ラプラス変換

井澤 裕司 


 1. はじめに
4章では, フーリエ変換 について学習しました.
本章では,これを過渡現象の解析にも利用できるように拡張した ラプラス変換 について解説します.
この ラプラス変換 により,線形システムの応答や微分方程式の解を比較的簡単な 四則演算 により求めることができます.

ラプラス変換 では,積分記号で表される操作が、 変換 逆変換 で基本的に異なっており,
フーリエ変換 に比べ物理的なイメージを掴むことが難しいと言われていますが,
ここではその本質的な意味が直観的に把握できるようイメージ化を試みます.

 2. ラプラス変換とは
本節では ラプラス変換 逆ラプラス変換 の定義を示し,いくつかの 例題 を通して
その 物理的なイメージ を探ります.
2.1 定義(狭義)
時間 t ≧ 0 で定義された関数 f (t) について,
以下に示す積分 F (s) f (t) ラプラス変換 といいます.
ここで, t は実数, s は複素数であり, e-s t 収束因子
f (t) 原関数 F (s) 像関数 と呼びます.
なお,原関数 f (t) と,像関数 F (s) の関係を,以下のように表現することがあります.
一般に F (s) s の値により 収束 したり 発散 したりしますが,
例えば s の実部 Re (s) = σ σ > σc の条件で 収束するとき,この σc の上限を 収束座標
σ > σc を満たす s の領域を 収束域 と呼びます.
なお,後ほど詳しく説明しますが,狭義の F (s) 変数 jω σ の方向に拡張した一種の スペクトル であり,
その 次元 [f (t)の次元×時間] となります.
一方, 逆ラプラス変換 の定義は次のようになります.
ここで, s = σ + j ω であり, t < 0 f (t) = 0 とします.
また, 逆ラプラス変換 を以下のように表すことがあります.
なお, s = σ + j ω として, s平面 における 収束因子 e-s t を図示すると,
その半径が 指数関数 で発散したり,減衰する コイルばね のような形状になります.


[例題1] 単位ステップ関数 u (t) のラプラス変換
単位ステップ関数 u (t) は, t < 0 のとき u (t) = 0 t > 0 のとき u (t) = 1 となる関数です.
この 関数 ラプラス変換 すると,以下のようになります.
ここで,複素変数 s の実部が正,すなわち Re(s) = σ > 0 のとき,上式の第2項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, u (t) ラプラス変換 は, σ > 0 の収束域で F (s) = 1/s という 複素関数 になります.

[例題2] 指数関数 f (t) = e-αt のラプラス変換
次に α を正の実数として, 指数関数 f (t) = e-αt ラプラス変換 を求めてみましょう.
ここで,複素変数 s の実部 Re (s) σ として σ > -α のとき,上式の第2項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, 指数関数 ラプラス変換 は, σ > -α の収束域で F (s) = 1 / (s+α) になります.
ここで α = 0 とおくと, 例題1 で示した 単位ステップ関数 の結果に一致します.


[例題3] 三角関数 f (t) = cos (ωt) のラプラス変換
次に ω を正の実数として, 三角関数 f (t) = cos (ωt) ラプラス変換 を求めます.
後ほど詳しく説明しますが, 指数関数 三角関数 を結び付ける オイラーの公式 を以下に示します.
ここで ω を代入すると,次式が得られます.
上の2 式を加算し,2 で割ると,
が得られます.
これより, ラプラス変換 線形則 を適用して,
ここで,複素変数 s の実部 Re (s) σ として σ > 0 のとき,上式の第3項,第4項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, 三角関数 cos (ωt) ラプラス変換 は, σ > 0 の収束域で F (s) = s / (s22 ) になります.
ここで, ω = 0 とおくと F (s) = 1 / s となり, 例題1 の結果に一致します.


[例題4] 三角関数 f (t) = sin (ωt) のラプラス変換
例題3 と同様に ω を正の実数として, 三角関数 f (t) = sin (ωt) ラプラス変換 を求めます.
オイラーの公式 から得られる2式に減算を適用し, 2 j で割ると,
が得られます.これより, cos の場合と同様にして,
ここで,複素変数 s の実部 Re (s) σ として σ > 0 のとき,上式の第3項,第4項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, 三角関数 sin (ωt) ラプラス変換 は, σ > 0 の収束域で F (s) = ω / (s22 ) になります.


[例題5] 減衰振動関数 f (t) = e-αt cos (ωt) のラプラス変換
次に α ω を正の実数として, 関数 f (t) = e-αt cos (ωt) ラプラス変換 を求めます.
オイラーの公式 指数関数 の性質から,以下の式が得られます.
これより, ラプラス変換 線形則 を適用して,
ここで,複素変数 s の実部 Re (s) = σ σ > -α のとき,上式の第3項,第4項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, 減衰振動関数 e-αt cos (ωt) ラプラス変換 は, σ > -α の収束域で
F (s) = (s + α) / { (s + α)22 } になります.
ここで, α = 0 とおくと右辺は s / ( s22 ) となり, 例題3 の結果に一致します.
また, ω = 0 とおくと 1 / ( s + α ) となり, 例題2 と同じ結果が得られます.


[例題6] 減衰振動関数 f (t) = e-αt sin (ωt) のラプラス変換
同様に α ω を正の実数として, 減衰振動関数 f (t) = e-αt sin (ωt) ラプラス変換 を求めます.
cos の場合と同様に,
ここで,複素変数 s の実部 Re (s) σ として σ > -α のとき,上式の第3項,第4項が 0 となり,
以下の式が導かれます.
すなわち, 減衰振動関数 e-αt sin (ωt) ラプラス変換 は, σ > -α の収束域で
F (s) = ω / { (s + α)22 } になります.
ここで, α = 0 とおくと右辺は ω / ( s22 ) となり, 例題4 の結果に一致します.


[補足] 基本になるのは指数関数 ex
信号処理 微分方程式 の分野で,基本となる最も重要な関数は 指数関数 です.
例えば, フーリエ変換 定義 には, e-jωt 指数関数 が組み込まれています.
一方, ラプラス変換 定義 には, 収束因子 として e-st が含まれており,
例題 で示したように, 原関数 f (t) 指数関数 を用いたとき,
その 像関数 F (s) s を変数とする簡単な 有理式 の形になります.
一般に, 指数関数 は, ex のように表されますが,厳密には e x ではありません.
なぜなら, 変数 x 有理数 のとき, 整数 m n を用いて,
のように表せますが, x 無理数 の場合や, e-jωt のような 複素数 のときは対応できません.
実は, 指数関数 定義 は以下のようになっており, x の場合を除き 絶対収束 するので
項別 微分 することができます.
ここで 自然対数 e 2.718… は, x 1 を代入することにより,次のように定まります.
また,2つの 指数関数 について
が成立し, ex ey の積の 変数 x + y の形で表されます.
さらに, ex x 微分 すると, 項別微分 可能なので,
となり,右辺の項が右側に 1つシフト しますが, 項数 のため実質的に ex に等しくなります.
このように, 指数関数 微分 してもその形が変わらない ただ一つ の関数 と言えます.
なお, 変数 x α 倍して
としたとき,
のようになり, 微分 すると関数の値が α される性質があります.
このような性質を利用して, 微分方程式 代数方程式 により解く方法が用いられています.


[補足] オイラー(Eular)の公式 e = cosθ + j sinθ
例題3,4 で示したように, 三角関数 cos sin は, 複素共役 2 つの 指数関数
加減算 で表すことができ, 指数関数 に似た性質を示します.
それらを結び付けるのが,以下に示す オイラーの公式 であり, 最も美しい公式 の一つとされています.
この式は, 指数関数 変数 x を代入することにより,以下のように導かれます.
なお, cos sin については, θ = 0 において ∞回微分可能 であり,
θ = 0 中心 とする 以下の テイラー展開(マクローリン展開) を用いています.
ここで, 実数 α β について,
が成立し,これを 加法定理 と呼びます.


[補足] テイラー展開(マクローリン展開)とは
ここでは, オイラーの公式 の証明で用いた テイラー展開(マクローリン展開) について補足します.
x = 0 において f (x) ∞回微分可能 と仮定したとき,
以下に示す x べき級数 を, f (x) マクローリン展開 と呼びます.
この べき級数 が収束し,もとの f (x) に一致するとき, マクローリン展開可能 といいます.
以下,この式が導出される過程を示しましょう.
はじめに, 係数 cn (n = 0, 1, 2, …) として, f (x) が以下の べき級数 で表されるものとします.
ここで, 係数 c0 については 上式で x = 0 とおくことにより, c0 = f (0) のように求められます.
次に, 係数 c1 を決定するため 上式を x 微分 します.
さらに,上位の 係数 cn を求めるため,以下のように 微分操作 を繰り返します.
微分 したそれぞれの式で x = 0 とおくことにより, 係数 cn が以下のように定まり,
これらを上の f (x) に代入すると, マクローリン展開の式 が得られます.
なお, f (x) 三角関数 cos sin のとき,この級数は 収束 し,
以下に示すように, ∞回微分可能 という条件を満たします.
ここで, x = 0 とおくと,
のようになり, 微分値 1, 0, -1, 0 のパターンを繰り返すので,最終的に以下の式が導かれます.
なお,これらの 無限級数 絶対収束 の条件を満たしています.
ここでは, x = 0 を中心に展開する マクローリン展開 について説明しましたが,
f (x) x = a において ∞回微分可能 のとき, x = a を中心とする次の べき級数
テイラー展開 と言います.
この級数が 収束 し,元の f (x) に一致するとき, テイラー展開可能 と言います.


[例題7] デルタ関数δ(t)のラプラス変換
デルタ関数 δ(t) は, 0 面積 1 インパルス状 の波形をもつ 仮想的 な関数であり,
線形システム 応答 等で重要な役割を果たします.
ここでは,その ラプラス変換 £[δ(t)] を求めてみましょう.
始めに, 微少時間 Δt として,下の図に示すような Δt 高さ 1/Δt 矩形状 の信号を考えます.
なおこの矩形の 面積 は, Δt の値にかかわりなく 1 になっています.
次にこの ラプラス変換 を計算し, Δt→0 における極限を, デルタ関数 ラプラス変換 とみなします.
ここで,先ほど述べた 指数関数 の定義より,
が成立するので,
となり, £[δ(t)] = 1 が成立することが分かります.


