繰り返す登山事故

2012・5・6

また起きた山の事故

 昨日から報じられている北アルプス白馬岳の大量遭難事故。
その他の山でも遭難事故多発。
今回もその多くが中高年者による事故。
事故の度に事故原因がいろいろ指摘されるが、事故は繰り返される。
今回の白馬の事故は新聞情報であるが

「雪が残る春の北アルプスを楽しむ旅は一夜で暗転した。長野県の白馬岳(2932メートル)を目指し遭難した男性6人は氷点下の吹雪の中、シャツの上にジャンパーや雨合羽を羽織る程度の軽装だった。(読売新聞5月6日)」
北九州市の医師が中心の6人のようである。
遭難した医師の人となりを報じる記事も目につくが、どうしてこのような事故が繰り返されるのかを考えてみたい。

新聞から読み取れるのは「軽装」である。
以前からこのHPで警鐘をしているように、山はいったん崩れれば想像を超える環境に変化することだ。

その一つが疲労
。 知らず知らずに疲労が増しているので、環境の変化をもろに身一つに受けてしまうこと。入山初日の数時間で有れば耐えられるかもしれないが、疲労が蓄積してくると濡れただけでも致命傷になりかねない。(特に中高年者は)

次に装備。 今回もツエルトスらも装備に無かったようである。
天候に恵まれた登山(春山)を数回程度経験して、春山のベテランと勘違いしてはいけない。(今回の人達の経歴は分からないが…)
新聞でも報じられているように5月の山は荒れれば冬山であるから。

私も多少山歩きをし、5月の山にも何度か入ったが、技術の未熟さを装備でカバーしている。
その装備を持ち上げる体力トレーニングをして備えている。
この時季の高山は未だ氷の世界だ。ビバークすると言っても硬い雪を掘る道具が無ければ刃が経たない。
テントが重けりゃせめて人数分を収容できるツエルトを持たなきゃ。
昔に比べて装備が軽量になったとはいえ、せめて1人15kg位の荷物を背負わねば、春の山には入れない。

時間も重要な問題だ
限られた日数で数人のスケジュールを調整することは大変難しい。
誰かは良くても、誰かは窮屈なこともある。それらを調整してギリギリの日程を組むかもしれない。
若いころとは異なり、体力は減退している。だからそれなりに余裕をもった計画が必要だ。

天気予報はかなり正確だ。連休前から「前半は良い天気が続くが、後半は荒れる」と報じられていた。
連休に入ると予報よりも悪い方にぶれた。
私も浅い山に入っていたが、5月1日に寒気に伴う雷雨に遭った。高山ではもっと激しい変化であったでしょう。
装備と日程に余裕を持てない人は「五月の深山には入るべきでない」と断罪する。

 どんなに装備を持っても、体力に自信があっても、気候の(山の)急変に対応することは難しい。
この時期は底雪崩も頻発している。しょっちゅう底雪崩の音を耳にするし、目にもする。
快晴の雪原でティシャツ1枚で大汗を流している時は楽園だが、この様な事故の記事を目にすると何とも居たたまれない気持になる。



ツアー登山と事故


「募集登山」 考

2000.4.12

2000年初頭の雪山の反省

はじめに 
 今年の2月初めに角楢小屋へ行く計画に、このHPにおいて参加者を募集した。
そして集まった4名。別行動で6名。計10名で徳網集落を出発した。
6名のパーティはある山岳会のメンバーが中心なので此処では4名パーティでの出来事を中心に考える。

この4人の内1名は1999年秋から、私達の仲間に入ったばかりの50歳半ばを迎えた熟年者。彼A氏は東京近郊に住んでいて、週末を利用して丹沢山塊や秩父の山を楽しんでいます。ごく一般的には中高年登山のスタンダード的位置付けが出来ると思います。

今回の参加にあたり冬の角楢界隈の説明(解説)を私としてはしたつもりでした。
又、私の心の中では前年の装備を見て、充分過ぎるほどの装備を彼は持参していたし、話の中のキャリアからして角楢小屋までは行けると判断していました。
今年は例年になく積雪が多く、入山にあたり履き物は山スキーまたはカンジキとしました。
A氏はスキーとスノーシューを用意しますとのことでした。彼は現地でスタートはスキーで行くと言うので私もスキーを履きました。

ところがA氏のスキーの調子が悪く(一部破損)スノーシュー変更しました。それより前、小国に行く前に、現地の雪は現地で昔から履いているカンジキが調子がいい旨の説明をし、老マタギがそれを安く造ってくれることも説明をしました。
しかしスノーシューというのに私も魅力を感じていました。A氏自身も新調したスノーシューについて雪のスキー場でテストして充分今回の角楢行に備えていました。

そしていよいよ出発
 歩き出してすぐに、どうもスノーシューの調子が出ません。
A氏は皆から遅れ気味なので必死にがんばりました。しかし遅れます。
私が最後尾を歩き、後ろから彼の足元を注意深く見ていると、下駄を履いて雪の中を歩くとき、歯と歯の間が成長してしまうアレのようです。
結局この事で体力を消耗して、6時間かけて大石小屋まで行くのがやっとでした。幸い小屋を利用することが出来、大事には至らなかったのですが……。
初日は目的の半分の行程しか消化できませんでした。

反省点

 @私が完全にはメンバーを掌握していなかった。
 Aいつも行っているルートという安心感で、全員の技術や体力を充分把握していなかった。
 B大石小屋に着いてから分かったことだが、A氏は私達に旨い物を食べさせようと考え、私の想像を超えた食料を持参していた。(出発前に計量しなかった)
 CA氏が考えていた雪質が、湿った重い雪で、想像以上に難渋した。
 D更に日頃のトレーニングも私とA氏とはグレードが違っていた。(A氏の話)
 E出発前に全員の荷物を点検しなかった。(事前の打ち合わせでそれぞれが用意し、現地ではその申告により荷物の微調整をしたに過ぎなかった)

