悟りへの道

2007年10月19日〜22日
〜88番 大窪寺へ


70番 本山寺から

  2007年10月19日午前10時に本山寺を出発。本山寺ではこの時季この時間(午前の早いうち)は参詣者がほとんどいない。
境内では若奥さんが落ち葉掃きをしながら私に挨拶をして下さる。
参詣者が少ないことを話すと、昼頃からはバスの団体客が大勢来られる由。
昨夜来の雨が駅を出る時には降っていたが、此処に来て止んだので雨具を脱ぐ。
足取りも軽く表通りへ。国道11号線を高松市方向に向かい歩道を歩く。大窪寺への希望で足は軽い。

 香川県(讃岐の国)は、お遍路界では「悟りの道(涅槃の道場)」と言われている。
67番 大興寺からは讃岐の国。 既に68, 69, 70番を打ち終えた。
今回は88番 大窪寺へ結願を目指す。
発心はいい加減な気持ちで始まり、修行道場の土佐の国を打ち、菩提道場という伊予の国も打ち終えた。
大窪寺へ着くまでには多少なりとも私の心に、悟りへの変化が生じることが出来るのか? はなはだ疑問である。

70番 本山寺本堂 71番 弥谷寺 72番 出釈迦寺

 19日は一日中雨に降られた。時々は薄日も射したが、結局雨具を脱ぐことは出来なかった。
今日は74番 甲山寺手前の弘階池辺りでテントを張るつもり。初日なので足に負担を掛けずに、二日目からがんばれば良いだろうというのが出発前の計画。

小雨の中を歩いていたせいもあるのか、汗もさほどかかずにズンズン歩ける。
出発前に届いた東京のお嬢さんのメールでは「香川県の県民性でしょうか? 連日、道行く方に励ましの言葉やお接待をいただきました」とあったが、今日はそのような事も無く淡々と歩く。
74番 甲山寺を打ち、明日に予定していた善通寺にも17時前に着きそうである。(お遍路では納経時間が7時から17時までと決まっている)

善通寺
 善通寺には16時30分に着いて、17時丁度に打ち終える。当寺は弘法大師ゆかりの大寺である。
物の本によれば「本尊 薬師如来。大師自らが建立された真言宗発祥の根本道場で、紀州高野山、京都東寺とともに弘法大師の三大霊跡のひとつである」とされる由緒のある寺である。規模も大きい。

今夜は事前のネット検索で、善通寺前の大正湯(銭湯)に入るつもりでいた。ところが、寺の人に聞いてみると「大正湯は現在は休業」とのこと。そこでもう一軒の「温泉湯」に向かう。しかしである。その湯は今日は定休日。全く残念。
湯に浸かることをあきらめ、食堂を探すが中々無い。小さな中華食堂が見つかり中に入る。
老夫婦が居るのだが、ご挨拶である。暗〜い感じ。それでも勇気を出し、ビールと八宝菜を注文する。
そして心配になっていた携帯電話のバッテリー充電をするために「コンセントをお借りできますか?」とお願いしたが「それは辛いですね」との回答。私の心は一気に消沈。やっとのことでビールと料理を腹に収める。店名は伏せたい。

75番 善通寺御影堂の山門前 75番 善通寺本堂

テント場は駅の構内
 食堂を後に今夜のテント場を探しながら歩く。
善通寺境内でお聞きした○○銀行の駐車場に行くが、テントを張れるような雰囲気ではないので先へ進む。
国道319号線を北に進む。途中善通寺警察署の駐車場に触手が動くが、職務質問を突破する自信が怪しい。
結局金倉寺近くの金蔵寺駅の構内にテントを張る。駅前の店で酒の肴を購入して、持参のビールと焼酎を一人寝の友とする。

10月20日
 78番 郷照寺を打ち瀬戸中央自動車道の下をくぐり坂出の市街地へ。「本街道」という看板に導かれて歩く道は一直線の旧街道
季節は秋。辻々で秋祭り。元町商店街はシャッターの閉まっているのが目に付く。先の参議院選挙で自民党が全滅した四国。納得である。昼時なのでうどん屋に入り昼食。祭囃子の中の賑やかな店。具沢山の天ぷらうどん800円也。
80,81,82番の三札所は順番通りとは異なるルートで歩くことも検討したが、結局は番号順に打つ。