2.2 複素関数 F(s) の表現
次に, 複素変数 s に対応する 複素関数 1 / s 表現方法 について整理しましょう.
一般的な 実関数 ,例えば f (x) = 1 / x は,2次元平面上の 双曲線 で表すことができます.
一方, F (s) = 1 / s のような複素関数では,変数と関数にそれぞれ 実部 虚部 があり,
グラフ表示するためには, 4次元空間 が必要となります.
このため,ここでは s に対する F (s) 実部 虚部 に分け,これらを 2つの 3次元グラフ
で表すことにします.
なお,複素変数 s = σ + jω を水平面で表し,これに対する F (s) 実部 虚部 高さ で示しています.
詳しくは後ほど示しますが,これらは原関数 u (t) を正の実数 σ の値に応じて時間方向に減衰させ,
これを フーリエ変換 により スペクトル に変換したものを σ の方向に連続的に拡張したものであり,
その次元は スペクトル [f (t)の次元×時間] になります.
この図では, F (s) の収束域が σ > 0 となるため, s平面 右半分 のみ表示し,
左半分 は発散するため,省略しています.
ここで, u (t) 実数 であるため, F (s) 実部 ω = 0 の実軸について 偶対称 となる 偶関数,
虚部 奇対称 となる 奇関数 になります.
すなわち,
より,
が成立します.ここで, バー )は, 虚部 の符号 ± を反転させた 複素共役 を表しています.


[補足] ラプラス変換の収束域における物理的イメージ
一般に, ラプラス変換 フーリエ変換 に比べ,物理的なイメージが掴み難いと言われますが,
ここでは,その イメージ化 を試みます.
原関数 f (t) として 単位ステップ関数 u (t) を選び,その 像関数 F (s) 収束域 における
イメージを下の図に示します.
ここでは, 複素変数 s = σ + jω の実部 σ を正の一定値とみなして 積分操作 を行います.
はじめに,指数部を e-s t = e-σt ・ e-jω t のように変形し, 原関数 f (t) e-σ t の積 g (t,σ) を求めます.
次に e-jω t を乗じ, 0 から まで時間 t で積分します.
これらの操作を式で表すと,以下のようになります.
なお, t < 0 u (t) = 0 となるため, 積分範囲 0〜∞ から -∞〜∞ に変更しています.
以上の操作は,一定の σ における g (t,σ) フーリエ変換 に他なりません.
このように σ > 0 を固定したとき, ラプラス変換 F(σ + jω) は, 原関数 f (t) e-σ t の積を,
t = 0〜∞ の範囲で フーリエ変換 した結果に等価です.
なお, 積分範囲 0〜∞ のとき, 片側フーリエ変換 と呼ぶことがあります.
図の の2本の曲線は, g (t,σ) = u (t) ・e-σ t という関数の 複素スペクトル 実部 虚部
を表しています.

この関数の形状について, 簡単に補足しましょう.
正の実数 σ の値が小さいとき, g (t,σ) = u (t) ・e-σ t の形状は時間 t について, なだらか に変化するため,
直流付近 に主要な 周波数成分 が集中します.
その結果, スペクトル F (s) s平面 の原点付近で 尖った 形状になります.
一方, σ の値が大きくなると, g (t,σ) は時間 t について インパルス のように 尖った 形状となり,
その スペクトル F (s) は低レベルながら,低域から高域にかけて広く分散し 平坦 になります.
なお, 複素変数 s の実部 σ は離散値ではなく, 連続的 に変化することに注意が必要です.
このように, ラプラス変換 F(σ + jω) s の実部 σ を一定に保ちながら,
原関数 f (t) u (t) ・e-σ t を乗じた関数を (片側)フーリエ変換 して求めた スペクトル を,
s平面 の右側にある 収束域 に2次元状に拡張したものです.



[補足] 逆ラプラス変換の物理的イメージ
次に,逆の操作である 逆ラプラス変換 イメージ を探ってみましょう.
逆ラプラス変換 定義 では,積分路が σ - j ∞ から σ + j ∞ となっています.
すなわち,虚軸に平行で実部が σ となる直線上を, ω について -∞ から +∞ まで積分します.
逆ラプラス変換 では s の増分 ds を用いて積分するため,
σ が一定となる 積分路 の場合,その 増分 ds = j dω で表されます.
このため, 定義式 の係数 1/(2πj) j の項が消え, 逆フーリエ変換 の式が導かれます.
単位ステップ関数 u (t) ラプラス変換 F (s) = 1 / s となりますが,
これを 逆ラプラス変換 すると,元の 単位ステップ関数 u (t) が再現されることを示しましょう.
下の図の の曲線は, σ > 0 となる直線状の積分路における u (t) ・e-σ t という関数の
複素スペクトル を表しています.
同じ値の σ を用いてこの 複素スペクトル 逆フーリエ変換 すると, u (t) ・e-σ t
再現されることは明らかです.
この結果を e-σ t で割ると,(すなわち eσ t を乗じると),原関数の ユニット関数 u (t) が得られます.
これらの 操作 を式で表すと次のようになります.




[参考] 逆ラプラス変換の積分路の不自然さ
ところで,上の図を眺めていると,ある 不思議 なことに気付きます.
それは, 原関数 f (t) を復元するためには F (s) の値を s 全領域 にわたって求める必要はなく,
σ > 0 となる 任意の積分路 における F (s) の値があれば十分であるという事実です.
すなわち, 積分路 の選び方にはある 自由度 が残されています.
さらに, 逆ラプラス変換 の定義式では, 変数 s の扱いが 積分記号 の内側と 積分路 で異なっており,
一種の 不自然さ が感じられます.
例えば 収束因子 e-st の複素数 s は, s平面 上の1点を, ds s平面 上の微小な 変化量 を表しており,
これらは 直交座標 極座標 などの 座標系 に依存しない 一般的な表現 が用いられています.
一方, 積分路 については, 水平軸の σ に直交する 直線上 を実数の ω で積分しています.
すなわち, 直交座標系 が指定されており, これを ブロムウィッチ積分 と呼びます.
式の表現上の 統一性 から類推すると, 直交座標 極座標 などに依存しない複素表現の 積分路 による
定義式 があっても不思議ではありません.
詳しくは次節で述べますが, 一般化した複素表現の積分路 C を用いて, 原関数 f (t) 像関数 F (s) を結び付ける
新たな 関係式 が存在し,これを 複素関数 著名な定理 から導出することが可能です.
その本質を理解するためには, 正則 複素関数 複素積分 の性質に関する知識が必要となりますが,
詳細は 専門書 等に委ねることにして, 次節でその 概要 を紹介します.



3. 解析接続による像関数 F(s) の拡張
フーリエ変換 では, 像関数 F (ω) 複素スペクトル という 物理量 を表しており,
入力信号やシステムの特性を評価する 有用な指標 として, F (ω) の形状が議論されます.
一方の ラプラス変換 では, 像関数 F (s) 拡張 された一種の スペクトル を表していますが,
それ自体が 物理的な指標 として用いられることはほとんどなく, ある 原関数 f (t)
ひとつの 像関数 F (s) を対応付ける 数学的写像 の一手法として扱われます.
本節では,その抽象度を高めることにより ラプラス変換 スペクトル の束縛から解放し,
解析接続 という手法を用いて,従来の 像関数 s平面 全体に拡張した新たな 像関数 の性質について検討します.

3.1 ラプラス変換の収束域について
フーリエ変換 では積分値が 発散 し,その スペクトル が確定しないケースがしばしば発生します.   
例えば, f (t) = 1 フーリエ変換 F(ω) では, ω = 0 のとき 1 という値を - ∞ から + ∞ まで積分するため   
発散 します.
このため,実際には存在しない 超関数 デルタ関数 δ(ω) を導入する必要がありました.
一方の ラプラス変換 では, Re (s) = σ の値を大きく設定することにより,積分の 収束性 が高まりますが,
像関数 F (s) ごとにその 収束域 を考慮する必要があります.
例えば, 単位ステップ関数 像関数 F (s) = 1 / s s = -1 を代入すると, -1 という値が得られます.
この -1 という値は,もはや スペクトル を表していません.
なぜなら, このとき Re (s) < 0 となり, ラプラス変換 を計算する過程で 0 に収束するということで消え去った
という項が に発散するためです.
このため, スペクトル に発散します.
ラプラス変換 スペクトル という 物理量 を表現する限り, このような 収束性
無視することはできません.
そこで,その抽象度を高めることにより, スペクトル という 物理量 による拘束から解放し,
極めて有用な 解析手段 となる ラプラス変換 新たな解釈 を示します.


3.2 像関数 F(s) の定義域拡大

ここでは ラプラス変換(狭義) 収束域 において,その 像関数 F (s) に完全に一致し,
s 平面全体で 定義 される新たな 複素関数 F~(s) について検討します.
このような操作を 解析接続 と呼びますが,その詳細は後ほど述べることにして,
具体的な例を用いて説明しましょう.  
先に示したように, 原関数 f (t) 単位ステップ関数 のとき,その 像関数 F (s) = 1 / s となり,
その 収束域 s 平面 の右半分になります.
下の図は新たな 像関数 F~(s) = 1 / s を表していますが,その 定義域 s 平面 全体に
拡張されており, s = 0 を除く,すべての s について F~(s) の値が存在します.  
すなわち, F~(-1) = -1 が成立します.
いうまでもなく, Re (s) = σ > 0 収束域 では f (t) = u (t) 像関数 F (s) に一致しています.  


