第6章 論理回路素子
本章では、論理回路を構成する具体的な素子と、その動作について解説します。

6.1 電磁リレー
6.2 ダイオード
6.3 バイポーラトランジスタとTTL
6.4 電界効果トランジスタ(MOS FET)
6.5 演習問題

6.1 電磁リレー
電磁リレーは、 電磁石 を用いた素子で、 1930年代の計算機に多く使用されました。
現在でも モータ等の制御 に用いられています。
原理は単純で、電磁石に電流が流れると鉄片が励磁され、吸引されます。
電流が切れるとバネの力により、もとの位置に戻ります。

鉄片には スイッチ が付いており、電流が流れると開くタイプ (ブレーク接点) と、閉じるタイプ (メーク接点) の2種類があります。

本節では、前者の電流が流れると開く (ブレーク接点) を用いた回路について説明します。

電磁リレーの特徴 は以下の通りです。

○長所
・入出力を完全に分離できる。
・出力の駆動能力(ファンアウト)が高い。

○短所
・応答速度が遅い。
・消費電力・サイズが大きい。
・寿命が短い。

次に具体的な動作について説明しましょう。

はじめにNOT回路の構成を示します。
入力が のとき、入力側のスイッチが閉じ、電磁石のコイルに電流が流れます。
このとき磁石の吸引力により、 出力側の スイッチが開き(オフ)、 出力側の電流が流れなくなります(出力= )。

一方、入力が (オフ)のとき、コイルに電流が流れなくなり、 バネの力により出力側のスイッチが閉じます(出力= )。
図の入力付近をクリックすると、回路の状態が変化します。

今度は、 NAND(否定論理積) の回路について説明します。

入力側のスイッチが2つあり(AとB)、 直列 に接続されている点に注意して下さい。
電磁石のコイルに電流が流れ、出力が (オフ) となるのは、2つのスイッチがともに閉じる(オン)場合です (A=B= 1 )。

一方、A,Bの少なくとも一方のスイッチがオフ( )であれば、 コイルに電流が流れることはなく、
バネの力により出力が オン( )の状態となります。

以上の動作は論理的には NAND です。
図の入力をクリックして、回路の動作を確認して下さい。


最後に、 NOR(否定論理和) の構成を示します。

入力側のスイッチが2つあり(AとB)、今度は 並列 に接続されている点に注意して下さい。
2つのスイッチの少なくとも一方 が閉じていれば(オン)、 電磁石のコイルには電流が流れ、出力が (オフ) となります。

逆に両方のスイッチがともにオフ( )のとき、コイルに電流が流れず、 バネの力により出力がオン( )の状態となります。
これは論理的にはNORとなります。
電磁リレーは現在も製造されていますが、応答速度や寿命などコンピュータの素子としては欠点が多く、
実際に使われることはありません。

6.2 ダイオード
ダイオードは整流作用を持つ素子で、陽極(アノード)と陰極(カソード)の2つの電極があります。
陽極から陰極の向きには電流が流れやすく、逆向きにはほとんど電流が流れません。

ダイオードは、下図のような記号で表します。矢印が電流を流す向きになります。

シリコンダイオードの場合、順方向の電位差は電流の大きさにほとんど依存せず、 約0.6〜0.7V(ボルト)です。
この整流作用により、簡単な論理回路を構成することができます。

ダイオードの特徴を以下に示します。

○長所
・構造が単純で小型化しやすい。
・接続可能な入力数が多くとれる。

○短所
・NOT(否定)が実現できない。
・多段に縦続接続できない。 (HとLのレベルが接近するため)

以下に AND(論理積) の回路を示します。

2つの入力が共に 1(Hレベル) のとき、ダイオードは逆バイアス( オフ )になり、電流はほとんど流れません。
従って抵抗(R)による電圧降下はほとんど0で、出力は 1(Hレベル) になります。

