元親が必死で推理していると、また元就が睨んでいた。
降参。
「あんたが何したいのか全然わからないんだけど」
「! きゅんとしないのか!?」
「はい?」
「だ、か、ら! 我のかわゆい仕草できゅんと! するであろ?」
「きゅん… 廊下でごろごろしてたり、お手玉数える謎行動や、俺にガン飛ばしたりしてるあれ、きゅんとする動作、なのか?」
「ころころ可愛らしく転がったり、かわいらしいアイテムを愛でたり、そなたに微笑みかけたりって、きゅんとする動作であろう! そなたそんなひねくれた受け取り方しかできないとは、嘆かわしい…!」
嘆かわしいのはアンタの発想だ、と言いたい。
誰も助言してやらなかったんだろうか、と頭が痛くなってくる。
なんとも微妙な顔をしている元親の思いなんて全く察することもなく、元就はややイライラした様子で元親の前にどしっと座った。男前ですね。
「だが我は寛容であるから、そなたのしょっぱい反応も大目にみてやろう」
「そりゃ、どーも…」
「…なあ、きゅんとしないのか? 我にほんとーにきゅんとしないのか?」
元就に、というより、さっきの一連の不審な行動については、きゅんとできる要素は全くなかった。
だんだん怖い顔になっていってた自覚はないらしい。
先に言っておいてくれれば、序盤にきゅんとしたフリくらいできたのに。
「おかしい…彼氏、というものは、彼女、の可愛らしい仕草その他にきゅんきゅんするものだというのに、何故そなたはきゅんきゅんしないのだ。我らは!こっ…こいびとどーし、ではなかったのか!? 我だけそのつもりとか超イタイ人ではないかっ!」
「イタイ人って、あのなあ。大体その常識誰にきいたんだよ」
元就のオツムで思いつける発想ではない。
賢いくせに。何故、毎回毎回ころっと丸め込まれて嘘知識を定着させてしまうのか。
あの元就の一連の怖い動作にきゅんきゅんしてたら元親の方がイタイ人じゃないか。
「ん? 政宗ぞ?」
「ああ、うん、政宗ね。…あいつとは一度じっくり話し合う必要がありそうだな…」
おおかた、元就がうるさくしたから適当なインチキを教え込んだに違いない。
ああもう。
なんでいつもいつも余所から変な知識ばっかり。
「そなたはどんな仕草ならきゅんとするのだ?」
そのやたら直球な質問と、ほどほどのアホさ加減にです。…と思っているのだが、アホとか言うと怒りだすの分かっているから言わないんです。
(平成27年3月3日)
「おかしい…可愛らしい仕草、には萌えきゅんきゅんするはずなのだ、特にそれが己のコイビトであるなら絶対きゅんとくるはずなのだ…」
大体、政宗にきいたからってそれを頭からあっさり信じるほど元就は単純では無いのだ。
ホントにコイビトの仕草に萌えきゅんするものなのか。
そこでまず、元就が向かったのは浅井である。
嫌がる長政をマリアと一緒に押さえつけて、縛り上げて、お市に萌えきゅん、ないろいろをちゃんと自供させたのだ。
それから織田。
濃姫さんに萌えきゅんするのか?と直球にきいたらば是非も無し、って返事されたからこれもきっと嫁萌えなのは間違いない。
前田は…まあ、あれは見りゃわかるからわざわざ聞きにいかなかった。
ほら見ろ。
ちゃんとみんな嫁萌えしてるじゃあないか。
だから元親も我に萌えきゅんするべきなのだ。
現に、我は元親の不意に見せる可愛い仕草に萌えきゅん…
…
……
………あ。
元就はがば、と跳ね起きた。
彼女の明晰な頭脳は、この瞬間明快な答えを導き出したのだ。
「そうか! 嫁の可愛い仕草に萌えきゅん、するのである。そして我は元親の仕草に萌えきゅんしてるんだから、つまり元親の旦那様は我で、元親が我の嫁なのだ!」
だから元親が我に萌えないのも納得。超納得。
「我はてっきり我が元親の嫁だと思っておったのだが、元親が我の嫁だったのだな!」
ああスッキリ。ああナットク。
元就の結論にツッコミを入れられる人物は不在だった。
(平成27年3月3日)
つん。
「痛い。」
ぐる、と振り返った元就は、じろりと元親を睨んだ。
「ふ。つい。悪い、髪、伸びたなーって思ってよ?」
「ん? あー。じゃあ、ハイ。」
元就はハサミを取り出す。
「何。」
「テキトーに切ってくれ」
「テキトー!?」
冗談言ってる様子はない。
またすっかり関心の無くなった様子で机の方向いてしまったから、つまり伸びたらテキトーに切ってるんだこの人は。
元親は思わず頭を抱えてしまう。
「あー。じゃあ、別に髪型にもこだわりないんだ?」
「特に何も。いっそ剃っちゃった方が楽なんじゃないかなーっと我は思うのだが「思わないでください」
「カミソリとか、滑って頭の皮をグッサリしちゃったらブシャアアッと「想像しちゃうからやめてください」
「あ、そお?」
「そうです。あー、じゃあ、俺の好きにしてもいいってことだよな?」
「別に構わぬが?グッサリとかザックリとか、痛いのは嫌だけど」
「やりませんって…じゃあちょっと待ってろよ」
「?」
元親は何だかそわそわうきうきした様子で出て行ってしまった。
「あー…我専用の暖房がー…」
近くにいるとあったまる。
障害物がいなくなったせいでいささか風通しが良くなってしまった背後にため息をつきつつ、羽織をぐいと寄せた。
さて、しばらくして元親は、大きな葛籠を抱えて戻ってきた。
「元就!待たせたな!」
「遅い! 部屋が冷えたぞ!」
こういう事態において、自分がすっかりお便利アイテムになっている自覚のない元親は、『俺がいなくて寂しかったんだ』とおめでたく解釈する。
「はいはい。じゃ、頭が気になるかもしれないけど動くなよ?」
「…何する気だ?」
振り返らなきゃよかった。
元就は、元親のもってきた葛籠いっぱいの様々な装飾品にゲンナリした。
どこで集めてきたんだ。
「我、頭が重くなるのはちょっと…」
「俺の好きにしていいんだろ?」
「そんな事言ったっけ?」
「言いました!」
(平成27年3月11日)