図の左は F~(s) 実部 右は 虚部 を表しており, いずれも s = 0 に発散します.  
ここで, 変数 s ±の符号 を反転させると F~(-s) = - 1/s = - F~(s) となり,  
s = 0 原点 について 奇対称 の関係になっています.  
すなわち, 収束域 である s平面 の右側の値が, 原点 について点対称となるよう
左反面 に射影されています.  
また 実部 を, 垂直な回転軸 を中心に 90° 回転させると 虚部 に一致します.  
このように 解析接続 された新たな 像関数 F~(s) = 1 / s は, s = 0 原点 を中心とする
対称性 があり, 原点 を除いて 有限 な値となります.
なお ラプラス変換 定義 に立ち戻ると, 0〜∞ 定積分 において t = 0 の項のみに着目し,
t = ∞ は無視しています.
一般には F~(s) F (s) はその 収束域 が異なるだけで,実質的な違いはありません.  
本資料でもこれに倣い,これ以降 F~(s) を単に F (s) と記述することにします.  


3.3 像関数 F (s)の特徴量とは?

一般に, 像関数 F (s) 全体 部分 は,ある 統一 された シンプルな法則 により支配されており,
一定の 特徴量 により記述されます.
例えば 例題2 で示したように, 指数関数 e-αt 像関数 F (s) = 1 / (s + α) 形状 を決定する
パラメータ 2つ あり, 分母 0 となる s の値 と, 分子 1 になります.
この は,上の図の 縦軸 の値が に発散する s平面 上の位置を示しています.
なお, s = -α において F (s) 発散 しますが,それ以外は 有限な値をもちます.   
すなわち, F (s) にはその 大きさ 向き を表す指標が存在し, 分子 1 という値がそれに相当します.
山に例えると, 1つ目の パラメータ は,縦軸 ±∞ に発散する ピーク 水平面内 位置 であり,
2つ目の パラメータ は, 有限 な部分の 高さ やその 向き を決定する 係数 に相当します.
なお,この例の パラメータ 実数 でしたが,一般には 複素数 となることに注意が必要です.
このとき ピークの位置 とその 高さ を決めれば, 山麓 の部分的な地形が完全に定まります.
逆に, 山麓 の部分的な地形が決まれば, ピークの位置 高さ ,さらに 頂上の反対側 の地形等が
すべて定まります.
このような性質により,任意の σ > 0 に対応する 積分路 を用いて, 像関数 F (s) ω で積分した場合でも,
原関数 f (t) が復元されるわけです.   

次に, 単位ステップ関数 u (t) 以外の 像関数 F (s) 形状 について調べてみましょう.
下の図では, 原関数 f (t) 単位ステップ関数 指数関数 減衰振動関数(cos) 三角関数(cos)
単位ステップ関数 のように連続的に推移しています.
これらは,それぞれ 例題1 例題2 例題5 例題3 に対応しています.
振動しない 単位ステップ関数 指数関数 では, ピーク の数はともに 1つ で同じ形状をもち,並行シフトすると重なります.
一方, 振動を伴う 減衰振動関数(cos) 三角関数(cos) の場合,回転方向が異なる2つの コイルばね
重ね合わせ で表されるので, 2つ ピーク が現れます.
なお,これらは虚部の±の符号を反転した 複素共役 の関係にあります.




[補足] 正則な複素関数とは?

複素関数論 では,しばしば 正則関数 孤立特異点 留数 などの概念が用いられます.  
厳密な 定義 や関連する 定理等 を記述すると, ラプラス変換 の範疇を逸脱するので,  
それらは関連する 専門書 等に委ねることにして, ここではその イメージ を中心に説明します.  
初めに 正則 という概念について示します.  
複素平面 のある 開集合 D ∋ s のあらゆる点 s において, 複素関数 g (s) 微分可能 であるとき,
この関数は D において 正則 となります.  
s = s0 において 微分可能 とは, s0 への近づき方によらず,以下に示す値が 一定 の場合を指します.
ここで注意しなければならないのは, 1つの点 s0 において微分可能であっても 正則 とはいえないことです.
このとき,
として,以下に示す コーシー・リーマンの方程式 が導かれます.
上で示した 微分 定義 から,実軸の σ と,虚軸の に沿って 偏微分 した結果が等しくなり,
以下の式が成立します.
この式の 実部 虚部 を比較することにより, コーシー・リーマンの方程式 が導かれます.
複素平面 では,ある点 s0 への近づき方が 上下左右 2次元的 な広がりをもつので,  
実関数 微分可能 に比べより強い制約が課され, 結果として 実関数 からは想像できない  
シンプル 美しい性質 が付与されます.  
一方, 正則な領域 D の内部にあって, s 平面 反時計方向 一周 する任意の 単一閉曲線 C について  
周回積分 した値は 0 になります.すなわち,
が成立し,これを コーシーの積分定理 と呼びます.
この定理は, グリーンの定理 コーシー・リーマンの方程式 から導くことができますが,
この後で述べるように, 正則 領域内 積分路 を変更しても 積分 の結果は
影響を受けない根拠となっています.



[補足] 複素関数の特徴が投影される孤立特異点

複素関数 g (s) 分母 0 となる s のことを 特異点 と呼びます.
この 特異点 は, 真正特異点 分岐点 に分類されますが,ここで扱うのは です.  
以下,具体的な例で説明しましょう.
例えば, n 正の整数 のとき,次の g (s) 無限遠点 s = ∞ を除いて 正則 となります.
さらに項数が増えた
についても,同様に 無限遠点 s = ∞ を除き 正則 となります.
一方,
の場合は, 原点 s = 0 を除いて 正則 となり,この 孤立特異点 n 位の極 といいます.
また, 正の整数 m について
として,
の場合, 分母 h (s) 0 となる m 個の 孤立特異点 を除いて 正則 となります.
なお,この場合の 個数 は, 重解 を複数にカウントした値です.
これらの 特異点 では, 複素関数 の値が に発散するので,例外的な事象と
感じられるかもしれませんが, むしろ 複素関数 の性質を特徴付ける のような存在と
考えることができます.



[補足] 複素関数の周回積分について

一般に, 複素関数 についても 実関数 と同様, 微分 積分 を定義することができます.
例えば n を整数として, 1価関数 f (s) = sn s 微分 すると, f ' (s) = n sn-1 が得られます.
同様に, f (s) = sn 積分 すると, ∫f (s) ds = sn+1 / (n + 1) + 定数 の形になります.
ここで扱うのは, s平面 上のある 曲線 に沿った 線積分 であり, いわゆる 定積分 に相当します.
さらに, 積分路 始点 終点 が一致するとき, 周回積分 となります.
実関数 の場合, 始点 終点 が一致すれば,その 積分値 0 になりますが,
複素関数 では少し 異なる性質 が現れます.
ここでは, 複素関数 f (s) = sn 原点 を中心に, 反時計方向 周回積分 する場合について,
下の図を用いて説明しましょう.
積分操作 では, 変数 s 変分 Δs は, σ の正の軸上から 反時計方向 1周 します.
例えば, f (s) = 1 のとき, 変分 Δs 積分路 C に沿って加算したものであり,
その 累積値は, 図の中央に示すように C に一致します.
このとき, 定積分 始点 終点 一致するため,その 積分値 0 になります.
一方, f (s) = s 周回積分 すると,その 積分値 は原点を中心に 2周 することになり,同様に
始点 終点 が一致するので 0 となります.
同様に, f (s) = s2 周回積分 0 となります.
これらの 複素関数 は,いずれも 無限遠点 を除く s平面 全体で 正則 となり,
先に示した コーシーの積分定理 の結果に一致します.


次に, f (s) = sn 正則 とはならない n < 0 の場合について整理しましょう.
例えば, n = -1 すなわち, f (s) = 1 / s のとき, s = 0 孤立特異点 となり,
1 / s の値は σ の正の軸上から 時計方向 1周 します.
このとき,図のように 変分 Δs の回転成分が打ち消され, 方向の 純虚数 になります.
これより, 積分路 C に沿って1周すると,その積分値は 2πj となることが分かります.
一方, f (s) = 1 / s2 のとき,その値は,図のように 時計方向 に2回転します.
このため,その 積分値 は,時計方向に1回転することになり,
始点 終点 一致するので,その 積分値 0 になります.
このように, 複素関数 f (s) = sn を,その 孤立特異点 を1周するよう 周回積分
するとき,その 積分値 は, n = -1 のとき 純虚数 2πj となり,
それ以外は 0 となることが分かります.



[補足] 留数とは?

次に, 留数 について説明します.
複素関数 f (s) s = a 孤立特異点 をもつとき, s = a における 留数 は以下のように定義されます.
ここで, 積分路 C は, s = a を中心に反時計方向に1周する 単一閉曲線 です.
例えば, 孤立特異点 1位 であるとき, その 留数 は次のように求められます.
先ほどの図で示したように, 像関数 の形状を決定する パラメータ は,山の ピークの位置 とその 高さ(+ 向き) です.
複素関数 の用語を用いると, ピークの水平面内の位置は 孤立特異点(極) ,山の高さ(+ 向き)は 留数 になります.
なお, 原関数 指数関数 のとき,像関数の分母が s 1次式 となるので, 1位の極 となります.
例えば, 原関数 f (t) 単位ステップ関数 u (t) の場合, 像関数 F (s) = 1 / s となるので, s = 0 1位の極
その 留数 1 となります.
同様にして,例題2の 指数関数 の場合, 像関数 F (s) = 1 / (s + α) となるので, s = -α 1位
その 留数 1 となります.
三角関数 cos (ωt) の場合, 1位 2つ 現れ, s = jω s = -jω になります.
また, 留数 はいずれも 1/2 です.
一方, sin (ωt) cos (ωt) の場合と同じですが,それらの 留数 1/2 j -1/2 j という
共役複素数 になるので,注意が必要です.
n 正の整数 として 原関数 t n で表されるとき, その 像関数 F (s) 分母 s (n + 1) 次式 となります.
この場合の 孤立特異点 (n + 1) と呼びますが,その詳細については後ほど説明します.
なお,ここでは 像関数 F (s) 単体の 留数 を示しましたが, ラプラス逆変換 の場合 F (s) est 留数
扱うことあるので混同しないよう注意が必要です.



