、最終回5月22日に受講生の方たちと撮ったものです。
 次の講座は秋です。


● 千代田区 かがやき大学 春の特別講座
 萩谷由喜子のレクチャー&コンサート『竹久夢二と大正ロマン』

2017年4月26日 九段 かがやきプラザ1F ひだまりホール

 2月の日経新聞連載『クラシック・ジャケットの女性十選』をかがやき大学で講座化いたしました。

 初回の特別講座はライヴ・コンサートつきで、ソプラノの萩原みかさん、ピアノの二宮万莉さんに、夢二ゆかりの大正名歌のほか、オペラ・アリア数曲もご披露いただきました。

 おかげさまで予定人数を超える応募があり、皇居の北の丸のお堀を借景とするひだまりホールは超満員でした。


(左写真)ステージの背後は皇居のお堀という贅沢なロケーション  豪奢なバラの花柄のドレスの萩原さん、清楚な黒のドレスの二宮さんと。
 わたくしは大正ロマンに因み、えんじ色の矢羽根柄のお召しに紫の塩瀬の帯にいたしましたが、実はこのお召しは、大学の卒業式のときにこれに袴をはいて臨んだもので、それ以来、30年ぶり、二度目の着用です。
(右写真)受講生のみなさまとともに


● 小平楽友サークル 第16シリーズ継続中
2017年4月19日 小平中央公民館
   2009年の上半期に公民館主催講座として10回連続で開催した『音楽史を彩る女性たち』講座を母体に、受講生有志の方々が発足させてくださった『小平楽友サークル』はその後も半期に1シリーズ(10回)を単位に各シリーズ、テーマを決めて、継続してきました。
 この4月からは第16シリーズ『世界音楽紀行』その1が始まっていて、4月19日はその第4回でした。
 第1回から、イタリア、オーストリア、チェコときて、今回はドイツを採り上げ、音楽家縁のドイツ各地の映像とともにバッハ、ウェーバー、メンデルスゾーン、ワーグナー、ブラームス、カール・オルフらの作品を鑑賞いたしました。
 最近は講座のはじめにイントロ・クイズで遊んでおります。

 現在のシリーズの今後の予定は、5月10日、5月17日、6月7日、6月21日、7月5日、7月19日で、5月10日にドイツ・オペラのルーツと系譜をレクチャして、17日にベートーヴェンの『フィデリオ』を鑑賞いたします。

 どの回からの参加可能で、会費は毎月2,000円、原則として毎月第1、第3水曜日の10:00〜12:00 小平中央公民館のホール、または講座室で開催しています。
 参加ご希望の方は、山田洋子代表 電話:042-345-8862 まで。
左写真
ここが公民館ホールのステージです。100名超入るホールですので、DVD鑑賞も映画館並みの迫力があります。年に1乃至2回、ここでライヴ・コンサートも開催しています。
新国立劇場『オテロ』
(右写真)
そのあと、新国立劇場『オテロ』へ
 オテロ、デズデモーナ、イヤーゴまでが外国人歌手、ロドヴィーゴが妻屋秀和さん、カッシオが与儀巧さん、エミーリアが清水華澄さん、ロドリーゴが村上敏明さん、モンターノが伊藤貴之さんと、日本人歌手も多く登場し、外人勢に遜色のない歌唱と演技で舞台を盛り上げました。


● ノックレベルグ教授 レクチャー・コンサート & 懇親パーティー
2017年4月7日 ノルウェー王国大使館

 ノルウェーを代表する名ピアニスト、アイナル・ステーン=ノックレベルグ教授が来日され、ノルウェー大使館ホールで、ノルウェー音楽に関するレクチャーをなさりながら、味わい深い演奏を聴かせてくださいました。

 また、グリーグの子孫である声楽家、ヴォイス・トレーナーのシェル・ヴィーグ氏が北欧の風を感じさせる、すがやかな独唱も聴かせてくださいました。

 この貴重な機会は、日本グリーク協会がつくってくださり、大使館がご協力なさいました。
 詳しい記事は「ムジカ・ノーヴァ」6月号に執筆いたします。


写真 ご先祖グリーグの歌曲を歌う、ウィーグ氏  ノルウェー大使館の方々と共に


● 墓参・お花見、トスカニーニ・コーヒー、『神々の黄昏』
2017年4月4日
 きびきびとした弛緩のない音楽運び、かっちりと折り目の整った造形で今もわたくしたちを魅了してやまないイタリア人指揮者、アルトゥーロ・トスカニーニは1867年3月25日、イタリアのパルマに生まれ、1957年1月16日、ニューヨークに没しました。
巡業オペラ団のチェリストとして南米ドサまわり中の19歳のとき、指揮者が倒れてしまい、楽員の中でただ一人全スコアを頭に入れていた彼が急遽ヴェルディの『アイーダ』を振って突如指揮者に転じたデビュー・エピソードはよく知られていますが、ほかにも、敬愛するプッチーニの遺作となった『トゥーランドット』の初演中、リューの死の場面で「マエストロはここまで書かれて神に召されました」と静かに指揮棒を置いたという感動秘話、ムッソリーニ政権を嫌って「ファシスト独裁の国では指揮はしない」と公言しそれを貫いた武勇伝、かんしゃく持ちで指揮台の上に置いた金時計をしばしば楽員に投げつけるので、オーケストラでは安物の時計を用意するようになった話、などなど多くの逸話が残されています。
 今年はその伝説的巨匠の生誕150年、没後60年にあたります。

(左写真) 門前仲町の『東亜珈琲』にて、トスカニーニ・コーヒーを賞味
 同店のコーヒー豆をブレンドしたイタリアのメーカーの先々代がトスカニーニと友人だったそうで、それに因んで、おそらく?巨匠好みのこのコーヒーがメニューにあるようです。

 4月4日、境内に桜花五分咲きの菩提寺に母の墓参を済ませ、菩提寺の近くの仙台堀川、大横川の桜をめで、深川名物のあさりの蒸籠蒸しご飯をいただいたあと、門前仲町交差点北東角の「東亜珈琲」に立ち寄り、同店のまったく宣伝なさっていない=きわめて目立たない通常メニュー、「トスカニーニ・コーヒー」を味わってまいりました。
 深煎りの豆で濃い目に淹れたブレンド・コーヒーですが、ビター・チョコレートの風味に彩られているのが大きな特色で、いただいた後のカップに、カカオらしきものが残りました。
 そのあと、上野へ急行。15:00からの東京文化会館、演奏会形式『神々の黄昏』に滑り込みました。3年前から始まった『指環』がこれでようやく完結です。感想はいろいろあって書ききれませんが、一番印象に残ったのは、ブリュンヒルデがジークフリートに愛馬グラーネを託するときに言ったこの言葉です。
「可愛がってあげてね。あなたの言葉がわかるから」
 今、ワーグナーがいかに動物好きであったか、あの波瀾万丈、夜逃げ、逃亡日常茶飯事の生涯のほとんどつねに、犬やオウムなどとともに暮らし、彼らにどれほど惜しみない愛を注ぎ続けたかを研究中なので、これまであまり気に留めなかったこの言葉が強く心に残りました。ワーグナーは、動物の言葉がわかる愛の人だったと思うと嬉しくなります。

(右写真) 仙台堀川沿いの桜は5〜6分咲きでした。
 オフ・ホワイト地に薄いグリーンで格子を織り出し、赤と黄色の井絣を飛ばしたこの紬は大学時代におお気に入りして買っていただいたもの。仕立てはもちろん母。今日初めて、母の墓参に着用しました。帯もその当時、帯地で購入して母が芯入れを工夫して仕立ててくれた名古屋帯ですが、ごく最近になって、締め下ろしました。帯留めはやはり泉下の祖母の愛装品だった大粒のマベパール。とても古い明治のものなので、もしかしたら曾祖母の持ち物だったのかも知れません。
(左写真) 旅立ち姿の芭蕉と
 仙台堀川にかかる海辺橋の南詰には、松尾芭蕉が「奥の細道」出立前の1カ月間ほど寄寓した、門人の鯉屋杉風の別屋 「採茶庵」(さいとあん)があったそうで、それを模したちいさなおうちと、旅姿の芭蕉の像がありました。
 元禄2(1689)年、46歳の芭蕉は、旅に死すことを覚悟の上でここから奥の細道に旅立ちました。

東京・春・音楽祭 ワーグナー『神々の黄昏』
 幕間に「クラシック・ジャケットの女性十選」を企画してくださった日経新聞文化部の岩崎記者(長身)、音楽評論家の江藤光紀さんとお会いして仲良くスリー・ショット。

ワーグナー:舞台祝祭劇『神々の黄昏』(全3幕)
マレク・ヤノフスキ指揮 NHK交響楽団 コンマス:ライナー・キュッヒル
グンター:マルクス・アイヒェ、ハーゲン:アイン・アンガー、アルベルヒ:トマス・コニエチュニー、ブリュンヒルデ:クリスティアーネ・リボール、ヴァルトラウテ:エリーザベト・クールマン、ジークフリート(急遽ロバート・ディーン・スミスの代役):アーノルド・ベズイエン


● 東京都交響楽団 都響スペシャル《オーケストラが物語の扉を開く〜シェイクスピア讃》
2017年3月26日 オペラシティコンサートホール
 大野和士マエストロのプロデュースによる、シェイクスピア・プログラムを拝聴してきました。昨年2016年がシェイクスピア(1564-1616)没後400年でしたので、その後夜祭にあたります。
 1年はあっというまですから、今年に入ってもシェイクスピア・プロジェクトが続いてほしいと思っていましたら、都響さんでこのような厳選された、極上のシェイクスピア音楽を聴かせていただけたのは嬉しい限りでした。
 プログラムは下記の通りです。
♪ チャイコフスキー:交響的幻想曲《テンペスト》
♪ トマ:歌劇《ハムレット》よりオフィーリアのアリア〈私も遊びの仲間に入れてください〉
♪ プロコフィエフ:バレエ組曲《ロメオとジュリエット》
 シェイクスピアの戯曲《テンペスト》は、邪悪な弟の奸計にはまってミラノ大公の地位を追われ、娘ミランダとともに絶海の孤島に流れ着いたプロスペローが主人公です。彼はこの島で娘と共に魔法の修練に励み、魔法の力で嵐(テンペスト)を起こして、弟のミラノ王とナポリ大公の乗る船を島へ漂着させます。そして、弟から大公位を奪還し、娘をナポリ王と結婚に至らせるというストーリーです。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ17番は《テンペスト》という愛称で知られますが、なぜこう呼ばれるのかというと、このソナタの解釈を尋ねた弟子シントラーに対して、ベートーヴェン自身が「それなら、シェイクスピアの《テンペスト》を読みなさい」と言ったのが由来とされます。でも、シントラーの言の信憑性も薄く、戯曲とソナタの関係性も今ひとつはっきりしません。
 それに対して、こちらの交響的幻想曲は嵐の場面を彷彿とさせますし、いろいろと想像力の刺激される音楽です。生で聴く機会は多くないので、都響の名演で聴けたのはありがたいことでした。

