外国では森というと「暗い」「黒い」「悪魔の住む処」と言うイメージです。赤ずきんちゃんが狼に襲われるのも、悪魔や小人達の活躍するのも「黒い森」です。日本では森も山も川も自然に存在するすべての事物が神です。神聖な場所として崇めてきたところです。
小国町では「森は人々にとって、とっても大切な処」。と位置付け黒い森ではなく「白い森」としました。
春 ゴールデンウイークの頃、残雪の堅雪を踏みながら奥へ奥へ進むと、森は限りなく明るく、芽吹き時の何ともいえない良い香りがして、鳥も熊も活動を始め、大地の始動を見て取れます。森は明るく輝き、見上げればウグイス色に輝く新芽。赤く燃える若芽。四周を見渡せば、ブナの根元はドーナッツのような黒い大地の素顔を見せている。 森を歩くのに一年の内で一番歩き易いシーズンです。藪が雪の下に隠れ、どこでも歩け、歩き回れる。ブナの肌に手のひらでそっと触れてみる。小さな流れが雪の下で産声を上げ、時々雪の中から顔を出し、走り、滝となってほとばしりしながら奔流に合わさり、更なる大きな流れとなり跳ね下っていきます。沢筋では底雪崩が、笛太鼓を打ち鳴らしながら、賑やかに駆け落ちる。沸き上がる大地の息吹。厚い積雪を吹き飛ばす大地の力。 すべてが躍動する春。 冬の間、あんなに静かであった森が、突然に賑やかになる。人々が森に入り、鳥も、ウサギも、カモシカも、熊も一斉に活動する春。 フキノトウもカタクリも可憐に雪解けの大地から顔を出す。追いかけてタラノメ、コシアブラ、コゴミ、シドキ、ゼンマイ、ワラビそしてウド。山菜も一斉に顔を出す。 イワナも深みから浅瀬に顔を出し河虫を食い出す。 里では早苗の植え付け。 物皆すべてが待ち望んでいた春。 |
夏 ムシムシする日本の夏。 都会ではクーラーをかけないと生活が出来ない暑い夏。 そんな時、ブナの森は蝉が鳴き鳥がさえずり、虫達が短い夏を謳歌する。日向から一歩木陰に入ると、ヒンヤリして汗も引き、気持ちいい。 この時期の森は木々の葉が茂り、日を遮りほの暗く、外国で「黒い森」と言われる所以かも知れない。 しかし、実際に森に入り天を仰げば、以外に空が明るい。ブナとブナの間隔は実に良い間隔を保ち、適当に木漏れ日が下草を育てている。けして「黒い森」ではないのである。 小国町の人達は森の達人ばかりである。ここでは「白い森」という。春夏秋冬森は黒ではなく、四季様々な色を見せてくれる。私は小さなビニールシートを持って森に入り、その上で天を向いて寝ころびながら一時を過ごす。何とも言えない至極の時である。 この時期にトンビマイタケなるキノコが採れる。秋田のショッツルの材料で最高級品というあのキノコだ。 このトンビマイタケの刺身も旨い。 登山者が多く森に入り賑やかな夏。稜線で強い太陽に照りつけられて、玉のような汗をかいていた体をいたわってくれるブナの森。夏の森は涼しさを与えてくれる。夏は優しい森。 |
秋 童謡の紅葉。赤や黄色の色様々に〜。 この詩から紅葉というと、赤がメインのようにイメージしていた。 ブナの森に入ると実は赤というのは数が少なく、黄色や茶色が多い。ブナは黄色。栃や朴の木は焦げ茶色。赤は漆や楓。 秋の山は色様々で賑やかなものだ。風が吹く度、木の葉が舞う。ハラハラと限りなく、来る日も来る日も落ち葉は降り注ぐ。 茸は賑やかに倒木や立ち木に生える。見事な茸の第一は月夜茸。大小様々な月夜茸がおいしそうにビッシリ生える。日本で茸の中毒で一番多いのがこの月夜茸だそうだ。私もしばしば唾を飲む。実に美味そうな茸だ。これに似たのにムキダケがある。見分け方を覚えれば間違うことはないのだが。 小生は食い意地が張っているので、秋のブナ林のことを紹介するのに、ついつい茸のことを書いてしまう。 秋の森は茸取りが一番良い。(茸 何でも相談室開設中) マイタケ、ブナハリタケ、ワカイ、ナメコ、シシダケ、数限りなし。 下界でも秋は食欲と言うが、森は食材だらけだ。秋は。 秋の森は鍋一つ。 |
冬 朝日の冬は雪が深い。日本でも有数の豪雪地帯だ。 雪は10月中旬にその姿を見せ始める。峰峰が白く化粧をするのは10月の下旬。11月の声を聞く頃は大朝日のてっぺんや奥山はもう白粉を塗る。 麓が根雪になるのは12月中下旬か。 秋に大勢の人々がブナの森の茸を採っていたのに、12月の声を聞く頃はすっかり静かな森の姿を取り戻す。 熊も冬の冬眠に入り小動物が秋にデポしておいた木の実を少しづつ取り出し、鳥は枯れ木の皮をつつき餌を採る。 雪はしんしんと降る。1月中旬を過ぎるとずんずん積もる。 森が静けさを取り戻す季節。 麓の五味沢では毎年「雪の学校」が開設される。 ずんずん積もった雪の森を、カンジキやスキーを履いて森に入る。小獣達の足跡が実に多い。うさぎ、きつね、てん、いたち。 冬は時間もたっぷりあり、のんびり散策。(吹雪に気を付けて) 冬の森はゆったりと時が過ぎていく。熱燗と鍋でゆっくりした一時を角楢の森で過ごそう。 冬の森は焚き火が何よりのご馳走。小屋の囲炉裏が最高。 しんしんと森に雪が降る。 |