ところが、少なくとも一方の入力が 0(Lレベル) になると、
その入力につながるダイオードが順方向( オン )となり、抵抗に電流が流れます。
例えばその入力( )が 0V であれば、ダイオードに流れる電流の大きさにかかわりなく、出力電圧は 0.6〜0.7V となります。
この電圧は、レベルとしては L(0) です。

以上の動作は論理的にはANDに相当します。

次に OR(論理和) の回路を示します。

2つの入力が共に 0(Lレベル) のとき、ダイオードは逆バイアス( オフ )になり、電流は流れません。
従って抵抗(R)の電圧降下はほとんどなく、出力は 0(Lレベル) になります。

ところが、少なくとも一方の入力が 1(Hレベル) になると、
その入力につながるダイオードが順方向( オン )となり、抵抗には 電流が流れます。
例えばHレベルの入力が 5V (ボルト)であれば、出力電圧はそれより 0.6〜0.7V低い 4.3〜4.4V となります。
この電圧は、レベルとしては H(1) です。

以上の動作は論理的にはORに相当します。

ダイオードは、小型で安価である特徴を生かし、キーボードのような単純な回路で、 マトリクスエンコーダとして用いられます。
しかし、ダイオードだけではインバータ(否定)が構成できないという点は、 論理回路では致命的な欠点です。
このため、次節のTTLが実用化されるまで、 トランジスタを用いたインバータ(NOT)と組み合わせて用いられました。

このような回路をDTL(Diode Transistor Logic)と呼びます。

6.3 バイポーラトランジスタとTTL
バイポーラトランジスタは、電流を増幅する素子であり、 1947年、アメリカのベル研究所で発明されました。
当初はリンやボロン等の不純物を含んだゲルマニウムの基板上に、
2つのゲルマニウム結晶を接触させる構造であり、動作は極めて不安定でした。

その後、このバイポーラトランジスタは合金型、プレーナ型へと発展し、
MOSトランジスタが実用化されるまで、ほとんどのコンピュータに使用されていました。

バイポーラトランジスタの特徴を以下に示します。

 ○長所
・動作速度が比較的速い。
 ○短所
・LSIの製造プロセスがやや複雑になる。
  (次節のMOS FETに比べて)

最も単純な NOT回路 (インバータともいう)を示します。

このトランジスタはNPN型であり、ベース、エミッタ、コレクタの3つの電極で構成されます。
入力が 1(Hレベル) のとき、トランジスタのベース電極には電流が流れ、 コレクタからエミッタに大きな電流が流れます。
   (トランジスタは飽和領域( オン )にあります。)
このとき抵抗(R)にはコレクタ電流が流れ、電圧降下が発生するため、出力は Lレベル (0.4V以下)になります。

一方、入力が Lレベルのとき、 トランジスタのベースに電流はほとんど流れず、コレクタ電流も0となります。
(このとき、トランジスタは遮断領域( オフ )にあります。)
従って、抵抗(R)による電圧降下はほとんどなく、出力は Hレベル(1) となります。

以上の動作は、論理的にはNOT(否定)に相当します。

ダイオードによるANDやOR回路と、 バイポーラトランジスタによるNOT回路を組み合わせることにより、
ありとあらゆる論理回路を構成することが可能です。
しかし、より高速で小型な素子が求められるようになり、1963年に LSI(集積回路) が開発されました。
以後、この TTL(Transistor Transistor Logic) は、様々なディジタル機器に使用されるようになりました。

下にTTL回路の例として、2入力のNAND回路を示します。

入力には、エミッタが複数あるマルチエミッタのトランジスタが用いられます。
また、出力側はNPN型のトランジスタが縦に2つつながり、一方が オン 、他方が オフ の状態となります。