 トマのオペラ《ハムレット》からのオフィーリアのアリアは、婚約者ハムレットにつれなくされて絶望し、童女のようになってしまったオフィーリアが野を彷徨い、子どもたちの遊びの輪に入れて欲しいと歌う哀しい独白で、高音で声を転がすソプラノの超絶技巧コロラトゥーラの難曲として知られます。
 ことに、高い「ミ」の音、ハイEが出てくるために、歌いこなせるソプラノは稀と言われますが、この日登場した、アメリカの若いソプラノ、アマンダ・ウッドベリーさんはこれをらくらくと歌い上げ、会場を震撼とさせました。
 すでに、メット・デビューも果たしているそうですが、おそらく、これが日本での初お目見え。あとで、大野マエストロにうかがいましたら、あるコンクールで彼女を聴いてその実力に驚き、今のうちにと、すぐに今回の起用をお決めになったということでした。
 後半のプロコフィエフのバレエ組曲は大野さんのセレクト。ストーリーに沿ったものであることが大きなポイントで、都響の精鋭たちの見事なオーケストラ・ワークとあいまって、バレエの場面が次々に目に浮かんできて、バレエを観るような迫真力がありました。

(写真)アマンダ・ウッドベリーさんを楽屋にお訪ねしましたら、フランス・オペラのみならず、イタリアものにも芸域拡大中とのお話でした。今回はこのアリア1曲のための来日ですが、近い将来、メットのプリマドンナとして日本の土を踏まれることでしょう。大型株です。


★ コンサートの予告
千代田区 かがやき大学 春の特別公開講座
♪ 萩谷由喜子のレクチャー&コンサート『竹久夢二と大正ロマン』
2017年4月26日 午後1時30分〜3時 九段下 かがやきプラザ1階 ひだまりホール(東京メトロ九段下駅5分)

 2月に日経新聞に連載した『クラシック・ジャケットの女性 十選』を5月のかがやき大学連続講座で詳しく採り上げます。
名画の美女と名曲のお話をおききいただき、作品を解説付きで鑑賞いたします。それに先立ち、そのうちの『竹久夢二と大正ロマン』の回をライヴ・コンサート・スタイルで企画いたしました。
 夢二の作詞による『宵待草』、夢二が楽譜の表紙絵を描いた『ゴンドラの歌』などの大正名歌からモーツァルトのオペラ・アリアまで、ザルツブルク・モーツァルテウム出身、フィナーレ・リーグレ・コンクール第3位に輝く二期会の名ソプラノ、萩原みかさんに歌っていただきます。ピアノは東京音大声楽家科の伴奏助手として活躍中の二宮万莉さんです。
 千代田区民の方は、千代田区社会福祉協議会 ?03-3265-1161までお申し込みくださいませ。無料ですが、先着120名で締め切りとなります。
 区民以外の方で、4月26日のコンサート、あるいは5月の連続講座を聴講ご希望の方は、このトップ・ページの一番下部に公開している萩谷由喜子のメール・アドレスまで直接ご連絡くださいませ。5月の講座は、8日、15日、22日のいずれも月曜日、午後1時30分から3時まで。会場はコンサートと同じひだまりホールです。


● 新国立劇場 新制作 ドニゼッティ『ルチア』
2017年3月23日
 タイトルロールがとりわけ見事、バリトンがこれまたよし、テノールもよし、この3名は外国人ですが、日本人歌手の皆さんも彼らに遜色のない歌いぶり、彼らを存分に歌わせ、重唱もぴたりと揃える指揮者の手腕も冴え、演出も斬新さと古典的な一面を併せ持つ見応えのあるもの、何から何まで素晴らしい『ルチア』でした。
 初めて体験したのは、第3幕「狂乱の場」でのヒロインのコロラトゥーラにつける独奏楽器がグラスハーモニカだったことです。これは、多数のガラスのグラスを盤の上に並べ、奏者は濡らした指先でその縁をこすって音を出すという繊細な楽器です。18世紀に流行りましたが、音の密度の濃さが奏者と聴く者の神経に差し障る?のか、奏者の指先の神経を痛めるのか? 定かではありませんが、いつしかほとんど廃れた楽器です。
 新国立劇場では飯守泰次郎先生の肝煎りで、ドイツからこの幻の楽器のスペシャリストを招き、ただでさえ聴きどころ充分の「狂乱の場」にさらに花を添えた上演となりました。

右端の写真:これはグラスハーモニカのイメージ写真。『ルチア』で使われたものは、多数のグラスを普通に並べたタイプで、盤の下にはマリンバのような共鳴管がついていました。

 終演後、友人の音楽評論家、吉田真さんのお引き合わせで、新国立劇場の音楽スタッフ、城谷正博さん、木下志寿子さんとお会いして、グラスハーモニカについてもお話が弾みました。
吉田さんもそうですが、城谷さんはわが国のワーグナー楽劇の第一人者のおひとりで、『パルジファル』『ラインの黄金』『ワルキューレ』と新国立劇場のワーグナー上演にずっと携わってこられました。その一方、お仲間たちと「わ」の会という、手作りワーグナー楽劇上演グループを結成されて、おひとりおひとりの桁外れのワーグナー能力の精華というべき、質の高い、他ではありえない舞台を世に問うておられます。昨夏、その「タンホイザー」+「トリスタン」を拝見して驚愕し、『音楽の友』年間ベストテンのトップに挙げさせていただいたご縁で、この日、上演の立役者で指揮とピアノの城谷さん、ワーグナー・スコアをピアノ1台で表現なさった驚異のピアニスト、木下さんとおめにかかったという次第です。
 現在、城谷さん、木下さんは5月17日のセミ・ステージ形式『ジークフリート』の稽古まっただ中。本番が楽しみです。

写真:左から、木下志寿子さん、城谷正博さん、吉田真さん。


● 都民劇場音楽サークル第645定期公演 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
2017年3月17日 東京文化会館大ホール
 1952年「ベルリン交響楽団」の名称のもとに創設され、首席指揮者クルト・ザンデルリンクの時代1960〜77年に世界的なオーケストラのひとつに成長したこの団体は、2006年に現名称に変更後も躍進を続けています。
 今回の日本ツアーの指揮者は、エリアフ・インバル。この日は都民劇場の定期公演としてのコンサートで、インバルは同劇場への初登場。それも大きな話題です。
 前半は、上原彩子さんを迎えた、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466。冒頭のオーケストラによるシンコペーション動機は、じっくりと彫り付けるようなテンポ。重みがあります。上原さんのソロが始まると彼女のペースとなり、マエストロ・インバルとの信頼関係がよく伝わってくる緊密なコラボレーションが築かれました。
 第1楽章のカデンツァはベートーヴェンのもの。いつもこれを聴くと、ベートーヴェンのモーツァルトへの敬愛を感じて胸が熱くなります。そして第3楽章では、初めて耳にする、力のこもった堂々たるカデンツァが奏されました。

写真左:所属事務所ジャパンアーツの大内社長も、今回のツァーで『皇帝』とK.466を弾き分けた上原さんの功を称えていらっしゃいました。

写真右:楽屋で、上原さんにうかがいましたら、やはり第3楽章カデンツァは自作とのこと。「まだ譜面に起こしていないので、次のときは変わるかも」(笑)


● 神奈川県民ホール オペラ『魔笛』
2017年3月18日 神奈川県民ホール
 国際的なダンサーでもある勅使川原三郎の演出、装置、照明、衣裳、川瀬賢太郎の指揮、大島義彰の合唱指揮、八木清市の舞台監督による『魔笛』を観てきました。
 このモーツァルト最後のオペラは音楽があまりに魅惑的なので、どのような上演形態でもそれなりに面白く拝見できますが、作品に内在する光と影、時間概念、宇宙的なるものの本質に迫るプロダクションにはめったに出会えません。しかも、ストーリーの最大の不可思議な点は、前半と後半とで善悪が逆転してしまうことです。この点をきちんと説明し、観る者を納得させるのは制作者の大きな課題でしょう。
 このプロダクションは、ダンスの要素に原作の演劇的要素を融合させたもので、本来歌手の語る台詞をすべて日本語ナレーションで構成するという画期的な試みでした。
 全2公演は一部を除くダブル・キャスト。わたくしの拝見した18日はザラストロに大塚博章、夜の女王に安井陽子、タミーノに鈴木准、パミーナに嘉目真木子、パパゲーノに宮本益光、パパゲーナに醍醐園佳。みなさん、板についた歌唱と演技でした。

※詳しい公演批評は『ハンナ』5月号に書きました。

写真:会場の神奈川県民ホールは、山下公園の向かいです。
   左 『白鳥の湖』オデット姫のような白の羽毛衣装に身を包んだ宮本益光さんのパパゲーノと。
   右 わが国を代表するタミーノ歌手、鈴木准さんは赤の衣装、白鳥風のパパゲーノと好対照。


● 神田将さん、エレクトーン・リサイタル2017 《響像》U
2017年3月11日 東京文化会館小ホール
 エレクトーンという電子楽器で、クラシック専門に独自の境地を開拓されている神田将(かんだ・ゆき)さんが、すべてご自分で原曲をエレクトーンに移されたプログラムによるクラシックのリサイタルを開催されました。想像を絶する困難を乗り越えて、ここまでこられた孤高のエレクトーン奏者です。神田さんとは、以前に霧島でお会いして、その後2014年に仙台クラシック・フェスティバルで協演させていただいたご縁があり、この日はそのときの《運命》も再び、聴かせていただくことができました。そのほか、ヴェルディ《運命の力》序曲、ラヴェル《鏡》より〈海原の小舟〉、後半は何と、ラフマニノフ《交響的舞曲》。これには圧倒されました。

写真:名前に「ゆき」の音があるもの同士。また協演機会があればいいですね、とおっしゃっていただきました。


● 清水和音さん、協奏曲3曲を一日で弾く!!
2017年3月5日 オーチャード・ホール
 ピアノ界の永遠の貴公子、清水和音さんが、梅田俊明指揮東フィルとの協演で、ベートーヴェンの《皇帝》、チャイコフスキーの1番、ラフマニノフの2番を一挙に演奏されました。ちょうど、《皇帝》は3日前に同じ梅田さんの指揮で、小山実稚恵さんのソロを聴いたばかり。しかも、チャイコフスキーは前日3月4日の日フィル定期で、小林研一郎指揮、金子三勇士さんのソロを聴いたところでした。音楽作品の解釈、表現は、表現者の数だけあることを痛感します。終演後、尾高惇忠先生、奥様の綾子先生と共に、楽屋に駆けつけました。尾高先生「あの3曲を全部暗譜しているなんて、君の頭の中はいったいどうなっているの?」和音さん曰く「3曲とも、どれもこれまでに100回以上弾いてますもん。でなかったら、できませんよ」。
 3月4日の日フィル定期の公演批評は、『音楽の友』5月号に。

写真(左):和音さんの楽屋で、尾高先生ご夫妻とともに。和音さんはチャイコフスキーがもっともお気に入り。「あれはホント、気持ちいいよ」と爽快なお顔でした。
写真(右):その前日3月4日に日フィルとチャイコフスキーを協演した金子三勇士さん、木野雅之コンマス(右)と。


