やっぴらんど楽しい世界史テーマ史『天使と悪魔』を読み解く≫(3)コンクラーベ─その2─

 コンクラーベ─その2─

教皇が逝去すると、カメルレンゴといわれる枢機卿が銀のハンマーで教皇の額を静かにたたき、洗礼名で何度か呼びかけます。それで反応がなければ、教皇の死が確認されることになります。もちろん医学的には死亡を確認するのは医師の役目ですので、これは単なる儀式といってよいでしょう。現在は行われていないそうです。

カメルレンゴは、教皇の死を確認すると、死者の指から教皇印がついた指輪を外し、枢機卿団の前でそれをたたき壊します。そして、その死から数えて15日から20日間の間に次の教皇を決めるコンクラーベが開かれるというわけです。

『天使と悪魔』の最後の方にも出てくるのですが、教皇を選出する方法は、選挙以外の方法もあったそうで、それは、「発声による満場一致」による決定です。枢機卿たちがいっせいに教皇となるべき人物の名前を叫ぶのです。それは「聖霊」の働きつまり神の意志によるものとみなされ、呼ばれた人物が新しい教皇に選出されます。匿名による投票を繰り返して選出する方法は、これがうまくいかなかった場合の最終手段だったのです。

ちなみに、「発声による満場一致」で選出された最後の教皇は1621年選出のグレゴリウス15世だということで、その後はすべて投票によって選出されています。ということで、形骸化していたこの方法は前教皇のヨハネ・パウロ2世によって廃止され、選出方法は投票のみとされてしまいました。「発声による満場一致」というのもいかにも神聖な感じがしていいと思うのですが、いろんな利害関係も絡んでくるとなると、無理があるのかもしれませんね。

さて、全世界から枢機卿がヴァチカンに集まり、いよいよコンクラーベが始まります。選挙の方法は無記名による投票です。自分自身には投票してはいけないそうです。投票総数の3分の2以上の得票を得た者が教皇に選出されます。

システィナ礼拝堂で、第1日目の午後に最初の投票が行われます。しかし、1回の投票ですんなり決まることのないのがコンクラーベです。2日目、午前中に2回、午後に2回の計4回の投票が行われます。3日目も同じ。だいたいこの辺で決まりそうなもんですが…。それでも決まらなければ、4日目はさすがに疲れるのか1日休みます。そして、5日目以降は7回の投票が繰り返されていきます…。

『天使と悪魔』には英国BBCのレポーターとカメラマンが登場してきて、コンクラーベどころではなくなってしまう「事件」の進展を全世界に生中継するという栄誉を与えられますが、コンクラーベ自体は非公開なため、普通ならテレビ泣かせなのかもしれません。昨年のコンクラーベでは、コンクラーベを伝える映像のほとんどが「システィナ礼拝堂の煙突」だったような気がします。

コンクラーベでは、投票のたびに、票を集計したあと投票用紙が焼却されることになっています。外部の人たちは、その「煙の色」で新教皇が決定したか否かを知ることができるのです。つまり、教皇が決まれば白い煙、決まらなければ黒い煙が煙突から立ち上ることになっているのです。この情報社会で、何とも前近代的な方法が取られていることに驚いてしまいますが、外界との通信を完全に遮断するためにはこの方法が一番優れているのかもしれません。

昨年のコンクラーベでは、投票結果を伝えるレポーターの、「あ、また黒です…」というアナウンスが何度も繰り返されたことを記憶されている人も多いことでしょう。黒の煙といっても、灰色っぽい黒なので、白と紛らわしい感じもしました。その前のコンクラーベ、つまり1978年のヨハネ・パウロ1世が選出されたコンクラーベから、白い煙を出すために薬品を混ぜることにしたんだそうです。また、昨年は、教皇が決まった時、白い煙とともにサン・ピエトロ大聖堂の鐘がおごそかに鳴らされました。

こうして、前回のコンクラーベで選出されたのが、ドイツ人のヨゼフ・ラッツィンガー枢機卿。彼はベネディクト16世と名乗ることになりました。「16世」というのは、これまで15人の「ベネディクト」という名の教皇がいたことを表します。また、ベネディクトとは、6世紀にイタリアのモンテカシノに初めて修道院を作った聖人の名前です。

2006-07-31