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#04 世界で最も多くの姓を持つ国

世界で一番「姓」の数が多い国はどこでしょう?

日本も約30万と言われていて、多いのは確かですが、一番多いのは米国なのだそうです。なんと160万種類もの姓があるのだとか(『人名の世界史』)。さすが人種のるつぼ。サラダボウル。米国は世界からの移民で成り立っている国ですから、極端に言えば、世界の国の数だけ名字があるということになります。そう考えれば、160万という数字もうなずけます。

ちなみに、『人名の世界史』によれば、米国の姓人口ベスト10は次のとおり。(1990年国勢調査)

1位 スミスSmith 250.2万人
2位 ジョンソン Johnson 201.5万人
3位 ウィリアムズ Williams 173.8万人
4位 ブラウン Brown 155.2万人
5位 デービス Davis 119.4万人
6位 ミラー Miller 105.5万人
7位 ウィルソン Wilson 84.3万人
8位 ムーア Moore 77.6万人
9位 テイラー Taylor 77.4万人
10位 アンダーソン Anderson 77.3万人

英語圏の姓が上位を占めていますが、さらに20傑を見てみると、18位にガルシア Garcia、19位にマルティネス Martinezといったスペイン系の姓が食い込んできます。

ジョンソン、ウィルソン、アンダーソンは、前に書いたように"-son"が父称接辞のパトロニミック。1位のスミスは「鍛冶屋」、6位ミラーは「粉屋」、9位テイラーは「仕立屋」をそれぞれ意味し、いずれも職業名を由来とする姓です。こうした“職業姓”の例はいくらでもあって、「パン屋」のべーカーBaker、「大工」のカーペンターCarpenter、「桶屋」のクーパーCooper、「肉屋」のブッチャーButcher、「牧師」のチャップリンChaplin、「ビール製造業」のブルワーBrewer、「織物工」のウェブスターWebster、「皮なめし職人」のタナーTanner…。

『人名の世界地図』(21世紀研究会編、文春新書)という本には、職業姓について面白い話が載っていました。中世イギリスでは、テイラー(仕立屋)は服だけでなく、靴や靴下も作っていた。つまり「靴屋」という職業はなかったのだそうです。一方、ドイツでは靴屋は仕立屋とは別の独立した職業だった。だから、ドイツにはシューマンShumannのように靴屋にちなむ姓があるが、英語圏には見あたらないのだそうです。

職業姓はもちろん日本にも見られ、機織りからきた服部、製鉄業の多々良、鵜飼いの鵜飼といった姓が古代からありました。日本でも鍛冶という姓がありますが、鍛冶屋というのは、世界共通に最古の職業姓と言われます。ドイツ語ではシュミットScmidt、スウェーデン語のスメドSmed、ハンガリー語のコバチKovacsなど、各国で「鍛冶屋」という姓が見られます。イタリアのフェラーリFerrariも「鍛冶屋」つまりフェラーロFerraroから派生した名字だそうです。

「ダ・ヴィンチコード」の作者はダン・ブラウンですが、この姓は4位にランクインしています。Brownは、もともと浅黒い肌か褐色の髪をしていた人のあだ名から来た姓です。グレイGray、ブラックBlackも同じです。赤毛もしくは赤ら顔の人は、なぜかレッドではなく、リードRead、ルースRouseといった姓となることが多かったとか。

ところで、米国は、ヨーロッパからの移民によって作られた国です。米国の多数姓のほとんどが英国系で占められているのは、独立以来、この国の支配階層が「WASP」と呼ばれるアングロサクソン系の人々だったことによります。「彼らの慣習や文化を積極的にとり入れ、その一員に加わることは、英国以外の後発国の移民たちにとってはきわめて現実的な選択だった」。つまり、英国系以外の移民たちは、本国の姓を英語風に言い換えたのです。たとえば、前述のドイツ語系のシュミットはスミス、ミュラーはミラーに、北欧系のアンデルセンはアンダーソン、ヨハンセンはジョンソンといったように、大挙して改姓したわけです。結果的に「英語姓」が増えたということになります。

奴隷として連れてこられたアフリカ系黒人も、1863年の奴隷解放宣言ののち、姓を名乗ることになりましたが、その際彼らは、「自重して身近にいる英国系白人の姓、元の雇い主の姓、著名人の姓といったように、当たり障りのない創姓に落ち着いた」。現在の米国における黒人の姓ベスト5は、ジョンソン、ブラウン、スミス、ジョーンズ、ウィリアムズですが、これは米国全体の上位姓とほとんど変わりありません。

「人種のるつぼ」米国は、人々の姓にも奥深い背景があるようです。

06/05/28