やっぴらんど楽しい世界史テーマ史高層建築の歴史≫(2)ニューヨークの摩天楼

 ニューヨークの摩天楼  Skyscraper of NewYork City

さて、ここで70年前に遡ってみましょう。時は1930年代、アメリカ・ニューヨーク、摩天楼の時代です。この頃の高層ビルベスト10を見ると、1位エンパイアステートビル(381m)、2位クライスラービル(318m)以下、10位までを米国が占め、そのうち9つまでがニューヨークに位置していました。とりわけ、マンハッタンにそびえるこの2つのビルは、1960年代まで長く世界のベスト2の座を誇っていました。

★1930年代の世界の超高層ビル ベスト10

順位 名称 高さ(m) 階数 所在地 完成年
エンパイア・ステート・ビル 381 102階 米国・ニューヨーク 1931
クライスラー・ビル 318 77階 米国・ニューヨーク 1930
ウォール街40番地ビル 282 71階 米国・ニューヨーク 1929
ウールワース・ビル 241 57階 米国・ニューヨーク 1913
シティ・バンク・ファーマーズ・トラスト 225 57階 米国・ニューヨーク 1931
ターミナル・タワー 215 52階 米国・クリーブランド 1930
メトロポリタン・ライフ・ビル 213 50階 米国・ニューヨーク 1909
500・5番街ビル 212 60階 米国・ニューヨーク 1931
チャニン・ビル 207 56階 米国・ニューヨーク 1929
10 リンカン・ビル 205 53階 米国・ニューヨーク 1930
※参考 超高層ビル情報 http://www.asahi-net.or.jp/~nm6f-nkmc/

■スカイスクレーパーの出現

現在、世界で最も超高層ビルが密集しているのがニューヨークのマンハッタン島です。今世紀の初め、マンハッタン島には 狭い土地を有効に活用するために高層ビルが次々と建てられました。それを可能としたのが鋼鉄の骨組みを用いる建築方法の進歩と電動エレベーターの発明でした。こうして“sky scraper”(空をひっかくもの、摩天楼)と呼ばれる高層建築街が出現したのです。

1913年には60階建て240mのウールワース・ビルが完成しました。このビルは、尖塔のデザインなどにゴシック様式の影響が見られるのと同時に、近代的な建築技術がふんだんい取り入れられたニューヨーク摩天楼の先駆的建築でした。そのオープニングには当時のウィルソン大統領がホワイトハウスから全館点灯のスイッチを押したんだそうです。第一次世界大戦後の好景気もあって、1920年代には高層建築のラッシュが起こりました。スカイスクレーパーは、破竹の勢いで発展するアメリカという国のまさに象徴でもありました。1929年10月には 、ウォール街で、世界恐慌の幕開けを告げることになる株価の大暴落が起こるものの、スカイスクレーパー・ラッシュは30年代にはいってもますます加速します。

■クライスラー・ビル

クライスラービル1930年。高さ319m、77階建てのクライスラー・ビルがついにその美しい全容を現しました。均整のとれたセットバック、ステンレス製の光り輝く連続アーチ、三角形に切り取られた窓、そして天を引っかく尖塔。アール・デコ様式の斬新かつ美しいそのフォルムは、並み居るスカイスクレーパーの中でひときわ目立っています。ニューヨークに行ったとき、クライスラー・ビルを ひとめ見たくて、朝早く 近辺まで散歩に出かけたものでした。

クライスラー・ビルは、最初から世界一の高さを目指して建てられました。当初の計画では、77階建て、高さは282mの予定だったそうですが、1929年に完成したウォール街40番地ビルがそれより60cm高くなってしまったので、建築家はひそかに頂部に尖塔を仕込んでおき、ウォール街40番地ビルの竣工後にそれをするすると押し上げ319mとし、エッフェル塔をもしのぐ世界一を達成したのです。しかし、翌年にはエンパイア・ステート・ビルの完成でその苦労も水の泡となってしまいました。(右写真はhttp://www.asahi-net.or.jp/~cj4n-nkmc/d-data-k7.htmより)

クライスラービルは、その名の通り自動車会社のクライスラーの本社ビルだっただけあって(現在はドイツのダイムラー社と合併しているクライスラーのオフィスはこのビルには存在しません 。ただ、企業イメージを高めるためにダイムラー・クライスラー社がこのビルを買い戻す、とかいう話もあるようです。)、随所に自動車の意匠が使われています。連続アーチの部分は、ホイールキャップのモチーフだし、61階のセットバック部分には、クライスラー車のボンネットを飾るワシが四隅に配置されています。 アーチ部分のステンレスはもちろん、リベットに至るまで建築材料はすべてクライスラーの自動車工場から調達されたんだそうです。

■エンパイア・ステート・ビル

エンパイア・ステート・ビルキングコングがエンパイア・ステート・ビルの尖塔にしがみつき、大嫌いな飛行機を次々とつかみ落とす…。こんなシーンが登場する映画「キングコング」が公開されたのは、エンパイア・ステート・ビルが完成して2年後の1933年のことでした。

高さ381m、102階。1931年5月1日、クライスラー・ビルを抜いて高さ世界一となったエンパイア・ステート・ビルの落成式が盛大に行われました。着工からわずか1年と2ヶ月足らず。毎日、3000人の労働者が建設に従事し、10日間で14階分が建てられたこともあったとか。骨組に使われた鋼鉄は6万1000トン、電線7,600km、窓は6,500、エレベーターの数73 (荷物用6基含む)、エレベーター用のワイヤ総延長1,886km。一つの建築物としては前例のない物量でした。

あまりの高さに完成当時はその安定性が懸念されたと言いますが、いまだにびくともしていません。ちなみに、1945年7月28日、濃霧のため操縦を誤ったB−25爆撃機がエンパイア・ステート・ビルの79階に衝突しました。この事故で、死者14人を含むが死亡し、外壁に大きな穴があきましたが、ビル全体の構造には全く影響がなかったそうです。その高さだけでなく、どっしりと構えた偉容は、まさにアメリカの繁栄を象徴するに十分でした。(左の写真はエンパイア・ステート・ビル公式サイトより)

高さといえば、クライスラー・ビルが完成したときと同じように、「世界一」の座を獲得するために、ここでも少々姑息な手段がとられています。当初の設計では85階建てでしたが、クライスラー・ビルが完成間際に尖塔を取り付けたため、急きょ展望台とその上の尖塔を追加したのです。尖塔は「飛行船の係留用」だと説明されたそうです が、実際にはほとんどその役割を果たしたことはありません。ちなみに、尖塔のさらに上にテレビ塔がつけられていますが、これを加えた高さは449mとなります。

盛大な落成式とは裏腹に、エンパイア・ステート・ビルが完成した1931年は大恐慌のさなかだったため、テナントがなかなか入りませんでした。「エンパイア・ステート」つまり「最高の州」とはニューヨーク州の別名ですが、ニューヨークっ子はこれをもじって「エンプティ(空っぽの)・ステート・ビル」と揶揄したそうです。しかし、第二次世界大戦が始まるとテナントも増え、現在では4000以上ものオフィスが入居しています。

03/02/15