●2017都民藝術フェスティバル
 1月から3月にかけて、日本演奏連盟主催の「2017都民藝術フェスティバル」が開催され、首都圏のプロ・オーケストラ8団体の各公演、及び、室内楽シリーズとして3公演の計11公演が開かれました。わたくしはそのうち、オーケストラ公演としては、1月22日の新日本フィルハーモニー交響楽団、2月1日のNHK交響楽団、2月10日の東京フィルハーモニー交響楽団、2月24日の読売日本交響楽団、3月2日の東京都交響楽団、3月8日の東京交響楽団の6公演、室内楽シリーズとしては、2月14日の「ピアノ三重奏の夕べ」、3月3日の「弦楽四重奏の夕べ」の2公演、計8公演を拝聴いたしました。  オーケストラ公演は、いずれも気鋭の客演指揮者に人気ソリストを迎えた協奏曲入りプログラムで、すべて王道の、前半=小品+協奏曲、後半=メインの著名交響曲かそれに近い作品という、たいへん聴き易い構成でした。全公演とも、会場は池袋の東京芸術劇場。駅からのアクセスもよく、チケットもA席=3,800円、B席=2,800円、C席=1,800円のお値打ちものです。極めて限られた練習時間しかとれない悩みもあるようですが、東京都の助成と公益財団法人演奏連盟のご努力で、こうした催しが開かれるのは嬉しいことです。そのうち、都響公演と東響公演をご紹介します。
♪東京都交響楽団公演
2017年3月2日 東京芸術劇場
 指揮は梅田俊明マエストロ、ソリストは小山実稚恵さん、オル・ベートーヴェン・プログラムです。最初に《エグモント》序曲。主人公の悲劇性が胸に迫ります。小山さんはピアノ協奏曲第5番《皇帝》をお弾きになりました。最初のうちは、ピアノの鳴りをいろいろご研究のようすでしたが、一旦感触を掴まれるや完全に楽器を手中に収められ、展開部では迫真のクライマックスを築かれ、再現部への移行句は息もつかせぬ緊張感で聴き手を惹きつけました。

写真(左):大役を終えられたばかりの小山実稚恵さんと。
写真(右):梅田俊明マエストロは3日後に同じ《皇帝》を清水和音さんと協演予定。「やはり、だいぶ違われますよ」とのこと。そこへ山本友重コンマスが顔を出されたのでご一緒に。

♪ 東京交響楽団公演
2017年3月8日 東京芸術劇場
 指揮は山下一史マエストロ、ソリストは上森祥平さん。メンデルスゾーンの序曲《フィンガルの洞窟》にドイツでもご経験の長い山下マエストロの棒が冴えます。上森さんはドヴォルザークのチェロ協奏曲を熱演されたのち、ブリテンの無伴奏チェロ組曲第1番の終曲という、めずらしいアンコール曲を聴かせてくださいました。レパートリーの広い上森さんならではの選曲です。

写真(左):上森さんと。また8月に恒例のバッハ無伴奏全曲コンサートをなさいますので、聴きに行くお約束をいたしました。
写真(右):前半で汗びっしょりになられた山下マエストロ。休憩時間にTシャツ姿で今後のご予定を熱っぽく語ってくださいました。


● 広島交響楽団 フラグシップ・コンサート Music for Peace & ワークショップ
2017年2月15日〜16日
 被爆地に拠点を置くオーケストラの使命として、「Music for Peace」を指針に掲げる広島交響楽団はこの崇高な理念を広く内外に発信することを目的に「日本・ポーランドプロジェクト2016−2020」を昨年から発足させました。
 きっかけとなったのは、原爆投下70年目の2015年に広島交響楽団と初協演したピアニストのマルタ・アルゲリッチが「Music for Peace」の理念に強い共感を寄せたことでした。
 そのプロジェクトの一環として、この2月、ポーランド、及び広島市の姉妹都市であるカナダのモントリオール市からそれぞれ数名の演奏家が招かれ「フラグシップ・コンサート」で同響と共演を果たす一方、前日のワークショップにも、国内外から招聘された音楽評論家、地元の若者とともに参加しました。
 海外音楽評論家としては、カナダからワーグナー研究家のロバート・マーカウ氏、ポーランド・ラジオ局のロバート・ツェザリー・パガッシュ氏、シンフォニア・ヴァルソヴィアのゼネラル・ディレクター、マリシュ・ヤノフスキ氏、アメリカの音楽評論家ポール・ペルコネン氏、ユニバーサル・エディション国際宣伝部長のヴォルフガング・シャウフラー氏、バーミンガム・ポスト紙のクリストファー・モーリー氏、フィガロ紙のクリスティアン・メルリン氏が来日され、わたくしも日本からの音楽評論家ということでこの貴重な機会に招いていただき、ワークショップとコンサートを体験させていただきました。

ワークショップではアムランさんが被爆ピアノを演奏
 ワークショップは2月15日午後6時から平和記念資料館で開催されました。
 最初に、ポーランド招聘ヴァイオリニスト、スタニスラフ・ポデムスキと広響のドイツ人チェリスト、マーティン・スタンツェライトのデュオで、グリエールの4つの小品が披露され、続いてモントリオール在住、2015年のショパン国際ピアノ・コンクールで第2位を獲得したシャルル=リシャール・アムランによる被爆ピアノの演奏がありました。
 被爆ピアノとは、原爆投下の翌日19歳の蕾を散らせた河本明子さんの愛奏したアップライト型です。アメリカの「ボルドウィン」Baldwinとの説明を受けましたが、わたくしの目には「エリントン」Ellingtonとみえました。現在も、中古ピアノ市場に、ときたまEllingtonピアノは現れるようですが、Baldwinピアノとは別物です。もしかしたら、Baldwin社製造のピアノの一部に、Ellingtonというブランドがあったのかも知れません。どなたか、BaldwinとEllingtonの関係をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示くださいませ。1920年代のピアノです。それはさておき、このピアノは、戦前、一家でアメリカにお住まいだったとき、河本家のご両親が愛娘のために購入され、日本に持ち帰られた楽器でした。
 皮肉にも、アメリカ生まれのピアノは、アメリカの投下した原子爆弾によって弾き手を喪い、ピアノ自身も無残にガラス片が突き刺さり、傷つきました。
 明子さん亡きあと、ピアノはご遺族に守られてきましたが、だんだんと傷みが激しくなり、ご遺族も世を去られていきます。このピアノを通じて、平和メッセージを発信したいと考えた心ある方々が譲り受けて2005年に丁寧な修復がなされ、「Music for Peace」の発信楽器となりました。
 アムランさんはこの明子さんのピアノで、バッハのアリオーソ、ショパンのノクターン第17番ロ長調作品62-1、バラード第3番変イ長調作品47を静かに奏でてくださいました。
 そのあと、海外演奏家及び海外招聘音楽評論家と、地元の若者との英語による対話コーナーがあり、音楽が平和にどのように貢献できるのかについて、真摯な意見が交換されました。

(写真左)2015年10月17日、ショパン国際ピアノ・コンクール取材中、ワルシャワのショパン・アカデミーでアムランさんとお会いしたときにわたくしが撮影した写真。
この日はショパンの命日なので、コンクールは小休止。まだ、結果は???ですが、すでにセミ・ファイナルでは上位入賞を予感させる名演で聴衆を魅了。
(写真右)2017年2月15日、アムランさんとショパンコンクール以来、広島で再会しました。

2月16日のコンサート会場は2001席の広島文化学園HBGホール。
広島交響楽団音楽監督・常任指揮者の秋山和慶先生の指揮で以下の曲目が演奏されました。
藤倉大    :『imfinite string』(2015年作曲・翌年改訂)
ショパン   :ピアノ協奏曲第2番ヘ短調
ベートーヴェン:交響曲第5番『運命』

※プロジェクト全体の取材記事は、コンサートの批評と共に『モストリー・クラシック』3月発売号の『オーケストラ新聞』に執筆しました。


(写真左から)
(最初の2枚)シンフォニア・ヴァルゾヴィア、モントリオール交響楽団 シャルル=リシャール・アムランが平和記念碑に捧げた花輪
学徒動員の勤労作業中に被爆し、重症の体でなんとか家までたどりつかれたものの、その翌日、19歳で亡くなった河本明子さんのピアノ
被爆ピアノでショパンのノクターン第17番ロ長調を奏でるアムラン

♪ 河本明子さんの被爆ピアノのメーカーに関しましての続報(2017年3月14日)
「ボルドウィン」Baldwinと「エリントン」Ellingtonとの関係をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示くださいませ、と書きましたところ、熱烈なピアノ愛好家の後藤愛子さんがいろいろ調べてくださり、やはりわたくしの推測通り、「ボルドウィン」Baldwin社が一時期、Ellingtonというブランドのピアノをつくっていたことがわかりました。Ellingtonは一般普及向けのブランドで、お手頃価格で質のよいピアノを世に送っていたそうですが、あの世界大恐慌によって大ダメージを受けて、製造販売が中止されたということですから、その観点からも、このピアノは貴重な音楽遺産といえるでしょう。後藤さん、ありがとうございました。
※たまたま、『モストリー・クラシック』3月発売号に、歴史的ピアノ・メーカーと作曲家との関係、リヒテル、グールドはなぜ(晩年に)ヤマハを弾いたか、アルゲリッチのショパン演奏の魅力と特質、について執筆しております。よろしければ、ご高覧下さいませ。


● 日本経済新聞 文化欄に『クラシック・ジャケットの女性 十選』を執筆
2017年2月9日から28日まで 10回連続

 『クラシック・ジャケットの女性たち』と題し、クラシックのCDジャケットを飾る名画の美女たち10人を採り上げ、絵画について、モデルについて、そしてなぜ、この名画の美女がこの楽曲のCDに登場しているのか、その裏にどのようなドラマが秘められているのかについて、解説させていただきました。

(第1回)
エリザベト=クロード・ジャケ=ド=ラ=ゲール(1665−1729年)
ジャン=フランソワ・ド・トロワ画  Jean-Francois de Troy 1679-1752年
 ロココ萌芽期の画家。祖父も父も画家という美術一家に生まれました。神話に材をとった絵、宗教画などを得意としする一方、肖像画の名手としても知られました。
 なにしろ、このように美しく、女性を描く手腕があるため、貴婦人からの依頼が多かったようです。



(第2回)
『 パオロとフランチェスカ 』のフランチェスカ・ダ・リミニ

アリ・シェーフェル画 (ドルトレヒト、1795年−アルジャントゥイユ、1858年)
『 パオロとフランチェスカ 』1855年
油彩、カンヴァス
縦1.71m、横2.39m
1900年、画家の娘マルジョラン=シェーフェル夫人より、ルーブル美術館に遺贈
ドゥノン翼 2階 モリアン ロマン主義 展示室77に展示。



(第3回)
『 オフィーリア 』(Ophelia) 1851-52年
ジョン・エヴァレット・ミレー(1829-1896年)画
76.2×111.8cm | 油彩・画布 | テート・ギャラリー(ロンドン)