[参考] 等角写像について
先に述べたように, s 平面 のある 領域 D 正則 複素関数 は, D 内のあらゆる点 a において,
コーシー・リーマンの方程式 が成立します.
このとき, s 平面 a 点とその近傍の 2点 がなす 角度 は, F (s) 平面 F (a)
その近傍の 2点 がなす 角度 に等しくなる性質があります.
これを 等角写像 と言います.
次の図に,この 等角写像 イメージ を示します.
なお,これまでの表示法と異なり,左が s 平面,右が対応する 像関数 F (s) = 1 / s の平面を表しています.
この場合,左側の の点は,それぞれ右の の点に対応しています.
この図で, の直線群あるいは曲線群が,互いに 直角に交差 していることに注意して下さい.  



3.4 解析接続とは?
ラプラス変換(狭義) 収束域 において,その 像関数 F (s) に完全に一致し,
などの 孤立特異点 を除いて s 平面全体で 正則 となる新たな 複素関数 F~(s)
ただ1つ存在します.
これは,複素関数における 一致の定理 から導かれます.  
この 像関数 F (s) 解析接続 することにより, F~ (s) が得られます.  
以下,原関数として 単位ステップ関数 u (t) を選び,その 像関数 F (s) = 1 / s について,  
具体的な 解析接続 のイメージを示します.  
像関数 F (s) = 1 / s の収束域は, Re (s) > 0 ,すなわち s平面 右半分 になります.  
この 収束域内 に点 s = a を選んで,この点を中心とする 小さな円 を設定し,
特異点 を跨がないようにして その半径を増やしてゆきます.  
下の図に示すように,点 a の選び方によっては,この 円の領域 s平面 右側の  
収束域 をはみ出すことがあります.  
次に,はみ出した 円の領域内 に新たな点 b を設定し,上と同様の処理を繰り返すことにより,  
この 領域 を次々に拡大してゆきます.  
この領域は,最終的に 特異点 s = 0 を除く s平面 全体に拡がります.  
以上の操作がいわゆる 解析接続 であり,最終的に F (s) から F~(s) を導くことが可能です.  

この 解析接続 では,先に述べた テイラー展開 を用います.  
ここで 像関数 f (s) = 1 / s 導関数 は,以下のようになります.  
これより a ≠ 0 のとき, f (s) s = a において,以下のような べき級数 で表されることが分かります.  
この べき級数 等比級数 となり,その 公比  
となることから,  
の条件を満たすとき収束します. このとき, f (s) は,  
のようになり,この円内の任意の s について,円の中心 a と同じ f (s) = 1 / s という関係が成立します.  
なお,収束の条件は  
のように表すことができます.  
これは,中心が s = a ,半径が |a| の円の内部を表し,その境界はすべて 特異点 s = 0 を通ります.  
すなわち, 収束域 内の点 s = a を中心とする 円の内部 のすべての点は,  
1 / s という関数で表されることが分かります.  
このような操作を繰り返すことにより, 収束域 の外部へ 1 / s という関数で表される領域を  
次々に拡張することが可能です.  


3.5 原関数と像関数の対応
基本的な 原関数 とその ラプラス変換 対応関係 を,以下の表に示します.
なお,これらの 像関数 はいずれも 1位の極 をもっています.


このように, 原関数 f (t) 指数関数 三角関数 の場合, 対応する と,その 留数 から,
簡単にその 像関数 F (s) を求めることができます.





[補足] 逆ラプラス変換とコーシーの積分公式について
ここでは,像関数 F(s) 1位の極 をもつとき, 逆ラプラス変換 コーシーの積分公式 において,
g (s) 指数関数 とした場合に一致することを示します.
はじめに コーシーの積分公式 を示します.
この式で, g (s) 領域 D において 正則 となる任意の関数であり,
a 領域 D における任意の点, 積分路 C 領域 D 内にあり,
a を正方向,すなわち 反時計方向 に1周する 単一閉曲線 とします.
この 公式 は,以下の テイラー展開 の式から導かれます.
この式を 積分公式 の右辺に代入します.

ここで,先に述べたように 1 / (s - a) 周回積分 2πj となりますが,他の項はすべて 0 となることを用いています.
次に, g (s) を次の 指数関数 とします.
このとき
となり,
とおくと,
が導かれます.
この式において a -a に置き換えます.すなわち,
のとき,
が成立し, 積分路 C を除くと 逆ラプラス変換 の式に一致します.
これより, 原関数 e-at と, 像関数 1 / (s + a) が,1対1に対応することが分かります.




[参考] 像関数 F (s) の積分路について
コーシーの積分定理 積分公式 から, 孤立特異点 反時計方向 に1周するという条件を満たしさえすれば,
積分路 C 自由 に変更することができます.
その 積分路 を変更するイメージを下の図に示します.
はじめに, ジョルダンの補助定理 を用いて, 直線状の積分路 に半円状の経路を追加し,
反時計方向 周回する積分路 に変更します.
次に, コーシーの積分定理 を用いて, 孤立特異点 を跨がないよう, 周回積分 の経路を修正します.
経路長 を短くしてゆくと,最終的に 孤立特異点 を周回する2つの円状の積分路に到達します.
すなわち, 周回積分 の値は,最終的に 孤立特異点 の位置とその 留数 のみにより定まることを示しており,
これから,いわゆる 留数の定理 が導かれます.





[参考] 次元の自然な拡張について
ここでは, フーリエ級数 フーリエ変換 ラプラス変換 における処理の 次元 が,
2次元 振動 3次元 回転 4次元 発散・収束を伴う回転 のように,
自然な 拡張関係 にあることを示します.
それらを図示すると, 次の図 のようになります.


第3章で示した フーリエ級数 は,任意の 周期関数 を,その 整数分の1 周期 をもつ
sin cos 振動成分 重ね合わせ により表現するものです.
図の左に示すように,この 2次元波形 横軸 時間 t 縦軸 実関数 f(t) の値を表しています.
一方, 2次元信号 f(t) を構成する sin cos 振動成分 について,
これらと 直交 する 新たな軸(虚軸) を追加することにより,
3次元 回転モデル 拡張 することが可能です.
図の中央は, 角速度 ω 回転 する成分( コイルバネ )を表しています.
sin cos 振動成分 は,互いに 逆方向 回転 する2つの成分( コイルバネ )の
ベクトル加算 により表すことができ,これらは互いに 共役 な2つの 複素数 に対応しています.
フーリエ変換 複素フーリエ級数 )は,信号の f(t) から コイルバネ 半径 とその 位相
求めるプロセスに他なりません.
この フーリエ変換 では, 純虚数 を用いて, 回転現象 ejωt のように表現していますが,
この変数に 実部 を加え一般的な 複素数 s=σ+jω に拡張すると,自動的に ラプラス変換 が導かれます.
なお, 次元 は1つ増え 4次元 となっています.
このとき, コイルバネ 半径が一定 という制約がとれ,
図の右に示すように, 指数関数 発散 したり 減衰 する性質が付加されます.
次に,その 次元 拡張 することにより, 現象 がより 簡潔 に表現できる例について具体的に説明しましょう.
はじめに, 2次元の振動 3次元の回転 の関係について整理します.
2次元の振動 ,すなわち 正弦波 に関する 加法定理 を以下に示します.
これらの 式の正しさ 直感的 に捕らえることは容易ではありませんが,
回転 加法定理 は極めて単純です.
すなわち, 角度 α だけ回転した後,さらに 角度 β 回転 させると,
最終的な 角度 はそれらの (α + β) になっているというものです.
なお,この式に先に述べた オイラーの公式
を代入して 分配則 を適用し, 左辺 右辺 実部・虚部 を比較することにより,
上で示した 正弦波 加法定理 が導かれます.
すなわち,数学的には 回転 の方が 振動 より 簡潔 に表現されることは明らかであり,
実数 ω は,自然に 複素数 純虚数 に拡張されることになります.
なお,これ以外にも 基礎数学 量子力学 等の分野において,その 次元 を増やすことにより,
様々な現象をより 簡潔 に説明できることが知られています.
例えば, トポロジー 超難問 である ポアンカレ予想 を,わかり易く解説するテレビ番組がありましたが,
その中で, ジェットコースター 走行路 を用いた説明が用いられていました.
その 走行路 は, 3次元空間 における1つの 閉曲線 であり,
当然のことながら, 衝突 を避けるためそれらは1点で 交差 することはありません.
一方,その 走行路 が地面に落とす は, 2次元平面 における 閉曲線 になります.
この 閉曲線 には, 交差 する点がいくつか現れることがあり,
その場合数学的な扱いは 3次元 の場合よりむしろ 複雑 になります.
先に述べた 正弦波 加法定理 が複雑になる理由も,その を扱うことに起因します.
このように, 次元が低い 方が必ずしも 簡潔 に表現できるというわけではなく,
対象を記述するのにふさわしい 適切な次元 を見出すことが重要になります.
次に, (片側)フーリエ変換 ラプラス変換 の関係について,整理してみましょう.
本章では, ラプラス変換 について解説してきました.
そこでは, 定義式 に沿って積分値を計算し,
解析接続 によりその 収束域 特異点 を除く s 平面全体 拡張 するという
2段階の構成法 を採用していました.
しかしながら,ある 関数 f(t) 片側フーリエ変換 F(jω) が収束する場合,
虚軸上 複素平面 s=σ+jω 解析接続 することにより,
直接 ラプラス変換 拡張することが可能です.
その 具体例 を以下に示しましょう.
α 正の実数 のとき, 関数 e-α t 片側フーリエ変換 すると,
その 像関数 F(jω) は以下のようになります.
ここで, 純虚数 s 平面 に直接 解析接続 することができ,
その結果として以下の式が導かれます.
これは, 関数 e-α t ラプラス変換 に他なりません.
これより, ラプラス変換 (片側)フーリエ変換 の自然な 拡張 になっていることが理解できると思います.


