情報ゼミナール2002 (6/17)
レポートと文章表現
井澤 裕司
1. 目 的
この「情報ゼミナール」をはじめとして、これから皆さんは実験や授業などで、レポートを何回となく作成し
提出することになります。今回は、この
「レポートを作成する方法」
について学習します。
レポートを書く目的は、下に示す技術的・学術的内容を、教官をはじめとする読者に伝えることにあります。
(1) 与えられた課題について学習した内容や研究した成果
(2) 様々な実験の課題や結果のまとめ、考察
(3) コンテストなどのため製作した作品、試作したソフトウェア等
これらは報告書(Report)であって、作文や感想文ではありません。
したがって、小説家が書くような名文・美文である必要はなく、
”簡潔でわかりやすく論理的に明快な文章”
を書くことが何よりも重要です。
これらのレポートを作成する能力は、大学のみならず、企業や行政機関においても必要です。
「情報ゼミナール」の後半で学習する
「発表の方法」
と合わせて、しっかり学習し身につけるよう努力して下さい。
なお、以下の内容は、あくまで一般的な技術レポートを書く場合の注意点をまとめたものです。
具体的な授業科目のレポートの書き方については、担当教官の指示に従って下さい。
2. レポートを書く前に
パソコンに向かってレポートを書く前に、準備しなければならないことがあります。
これを怠ると、場合によってはレポートを書き直すことになりかねません。
「急がば回れ」
の精神で、
しっかり準備した方が最終的な目標に速く到達することができると言えるでしょう。
(1) 「読者は誰か」を確認する
大学でのレポートの場合、大部分は課題を出した教官自身が読者になります。
しかし、研究論文や技術報告などでは、学会等における不特定の読者が対象となります。
また、時には学生が読むものとして、レポートを書くケースもあるでしょう。
読者により、レポートに要求される内容は変わります。
また、使用する技術用語・専門用語なども、読者層の知識に合わせて選択しなければなりません。
(2) 材料を揃える
授業のレポートでは、与えられた課題の内容について十分学習し、理解する必要があることは言うまでも
ありません。
ハードウェア関連の実験では、実際に回路を組んで波形を観測し、方眼紙等に記録を残すことが重要です。
ソフトウェアの実験では、定められた仕様のソフトウェアを作成し、そのソースコードや計算結果を手元に
用意します。
自分で調査する必要がある場合は、教科書や図書館で調べたり、インターネットで検索することになります。
技術レポートでは、参考文献を報告する必要がありますので、書名やURLなどもメモに残しておきます。
(3) 要点をメモする
いきなり、レポートの形式で書き始めるのは、初心者には難しいでしょう。
はじめのうちは項目や要点をメモに書き、特に重要な点、強調したい点にはアンダーラインを引くなどして、
頭の中を整理します。
(4) 構成を考える
実験レポートのように、書式がある程度定まっている場合は、構成について工夫することは少ないでしょう。
ページ数の制約等を考慮して、重要な項目と、省略する項目に分ける程度です。
しかし、書式が決まっていないレポートの場合は、その構成をどのようにするか、十分に時間をとって考える
必要があるでしょう。その例については、次の3章で述べることにします。
(5) 図や表を準備する
文章でだらだらと説明されるより、対応する項目を表の形で整理して示された方が、はるかに理解しやすい
ことはよく経験する事実です。
また、数値の場合、グラフ化すると一目で理解できるようになります。
まず、図やグラフ、表を用いて伝えたい内容が表現できないか、検討しましょう。
例えば、著名な表計算ソフトには、数値をグラフ化する機能が入っています。
Linuxでは、フリーウェアの表計算ソフトも簡単に入手できます。
グラフを作成する操作法に習熟する必要がありますが、覚えておいて損はないスキルです。
3. レポートの構成
ここでは、レポートの書式が指定されている場合と、指定されていない場合に分けて、
レポートの構成法を整理してみましょう。
3-1 レポートの書式が指定されている場合
実験のレポートでは、書式がある程度指定されています。
授業ではおおむね以下のような書式で提出するよう、指示されることが多いと思います。
(a) 表紙
・講義名、教官名、課題番号、課題名
・学科、学年、学籍番号、電子メールアドレス、氏名
・課題出題日、レポート提出日
(b) 本文
・課題と目的
・方法
・結果とまとめ
・考察
本文では、図や表を用いて直感的に理解できるよう説明し、簡潔で分かりやすく論理的に
明快な文章を書くよう心掛けます。
3-2 レポートの書式が指定されていない場合
一般的なレポートでは、レポートの構成をどのようにするかが極めて重要です。
以下、いくつかの重要なポイントについて説明しましょう。
(1) 誰が読むのかを明確にする
読者層を想定し、背景をどの程度詳しく説明するか、使用する専門用語をどの程度使用するかを
決定します。
その分野に関する予備知識がない場合については、背景を詳しく説明し、専門用語には別途
補足説明を加える等の配慮が必要です。
(2) 適切な表題をつける
一般的なレポートでは、適切な表題をつけることが極めて重要です。
表題が魅力的でないと、まず読んでくれません。
また、表題と実際の内容がずれていると、悪い印象を与えることは避けられないでしょう。
(3) 重要な結論や強調したい点を抜き出し、絞り込む
