刃物アラカルト

2013/12/18


鍛冶屋さんから送られてきた刃物類 鞘を付け漆を塗った刃物

 小刀、包丁、出刃、鉈など刃物雑感

子供の頃は、刃物と言えば肥後の守である。小学生の男の子のポケットにはいつも肥後の守があった。
最近ネットで検索すると、肥後の守は兵庫県三木市のヒット商品だったそうだ。
小学校に鉛筆削りが普及するまでは、小学生もこの肥後の守で鉛筆を器用に削ったもんだった。
その後危ないとか怪我をしたとかで、小学生から刃物を取り上げてしまった教育委員会??
お陰で三木では50軒以上あったという肥後の守鍛治が消えてしまったそうだ。今残っているのは長尾さん他数人なのかもしれない。

私は近年、新潟県三条市の刃物鍛治屋さんと懇意になり、いろいろと知識を吸収している。
先日も依頼していた刃物が何丁か素材(打ったままの)が届いた。
上の写真の左側は竹割り用の鉈。特注品である。通常の竹割り鉈というのはもっと身が厚い仕上げである。
これは厚さ2mmほど。通常は6〜7mmある。
何故薄いかは、薄〜い、細〜い竹ヒゴを作る際、私の技術が未熟のため、通常の鉈では上手く加工が出来ないのです。
厚いと竹の節を越える時にポッキリ折れてしまう事がしばしば。
そこで試しに三条の鍛冶屋さんにお願いして、薄い竹割り鉈を打っていただいたのです。

これは打っただけで刃が付いていない、柄が付いていない、鞘が付いていない。つまり素材なのです。
右側の写真はそれに柄を付け、刃を付け、鞘を付け、更に拭き漆を塗って仕上げたものです。


 話が飛びますが、近年私は漆に凝っている。何にでも拭き漆をしているのです。
会津若松市の漆専門店よりチューブ入りの生漆を購入して、漆を塗っては室に入れて乾燥し、塗っては乾燥してを繰り返し、深みのある色艶に仕上げているのです。
それまでは人造漆(カシュー)で満足していたのですが、生漆を使用し始めるとカシューには全く目が向かなくなりました。
漆は気を付けないとカブレます。幸い私は直接肌に触れない限り漆負けはしない体質の様です。

大量仕入れ

2013年6月購入のいろいろな坂光 田斎鍛治の白紙(上)、青紙切り出し

2013年6月、仲間と3人連れで三条クラフト展見学に出掛けた。
三条のT金物店で珍しい道具を見せていただく。大きな墨壺。名人鍛冶屋の両刃鋸。同じく鉋刃。岩崎名人の日本剃刀などなど。

私は大納言銘の切り出しを何丁か持っている。これは坂井さんという刃物鍛治の問屋銘
その坂井さんのお姉さんの息子さんが刃物鍛治をしている。銘は坂光。坂井さんの甥にあたる方。
今回はその坂井さんの甥の増田さんの鍛治場を見学した。
鍛治場には色々な道具が所狭しと設置されている。
ひと通り見学の後、鍛治場の休息室に上がり鍛治の話を伺う。興味のある事ばかりだ。

増田さんが小刀類が沢山入っている小箱を持ってきて、良かったら持って行かれますか?と嬉しい話。
早速三人で選びにかかる。製造元で購入できる幸せ。
私は上の写真の7丁の他に白書(上隅の柄のついていないもの)を1丁選ぶ。他の二人もそれぞれ好みの小刀を何丁も選んだ。

私は右用、左用の小振りの切り出し。繰り小刀。切り出しやドスの様な小刀も2丁。このドスは両刃と片刃。
物好きな私ゆえに、それぞれの切れ味を味わいたいのが大量購入の理由です。
帰宅後それぞれに柄と鞘を作った。そして拭き漆を。
両刃のドスで根曲がり竹を割ってみた。従来の竹割り鉈に比べて薄いので、根曲がり竹には丁度合っているようだ。
今まで根曲がり竹を割る時は肥後の守を使用していたのだが、このドスの方が調子いい。
片刃のドスは刃の長さが長いので、切ったり削ったりすると良く切れる。日本刀と同じように長〜い楔状で切る理屈だ。繰り小刀も良く切れる。

田斎鍛治
 クラフト展会場で鑿鍛治の田斎親子鍛治を訪ねた。
事前に田斎さんに竹細工用の特注切り出しを2丁お願いしておいた。丸亀市の団扇職人と開発途上らしいのですが、竹細工をしても刃毀れしないという切り出し。
通常市販の切り出しで竹細工をすると、ほとんどの物は刃毀れしてします。白紙、青紙、青紙スーパー、いずれの切り出しも私の試し切りでは刃毀れをしてします。
対策としては2段研ぎ。小刃を付けて刃毀れを防いでいるのです。