 ミレーはまず、小川のほとりを歩いてイメージに合う場所を入念に選び、ついに気に入った場所をみつけるとそこにイーゼルを立て、あたりの情景をきわめて精緻に描写しました。その場所は、のちにほぼ特定されています。
 そして次に、彼と同じラファエル前派の画家たちのモデルとして人気のあったエリザベス・シダル、愛称リッツィに、お湯をはったバス・タブでこのポーズをとってもらい、絵筆を動かし続けました。彼が長時間にわたって作画に没頭したため、当初はアルコール・ランプでお湯の保温を続けるつもりだったのにそれを忘れてしまい、お湯は冷え切りました。そのせいで、リッツィはひどい風邪から肺炎を起こしかけ、長く床につくことになりました。
 怒ったリッツィの父親はミレーに賠償金を請求しました。ミレーも非を認め、多少の減額をお願いした上で、それを支払ったと伝えられています。
 日経コラムにも書きましたが、リッツィはその後、ミレーの画家仲間、ロセッティの妻となりますが、ロセッティの女性関係に悩まされ、心身を衰弱させて、強い薬を飲みすぎたためか、ある朝、二度と起きてくることはありませんでした。ロセッティは生涯、後悔したようです。
 モデル、リッツィのそんなはかない生涯が、オフィーリアの身の上に重なり、胸が痛みます。それにしても、死に瀕しながら、そんな自分の絶望的状況にも気づかず、小さく唇を動かして一心にシャンソンを口ずさむオフィーリアの表情は神々しいまでに虚心で、美しく、絶品の一語です。





(第4回)
『 アルマ・マーラー 』
『風の花嫁』1914年
オスカー・ココシュカ(1886-1980)画
スイス・バーゼル美術館蔵 3階正面の展示室
 当初は現在より明るい色彩で描かれていましたが、アルマとの関係が絶望的なものになるにつれて、ココシュカが暗い色調の絵具をどんどん塗り重ねていき、現在の色合いとなりました。 その厚塗りの絵具の剥落の恐れがあるため、移動には不向きで、同美術館の門外不出となっています。実物はこの美術館でしか鑑賞できませんので、バーゼルにいらした方は、ぜひ、ご覧になってください。




(第5回)
『 イザベル・デ・ポルセール 』(Isabel de Porcel) 1804-05年
フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco Jose de Goya y Lucientes、1746年3月30日 - 1828年4月16日)画
81×54cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

 熱くひそやかなスペインの情熱を象徴するアイテムを随所に忍ばせたゴヤの絵は、この国の伊達男(マホ)の一人であるグラナドスを夢中にさせました。例えば、この『イザベル・デ・ポルセール』の燃えるまなざし、白い顔にかかる褐色の巻き毛、美しい胸を透かし見せる黒の上質なレース生地、などが彼をたまらなく魅了した、と作曲家自身が書簡に書き残しています。この肖像画のモデルのイザベル夫人は当時25歳くらい、夫のポルセール氏は50歳位といわれていますので、地位も名誉も財産もある50男の年若い美人妻だったようです。
 このイザベラ夫人のような、スペイン的な粋な女のことは、同国の伊達男マホに対して、マハといいます。ゴヤの有名な絵画に『着衣のマハ』『裸のマハ』がありますが、あのマハというのは個人名ではなく、小粋なマドリード娘、といったほどの意味なのですね。そのマホとマハの織りなす愛と情熱の世界を、グラナドスは6曲構成のピアノ組曲『ゴイェスカス』に表現しました。
 組曲第1曲の『レキエブロス』は「愛の言葉」の意です。つまり、マホがマハを口説いているわけです。
 第2曲は『格子窓の語らい』。マホの口説きが成功して、二人は格子窓越しに愛を語らっています。格子窓越しなのが、かえってもどかしさを掻き立て、二人の情熱を燃え上がらせます。
 第3曲は『ともし火のファンダンゴ』。ファンダンゴとは、野趣にみちたスペインの民俗舞曲。
 第4曲はこの組曲中でもっとも有名な『嘆き、またはマハと夜鳴きウグイス』。神秘的でえもいわれぬ美しさを秘めた1曲です。夜鳴きウグイス、ナイチンゲールは、男女の性愛を象徴するアイテム。音楽作品の中でこの鳥が鳴いたら、それは男女の愛の成就を暗示していると考えてよさそうです。
 第5曲は『愛と死』。マハをめぐってライバルと決闘し、戦いに敗れて瀕死のマホ、彼に取りすがるマハ。
 そして第6曲は『幽霊のセレナード』。マホは今や、幽霊になったのでしょうか。それでも伊達男らしく、ギターを爪弾いてマハにセレナードを捧げています。最後は、ギターの解放弦、下から「ミラレソシミ」で幕。
 この組曲をもとに、台本作家F.ペリケの構成したオペラは次のようなストーリーです。
陸軍大尉フェルナンドにはロサリオという恋人がいますが、あるとき、闘牛士パキーロの愛人ペパとの仲をパキーロから疑われ、ついに決闘となってしまいます。フェルナンドは敗れて重傷を負い、恋人ロサリオに抱かれながら息を引き取ります。
 オペラはスペインの伝統的な歌芝居、サルスエラの形で、1916年初頭に完成しました。グラナドスは初演劇場を探します。パリのオペラ座で初演の話もあったのですが、あいにく、第一次世界大戦が勃発してヨーロッパの劇場はすべて閉鎖されてしまいます。そんなとき、ニューヨークのメトロポリタン劇場からオファーがありました。船旅が大の苦手のグラナドスでしたが、『ゴイェスカス』初演のためならなんのその、愛妻アンパロと歌手陣を伴い、海路ニューヨークに渡って無事初演を済ませました。
 そのあと、ウィルソン大統領から招かれてホワイトハウスでピアノ・リサイタルを開くという名誉に浴します。でも、そのために帰国予定が遅れ、当初乗船予定のスペイン直行便を乗り逃し、やむなく、当時フランス船であったサセックス号で帰国することになりました。これは直行便ではなくロンドン経由便で、ロンドンに寄港のあと、英仏海峡を渡ります。その航行中、サセックス号はドイツ軍の潜水艇Uボートの攻撃を受けたのです。状況については諸説ありますが、グラナドス自身は海に投げ出されずに済んだか、あるいは救命艇に引き揚げられたともいわれます。ところが彼は、波間に漂う愛妻アンパロの姿を目にするや、あれほど苦手な海の中に飛び込んでいき、アンパロともども海の藻屑と消えた、と伝えられています。





(第6回)
『 ファニー・メンデルスゾーン 』1805-1847年
ヴィルヘルム・ヘンゼル(1794-1861年) 画

 ファニー・メンデルスゾーンの評伝は、2002年に上梓した拙著『 五線譜の薔薇 』に収載いたしました。
 この「クラシック・ジャケットの女性」十選のうち、第4回のアルマ・マーラー、第8回掲載予定のクララ・シューマンの評伝も同著に採り上げております。
 『 五線譜の薔薇 』の初版は完売し、数年後に二版が出ておりますので、アマゾンなどネット書店で入手可能と思われます。今回の日経連載シリーズの原点というべき女性音楽家のオムニバスです。ご興味のあられる方は、ご高覧頂けましたら嬉しく存じます。
 ところで、わたくしは最初にこのファニーの肖像画を目にしたとき、何と美しい女性だろうかと胸がときめきました。そして、この髪形、衣装が、音楽の女神聖チェチーリアに扮したものであることを知り、ファニーも、これを描いた夫のヘンゼルも、芸術の神に深い敬意と憧憬を抱いていたことに感動しました。
 ファニーの容姿容貌は、おそらく、実物より美化されているようですが、わたくしはその美化に、夫ヘンゼルの妻へのわき目もふらない深い愛を感じるのです。名門銀行家メンデルスゾーン一族の婿となったこの画家には、そのことが重い蹉跌となっていたことは疑いもありません。彼の描いた絵には、一族の車輪にひもで繋がれる自分の姿が認められます。でも彼は、そのくびきの中で、妻を理解し続けた、やさしい夫だったと思います。
 ファニーは、父と弟からは、作曲家として世に出ることを認めてもらえなくても、これほど美人に妻を描いてくれ、作品出版にも協力してくれた夫に恵まれたわけですから、配偶者運はよかったといえるでしょう。もちろん、神からの才能の贈り物にも恵まれた女性でした。





(第7回)
『 ゴンドラの唄 』の夢二式美人

 竹久夢二(1884-1934年)は大正の浮世絵師、グラフィックデザイナーの祖、などとも呼ばれる、大正ロマンを代表する画家です。彼の描く、いわゆる夢二式美人は、唯一、正式な結婚をした相手であった妻、たまき を原型に、その後、愛人の彦乃、お葉たちの容貌の要素が採り入れられていったものと思われます。横書き、右から左のタイトルが時代を窺わせる『 ゴンドラの唄 』の出版譜の表紙画を夢二が描いた大正4年は、たまきとの最初の離別の年ですが、この絵のモデルは、身体の線の特質やお顔の特徴から、たまきだったものと想像されます。わざと少しだけくすませることでロマンティックな持ち味を醸した色使いにも、夢二の天才があらわれています。





(第8回)
『 クララ・シューマン 』

 藤紫のシックな色調のジャケットを飾るのは、クララ・シューマン21歳時の肖像画(下の写真左から4枚目)。彼女のドレスも同じ色合いに彩色され、大きな白い襟がアクセントとなっています。でも、これは、このCDジャケットのデザイナー様による加工で、原画は、日経記事にも書いたように鉛筆デッサンでした。ドイツで発行されている『Clara Schumann Chronik in Bildern』にこの原画が収載されていますので、ここに掲げさせていただきます(同左から1枚目)。もちろん、モノクロで、衣装の下書きらしきラインも少し見られますが、下半分はまったくのラフです。もう一枚の絵は、これもドイツで出版されているクララの伝記の表紙画で、彩色されています(同左から2枚目)。
 ところで、このCDはクララだけの作品集ではなく、他にマリア・テレジア・フォン・パラディス、マリア・アガータ・シマノフスカ、ファニー・メンデルスゾーン、テクラ・バダジェフスカ、オーギュスタ・オルメス、ヴィルマ・アンダーソン=ギルマン、リリー・ブーランジェの7名の女性作曲家のピアノ曲を集めたオムニバスです。
 実は、そのもととなったのは、わたくしが2006年に詳細な解説付きで編纂・出版した楽譜集『クララ・シューマン ロマンス〜女性作曲家によるピアノ作品集』(1,500円+税)でした(同左から3枚目)。楽譜集の収載曲目は写真の通りです(同左から5枚目)。
 友人で尊敬するピアニスト、江崎昌子さんが、CD化を思い立たれ、楽譜集の全曲にクララの『ロベルト・シューマンの主題による変奏曲』も加えて録音してくださったものが、この藤紫色の美しいアルバムなのです。僭越ながら、ライナーノートも書かせていただきました。
 8人の女性作曲家のうち、クララ、ファニーの評伝は拙著『五線譜の薔薇』に、パラディス、オルメス、リリー・ブーランジェの評伝はその続編『音楽史を彩る女性たち 五線譜のばら2』にございます。CD、楽譜集と併せてご愛顧いただけましたら嬉しく存じます。
写真(左から)
 1枚目:鉛筆デッサンの原画
 2枚目:ドイツで出版されているクララの伝記の表紙画
 3枚目:楽譜集『クララ・シューマン ロマンス 女性作曲家によるピアノ作品集』2006年 ショパン
 4枚目:萩谷由喜子編の楽譜集とそれを録音した江崎昌子さんのCD
 5枚目:楽譜集の目次