[参考] ローラン展開について
マクローリン展開(テイラー展開) では,例えば 原点 s = 0 における n次導関数 f (n) (0) を用いて,
原点 近傍の s における f (s) の値を, s べき級数 で表現します.
このため,例えば 原点 s = 0 孤立特異点 であるとき f (s) = ∞ となり,
微分値 自体が 存在しない ので 展開 できません.
ここでは, 孤立特異点 であっても,それを中心とする べき級数 展開可能
ローラン展開 について説明します.
はじめに, 下の図のように 原点 O s1 孤立特異点 に挟まれた 正則 円環領域 を定義します.
次に,この領域内にある点 s 周回積分 する 積分路 C を決定します.
ここで, 積分路 C は, C1 E1 C2 E2 に分解することが可能です.
なお, 積分路 E1 E2 は方向が逆向きのため,互いに打ち消しあって 0 になります.
はじめに, 積分路 C1 上の点 z について,
の条件が成立するので,
無限級数 で表すことが可能です.このとき,
のような s 多項式 で表されます.ここで, n ≧ 0 として
となります.
同様に, 積分路 C2 上の点 z について
となるので, 無限級数
が成立し,
となるので, 負の整数 n を用いて
が成立します.
ここで,変数 z は, 正則 円環領域 にあるので, 係数 cn 積分路 C1 C2 を変更することができ,
最終的に1つの 積分路 C に統一することが可能です.
これらをまとめると,一般的な 整数 n を用いた 多項式
が導かれます.
マクローリン展開 では,係数の Cn f (s) 微分形式 で表されていたのに対し,
この ローラン展開 では, f (s) 積分形式 で表現されていることに注意が必要です.




これまで, 像関数 F (s) 1位の極 となる場合について検討してきました.
次に, 2位以上 になる事例について検討してみましょう.



[例題8] f (t) = t のラプラス変換
原関数 f (t) t の1次式,例えば f (t) = t のとき,その 像関数 F (s) 部分積分の公式 を用いて,
次のように求められます.
ここで, Re(s) = σ > 0 のとき,上式の第2項と第3項が 0 となり, 以下の式が導かれます.
すなわち, f (t) = t ラプラス変換 は, σ > 0 の収束域で F (s) = 1 / s2 となり,
s = 0 2位の極 をもちます.



[例題9] f (t) = t2のラプラス変換
原関数 f (t) t の2次式,例えば f (t) = t2 のとき,その 像関数 F (s) 部分積分
2回繰り返すことにより,次のように求められます.
ここで, Re(s) = σ > 0 のとき,上式の第2項以降がすべて 0 となり,最終的に 以下の式が求まります.
すなわち, f (t) = t2 ラプラス変換 は, σ > 0 の収束域で F (s) = 2 / s3 になり,
s = 0 3位の極 をもちます.




[例題10] f (t) = tnのラプラス変換
例題8 例題9 より, n 正の整数 として f (t) = tn 像関数 は,次のようになることが分かります.
なお, その 像関数 F (s) の収束域は σ > 0 で, s = 0 (n + 1)位の極 をもちます.



[例題11] f (t) = t e-αtのラプラス変換
同様にして, f (t) = t e-αt 像関数 は,次のようになります.
ここで, Re(s) = σ > -α のとき,上式の第2項以降がすべて 0 に収束するので,
となります.なお, 収束域 σ > -α σ = -α 2位の極 となります.
ここで, α = 0 とおくと, 例題8 の結果に一致します.



[例題12] f (t) = t cos (ωt) のラプラス変換
オイラーの公式 を用いて, f (t) = t cos (ωt) 像関数 F (s) は,次のように求められます.
ここで, Re(s) = σ > 0 のとき,上式の第3項以降がすべて 0 に収束するので,
が得られます.なお, 収束域 σ > 0 s = ±jω 2位の極 となります.
ここで, ω = 0 とおくと, 例題8 の結果に一致します.



[例題13] f (t) = t sin (ωt) のラプラス変換
同様にして, f (t) = t sin (ωt) 像関数 F (s) は,次のようになります.
ここで, Re(s) = σ > 0 のとき,上式の第3項以降がすべて 0 に収束するので,
が得られます.なお, 収束域 σ > 0 s = ±jω 2位の極 となります.



[例題14] f (t) = t e-αt cos (ωt) のラプラス変換
オイラーの公式 を用いて, f (t) = t e-αt cos (ωt) 像関数 F (s) は,次のようになります.
なお, 収束域 σ > -α s = -α±jω 2位の極 となります.
ここで, ω = 0 とおくと 例題11 α = 0 とおくと 例題12 の結果に一致します.



[例題15] f (t) = t e-αt sin (ωt) のラプラス変換
例題14 と同様にして, f (t) = t e-αt sin (ωt) 像関数 F (s) は,次のようになります.
なお, 収束域 σ > -α s = -α±jω 2位の極 となります.
ここで, α = 0 とおくと 例題13 の結果に一致します.




3.6 基本的な関数のラプラス変換
基本的な ラプラス変換 対応関係 を,次の表に示します.
なお,これらの 像関数 はいずれも 2位の極 をもっています.



[補足] 逆ラプラス変換とグルサの定理について
ここでは,像関数 F (s) n 位の極 をもつとき,その 逆ラプラス変換 グルサの定理 において,
g (s) 指数関数 とした場合に一致することを示します.
これにより, 逆ラプラス変換 における ブロムウィッチ積分 直線的な積分路 を,
より自由度のある 周回積分 C に変更できることが保証されます.
はじめに コーシーの積分定理 を拡張した グルサの定理 を示します.
この式で, g (s) 領域 D において 正則 となる任意の複素関数であり,
a 領域 D における任意の点, 積分路 C 領域 D 内にあって,
a を正方向に1周する 単一閉曲線 とします.
例えば n = 1 のとき, グルサの定理 は次のようになります.
これは,以下の テイラー級数 から導くことができます.
この式を グルサの定理 の右辺に代入します.
ここで, 1 / (s - a) 周回積分 2πj となりますが,他の項はすべて 0 となることを用いています.
次に, g (s) を次の 指数関数 とします.
このとき
より,
が成立し,最終的に
が導かれます.ここで, a -a に置き換えると,
となり,さらに
とおくと,
が成立し,右辺は 積分路 を除くと 逆ラプラス変換 の式に一致します.
これより, 2位 の極をもつ 像関数 1 / (s + a)2 と, 原関数 t e-at が,1対1に対応することが分かります.

同様にして, (n+1)位 の極をもつ 像関数
について,
が得られることは明らかです.



[参考] 積分値の発散と特異点の位数について
フーリエ級数 では, 積分範囲 -∞ から +∞ となっているので, 発散の問題 常に付きまといます.
そこで,この 発散 回避 する手法が重要となり, 対象する 関数 f(t) 絶対値の積分
有限 となる 絶対可積分 」の条件を付加したり, δ関数 をはじめとする 超関数 を導入する必要がありました.
一方の ラプラス変換 では, 発散の様相 がその 像関数 F(s) の表現に直接的に反映されています.
以下,具体的な事例を用いて補足しましょう.
一言で「 発散 」と表現しますが, その状況は必ずしも一様ではありません.
例えば 原関数 f(t) = eαt のとき,その ラプラス変換 F(s) は以下のようになります.
ここで s=α 孤立特異点 であり, ( sの実部 ) > ( αの実部 ) のとき,右辺の第2項は 0 収束 します.
なお, e (α - s) t の値は, s=α において一定の値 1 になり,
時間 t 0 から まで 積分 するので,当然のことながら 発散 します.
これらの操作は, 発散 収束 を伴う 回転 eα t 静止 させて観測するプロセスに他なりません.
ここで, f (t) = tn eα t として, s = α を代入すると,
のように いずれも発散 しますが,その 速度 次数 n につれて 大きく なります.
その影響は, 分母 (s-α) 指数 ,すなわち 孤立特異点 s =α 位数 (n+1) に表れています.
一方, f (t) = eα t 像関数 F(s) の第2項は, ( sの実部 ) < ( αの実部 ) のとき 発散 しますが,
解析接続 の処理で除去されることになり,それらの影響が 像関数 F(s) に反映されることはありません.
以上をまとめると, A i s i を任意の 複素数 n i 非負の整数 (0,1,2,…) として,
対象とする関数 f (t) を,以下のような 単純な関数 重ね合わせ で表せるとき,
ラプラス変換 線形性 により,その 像関数 F (s) は以下のように求められます.
すなわち, ラプラス変換 e (si - s) t の項が 時間 t によらず 定数 1 となり, その 積分値
発散 するような s 平面上 孤立特異点 s i を用いて, その 位数 (n i +1) となる 写像
行っている ことが分かります.



 4.ラプラス変換の目的とは?
本節では, ラプラス変換 の真のねらい,その効用について説明します.

4.1 畳み込み積分とラプラス変換
ここでは, 畳み込み積分 の式を 極めて単純な 変換の積 の形に変形させるためには,
積分変換 という操作が必要となり,最終的に フーリエ変換 ラプラス変換 が導かれることを示します.
8 章の 線形システム で説明したように, 入力 x (t) ,システムの インパルス応答 h (t) とおくと,
出力 y (t) は,次の 畳み込み積分 の形で表されます.
この 畳み込み積分 の式が表す内容は極めて 単純 かつ 直観的 ではありますが,
この式では,毎回 積分 の値を評価する必要があり, 扱いが極めて煩雑になります.
もし, 入力 と,システムの特性を表す 伝達関数 との の形で 出力 が表現できれば,
計算が飛躍的に 単純化 され,システムの挙動を簡単な 四則演算 により解析することが可能となります.
そこで 畳み込み積分 の式に,下の図に示すような 変換操作 を加えます.
すなわち,左側から A を,右から B C の順に,ある操作を 加えます.
ここで,記号の A B C の部分には,何らかの 数式 数学記号 が入ります.
これから,この A B C の欄を埋めてゆきましょう.
はじめに, 時間 τ のみを含む h (τ) と, 積分記号 を右側の カッコ 内に移動します.
なお, B B' B'' の形に 変形 できるものとしています.
ここで, X (?) H (?) 同形 になることから,記号 A 積分記号 であることは明らかです.
次に,左辺の y (t) を含む式の記号 C dt となることは容易に想像できると思います.
なお,2行目の左側の カッコ C d(t-τ) となります.
例えば t'= t-τ おくと, x (t-τ) = x (t') と表せます.
ここで,左の カッコ の中で τ 一定値 とみなせば, d(t-τ) = dt' となることは明らかです.
なお, 積分範囲 については, t = 0 のとき t' = -τ t = ∞ のとき t'= ∞ となるので,
入力 x について, t'< 0 のとき x (t') = 0 という条件を満たせばよいことになります.
これより, 積分範囲 はすべて 0 〜 ∞ となります.
最後に, B および B' B'' の正体を明らかにしましょう.
積分変数から, B の変数は 時間 t B' t-τ B'' τ となります.
したがって,記号の B 関数 g (t) で表すと,
    g (t) = g (t-τ) × g (τ)
が成立し, 関数 が, 変数 では の形になります.
このような 性質 を持たすのは, 指数関数 です.
そこで, α を任意の 複素数 として, B の操作を g (t) = eαt という 関数 に置き換えます.
このとき, α = -s とおくと,この 積分変換 は以下に示すように ラプラス変換 に一致します.
すなわち,
また, α = -jω とおくと, (片側)フーリエ変換 となります.