このトランジスタの構造は、その配置からトーテムポールと呼ばれています。
2つの入力がともに 1(Hレベル) のとき、1段目のトランジスタは オフ となります。
しかし、ベース(P)からコレクタ(N)に向かって電流が流れ、 2段目と3段目(下)のトランジスタがともに オン の状態となります。
2段目のトランジスタに流れるコレクタ電流により、 電源との間に接続されている抵抗に電圧降下を生じます。
このため3段目(上)のトランジスタのベースとエミッタ間の電圧は0.7V以下となり、 オフ 状態になります。
ダイオードは、このトランジスタを完全にオフ状態とために挿入されています。
このとき、出力は Lレベル (0.4V以下)です。

一方、2つの入力の少なくとも1方が Lレベル になると、1段目のトランジスタが オン となり、そのコレクタ電圧も1V以下になります。
このため、2段目と3段目(下)のトランジスタは ベース・エミッタ間の電圧(0.7V)が確保できず、ともに オフ 状態となります。
このため、3段目(上)のトランジスタのベース電圧がほぼ電源電圧に等しくなり、 オン 状態となります。

エミッタに接続するダイオードも同時に オン となり、出力電圧は3.6V以上に持ち上げられます。
これはレベルとしては、 H(1) です。

6.4 電界効果トランジスタ(MOS FET)
電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)には、 接合型とMOS(Metal Oxide Semiconductor)型があります。

大規模な集積回路には、MOS型のトランジスタが用いられます。

バイポーラトランジスタに比べ、製造プロセスや回路構成が単純なMOSトランジスタは、
電卓や時計から、マイクロプロセッサ等、ありとあらゆる分野に用いられています。

MOSトランジスタを用いた論理回路の特徴は、以下の通りです。

 ○長所
・低消費電力。
・構造が単純であり、集積化しやすい。

 ○短所
・駆動能力(容量性負荷に対して)。

はじめに、 否定(NOT)回路 を示します。
MOSトランジスタには、pMOS型とnMOS型の2種類があり、 特性の異なるスイッチとして動作します。
pMOS 型では、ゲート電極が Hレベル のとき オフ Lレベル のとき オン となります。
逆に nMOS型 では、ゲート電極が Hレベル のとき オン Lレベル のとき オフ となります。

図の入力が 1(Hレベル) のとき、グランド側の nMOS が導通し、出力は 0(Lレベル) となります。

逆に、入力が 0(Lレベル) のとき、電源側のpMOSが導通し、出力は 1(Hレベル) となります。

以上の動作は論理的にはNOT(否定)です。

次に、 NAND(否定論理積) 回路を示します。

pMOSとnMOS型トランジスタを、それぞれ2組用います。
電源側のpMOSが 並列に 、グランド側のnMOSが 直列に 接続されている点に注意して下さい。
図の2つの入力がともに 1(Hレベル) のとき、出力はグランド側につながり、出力は 0(Lレベル) となります。

一方、入力の少なくとも1つが 0(Lレベル) のとき、出力は電源側に接続し、出力は 1(Hレベル) となります。

以上の動作は論理的にはNANDです。

最後に、 NOR(否定論理和) 回路を示します。

NANDと同様、pMOSとnMOS型トランジスタをそれぞれ2組用います。
NANDと違い、電源側の pMOS 直列 に、グランド側の nMOS 並列 に接続されている点に注意して下さい。

図の2つの入力がともに 0(Lレベル) のとき、出力は電源側につながり、出力は 1(Hレベル) となります。
一方、入力の少なくとも1方が 1(Hレベル) のとき、出力はグランド側に接続し、出力は 0(Lレベル) となります。

以上の動作は論理的にはNORです。

このMOS型電界効果トランジスタは集積化に適しており、 現在のほとんどの超LSIに、用いられています。
しかしLSIの微細化が進むにつれ、その消費電力や熱の問題が浮上しています。

この対策として、電源電圧を低く(3V以下)にするなどの工夫がなされていますが、
シリコンデバイスの閾値(オン・オフが切り替わる電圧)を小さくすること自体が難しく、 次世代のデバイス(素子)も模索されています。

6.5 演習問題[6]
本章では、論理回路素子について学習しました。

次の演習問題(全6問)を解き、理解を深めてください。

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