(第9回)
『 ジャンヌ・サマリー 』
ジャンヌ・サマリーの肖像
ピエール・オーギュスト=ルノワール 画 1877年

 ジャンヌが自分で購入したこの肖像画は、裕福な投資家の息子ポール・ラガトの妻となり、三人の娘をもうけて幸せに暮らしていた彼女が1890年に33歳の若さで病没したのち、デュラン=リエル画廊に売却されました。
 そして、同画廊からこれを買い取ったのが、ヨーロッパの美術品収集に余念のなかったロシアの大富豪、イヴァン・モロゾフ(1871-1921)でした。 モロゾフも数奇な運命をたどり、彼のコレクションは1920〜40年代にかけて、ペテルブルクのエルミタージュ美術館とモスクワのプーシキン美術館に二分されます。
 印象派時代のルノワールの肖像画として最高傑作と言われるこの『ジャンヌ・サマリーの肖像』は、現在、プーシキン美術館蔵となっています。
 2013年に日本各地でプーシキン美術館展が開催されたとき、その最大の呼び物絵画として美しきジャンヌは初来日しましたので、彼女と出会われた方も多いのではないでしょうか。

(右は、ジャンヌの写真)


(第10回)
『 ヨハネス・フェルメール 』(Johannes Vermeer 1632-1675)
『 ギターを弾く女 』
推定制作年代:1673〜1674年年頃
技法:カンヴァス、油彩
サイズ:53×46.3cm
所蔵:ロンドン、ケンウッド・ハウス

 フェルメールは、実にしばしば楽器を作品中に忍ばせた画家でした。寡作家で、わずか30数点しか作品が伝わっていないというのに、そのほぼ3分の1にあたる11点に楽器が描かれているのには驚かされます。でも、画面に楽器が登場することによって、そこに描かれている人物、おうおうにして女性ですが、その女性の秘めたる恋愛生活が暗示されるのですから、楽器入りフェルメール作品はまことに含蓄の深い作品群です。中には、健全な恋愛である場合もあるかもしれませんが、大半は世を忍ぶ恋なのでしょう。それを楽器が物語るわけで、秘すれば花の恋愛小説の語り手としてのフェルメールの手腕に感服します。
 わたくしが数えた限り、楽器が描かれているのは『中断された音楽の稽古』『音楽の稽古』『リュートを調弦する女』『合奏』『フルートを持つ女』『絵画芸術』『恋文』『ギターを弾く女』『ヴァージナルの前に立つ女』『ヴァージナルの前に坐る女』『ヴァージナルの前に坐る若い女』の11点でした。CDジャケットになっている『ギターを弾く女』は晩年の作で、構図、色使い、精緻さにやや難があり、フェルメールの絵画作品としての評価はさほど高くはないようですが、楽器に大きな比重が置かれていることが魅力です。
 モデル着用の斑入り白毛皮の縁取りのついた黄色の衣裳は、『リュートを調弦する女』『真珠の首飾りの女』『手紙を書く女』『婦人と召使』『恋文』『ギターを弾く女』の、少なくとも6点に描かれています。
 現在のように、フェイク・ファーなどなかったはずの当時のこと、この衣裳はかなり高価な品だったのではないでしょうか。だからこそ、さまざまな絵に使い回し、でも結局、愛娘の所有に帰したのではないか、と想像しています。
 このCDは、一目で気に入って注文したのですが、船便による海外輸入盤のためなかなか手元に届かずにひやひやしました。 もしも、間に合わない時のために、他候補も用意していたところ、ある日、何事もなかったかのようにひょうひょうと届き、無事に連載の最終回をフェルメールで飾ることができました。
 日本経済新聞コラム、十選、並びにこのホームページの追記、ご愛読、ありがとうございました。





● 齋藤秀雄メモリアル基金賞 授賞式とレセプション
2017年1月17日 青山アクアヴィット
 財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団/英文名称:Sony Music Foundation)が2002年(平成14年)に創設した「齋藤秀雄メモリアル基金賞」はチェリスト・指揮者・教育者としてわが国のクラシック音楽界に計り知れない功績を遺された故・齋藤秀雄(1902-1974)氏に因むものです。
 2000年3月17日に同氏の未亡人・齋藤秀子氏(享年90)が逝去されたとき、ご遺志により、遺贈された財産を財源として、毎年、優れた指揮者とチェリスト、各1名に贈られています。
 今年度は、指揮者の該当者なし、ということでしたが、チェリストとしてはフランスを拠点に世界的に活躍される、酒井淳氏が古楽器とモダン楽器両面にわたる幅広い活躍を評価されて、この栄えある賞を授与され、その受賞の式典とレセプションが開催されました。
授賞式では、永久選考委員の堤剛先生から、「私にとってバッハは、齋藤先生から手とり足とり教えられたことに始まり、それから自分なりに研究し続けてきたものです。私自身のバッハは酒井さんが目指している解釈やスタイルとはまた違っているかもしれませんが、“違っている”ということで、酒井さんの存在というものは私にとりまして大変励みになっています。ですので、これからもいわゆる音楽の中のcolleague(仲間)として、一緒にいろんな意味で音楽の幅を広げていきたいと思っています。……」という感動的な講評があり、
 そのあとレセプションに移って、酒井氏を幼い時から見守ってこられたご両親様、少年時代から酒井氏を支援してきた友達の母上、内藤まさこ様、名古屋のスタジオ・ルンデのオーナー、鈴木詢氏らと、たいへん意義深い歓談の時間を持つことができました。
 やはり、大成される方は、早くから人を惹きつけるオーラを発されて、応援してくださる方と出会っておられることを実感いたしました。
 そして、その方々への感謝の言葉を受賞の辞の中に忘れない謙虚なお気持ちが、この方の今日を築いたのだとも痛感いたしました。


写真(上・左から)
上・左:授賞式での酒井氏、左が堤剛先生
上・右:桐朋学園から借りた古楽器のレプリカでバッハを披露してくださった酒井氏
下・左:左から、酒井氏母上、親友のお母さまとして小さい時から酒井氏をかわいがってこられた内藤まさこ様、酒井淳氏、わたくし、選考委員で親しい友人の那須田務氏。
下・右:坐っておられる方がスタジオ・ルンデの鈴木オーナー。一番左が酒井氏のご尊父。


● チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル
 2017年1月17日 サントリーホール
 齋藤秀雄メモリアル基金賞授賞式のあと、サントリーホールのチョ・ソンジン・リサイタルに向かいました。
 ショパン・コンクール優勝から1年3カ月。悠揚とした足取り、迷いのないピアニズムに感嘆しました。
 詳しい演奏批評は、月刊『ショパン』3月号に書きました。

  写真: 終わってすぐに、バックステージでソンジン君と。


● 小金井 宮地楽器ホール 日曜カフェ
2017年1月15日
 武蔵小金井南口を出ますと、駅前広場の正面に「小金井宮地楽器ホール」が聳えていました。(右写真)
 初めてうかがうので緊張していましたが、「駅徒歩1分」は看板に偽りなく、まさしく駅の真ん前です。
5年ほど前に、当時の市長さんの「誰にでも開かれた文化芸術の拠点」という考え方のもと、利便性のよい駅前にオープンしたホールで、なんでも2年前に、公募でホール愛称として地元の「宮地楽器」が冠されたそうです。

 そんな沿革も知らないまま伺い、当日初めて、ここが楽器店直営のホールでないことを理解いたしました。
 ところで、ホールからいただいた講演のテーマは「ピアニストはどうして、スタインウェイピアノを選ぶの?」
 なかなかに、微妙なテーマでしたが、ピアノの誕生から発達、現状についてお話し、一口にスタインウェイピアノと言っても、アメリカとハンブルクがあること、日本に入ってきているものの大半はハンブルク・スタインウェイであること、そもそもこのメーカーはドイツ出身の初代が困難を乗り越えてまずドイツで稼働し、1853年にアメリカに創業した歴史をご紹介しました。
  一方、ピアノという楽器は、構造的矛盾を内包していることをお話し、それだからこそ、メーカーはその点に配慮し、対処する構造のピアノをつくらねばならないこと、
スタインウェイの創業者とその息子たちが、創業初期からピアノのあるべき姿を念頭に置いて、その実現のために天才的努力を払ってきたからこそ、今のスタインウェイがあるのではないかという私見を述べさせていただきました。

 この冬のもっとも寒い日の、午前10時30分という、まだ空気の温まらない時刻のスタートでしたが、ご予約くださった方、当日ぶらりと参加してくださった方々30名ほどに囲まれ、温かな気分のうちにお話させていただくことができました。
 というのも、小平楽友サークルのお仲間、秋山さんと松下さんがご参加くださっているのに気づいて嬉しい驚きで一杯となり、緊張の糸がほどけたからです。秋山さん、松下さん、本当にありがとうございました。
 写真は、そのお二人、及び、わが出身校の現代心理学部で教鞭をとっていらっしゃる芳賀繁教授(わたくしの左)、ご質問くださった紳士と共に。


● 東京文化会館《響の森》vol.39 ニューイヤーコンサート2017
2017年1月3日 東京文化会館
 新春恒例、東京文化会館のニューイヤーコンサートです。
 オーケストラはここを拠点とする東京都交響楽団。
指揮台には、ブザンソンの覇者、垣内悠希マエストロを迎えました。
 前半はまず、チャイコフスキーの若き日の野心作、幻想序曲『ロメオとジュリエット』。14世紀ヴェローナの敵対するふたつの名家の確執と、その犠牲となった若き男女の悲劇的恋を濃密な音楽で描き出します。
 次いで、同じロシアの作曲家、ボロディンの遺作オペラ『イーゴリ公』よりエキゾチックな魅力に満ちた『韃靼人の踊り』。

 後半は、小山実稚恵さんをソリストとするラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。
 小山さんの十八番だけあって、曲のテクスチュアが明確に映し出される名演でした。
 今月はほかにもチャイコフスキー、グリーグなど5種か6種のコンチェルトをお弾きになられるとか。つねにこれだけのレパートリーを蓄えていらっしゃり、瞬時にどれでも引き出すことのできる鍛錬はいったいどれほどのものでしょうか。あらためて、頭が下がりました。

 写真:終演後、同業の寺西基之氏と共に楽屋をお訪ねしました。


● あけましておめでとうございます。
2017年 元旦

 今年も、自分に書けるもの、身の丈にあったものを、誠心誠意書いていこうと思います。

 1月11日から小平の講座が始まり、1月15日には武蔵小金井の宮地楽器ホールで「日曜カフェ」に出演いたします。
 そのほか、4月末には千代田区のかがやき大学で、レクチャー・ライヴ・コンサートを予定し、5月には同大学で3回の連続講座を開きます。
 受講ご希望の方は、千代田区の広報などにご注意していただき、ぜひ、お申し込みくださいませ。

 コンサートやオペラにも、可能な限りまいりますので、どこかでお会いできますことを楽しみにいたしております。

 その節には、どうぞ、お声をおかけくださいませ。
 


● バッハ・コレギウム・ジャパン  サントリーホールのクリスマス公演2つ
2016年12月23日 ヘンデル『メサイア』
2016年12月24日 クリスマス・ガラ・コンサート
 この直前に、東京文化会館で、和波孝よし先生の深い弾き込みの賜物、珠玉の『クリスマス・バッハ』を聴き、そのままサントリーホールへ。 和波先生の公演評は『音楽の友』2月号に。
 さて、サントリーホールは、この人翌日の2日連続で、バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマス特別プログラム。
 初日は、敬虔というよりは喜ばしい、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』です。
 休憩時間に、BCJのオルガニスト、鈴木優人さんがロビーがカジュアルなお洒落ジャケット姿でロビーに。そういえば、オルガン席には、大塚直哉さんがお坐りでした。
 しかも、いつも宮崎国際音楽祭でお世話になる、河野知事ご夫妻にばったりお会いして、お互いに「あー?」と感動しあいました。そこで、優人さんをご紹介して4人で記念写真。
 優人さんは、連日本番、この日だけ客席に坐って英気を養ったのち、翌日のとスペシャルプログラムで、オルガン、チェンバロ、ピアノはもとよりトランペットに台本に演出、俳優と大活躍なさいました。


● 小平楽友サークル クリスマス会
2016年12月21日 小平中央公民館
 毎年恒例のクリスマス会、今年は市民学習奨励学級としても活動したおかげで会員数も増え、楽しく賑やかにクリスマスを祝いました。
 メンバーの鈴木さんのお妹様手作りのシフォンケーキ、代表の山田さんお得意のサーモン・パテ、バナナケーキ、新井さんのお心づくしの信州の蜜リンゴなどなど、もちろん、ワインも味わいながら、和気藹々とした歓談のひと時を持つことができました。
 写真のような雰囲気です。ご馳走を写すのを忘れて、残念無念!!