このように, 畳み込み積分 を簡単な の形に変換する操作は,
フーリエ変換 ラプラス変換 だけであることが示されました.
これを図で表すと, 以下のようになります.

すなわち,入力信号 x (t) 線形システム に入力したときの出力信号 y (t) は,
インパルス応答 h (t) x (t) との 畳みこみ積分 の形で表現されます.
一方, ラプラス変換 では, 変換 逆変換 の操作が必要になりますが,
右側の迂回路をたどることにより,複雑な 畳み込み積分 を用いることなく,
簡単な 乗算 により, 時間領域 出力 y (t) を求めることができます.
このように ラプラス変換 は,いわゆる 「 急がば回れ! 」 の考えを具現化した手法と言えます.



4.2 像関数 F(s)の部分分数への展開

一般に, 像関数 F (s) は,変数 s 有理式 の形になります.
これを,簡単な 四則演算 により,極めてシンプルな 部分分数 の形に等価変形します.
これにより,最終的な 出力 y (t) を求める手法について説明します.
例えば,下の図のように複数の 線形システム を何段も 縦続 に接続する場合について考えてみましょう.

この場合,それぞれのステージの インパルス応答 ラプラス変換 して得られる 伝達関数 Hi (s)
かけ合わせることにより, 最終的な 出力 ラプラス変換 Y (s) を求めることが可能です.
この Y (s) 逆ラプラス変換 することにより, 出力信号 y (t) が定まります.
なお,出力の 像関数 である Y (s) は,以下のように s を変数とする 有理式 の形になります.
ここで Y (s) の分母が異なる m 個の をもつと仮定すると,
それらは, Y (s) 孤立特異点 となり,すべて 1位の極 となります.
次に,四則演算を用いて s 有理式 Y (s) を変形し, m 個の 部分分数 の和の形に変形します.
なお,それらの 部分分数 は,すべて A / (s-α) の形で表されることは明らかです.

以上の操作は, 有理式 Y (s) 等価変換 とみなすことができますが,
先に述べた 逆ラプラス変換 における と,それを巡る 積分路 の変更による 留数 の計算に等価です.
例えば, s平面 上に m 個の 1位の極 が配置されているとします.
先に,それぞれの 反時計方向 に1周する 積分路 を用いて求めた 留数 から,
対応する 原関数 yi (t) の成分を求め,その総和を求める事例を示しましたが,
同じことを表しています.
先に述べたように, 像関数 Y (s) の値は, s平面 において に発散します.
値が となる極について,異なる をもつ 像関数 による 有限 な成分が加算されたとしても,
本来の 位置 や,その 実質的な高さ は微動だにしません.
このような性質により, 像関数の形 がどれほど複雑であろうと,
それを構成する 留数 の値を,正確に 分離・抽出 できるわけです.




4.3 ラプラス変換の微分則
ここでは, ラプラス変換 微分則 について検討します.
関数 f (t) を時間微分した f ' (t) ラプラス変換 は,
部分積分 を用いると 次のように求められます.
すなわち,
が成立します.
この式の右辺の第2項 - f (0 +) は, 関数 f (t) に含まれる 定数成分 の影響を 除去 するための項です.
例えば,先の 例題8 では, 1次関数 f (t) = t + C ラプラス変換 F(s) = 1 / s2 であることを示しました.
ここで 定数 C がどのような値であっても,その 微分 は同じ結果になるはずです.
すなわち, 左辺 C に依存しません.
一方, 右辺 定数 C ラプラス変換 C / s となるので, s をかけると + C となり,
これを 打ち消すための 第2項 - f (0 +) = - C が必要になるわけです.
1階微分と同様にして f (t) 2 階微分 f '' (t) ラプラス変換 は,
となります.
この式の 左辺 f (t) 2 階微分 が対象となるので, f (t) に含まれる 定数 のみならず,
1 階微分 により 定数 になる成分についても,これを打ち消す必要があり,
- f'(0+) の項が付加されています.
このとき,
のように表すことができるので,これを一般化すると,
が導かれます.

4.4 微分方程式のラプラス変換
次に, 微分方程式 ラプラス変換 について検討します.
この 微分方程式 ラプラス変換 すると,以下のようになります.
ここで,
さらに,
とおくと,
となり,
が導かれます.これより
が導かれました.
なお, Y (s) 変数 s 有理式 の形になるので, 四則演算 を用いて
部分分数の和 の形に変形することができます.
最終的には, 留数の定理 などを用いて,その解を求めることが可能です.
以下,その具体的な手法について説明します.
an ≠ 0 が成立するとき A(s) 変数 s n 次式 となるので,
複素根 を含めると最大 n 個の をもちます.
なお,係数の ai (i = n , n-1 ,‥, 0) がすべて 実数 のとき,
実根 複素共役 の関係にある 2つの根のペア から構成されます.
A(s) n 個の根が 重根 を含まないとき,必然的に
Y(s) n 個の 1位の極 をもつことになるので, これらを α0 , α1 ,‥,αn-1 とすると,
のように表すことができます.
ここで, 分子の係数 β0 , β1 ,‥, βn-1 はそれぞれの項の 留数 に相当するので,
先に 留数 の項で説明したように, 以下の式が成立します.
この式を用いることにより, 煩雑な式の変形操作を行うことなく,
簡単に Y(s) 部分分数の和 の形に変換することが可能です.



[参考] 最も単純な微分方程式を解いてみる
これまで, ラプラス変換のイメージ や, その応用としての 微分方程式の解法 等について示してきましたが,
ここでは 最も単純な微分方程式 を例に,その 具体的な解 を求めてみましょう.
イメージ が湧きやすいよう, 簡単な運動の例 を以下の図に示します.
ここで, 壁の位置 原点 として 水平方向 x軸 を設定し, x = 5 [ m ] の位置から に向かって
左方向 に歩きます.
壁の位置 でぴたっと 静止 するためには, 距離 x の値に応じて 接近速度 v を小さく抑える必要があります.


例えば, 距離 x 比例 するようにその 速度 v を制御すれば, 近づくほど 速度 を小さく抑えることができます.
このとき,
であり, 速度 負の左方向 を向いていることから, 正の実数 a を用いて,
と表すことができます.ここで上式を代入すると,
が得られ, 変数 x t 微分方程式 になっています.
この場合,以下に示すように左辺は 変数 x のみ, 右辺は t のみの式に 変形 することができ,
変数分離形 と呼ばれます.
これより両辺を 時間 0 から t まで 積分 すると,
となります.
ここで x0 t = 0 における 変数 x 初期値 (5m) であり,実際に 積分操作 を行うと,
が得られます.実際に 上式 t 微分 すると,
となります.
このように, 位置 x とそれを 時間 t 微分 した 速度 v の間に 比例関係 が成立するとき,
その解は 指数関数 の形になり, 時間 t の係数は,その 比例定数 に等しくなります.
なお,図では, 比例係数 -a = -0.2 における x (t) v (t) の波形を表していますが,
その値を変更することができますので試してみて下さい.

次に,同じ 微分方程式 ラプラス変換 を用いて解いてみましょう.
距離 x (t) ラプラス変換 X (s) とし,先で示した ラプラス変換の微分則 を適用すると,
が得られます.ここで x (0+) x (t) 初期値 (5m) であり,変形すると,
となります.これを 逆ラプラス変換 すると,
となり,当然のことながら先ほどと 同じ結果 が得られています.



[補足] RCL回路素子の動作を可視化すると

電子回路 動的な特性 を解析する手法として,しばしば ラプラス変換 が用いられます.
後ほどその 事例 を紹介しますが, ここではそのための 準備 を行います.
回路 を構成する 要素部品 は,大きく 抵抗 をはじめとする 受動素子 と, トランジスタ
を代表とする 能動素子 に分類できますが, ここでは,基本的な 受動素子 から,
抵抗 R コンデンサ C (キャパシタンス) コイル L (インダクタンス) を取り上げます.
これらの 電子回路の動作 は目に見えないので,その 働き を具体的に イメージ することは
容易ではありませんが, ここでは 電界 における 電子の動き を, 重力場 における
水の流れ に置き換えることにより,その 可視化 を試みます.
はじめに, 抵抗 R の例から始めましょう.
下の図に示すように, 2つの水槽 をつなぐ ホース パイプ )に が流れています.
高い方 から 低い方 へ,すなわち 右方向 に流れますが,この 水流の量 I 落差 V
比例 することは容易に想像できると思います.
すなわち, 比例定数 R として
となり,いわゆる オームの法則 が成立します.
非圧縮性 の液体なので,水路に 分岐 がない限り 断面 単位時間 に流れる 水量 I は,
水路の いずれの部分 でも 同じ値 になります.
また, ホース 2本 に増やせば 全体の流量 I 2倍 になり,ホース2本を 縦に接続 して
その 長さ 2倍 に延長すると, 流量 I 半分に低下 することが容易に想像できると思います.
これより 落差が一定 のとき, 流量 の値 I はホースの 断面積に比例 し, 長さに反比例 するものと考えられます.
一方の 電子回路 では, プラスの電荷 電界 という場で マイナス の方向に引き寄せられますが,
これは 重力場 の中で 質量 のある水が下の方向に 落下 することと等価です.
これより, 電荷 に, 水圧 水位 電圧 に, 水の流量 電流 に読み替えられることは明らかです.