重要なポイントや強調したい点をいくつか抜き出します。
さらに、その内容をできうる限りわかりやすい図や表で表現できないか工夫します。
これらの数が多すぎるのは逆効果です。かえってポイントがぼけた印象を読者に与えてしまいます。
そして、強調したい点が目立つようなレポートの構成を考え、そのための図や表を準備します。
(4) 段落や章立てを考える
技術的なレポートの構成は決まっているわけではありませんが、
おおむね以下のようになると思います。
(a) 背景
(b) 目的
(c) 課題
(d) 手法
(e) 結果(結論)
(f) 考察
(g) まとめ
(h) 参考文献
印象的なレポートとするためには、結論が強調されるような構成に仕上げることが有効です。
基本は、読者の側に立って、レポートの構成を考え、図、表を準備し、文章を練り上げることです。
(5) 事実の解説と自分の考え・意見を切り分ける
技術的なレポートでは、事実の解説と、自分の考えや意見を混同することは、基本的に許されません。
レポートの構成や、文章表現で、これらが明快に分離されるような配慮が必要です。
4. 文章表現
レポートの文章に要求される条件は、
@簡潔で分かりやすく
、
A論理的に明快
であることです。
以下、いくつかポイントを挙げてみましょう。
(1) 誤字脱字がないこと
いくら内容が素晴らしくても、誤字脱字があるとレポートの中身まで疑われかねません。
誤字脱字やスペルミスがないよう、何度も確認しましょう。
(2) 文体が統一されていること
「XXです。」
と言う表現と、
「XXである。」
という表現が混ざっていないか、チェックします。
混ざっている場合は、統一します。一般には、「XXである。」という表現が用いられます。
(3) 長い文章は2つ以上に分割する
長い文章は、主語と述語が離れすぎ、読者にとって読み難くなりがちです。
このような場合は、文章を2つ以上に分けてみましょう。
(4) 主語と述語にねじれがないか、チェックする
しばしば、主語と述語の関係がずれている文章をみかけます。途中の修飾語をはずして
矛盾がないか、チェックしましょう。
(5) 受動態の表現を能動態に変更して、より分かりやすくなる場合は変更する
例えば、
「スイッチが押されると、電源回路から熱が放出される。」
は、
「スイッチを押すと、電源回路は熱を放出する。」
の方が、分かりやすいと言えましょう。
(6) いくつかの項目を列挙する場合については、箇条書きにする
文章に中に、複数の項目を列挙するような場合、箇条書きにします。
この方が、読者にとってはるかに分かりやすくなるでしょう。
(7) 論理関係が明快な表現を用いる
我々が日常使用する言葉はもともと曖昧な言語と言えるでしょう。
有名な例としては、次のような文章があります。
「黒い目のきれいな女の子」
この文章では、様々な解釈が可能です。
例えば、
「目がきれいな女の子」
なのか、
「(黒い目をした)きれいな女の子」
なのか、はっきりしません。
技術的なレポートでは、このような曖昧な表現は避けねばなりません。
(8) 文章の組み立て方を工夫する
文章を構成する言葉を入れ替えてみて、分かりやすい順序を探し出しましょう。
例えば、次のような文章があるとします。
「若いイタリアから来たスルーパスの上手な選手」
この
「若い」
という形容詞を後ろにもってくると、
「イタリアから来たスルーパスの上手な若い選手」
となり、この方が分かりやすいと言えるでしょう。
(9) 二重否定はできるだけ避ける
小説なら別ですが、技術的なレポートでは、二重否定は避けた方が無難です。
例えば、
「ミスをしない選手はいない。」
は
↓
「すべての選手はミスをする。」
のように書いた方がよいでしょう。また、
「すべての誤りが検出されることはない。」
は
↓
「検出されない誤りが存在する。」
のように表現します。
この他にも、分かりやすく論理的に明快な文章を書くための注意点があると思います。
皆さん自身で考え、そして実行できるよう努力して下さい。
5. より良いレポートに仕上げるために
レポートを書き終えて、安心してはいけません。何度も読み直し、校正を重ねることが必要です。
より良いレポートに仕上げるためには、例えば以下のような方法が考えられます。
(1) 優れたレポート(文章)を読み、手本とする
良い文章を書くためには、良い文章を数多く読んで、その長所を吸収しましょう。
何事も、はじめは人真似から始まります。
(2) 読み手の立場になって繰り返し読み、推敲する
時間を置いて読み直してみると、それまで気づかなかった欠点が見えてくることもあります。
文章による説明ではどうしても分かり難い場合は、図や表で表現できないか、再度確認します。
(3) 第3者に読んでもらい、率直な意見を聞く
これ以外にも、良いレポートを仕上げる方法があるはずです。
自分なりの方法を見つけることができれば、飛躍的にレポートの質は向上することでしょう。
6. まとめ
ここでは、良いレポートを書くための一般的な方法を紹介しました。
スペースの関係であまり詳細な内容は紹介できませんが、参考文献等により補っていただければ幸いです。
なお、最初で述べたように、この内容はあくまで一般的な技術レポートについての書き方をまとめたものです。
具体的な授業科目のレポートの書き方については、担当教官の指示に従って下さい。
質問や意見等がありましたら、井澤(yizawa.cs@gmail.com)までご連絡下さい。
[参考文献]
木下是雄著 「レポートの組み立て方」 ちくま学芸文庫
野口悠紀雄著 「超勉強法」 講談社