 毎月、第一、第三水曜日の10:00〜12:00、小平中央公民館で開催しています。
 参加ご希望の方は、山田洋子代表 042−345−8862までお気軽に!


● 新進演奏家育成プロジェクト 新進芸術家海外研修員コンサート
2016年12月21日 東京オペラシティ リサイタルホール
 今年の仙台国際音楽コンクールのファイナリストとなったピアノの坂本彩さん、
 2007年チャイコフスキー国際コンクールで優秀な成績を収めたヴァイオリンの鈴木舞さん
お二人の海外研修成果披露コンサートです。
 鈴木舞さんの伴奏は、先ごろのフランツ・リスト国際コンクールに堂々優勝を飾った、阪田知樹くん。
 阪田君のことは前々から応援しています。

 若い3人の晴れやかな演奏に接して、清々しい気分になりました。

 写真は、坂本彩さん、阪田知樹くんとのそれぞれツーショット。


● ヤマハ銀座店3階の宮沢賢治特集コーナー
2016年12月5日
 あいにく、まだ出掛けてはおりませんが、写真を送っていただきましたので、ご紹介させていただきます。
 『賢治と上野の物語』は無料です。数に限りがございますので、ご興味のあられる方はどうぞお早めに!

左の奥『賢治と上野の物語』     萩谷由喜子著
パンフレットですが、13,000字程のボリュームがあり、単行本にしたいと考えています。昨年の生誕120年プレイヤーに執筆し、記念コンサートでお配りしたもの。少し残部がありましたので、ご希望の方に差し上げております。

真ん中『賢治の聴いたクラシック』  萩谷由喜子著 CD2枚つき 税抜き3,000円
右端 『クロイツァーの肖像』    萩谷由喜子著 税抜き2,200円


● 新国立劇場 ロッシーニ『セビリアの理髪師』
2016年12月4日 新国立劇場
 同劇場7回目となる、イタリアのオペラ・ブッファの最高峰の安定上演。
 同劇場制作のプロダクションとしても、粟國淳演出に続くヨーゼフ・E・ケッブリンガー演出の4回目。
 さすがに堂に入っていて、揺るぎのない見事な舞台でした。

 詳しい批評は『ハンナ』2017年1月号に。


● 東京交響楽団 第647回定期演奏会 ジョナサン・ノット指揮
2016年12月3日 サントリーホール
 ノット&東響と、チェロのヨハネス・モーザーが協演。
 幕開けは、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』の第1幕への前奏曲。
 それなのに、ステージにはチェロの演奏台がセットされていて、?と思っていたら、ノットとモーザー登場。
モーザーを完全にソリストとして扱って、この名曲をぐっと聴かせたあと、そのまま、次のディティーユのチェロ協奏曲『遥かなる遠い国へ』と繋げました。
 なんと心憎いプログラミング。
 トリスタンとイゾルデの魂は遥かなる遠い国へと旅立ち、そこで永遠の愛を謳歌しているようです。
 後半はシューマンのハ長調交響曲。これまた、クララへの永遠の愛の結晶。緊密な糸を張り巡らせた3曲。
 モーザーの名演、ノットとオーケストラの絶好調な関係を熱く聴かせていただきました。
 休憩時間に、飯守泰次郎先生にお会いしましたら、先生もこの『トリスタンとイゾルデ』から『遥かなる遠い国へ』へと移るアイディアを絶賛されておられました。
 写真は2階のクリスマスツリーの前で飯守先生と。


● 南紫音ヴァイオリン・リサイタル
2016年12月2日 紀尾井ホール
 プログラム解説を執筆した、南紫音さんのリサイタルに出掛けました。
 しばらくぶりに聴く紫音さん、たいへんなご成長ぶりで、創意ゆたかな「クロイツェル・ソナタ」他を聴かせてくださいました。
 ピンクのドレスがお似合いの紫音さん。

 クリスマスツリーの脇の写真は、友人の二見敬子さんと。
 二見さんのお召しになっているのは、万寿菊を絞り出した、総絞りの訪問着です。わたくしは、十日町あたりのよくある紬に塩瀬の帯。
 紀尾井ホールのクリスマスツリーは、昨年とは趣向を変え、白と金銀だけのとてもシックなもの。


● 日展 鑑賞
2016年12月1日 新国立美術館
 間接的知人の大作が出品されているというので、拝見しにまいりました。
 新国立美術館は初めてです。千代田線の乃木坂駅直結なので、千代田線のアクセスのよい方には便利です。
 きれいに整備された広大な敷地に、近代的な建物が立っています。お庭は、秋から初冬のよい雰囲気で、落ち葉が舞っていました。
 この美術館は、自前のコレクションを一切所蔵せず、すべてそのときどきの展示品をその都度運び入れる方式。つまり、貸館に徹した「国立の」美術館だそうです。
 音楽ホールの世界でいえば、自主公演の企画開催は一切実施せず、ただただ、貸しホールだけ運営するホールということになるのでしょうか。
 美術館と音楽ホールは違うかもしれませんが、ホールの場合、そこに専門スタッフがいらして、そのノウハウの粋としての主催公演を開いてくださることに大きな価値がありますから、もし、主催公演なし、貸館だけのホールというのがあったとしたら、公立、私立を問わず、とても寂しく、残念なことだと思いました。
 展示室に足を踏み入れて驚いたのは、すべて、巨大な作品ばかりであること。人物なども、人間の等身大より大きく描かれたものが大半です。まずは大きくないと、日展に通らないのかもしれません。
 たいへん立派で圧倒されますが、いったいどこに飾るのかしら? ホテルや公共施設でさえも、このサイズの絵を飾る壁面をみいだすのは難しそうです。
 それはともかく、久々の絵画鑑賞に、心身がリフレッシュされました。
 


● 広島オペラ取材と街中探訪
2016年11月27日、28日
 オペラ取材のあと、アステール・プラザから徒歩で平和記念公園へ。
黄昏時でしたが、まだ薄明るく、およそ10年ぶりにみる原爆ドームのいつに変わらぬ佇まいに、厳粛な気持ちを誘われました。
 現在の街の整然とした美しさをみるにつけても、ここで71年前にあのような人間の生命と尊厳を踏みにじる出来事があったことを、わたくしたちは忘れてはならないとの観を強くしました。
 犠牲者の声にならない声に応え、尊い御霊に報いるためにも、核兵器の根絶はいうに及ばず、原子力発電所の全廃を目指していかねばならない、との思いを新たにいたしました。


慰霊アーチから臨む原爆ドーム  アーチの前の碑文  黄昏時の原爆ドーム 元安川にあかりが映ります。


ドームに詣でたあと、もとやす橋をわたってすぐの右側に『えこ贔屓』という牡蠣料理の専門店をみつけたので、焼き牡蠣、牡蠣フライをシャルドネの白ワインとともにいただきました。
一粒がまことに巨大。柔らかくジューシーで、味わいゆたか。
広島ならではの海からの贈り物に大感謝。白ワインもすっきりとした飲み口でした。


翌日は、広島城と縮景園をたずねました。
風格のある広島城。毛利元就のお孫さん、輝元公が築城。現在のお城は、もちろん戦後の建築です。
縮景園は初めてですが、子どもの頃から親しんだ大好きな六義園にちょっと似ていたので、懐かしい気持ちになりました。
縮景園は紅葉が見ごろ。もとは藩主の別邸だったそうです。
自然石をそのまま用いたつくばいにも、紅葉が浮かんでいました。


● 外来オーケストラ・ラッシュ
2016年11月16日〜30日
 海外の名門オーケストラやアーティストの来日公演が相次ぎ、そこにオペラも重なりました。 11月下旬、そのいくつかを聴きました。
 11月16日 国際音楽祭ヤング・プラハ25周年記念 浜離宮朝日ホール
 11月17日 ファジル・サイ ピアノ・リサイタル  紀尾井ホール
 11月18日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 サントリーホール 演奏会形式というよりセミ・オペラ ワーグナー『ラインの黄金』 オーケストラ圧巻!
 11月19日 女優イザベル・カラヤン一人芝居 サントリー小ホール お顔がカラヤンにそっくりなカラヤン令嬢、ショスタコーヴィチへのオマージュを体当たり演技
 11月20日 カメラータ・ザルツブルク シェレンベルガ―指揮 岡山バッハカンタータ協会が見事なモーツァルト『レクイエム』を歌い上げました。ソリスト陣ではソプラノの秦茂子さんが出色。 すみだトリフォニーホール
 11月21日 サンフランシスコ交響楽団 マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ソリストはユジャ・ワン ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲1番を快演。この作品はピアノとトランペットと弦楽のためのコンチェルト・グロッソですが、同響のトランペット首席マーク・イノウエの楽器の扱いのうまさ、ソリストとしての力量に感心しました。 サントリーホール
 11月22日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 ソリストとして予定されていたブロンフマン、体調が悪く来日不可となり、代わって24歳のキット・アームストロングがベートーヴェンの2番を若々しい響きで聴かせてくれました。後半はシュトラウスの『アルペン・シンフォニー』客席にバンダを配さないで、ステージと舞台裏からの音響でアルプス登山の一日を音が描き切りました。 サントリーホール
 11月23日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 ドレスデンの2日目もブロンフマンの代理はアームストロング。この日の『皇帝』はやはり手強い曲と見えて、若き才人もなかなかに苦戦。でも、急な代演ですからまずは天晴れ。後半はチャイコフスキーの幻想序曲『ロメオとジュリエット』にリストの交響詩『前奏曲』。リストがこの日の白眉。 サントリーホール
 11月24日 東京二期会オペラ公演 日生劇場 『ナクソス島のアリアドネ』 シモーネ・ヤング指揮 ツェルビネッタと並んでアリアドネもヒロイン扱いの演出。
 11月24日 パリ管弦楽団 ハーディング指揮 ブリテン『4つの海の間奏曲』、ジョシュア・ベルのソロでブラームスの協奏曲。若い頃より骨太な演奏です。後半はベルリオーズ『幻想交響曲』 東京芸術劇場
 11月25日 パリ管弦楽団 ハーディング指揮 昨夜に続いてジョシュア・ベル登場。この日はメンデルスゾーンでしたが、驚くべきことに!なんと、作り付けカデンツァが定石のこの曲を、自作カデンツァで弾きました。びっくりです。後半はマーラーの5番。 東京芸術劇場
その合間に宇都宮へ
 11月26日 第11回栃木県ピアノ・コンクール審査
翌日は広島へ
 11月27日 ひろしまオペラルネッサンス公演 プッチーニ『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』 広島アステール・プラザ大ホール 同プラザ内のホテルに宿泊⇒佐藤正浩指揮、粟國淳演出です。『アンジェリカ』も女声アンサンブルに聴き応えがありましたが、歌手陣、演出など総合点で『ジャンニ・スキッキ』に軍配。
 11月28日 バイエルン放送交響楽団 ヤンソンス指揮 ギル・シャハムの弱音を徹底的に効かせたベートーヴェンの協奏曲とストラヴィンスキーの『火の鳥』組曲 1945年版 サントリーホール
 11月29日 ドイツ・カンマ―・フィル パーヴォ・ヤルヴィ指揮 やや珍しいシューマンの『ゲノフェーファ』序曲、樫本大進によるベートーヴェンの協奏曲、シューマン『ライン』交響曲。大進さん、よく歌いました。 東京文化会館
 11月30日 新国立劇場オペラパレス プッチーニ『ラ・ボエーム』千秋楽
 そのあと、浜離宮朝日ホールへまわり、黒岩悠ピアノ・リサイタル