次は, コンデンサ の働きを 可視化 してみましょう.
コンデンサ キャパシタンス は,下の図に示すように, 底面積 C 容器 に例えることができます.
この C コンデンサの容量 に対応します.
左からこの 容器 I [リットル/秒] の水が流れ込んでくるとき,これを 時間 t 積分 した
水の 総量 Q 底面積 C で割った値が, 容器の 水位 V に対応します.すなわち,
が成立します.なお, 水位 高さ を計測するには 基準 が必要となるので,
例えば 海抜 0 [m] のような グランドレベル 0 [V] を定める必要があります.
一方,容器から 外部 に向かって水が 流出 する場合, 容器が空になってしまうのでは? 」という
疑念が生じますが, 電荷 には プラス マイナス の両方があるので,問題は生じません.
すなわち, 底なしの容器 を用いていると考えればよいでしょう.
また,先に示した 抵抗 の図において, 2つの容器 を使用しています.
これらの容器では ホース を介して水が 出入り しますが, 底面積 のため容器と水面の
相対位置 は変わりません.
すなわち,電圧が一定の 電源 グランド とみなすことができます.

最後に, コイル L の働きについて考えてみましょう.
コイル インダクタンス )は,次の図に示すように, フライホイール はずみ車 )のついた
水車 ポンプ )に例えることができます.
なお, 水車の両端 には,入口と出口における 圧力 を計測するため, 上端 が外気にさらされた
透明な パイプ 水位計 )が付属しています.
水車はその 慣性力 のため,流量の 変化を妨げる ような働きをします.
例えば, 流量が一定 のとき十分な時間を経過した後, 水車の回転数 も一定になり,
その両端の 水位差 0 になります.
このとき, 水車のブレード との間に 相互作用 はなく, 流れに影響を与えることはないので
両端の水位 同じ高さ を示します.
流量 I 増加傾向 にあるとき,水車の 回転数 は徐々に 上昇 しますが,
慣性 による 遅延 が生じます.
すなわち,その時点の 流量 I にふさわしい 回転数 には達していないので,
流れの 入力側 では,水車のブレードの進行方向と 反対の面 に,
回転を 加速 しようとする 高めの圧力 が発生します.
他方の 出力側 では,ブレードの 進行方向の面 に,これをこれを吸い寄せようとする 低めの圧力 が加わるので,
入力側 左端 )の水位が 出力側 右端 )より高くなります.
一方,流量 I 減少傾向 にあるとき,水車の回転に ブレーキ をかける方向の圧力 が発生します.
すなわち, 入力側 ではブレードの進行方向と 反対の面 に,これを吸い寄せようとする 低めの圧力 が,
出力側 では, ブレードの 進行方向の面 に,これを押し留めようとする 高めの圧力 が加わります.
このため, 出力側 右端 )の水位が 入力側 左端 )より高くなります.
このように, 水位計の差分 V 流量 I 時間的変化 に比例する値を示し,
その 比例係数 L インダクタンス と称します.すなわち,
が成立し,フライホイールが 重く なるほど インダクタンス L の値は 増加 します.
このような 水車 を用いた説明は, ホース 容器 の場合に比べ,
イメージすることが難しいかもしれませんが, 参考になればと思います.


[参考] RC回路における放電現象について
先に,最も単純な 微分方程式 の例として,壁までの 距離 x 比例 した 速度 v で接近する事例を紹介しましたが,
これに 等価 な現象は, 電子回路 流体力学 をはじめとする様々な領域・分野で見受けられます.
ここでは, 抵抗 コンデンサ を組み合わせた 電子回路 の動作について検討します.
次の図は, 抵抗 R コンデンサ C 直列 に接続した回路の 放電現象 を表しています.
電子回路の可視化 の項で, 抵抗 R の動作イメージを示しましたが,上図では 左側の容器
底面積 の電源ではなく, 有限 底面積 C をもつ コンデンサ に変わっている点に注意が必要です.
水は 高い方 から 低い方 に流れることに変わりはありませんが, 限られた底面積 をもつ容器の場合,
水の 流出 によりその水位は 下がる ので,容器との 相対的な位置関係 は絶えず変化します.
オームの法則 により, 抵抗 R (ホース)には 電位差 V (水の落差)に比例した 電流 I (水流)が流れます.
なお,左側の容器の 断面積 C 一定 なので,水面が下がる 速度 底面積 をかけたものが 電流 (水流)に相当します.
このとき 電荷 (水の量)を Q として,以下の式が成立します.
ここで, 最初の式 を次の式に代入すると,以下の 微分方程式 が得られます.
すなわち, 電圧 V 時間 t 微分 すると, -1/RC 倍されることになり,
先に示した 微分方程式 係数 a に, RC (時定数) を代入した形になっています.
これより, 位置 x 初期値 x0 (= 5 [m])の代わりに, 電圧 V 初期値 V0 (= 5 [V])を用いて,
次の 指数関数 の解が求められます.
すなわち, 時間 t の経過につれ 電圧 V は右側の 電圧 0 [V] に接近し,
コンデンサ に蓄積された 電荷 Q も徐々に 放電 され,最終的には 0 [C] になります.



[補足] RC回路のステップ応答
先の RC回路 では, 電源 を含めすべての容器は 固定 されていましたが,ここでは
下の図に示すように, 初期値 として コンデンサの電位 (電荷)を設定する代わりに,
左側の容器 (電源)の 位置 変化 させることを考えます.
例えば, 左側 の容器(電源,グランド)の 位置を上下 させると, 右側 の容器の水位は
これと 同じ高さ になるよう追随します.
逆に, 右側 の容器の位置を 上下 させると,その水位は 左側 の容器の水位(一定値)に
復帰 しようとします.
これらは,一見すると 異なる現象 のように見えますが,実はその 落差 0 になるよう
水が 2つの容器 の間を移動しているに過ぎず, 一つの現象 異なる視点 から
観測していることに他なりません.
すなわち,容器の 相対的な位置関係 が同じであれば, いずれの容器 を動かしたとしても,
計測する基準 が変化しただけであり, 同じ現象 が起きていることになります.


なお, 抵抗 R については問題は生じませんが,実際に ホース (パイプ)を使用する場合,
断面積 長さ 等の特性を変えることなく, 上下方向の動き に対しゴムのように
フレキシブルに 追随 する必要があります.
さらに,上下に移動する 左の容器 には,その 位置 (電圧)を計測するための 基準点
必要になるので, 静止 して十分な時間が経過した後の 水位 (0m) の位置に, 0[V]
マーク 付ける必要があります.
この RC回路 では,新たに 入力信号 Vi (t) が定義されており, 抵抗 R 左端子
接続されています.
さらに, コンデンサ の下の端子は グランド (0 V) に固定されており, 抵抗 R との
接続点 出力信号 Vc (t) になっています.
ここで, 入力信号 Vi (t) 0 [V] 5 [V] の間で ステップ状 に遷移させて,
出力信号 Vc (t) の変化を観測すると,図の波形のようになります.
特に, 入力 0 [V] から一定の値(例えば 5 [V] )に遷移したときの出力を, ステップ応答 と呼びます.
以下,これらの 波形の変化 について詳しく眺めてみましょう.
例えば 入力信号 0 [V] のとき, 右側 コンデンサ も同じ 0 [V] に向かって 放電 が進み,
十分な時間が経過すれば,これに接続する 出力信号 Vc (t) 0 [V] に達します.
次に, 入力信号 0 [V] から 5 [V] に変化すると, 抵抗 R を経由して
コンデンサに 電荷 が蓄積され, 入力電圧 5 [V] に向かって 充電 が進行します.
これまでの RC回路 では,グランドレベルの 0 [V] に向かって, 放電 するケースについて
解析してきましたが, 先に述べたように, 5 [V] 充電 する場合についても,
観測する電圧の 基準 ± 符号 が変わっただけであり,基本的にこれまでと同様,
指数関数 をベースとする電圧の変化を示します.
ちなみに, 入力信号 Vi (t) 5 [V] から 0 [V] に変化する時点を t = 0 とすると,
の形になっており, この式は,先に求めた結果に一致します.
なお, 抵抗 R コンデンサ容量 C の積を 時定数 と呼び,この値が大きくなるほど,
充放電 の速度は 遅く なります.
図中の R C のボタンを操作することにより, それらの値を 増減 することができますので,
RC回路 の挙動が具体的にイメージできるよう確認して下さい.


[補足] 線形システムの入出力信号と伝達関数
先ほど ステップ応答 を求めた RC回路 において, 出力側 に接続する計測機器等の
入力インピーダンス が十分 高く, 電流 が外部に 流出しない 場合, 抵抗 R に流れる
電流 I (t) は, すべて コンデンサ C に流れ込むことになります.
このとき, 電流 I (t) について以下の式が成立します.
次に,この式を ラプラス変換 します. 入出力信号 Vi (t) Vo (t) ラプラス変換
それぞれ Vi (s) Vo (s) とおくと, 微分則 を適用して,
が導かれます.ここで, Vo (0 +) 出力信号 Vo (t) 初期値 であり,
左辺の Vo (s) の項を 右辺 に移動すると,
のようになります.ここで, 初期値 Vo (0 +) 0 のとき, 入出力 の比は,
のように求められます.この式の 右辺 G (s) とおくと,
となり, G (s) をこの RC回路 伝達関数 と呼びます.
ここで, 電流 I (t) ラプラス変換 I (s) とおくと,上式から
となり, 1 / s C 抵抗 次元 [Ω] をもつことが分かります.


