やっぴらんど楽しい世界史テーマ史「由来・起源」シリーズ

 Bath(バース)の誤解

「風呂の語源の地に温泉施設が復活」という記事を見つけました(2006年8月8日付け)。

「英語の風呂(バス)の語源となったとも言われる英南西部の温泉地バースBathに7日、約30年ぶりに温泉施設が復活した」というもの。バースは、古代ローマ時代の大浴場「ローマン・バス」があった場所として知られています。古代ローマ人にとって、共同浴場(テルマエ)は大切な社交場でした。というより、風呂を中心とした総合レジャーセンター。今の「健康ランド」のルーツとも言えます。ローマには、カラカラ浴場をはじめ、多くの大浴場の遺跡が残っていますが、ローマの支配下にあった辺境の地、ブリタニア(つまり今の英国)にまで風呂を作っていたのですね。しかもこっちは「温泉」ですから。

しかし、そもそも、英語の"bath"の語源は、「暖めること」もしくは「風呂」を意味するゲルマン古語に由来します。"Bath"という地名が先にあったわけではなくて、この地にたまたま温泉(風呂)があったから"Bath"という地名になったのです。「バースという地名が英語の風呂(バス)の語源となった」というのは誤解です。

ところで、ローマの大浴場は、ローマ帝国の衰退とともに廃れていきます。その理由の一つはキリスト教の浸透です。退廃的で不道徳な共同浴場は、禁欲を説くキリスト教の教えに反するとして次々と閉鎖されていきました。また、共同浴場の運営には、大量の奴隷が必要ですが、ローマ帝国の衰退によって、奴隷制が崩壊したことも原因とされています。ブリタニアのバースの温泉も、同様に使われなくなり、忘れ去られてしまいます。せっかく"Bath"という由緒ある地名を持ちながら、「温泉の町」でなくなってしまうのです。

18世紀、バースの町はよみがえります。ジョージ3世(米独立戦争の時の英国王)の頃、「ジョージアン様式」と呼ばれる、テラスハウスの立ち並ぶ美しい町並みが作られ、上流階級の保養地として知られるようになります。現在、バースの町は世界遺産(文化遺産)にも登録されているそうですが、その美しい町並みを、今回できた温泉施設の屋上から眺めることができるとか。

近畿日本ツーリストの世界遺産を訪れるホリデイツアーのサイトでも、バースのページを見たら、 「町の名前がそのままバス(bath)の語源となりました」とありました。「誤解」というのは、こんなふうにしてだんだん広がっていくんですね。かくいう自分自身、誤って解釈していることがたくさんあるんだろうなーと思いました。気をつけなくちゃ。

06/08/10