左から2枚は、新国立劇場の『ラ・ボエーム』にて、右の2枚は広島アステール・プラザ大ホールの『修道女アンジェリカ』

♪上の着物を差し上げます。♪
 クリスマスカラーを言い訳として、派手を承知で、思いきって着てみたこの小紋は、20歳頃、全盛期のよい品ぞろえに定評のあった銀座「ますいわ屋」の展示会で一目惚れし、波に落梅柄のローズピンクの色留袖と共に両親に購入していただいたものです。
色留袖は仕立てをお願いしましたが、こちらは着尺でしたので持ち帰り、母が仕立ててくれました。雲どりの柄合わせを苦心して配置してくれましたので、前身ごろとおくみで柄がきれいにあっています。
 でも、親不孝なわたくしは、若い頃にたった1回着たきりでした。
 その後、バブル期に本業以外の海外ホテル経営や投機に手を広げた「ますいわ屋」は倒産。ブランド名を惜しんだ「さが美」グループが買収して、現在は「東京ますいわ屋」として再生していますが、中身はまったく別の呉服屋さんとなりました。今では、昔の「ますいわ屋」の品は幻となったようです。
 というわけで、この小紋は、かつてのよき時代の「ますいわ屋」を伝えるよすがであり、亡き母の丹精込めた一針、一針の生きる形見でもあります。
 新国立劇場への道すがらと、劇場内で、さすがにお目の高いご婦人からお声をかけていただきました。とはいえ、いかんせん、華やかすぎて、もうこれで着用するのも最後でしょう。
 つきましては、わたくしと背格好が同じくらいで、お着物好き、自装がおできになり、大切にお召しになってくださる方に差し上げます。
mailでご連絡くださいませ。mailアドレスはこのページの一番下にあります。


● 千代田区「かがやき大学」講座:没後400年『シェイクスピアと音楽』
2016年11月7日、14日、21日
    おかげさまで今期も70名の定員を早々と満たしていただき、熱心な受講生の皆様と共に楽しく講座を終えることができました。


レクチャー中のショット  担当の永松誠氏と、受講生の方と。
講座ではドミンゴの『オテロ』、フェリの『ロメオとジュリエット』を鑑賞しました。


● ヤマハ銀座店3階で、宮澤賢治生誕120年特集
2016年11月13日〜12月22日〜30日まで延長されました。
 賢治生誕120年の今年もあと1か月余。
 賢治特集ということで、拙著『宮澤賢治の聴いたクラシック』も展示販売されています。
 銀座にいらしたら、ぜひ、お立ち寄りください。

    こちらからぜひご覧ください。


● 藝大図書館蔵 野澤コレクションより レオニード・クロイツァ−SPレコード・コンサート
2016年10月17日
 2013年8月に亡くなられた世界的なSPレコード研究家・コレクターのクリストファ・N・野澤先生の膨大なレコード・コレクション、及び逸品の蓄音器類は、一括して東京藝術大学図書館にお嫁入りしました。
 その一部を一般公開するSPレコード・コンサートが開催され、名器ビクトローラのクレデンザによる素晴らしい再生音で、レオニード・クロイツァーのピアニズムに触れることができました。
 『24の前奏曲』が圧巻でした。
 司会進行は、藝大の大角欣也先生、解説は植田克己先生。
 最後にわたくしも、拙著『クロイツァーの肖像』を書くに至った経緯とクロイツァーが日本のピアノ界に果たした多大な貢献等について、ひとことお話させていただきました。


写真 左から
(1枚目)クロイツァーのピアノの復元に尽力された音楽学者、瀧井敬子先生、
     藝大図書館館長(当時)として野澤コレクションの受け容れに力を尽くされた大角欣也先生、
     わたくしの右は、クロイツァーの愛弟子で現在クロイツァー記念会の副会長、大堀敦子先生。
(2枚目)クロイツァー記念会事務局の徳増さん、クロイツァー記念会会長の植田克己先生と。
(3、4枚目) 藝大から徒歩10分、根津の海鮮茶屋「でんすけ」で打ち上げ


● 尾高綾子 メゾ・ソプラノ・リサイタル
2016年11月15日 王子ホール
 敬愛する尾高先生ご夫妻の至福のコンサートに行ってきました。
 尾高惇忠先生は先頃、大作、ピアノ協奏曲を完成され見事な初演も済まされましたが、そのあと今度は歌曲へと意欲が向かわれ、美しい花々のような多種多様な歌曲が生まれました。
 それらに、奥様の綾子先生が瑞々しい命を吹き込まれました。
 高田敏子、三好達治、立原道造、井上震太郎、長岡輝子(御夫妻の伯母さま)、品川はる、蔵原伸二郎、中原中也、そして葉山のご近所仲間の堀口すみれ子さんという、それぞれ、思い入れやゆかりのある詩人の方々の詩が、惇忠先生のアイディアゆたかな作曲技法によって、生き生きと飛翔しました。
 (写真)終わってから、ご夫妻を写させていただきましたら、綾子先生がお隣に坐らせてくださいました。


● 静岡音楽館 講演会
2016年11月12日
 静岡音楽館からのご依頼により、『弦楽四重奏の楽しみ方』と題した講演をさせていただいてきました。
 実は、同館にお邪魔するのは初めてでしたが、JR静岡駅北口を出れば、もうすぐ西側にあり、たいへん便利なロケーションなのに驚きました。
 独立館ではなく、郵便施設なども入った大きな建物の上層部ですが、たいへんゆったりとしたゴージャスな造りで、パイプオルガンも備わっています。
 音響的にも、響きすぎるくらいよく響くホールでした。
 愛称はAOIホール。徳川さま膝下の駿府のホールということで、葵の紋所にちなんだとか。

(右写真) AOI HALL というロゴを探したのですがなかったので、磯部正己館長にロゴ代わりになっていただき、野平一郎音楽監督夫人で音楽評論家の野平多美さんと3人で写真を撮りました。
 その右の写真は、エントランス反対側のロビー。昼ならば、背後の窓に富士山が大写しになるそうです。夜で残念!!


● 舘野泉 傘寿記念コンサートとレセプション
2016年11月10日 東京オペラシティ コンサートホール
 左手のピアニストに特化されてすでに10数年キャリアを持つ舘野先生が、傘寿を記念して、何とピアノ協奏曲4曲を一公演で弾くという、驚異的なコンサートを開かれました。
 もちろん、どれも左手だけで奏される『左手のためのピアノ協奏曲』です。
 会場には毎年恒例の假屋崎省吾さん製作のクリスマス・オブジェが……。


写真(左)は会場のクリスマスツリー。中休みに。
(中)は、終演後のレセプションでの舘野先生ご夫妻。
(右)は、舘野先生のご子息でヴァイオリニストのヤンネ舘野さんと久々にお会いしました。


● ウィーン国立歌劇場 日本公演 ワーグナー『ワルキューレ』
2016年11月6日 東京文化会館
 つい先ごろ、10月18日に新国立劇場で拝見したのはゲッツ・フリードレヒの遺作プロダクション、飯守泰次郎オペラ芸術監督による『ワルキューレ』でしたが、重なるときは不思議と重なるもので、ウィーン国立歌劇場が携えてきた三演目の一つが『ワルキューレ』でした。
 新国立劇場の『ワルキューレ』評は『ハンナ』1月号にすでに寄せました。
 ウィーン国立歌劇場公演についてもこれから振り返って、同誌に公演評を執筆いたします。

 どちらも考え抜かれた、芸の細かいプロダクションで、意外にアイディアに共通性があった半面、ブリュンヒルデのキャラクターが対極といってよいほど異なったことが印象的でした。
 新国立のブリュンヒルデは北欧神話に出てきそうな、巨人タイプの戦場の女神。
 対するウィーン国立のブリュンヒルデは華奢で愛らしい戦場乙女。どちらも立派な歌唱でした。


● ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 バンベルク交響楽団
2016年11月4日 オペラシティ コンサートホール
    モーツァルト:交響曲第34番 ハ長調
    ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調
 ブロムシュテットさんは前夜も当夜もすべて暗譜。
 たくさんのミュージック・アイディアを次々と繰り出され、雑音のまったくない純な音だけで幅広いダイナミクスと驚異的な表現の幅をもつて、聴きどころ満載のモーツァルトとブルックナーを聴かせてくださいました。

 (写真左) 89歳の若々しいマエストロとサントリーホールの楽屋で。
 (写真右) チェロの帯留めをつけていたところ、目ざとく気づいてくださいました。


● ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 バンベルク交響楽団
2016年11月3日 サントリーホール
    シューベルト:交響曲第7番 ロ短調『未完成』
    ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調『田園』
 これほどまでに、柔らかく繊細な響きがオーケストラから奏出されるとは信じがたいほど、身も心も溶けてしまいそうな柔和なサウンドでした。
 『未完成』は涙が出ました。『田園』の2楽章、オーボエの日本人女性、なんと情感豊かな音色でしょう。
 アシスタント・コンミスの桑原亜紀さんのご活躍も嬉しく拝聴しました。