ここで,以下の図に示すように, 2つの抵抗 R 1 R 2 直列 に接続した回路を用いて,
その 入出力 の関係について整理してみましょう.
2つの抵抗 には 同じ電流 が流れるため,電圧に関する 分配則 が成立し, 入力 出力 は,
のようになります.また,これを ラプラス変換 した場合も,
のように 同じ関係式 が成立します.
なお, R 1 R 2 が等しいとき, 出力電圧 V o 入力電圧 V i 1 / 2 になることは明らかです.
さらに, R 2 に比べ R 1 の値が小さくなると, 出力電圧 V o 入力電圧 V i に近づき,
さらに,逆に R 2 が小さくなると, 0 [V] に接近します.
ここで,先ほど検討した RC回路 において,
とおくと,その 伝達関数 は,
のようになり,基本的に 2つの抵抗 R 1 R 2 を用いた場合と 同形 になっていることが分かります.
ここで,上記 Z R Z C はいずれも 抵抗の次元 [Ω] をもち,それぞれ, 抵抗 および コンデンサ
複素インピーダンス と呼ばれます.
なお, コンデンサ の場合,その両端に発生する電圧は, 電流 I 積分 したものに 比例 するので,
変数 s 分母 に表れますが, コイル インダクタンス )の場合は, 電流 I 微分 したものに
比例 するので,
のように表わされます.
ここで, 入力信号 Vi (t) に,高さ v0 ステップ状の信号 が入力されたとき, ユニット関数 u (t) を用いて,
のようになります.これを ラプラス変換 すると,
となるので,最終的に 出力信号
のような 乗算 の形になり,これが RC回路 ステップ応答 を表しています.

[補足] ステップ入力と伝達関数の像関数

ステップ入力 u (t) ラプラス変換 1 / s RC回路 本体の 伝達関数 に相当する 1 / (s + a)
それらの に対応する 像関数 実部 虚部 )の形状を,以下の図に示します.
上の図は 入力信号 u (t) 像関数 1 / s を示しており, s = 0 1位の極 が現れています.
一方, RC回路 伝達関数 G (s) = 1 / (s + a) は,中央の図に示すように, s = -a 1位の極 をもっています.
これらの 1 / s(s+a) は下の図に示すように, s = 0 s = -a 2つの極 をもち,
上記と細部の形状は異なるものの, 入力信号 伝達関数 特異点(極) はそのまま
保存 されていることが分かります.
なお,これまでは a ≠ 0 における 像関数 について検討してきましたが, a = 0 の場合は
s = 0 2位の極 をもつことに注意が必要です.
ここで 注目 すべきは, 畳み込み積分 項で説明したように, 入力信号 のラプラス変換と,
線形システム インパルス応答 のラプラス変換の が, 出力信号 ラプラス変換 を表す点にあります.
すなわち,これらの 像関数の積 線形システムの出力 という具体的な 物理量 を表現していることが,
ラプラス変換 有用性 を飛躍的に高めたといえるでしょう.


[補足] 複数の極をもつ像関数を部分分数の和に分解する
これまで, RC回路 ステップ応答 について計算を進めてきましたが,
下の図に示すように,その 出力信号 を表す 像関数 1 / s (s + a) には, 0 - a
2つの極 が含まれているので, これを直接 逆ラプラス変換 することはできません.
そこでこの 像関数 を,それぞれ 単一の極 をもつ,より シンプル 像関数 の形に 分解 します.
具体的には,その 像関数 分母 が, s (s + a) のように 乗算 の形になっているので,
下の図に示すように, 分母 が, s および (s + a) となる 部分分数の和 に分解します.
以下, 具体的な手順 を示しましょう.
求める RC回路 出力 Vo (s) が, 変数 A B を用いて, 以下のように 1位の極 をもつ
2つの 像関数の和 の形に, 変形できるものと仮定します.
ここで, 変数 A B は,以下の 2条件 を満たす必要があります.
これらを解くと,
のようになり,最終的に以下のような が求まります.
なお, 変数 A B を用いないで,
とおき,
を求めることにより,
のように,直接 部分分数 に分解することができます.
ここで 出力 Vo (s) 逆ラプラス変換 すると,
が導かれます.
すなわち, 出力信号 Vo (t) 時間 t = 0 0 であり, 目標値 v0 (5V)を目指して,
時定数 RC 指数関数 に沿って近づきます.
なお,これを 時間 t 微分 すると,
のようになり, 接近の速度 電圧の落差 v0 - Vo (t) 比例 することが分かります.
ここで, 分解後 像関数 F3 (s) = - 1 / (s + a) は, RC回路 伝達関数 F2 (s) = 1 / (s + a)
類似した形をしていますが, ±の符号 反転 しているので注意が必要です.


[補足] RL回路のステップ応答
抵抗 R コイル ,すなわち リアクタンス L を直列に接続した回路の ステップ応答 について,下の図を用いて考えてみましょう.

例えば 入力信号 Vin(t) 出力信号 Vout(t) ,それらの ラプラス変換 を, Vin(s) Vout(s) とします.
抵抗 インピーダンス R となりますが, コイル ,すなわち リアクタンス インピーダンス sL となるので,
入出力信号 の比率はその 分圧比 から以下のように表されます.
ここで, 入力 Vin(t) に,高さ Vo[V] のステップ状の 入力 を与えたときの 出力 Vout(t) を求めます.
入力信号 Vin(t) ユニット関数 u(t) を用いて,
のように表されるので,これを ラプラス変換 すると,
が得られます.これより,
のようになり,これを 逆ラプラス変換 すると,
が導かれます.
入力信号 Vin(t) は, 時間 t = 0 において 0[V] から,一定値 Vo[V] に急峻に 変化 します.
出力信号 Vout(t) も同様に Vo[V] に立ち上がりますが,その直後から 0[V] に向かって 減衰 を開始します.
この 減衰 は,最初は 速く ,徐々に 緩やか になり, 0[V] に接近する 速度 は,その 落差 Vout(t) 比例 するので 指数関数 の形になります.
このとき, L の値が 小さい ほど,また R の値が 大きい ほど 減衰は速く なり, 時間の次元 をもつ L/R 時定数 と呼ばれます.
図の中央の 水の挙動 を用いて,このような変化を イメージ してみましょう.
抵抗 R ホース パイプ ), リアクタンス L 水車 に対応します.
時間 t = 0 で,入力となる左の 水槽の高さ ステップ状 に変化すると, ホース を介して 水車の左側 に高い 水圧 が加わるため,
徐々にその 回転数 上昇 してゆきます.
t = 0 の直後は, 水車 はほぼ 静止状態 にあり, 水車の水 流れ難く なっています.
このため, 出力電圧 に相当するホースとの 接続点の水位 は,左側の Vo に近い値になります.
時間の経過 につれ,水車の 回転 は徐々に 加速 され,回転数の 上限値 に向かって 指数関数 漸近 してゆきます.
ホースとの 接続点の水位 ,すなわち 出力 がほぼ 0[V] 下がりきる と, 水流の値 一定 になり,
水は 抵抗なく 水車を通り抜けます.


[参考] 伝達関数を用いたシステム解析における注意点

● 初期値の扱いについて
先に述べた,「 線形システムの入出力信号と伝達関数 」の項では, RC回路 電流 に関する 微分方程式
ラプラス変換 し, 入出力信号 の比を表す 伝達関数 から,最終的な ステップ応答 を求める手法を示しました.
この 伝達関数 を計算する段階では, n 次の微分係数 を含む すべての 変数 初期値 0 とみなしています.
このように, 伝達関数 を用いた解析では,基本的に すべての変数 静止 した状態を 初期値 としている点に
留意する必要があります.
しかしながら,「 RC回路 放電現象 」の事例のように, 初期値 0 以外の値をとる場合については,
座標系 を適切に 設定 することにより,対処することが可能です.
例えば, 電圧の初期値 v0 (5V)を 原点 に,新たに 下向きの座標軸 Vnew を設定すると,
が成立し, t = 0 のとき Vnew (0) = v0 となります.このとき, V (t) に上の Vo (t) を代入すると,
となり, 初期値 v0 (5V)から 0 [V] に向かって 減衰 する特性が得られます.
なお, 新しい座標軸 Vnew を採用しても,その 初速度 微分値 )は 0 となっている点に 変わりはありません.

● 線形システムの縦続接続について
先の 4.2 の項で述べたように,複数の 線形システム 縦続接続 する場合,その 出力信号 Y (s) は,
入力信号 X (s) それらの 伝達関数 G i (s) を,段数分乗じたものになります.
これらの関係は, 抽象的な数学 の領域ではそのまま成立しますが, 例えば RC回路 水流 のような
物理量 を扱う 線形システム 適用 すると, 重大な誤り を招くことがあります.
以下,その 理由 について説明します,
先に, 2つの抵抗 R 1 R 2 直列 に接続した回路を, 2つの 容器 を連結する パイプ により
表現した事例を紹介しましたが,その 入力 となる 左側 水槽 底面積 で,
どれだけ水が 流出 しようとも,その 水位 は変わりませんでした.
すなわち, 入力信号 インピーダンス 内部抵抗 )は 0 とみなせました.
一方の 出力信号 は, 中央 細いパイプ 水位 に相当し, わずかな水 流出 しても,
その 高さ 変動 します.
すなわち, 出力信号 インピーダンス は, 2つの抵抗 並列接続 した値となり,
決して小さいとはいえません.
このため, 複数 RC回路 を直接 接続 すると,それらの間に予期せぬ 電流 (水流)が流れ,
その 電位 の様相が変わってしまいます.
このような 入出力信号 相互作用 を避けるためには, 出力信号 に接続して,
その インピーダンス 0 とみなせる新たな 回路 を追加する必要があります.
RC回路 の場合は, 出力インピーダンス が十分 低く 利得 1 バッファーアンプ
挿入する必要があります.



5. まとめ

本章では, ラプラス変換 物理的イメージ を中心に解説しましたが,
これらの概念を正確に捉えるためには, 複素関数論 の知識が必要になります.
この 複素関数 の世界は,かの 高木貞治 先生が,その著書 解析概論 の中で,
驚嘆すべき朗らかさ! 」,「 玲瓏 (れいろう) なる境地 」と表現されている数学の一分野です.
広辞苑によれば「 玲瓏 」とは「 うるわしく照りかがやくさま 」という意味です.
それらを実感すべく, 以下の書籍などを 一読されてみてはいかがでしょうか?
高木貞治 定本 解析概論 岩波書店
神保道夫 複素関数入門(現代数学への入門) 岩波書店
井澤裕司 ビジュアル複素関数入門 プレアデス出版
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