田斎さんは小刃を付けないでも刃毀れをしない切り出しの製作を研究中と言います。
小刃を付ければ毀れないという事は、その小刃の研ぎ角で研いであれば毀れないという理屈かも知れません。
つまり研ぎ角度をきつくすると毀れないのではないかと。
きつく研ぐ(鈍角)と竹割りの際は抵抗力が強くなり、切れ味(食い込み)が落ちます。そこでギリギリの所を研究しているのだと思います。また鋼はどれが良いのかということも。小刀用に使用している鋼は、日立金属安来工場の白紙、青紙、青紙スーパーが主です。その他にも鋼はあります。ですから鍛冶屋さんの好みで、他の鋼を含めて使い分けているのです。白・青には1号、2号、3号などと細分されて合金の成分が少しづつ違っています。

子供の頃の思い出
 私の子供頃、父の道具箱の中にこの繰り小刀が有った。それは父の商売道具(大工)。父の目を盗んでそれを良く使った。肥後の守とは比べものにならない切れ味だからついつい手が出る。
刃を欠いた時などは叱られるので、研いで元の置き場に置くのだが、直ぐに見つかってしまう。
欠けた刃を研いで直してあるのにどうして見つかるのかが不思議であった。子供の研いだ刃は、研ぎが幼稚だからだということに近年気が付く。

特注の竹割り鉈
 竹割り鉈に坂光の両刃のドスを使用してみた。
肥後の守よりも従来の竹割り鉈よりも調子が良い。
この事によって私は増田鍛治さんに思い切って特製鉈の製作をお願いした。
厚さは2mm位。長さは18cm。幅8分(24mm)
「刃は付けないで下さい。自分用に自分で刃を付けますから」と打ちっぱなしの物を送ってもらうこととした。

竹割り教室では市販の鉈も元を3cm程刃を潰しています。竹割りに刃はいらないという理屈。
竹割りは刃で切り割るのではなく、引き裂くのだというのです。
これは会得するのには中々難しい。ついつい刃を使って切り裂いてしまうのです。というよりも当初の厚さが狂ってきて、厚みが替わってしまうのです。それを修正するのに刃を使ってしまうのです。
本当は精神一到、竹の繊維に沿って引き裂いていけばいいのです。竹細工教室に通って三年生。
近頃何とかその気を感じるようになりました。指先の感触で厚さの調整をしているのです。

届いた特注鉈に先ずは仮の柄を付けて、研ぎから始めます。
荒砥石でゴリゴリやりながら、形を整え、刃を付けていきます。その次は中砥で研ぎ。荒砥で付いた傷を消していきます。
更に仕上げ砥。切り刃を付けます。仕上げは合わせ砥で。極極微粒子の砥石です。産地は京都亀岡産。
研ぎ上がると次は柄を付けます。

柄は赤樫。鉈の柄は樫材が多いようです。私も赤樫で柄を作りました。
荒削りをして、ドリルで大き過ぎない穴を開け、茎(なかご)の先端をガスで赤くなるまで焼いてブシューと煙を出しながら押し込みます。更に柄の頭を玄翁でカンカン叩いて引き込みます。
柄に納めたら柄の整形。叩いて入れる時に割れないように大きく作っている柄を、掌に収まる様な形、大きさに削り出します。
そして鞘作り。鞘は二つ割にした朴の木の板を重ねて作ります。両刃なので両側の板を鑿で彫り込みます。
緩くなく、きつくなく、そろり収まる様に削るのには経験を積む必要が有ります。
最後は接着剤で一晩かけて硬化してから又削り出して鞘にします。

柄と鞘が出来たら次は漆。
拭き漆は10回以上重ねると深みのある色になります。
時間が有れば10数回重ねると良いように感じています。
漆は気を付けないとカブレます。人によっては病院にかかることも有るようです。気をつけましょう。

特製鉈で竹割り
鉈が仕上がったら待ちに待った竹割りです。
元から少し離れて刃の付いている部分で、竹の小尻をコリコリやって割り口を開きます。
そうしたら元の部分を使って左手と右手のバランスで割って行きます。
今回の特製鉈は根曲がり竹を割るのには大変調子が良いです。
また、真竹のヒゴの最後の仕上げ厚にする微妙なところを割るのにも調子が良いです。
今後使いながら研ぎ角をいろいろ試して、最良の角度を会得したいものです。