● 東京ニューシティ管弦楽団 熊本地震復興祈念 特別演奏会
2016年10月31日 オペラシティコンサートホール
 ニューシティ管弦楽団が、今春に勃発した熊本地震の被災地復興を祈念し、被災者を支援するための特別演奏会を開催しました。
この演奏会には、ポーランドの代表的指揮者グジェゴシュ・ノヴァックさんと、その同朋で現代屈指の名ピアニスト、クリスティアン・ツィメルマンさんが出演。
 お二人は出演料を受け取ることなく、その全額を被災地支援のために寄付なさいました。
 2011年3月11日の東日本大震災発生時に東京にいたというツィメルマンさんは、地震およびそれに続く原発事故発生を重く受け止め、世界のエネルギー政策の今後についても以来思考を巡らし続けてきたそうです。
 今春におきた熊本地震に関しても、多くの人命が失われたこと、日本の歴史的文化遺産が損なわれたことに強い衝撃を受けて、今回の支援コンサートに出演されました。
 ベルリオーズの『ローマの謝肉祭』を経て。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番に磨き抜かれたピアニズムを発揮。後半はメンデルスゾーンの交響曲第4番『イタリア』でした。
(写)マエストロ、ノヴァックご夫妻と共に楽屋で


● 東京フィルハーモニー交響楽団 マスカーニ『イリス(あやめ)』演奏会形式
2016年10月16日 オーチャードホール
2016年10月20日 サントリーホール
 今シーズンから首席指揮者に就任した、1987年ヴェローナ生まれの新鋭アンドレア・バッティストーニの肝いりで、マスカーニのオペラ『イリス』が演奏会形式により東京で2公演、上演されました。
 『イリス』とは、わたくしたち日本人にも馴染の深い初夏の湿地に咲く美しい花「あやめ」の意。
 1898年11月22日にローマで初演されたこのオペラは、その8年前の『カヴァレリア・ルスティカーナ』で一躍寵児となったピエトロ・マスカーニのジャポニズム・オペラです。プッチーニの『蝶々夫人』が1904年ですから、それに6年も先駆けているわけです。
 この当時は、1889年、及び90年のパリ万国博覧会の影響もあってヨーロッパにジャポニズム志向が巻き起こっていた中、マスカーニがどのような音楽表現に至ったか、それを現代屈指の若手、バッティストーニがどのように受け止め、いかに表現したか興味津々で、2公演とも拝聴しました。
 物語は、美しい花々の咲き乱れる庭で盲目の父と共に平和に暮らす若い娘イリスが、女衒の悪巧みによって誘拐されて吉原に売り飛ばされ、執拗に口説く男の性愛欲求に応えることができずに呆れられ、その一方、娘を堕落した女と決めつける父親の激しい糾弾に耐え切れず命を絶ち、あの世であやめの花として再生する、といったストーリー。
 『蝶々夫人』と比べるとかなり観念的、象徴的な印象を受けましたが、バッティストーニ、東フィルの快調なテンポのきびきびとした音楽、背景に映し出されるバッティストーニ自身が選んだ浮世絵の効果が絶大で、ジャポニズムというよりは、洋の東西を超えた普遍的なエロスに刺激を受けました。
(写真) Bunkamuraオーチャードホール公演時のもの。文化村西村社長、マエストロ・バッティストーニ、右端は、中野専務。
     本来でしたら、あやめの花柄のこの訪問着は5月に着用するつもりでつくったのですが、今回はオペラに因み、季節外れの10月に思いきって身につけました。


● 東京交響楽団 定期演奏会
2016年10月15日 サントリーホール
 東京文化会館の『オネーギン』のあと、サントリーホールへ。
 楽団創設70周年記念ヨーロッパ・ツアーを目前に控えた東京交響楽団の演奏会です。
   ジョナサン・ノット音楽監督と、ますます琴瑟相和する東響。
 前半は、ドイツの実力派、イザベル・ファウストさんを迎えたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。繊細にして緻密な音楽づくりに息を飲みました。カデンツァは、ベートーヴェン自身がこの曲をピアノ協奏曲に編曲したときに自身で入念に書いたものを、逆にヴァイオリンに移した版です。第1楽章のカデンツァではティンバニとのやりとりに、ベートーヴェンのアイディアがきらりと光ります。第2楽章にも短いながらカデンツァがあり、第3楽章は、第1クプレのあとにカデンツァが挿入されていましたが、何と、そこに『歓喜の歌』の断片がすでに顔を出していました。この版は1807年編曲ですから、1824年初演の第九に17年も先行しているのに、この時点ですでに「フロイデシェーネルゲッテルフンケン」の旋律は成立していたのですね。
 愛称として『ピアノ協奏曲第6番』と呼ばれることもあるこのピアノ版は、ボン時代に第二の家庭のように親しんだブロイニング家の次男シュテファン・フォン・ブロイニングの新婚の妻ユリーのために編曲されたものでした。4歳年下のシュテファンは生涯の友となり、ベートーヴェン没後、遺品の中から、有名な『ハイリゲンシュタットの遺書』及び『不滅の恋人への手紙』も発見していますが、その年のうちに没したため、もうひとりの発見者アントン・シントラーがこれら貴重な遺品の考証伝播に関わることになり、自己に都合のよい歪曲などもあったために多くの混乱を招きました。シュテファンさえもう少し長く存命していたら、2世紀近くにも及ぶ『不滅の恋人』問題も早くに解明されていたでしょう。
 少し、横道にそれましたが、ベートーヴェン唯一の『ヴァイオリン協奏曲』ニ長調はそのシュテファンに献呈され、それをピアノに移した『ピアノ協奏曲』ニ長調は、シュテファンの新妻ユリーに献呈されたのです。ユリーはピアノがたいへん上手で、おそらく美しい女性だったと想像されますが、このピアノ版の献呈からまもなく、20歳の若さで神に召されています。それを思うと、このカデンツァをヴァイオリンで拝聴できたことに胸がキュンとなりました。ファウストさん、ありがとうございます。
(写真)岩谷紀子さまとご一緒にファウストさんをお訪ねし、カデンツァの出典をうかがいました。


● 小菅優さん、ベートーヴェン・ソナタ全曲演奏会 完結記念コンサート
2016年10月14日 紀尾井ホール
 ベートーヴェンの32曲のソナタはピアニストのバイブル。
 ピアノに最適の音響を持つ紀尾井ホールを会場に全曲演奏会シリーズをみごと達成された小菅優さんが、完結記念としてそのハイライト演奏会を開催されました。
 第1番ヘ短調で幕を開け、第24番嬰ヘ長調『テレーゼ』、第17番ニ短調『テンペスト』を前半に、後半には第20番ハ長調『ワルトシュタイン』、そしてソナタ創作人生を締めくくる第32番ハ短調という珠玉のプログラム。前人未到のピアノ・ソナタの高い峰々は、「ド」で始まり「ド」で結ばれるという、一夜の星座の循環のごとき宇宙をなします。それを、決して濁らない美しい音で、わたくしたちに照らし出してくださった小菅優さん。得難いピアニストでいらっしゃいます。


(写真左から)
小菅優さんと楽屋で。
ベートーヴェンの余韻を耳に残しつつ、四ツ谷駅至近のジャズの老舗『いーぐる』で白ワインをいただきました。
『いーぐる』のオーナーで、ジャズ評論界の大御所、後藤さんと。
急激に秋らしくなりましたので、オータムカラーの紬を着ました。帯は秋の花、撫子を織り出した名古屋帯。帯留めは母の箪笥から発見したハート型の翡翠です。


● マリインスキー歌劇場日本公演 
東京文化会館大ホール
2016年10月12日 『ドン・カルロ』
2016年10月15日 『エフゲニー・オネーギン』
 シラーの劇詩によるヴェルディの重量級オペラ『ドン・カルロ』と、プーシキンの原作をもととするチャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』を携えて、ゲルギエフとマリインスキー歌劇場が日本公演を繰り広げました。
 『ドン・カルロ』は映像を駆使して登場人物の心理を映し出すというなかなかに凝ったプロダクション。『オネーギン』もそうなのかと思って拝見しましたら、こちらはグレーミン公爵家の舞踏会の窓外に、ネヴァ河の流れをゆるやかに映す場面にきわめて印象的に使われていました。調度品から衣裳の色合いがこれまた絵のような美しさ。
 『ドン・カルロ』のロドリーゴと『オネーギン』のタイトルロールが同じアレクセイ・マルコフさん。逞しさの際立つ立派なバリトンなので、前者のキャラクターのほうが似合っています。『ドン・カルロ』の宗教裁判長と『オネーギン』のグレーミン公爵が同じミハイル・ぺトレンコさん。両役とも、過不足なく演じ、歌われました。
 やはりお家芸の『オネーギン』は圧巻で、しかも舞台美術とこまかな演出に配慮が行き届き、歌い手勢も母語の人が多いためか歌唱も演技も総じて伸びやかでした。タチアーナのマリア・バヤンキナさん、第1幕の純情娘も第3幕の高貴な公爵夫人もどちらもよく雰囲気を出しておられました。レンスキーを演じた若手のアフメドフさん、かなりの抜擢だったと思いますが、あの名アリアで今一つ声が伸びなかったのがお気の毒でした。次回はもっとよいに違いありません。
(写真左) 12日の『ドン・カルロ』
(写真右) 15日の『エフゲニー・オネーギン』


● 横浜みなとみらいホール 試聴ラウンジ〈第2回〉
  第35回 横浜市招待国際ピアノ演奏会をより楽しむために

  2016年10月9日(日)午後1時30分から3時
 11月5日と6日に開催される「第35回 横浜市招待国際ピアノ演奏会」のプレ・レクチャーをいたしました。
 この演奏会は、メジャー国際コンクールに入賞歴のある35歳以下のピアニストの中から選りすぐりの逸材を招いて、ソロとコンチェルトの両ステージを披露してもらうという企画です。
 今回の招待ピアニストは次の4名です。
      エフゲニ・ボジャノフ    1984年ブルガリア生まれ   32歳
      バラージュ・デメニー    1989年ハンガリー生まれ   27歳
      小林海都          1995年横浜市生まれ     21歳
      ゲオルギー・チャイゼ    1988年ロシア生まれ     28歳
 わたくし自身が、これまでにその生演奏に接したことのあるのは、エフゲニ・ボジャノフ、小林海都の二人でしたので、この二人についてお話したあと、彼らの演奏曲目の中から、ラヴェルのト長調協奏曲と、チャイコフスキーの協奏曲第1番を予習し、
 シューベルトの即興曲op.142-3『ロザムンデの変奏曲』の名盤聴き比べをいたしました。
 ラヴェルの協奏曲は、この曲の被献呈者で初演者である、フランス楽壇の女王、マルグリット・ロンの1952年録音で聴き、チャイコフスキーはマルタ・アルゲリッチの1970年録音で聴きました。

 シューベルトの即興曲については、次の二種録音を聴き比べいたしました。
● 内田光子盤   1996年9月 ウィーンのムジークフェラインザールで収録
● 小山実稚恵盤  2015年1月 軽井沢の大賀ホールで収録
小山実稚恵盤のライナーノートは拙文です。
どちらも名演ですが、同じ曲でも、ピアニストによってこれほど表現が異なることに、みなさま驚かれたごようすでした。

(写真左)担当の、鍛さん、小野寺さんとともに。
(写真右)港をバックに受講者の方々と写した写真は、ちょっと逆光が残念です。


2016の上記以前の話題は、話題2016年に移転しました。

2015の話題は、話題2015年に移転しました。
 
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