このように反省点を挙げてみて、昨年「ツアー登山について」いろいろ書いたことと比較してみると、私自身がまだまだ反省すべき点が多々あることを痛感した次第です。

@最も反省することはメールやペーパーで連絡し合ってもだめ。
A普段のトレーニングをはじめ、参加者全員に遠慮せずどしどし装備や持ち物、そして体調のことを確認すること。
B経験を尊重すると、なかなか聞きづらい事もあるが、過ぎるくらいに確認することの大切さを感じた。

この事から、これがもっと参加者が多く、個々人の掌握が難しいツアー登山の場合は、問題が起きない方が不思議と言わざるを得ないことを痛感した次第です。
そこで早速この事を掲載することにしました。これは私自身の反省、猛省結果です。 

前回の意見はそのまま以下に掲載します。


1999.10.3

北海道羊蹄山の事故

北海道南西部の羊蹄山(標高1898m)に登った女性2人を含むツアー客3人が、下山時刻を過ぎても戻らないと、同行した添乗員から二十五日午後六時ごろ、倶知安署に届け出があった。同署では二十六日から捜索を始め、同日午前十時半頃、一人で下山していた大阪府堺市北条町の竹村武男さん(67)を見つけた。竹村さんによると、女性二人は山頂と九合目との中間付近で、ビバーク中に死亡したという。同署で確認を急いでいるが、山頂付近は風が強く、この日の捜索は打ち切られた。
女性二人は、京都府八幡市男山竹園、無職広島洋子さん(64)と、京都市下京区小坂町、同下倉美恵子さん(59)。二人は京阪交通社(本社・大阪市)が企画したツアー「えぞ富士羊蹄山とニセコ・アンヌプリ四泊五日」に参加していた。

調べによると、女性二人と竹村さんは二十五日午前七時三十分ごろ、添乗員ら十二人と倶知安登山口から入山。しかし、台風18号に伴う悪天候から十五人はばらばらになったという。
  ………………………………………………
羊蹄山周辺では、二十五日は台風18号の影響で、最大で三十メートル以上の強風が吹き、気温も朝方には3度程度まで冷え込んでいた。
 京阪神交通社によると、天候は徐々に回復していると判断して入山したという。
◇◇◇◇◇◇◇◇ 1999.9.27 読売新聞朝刊記事から抜粋 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 この事故の報にふれて又もか!!  ということを感じたのは私だけでしょうか。
この種の事故が多発していると私は感じている。
中高年者の登山がブームだというし、事実多くの中高年登山者と山で会う。
その中にはこの様にツアー登山で登られている人達も多くいるらしい。私は詳しいデータを持っていないのでその内訳は分からない。事故の度に新聞、TVから報道されるのが私のニュースソースだ。
ツアー登山を考える
 私達は若い頃より登山でパーティを組む場合、気心の知れた者道志で組んだものだし、現在もそうだ。今いう「ツアー登山」というのはどこかの旅行社が募集したものに、誰でも希望する者が、不特定多数の者が寄り集まって山に登る。
メンバーは初めて会う者同士で、それぞれの気心はもとより、技量も分からずに山に登るわけである。天気に恵まれ、少し疲れた程度で登れる山であれば問題ないが、時化て悪条件になった時どうだろう。
又リーダーが参加者全員を掌握できるだろうか? 初めての人々を!!サブリーダーはいるのだろうか。
多くの山が、かなり上の方まで林道や観光道路が出来、アルバイトをせずとも登れるようになった。
これはこれで多くの人が山に登れて良いことでしょう。たやすく(短時間で)登れるわけだから、中高年者にも気軽に登れるので、余計登山人口が増えている要因でもあります。
だから天候にさえ恵まれれば「ツアー登山」でも問題なく登れます。

しかし、山の自然環境、自然条件は昔の道の無い時代も、今も全く変わってはいないのです。
変わったのは中腹まで苦労しなくても車で上れるということだけなのです。
だから今回のように気象条件が悪ければ二千メートルに満たない山、気軽な山でもこの様な事故は起きるのです。

丁度私もこの日山形県の朝日連峰に入山していました。二十五日の早朝(2時か3時頃)に日本海側を台風が通過して、一時ひどい風と雨が降りました。
朝の天気予報では置賜地方は9時頃から晴れると報じていましたが、実は1日中降ったり止んだりの天気でした。
羊蹄山の天気は分かりませんが、不特定多数の寄せ集め登山の「ツアー登山」では、台風が通過したばかりで、仮に天候が回復しても
@西よりの風が強く、山は荒れ模様だということを認識すべきで、天候の回復を確認してからの出発ではなかったか?
Aメンバーの技量と体力はどうか?
Bリーダーやサブリーダーの人数は十分か?(その様な者がいない事例が多いと聞くが)
C天候が思わしくない場合緊急避難のための装備はどうか?(ツエルトを持っているか)
などなど。ちょっと考えても事故を起こさないためのチェックポイントは幾つもある。
 ・ 添乗員というのはどの様な立場なのか?
 ・ 山の経験や技量はどうか?
 ・ ツアー日程に負けて、ツアーの目的(何がなんでもその山に登る)に負けて無理な登山をしていないか?
がどうしても気になります。

台風一過と昔からよく言われていますが、山では台風が通過して西高東低の気圧配置になれば、むしろ時雨模様になります。
現に二十五日の朝日連峰の山はそうでした。


これは私の偏見と独断の意見です。
 これを読まれた方で「ツアー登山」の実体に詳しい方のご意見を求めます。

ご連絡 : 山さんへメールを送る  yoshio@mth.biglobe.ne.jp