坂出市街の獅子舞 80番 国分寺の天平時代の礎石 高松市飯田町の遍路休み処の耕作さん

 讃岐の国分寺を14時過ぎに打ち終える。寺の前の酒屋(よろずや)で酒、ビール、焼酎をゲット。今夜は山の中での野宿。
国分寺からは白峯寺へひたすらの登り道。車でも登れるくらいの勾配の山道。一本松という所で自動車道とクロス。
自動車道をしばらく進み途中から又遍路道。白峯寺は階段の多い寺。17時少し前に打ち終える。
何処の札所も開創縁起の説明書きがあり、それに目を通すのも慣れた。いずれも大師ゆかりの蘊蓄がある。
今夜はかんぽの湯で髭を剃る。そして壜ビールと何故か神戸チャーハン。売店の女性としばし談笑。帰りにピンポン玉大のみかんを沢山いただく。名前の分からない蜜柑だ。

19時前から夜道をヘッドランプで歩く。半月の月夜だ。遍路道に入ると真っ暗。猪とは会いたくないものだ。遍路路は何処に行っても路側の落ち葉を、イノシシがミミズか餌を捜してホックリ返してある。
8時半ごろ遍路休憩場にテントを張る。とり合えず靴下をトイレの手洗い水ですすぐ。かんぽの湯のビールは歩いているうちに消化。
それからしばらくは半月の基、テントの中で一人酒盛り。

10月21日
 21日は早朝5時に起床。
朝一で根香寺(ネゴロジ)を打ち、山を下り高松市に向かう。途中飯田町という所に「飯田お遍路休憩所」の看板があり、河野耕作さんの接待を受ける。氏は自宅を改造し、お遍路のための休憩所を開き、茶菓の接待をして下さる。私もお茶と南紅梅の梅干をご馳走になる。氏はお遍路が書き残したノートから「生きる喜び」という小冊子を編じ、3冊のセットをいただく。御礼を言い休憩所を後にする。
一の宮寺を打ち高松市街に向かう。途中の県道172号を歩いていると自転車の青年が停車する。そして私にボトルのお茶の接待。これには参った。このような若者の専門学校の生徒が私にお接待である。親の背中か土地柄か……。
昼に高松市街地に入る。栗林公園脇の大通りの歩道を歩きうどん屋の看板「特一番」で店に入る。(中は居酒屋風)

特一番のおじさん 女体山のシンボル岩 88番 大窪寺[結願]

かき揚げ天ぷらうどん代が240円。店を出る時にりんごと蜜柑のお接待をいただき、うどん代よりも高いのではないかと恐縮する。
3泊目は八栗寺を下った所の二つ池親水公園でテントを張る。

10月22日
いよいよ結願
 10月22日の朝は結願の日。3時に起きて禊をする。
石鹸をつけて体を洗い、下着も取替え身支度をする。今日は結願だ。明けぬ空には満天の星。オリオン座が天中に瞬く。
86番、87番も打ち、最終札所、大窪寺へ向かう。
88番を打つと1番へお礼参りが控えており、その間40km。だから88番を打ち終えたら、その足で10km以上を今日のうちに歩かねばならない。そこで、前山ダムサイトの「道の駅ながお」で腹ごしらえ(黒豚カツライス)と隣の郵便局で般若湯と少し余計目の食材をを購入して最後の登りに備える。
最高地点は774mの女体山。最後はかなりきつい登り。登った所が女体山というが、登りのボリュームからは男体山である。此処で出会った一人遍路も「此処がどうして女体山?」と私に聞く。
頂上の大岩を観て納得。写真を良く見てください。山頂にこのような形の岩。昔の人の観察力と表現力には感服。正に女体である。

大窪寺には3時過ぎに到着。
トイレの水で手を洗い、ザックから白装束(白いシャツ)を出し身支度を整える。此処の為に持参した物。
発心から今日まで足掛け3年。短いような、長がかったような3年である。心新たに本堂、大師堂を打つ。そして納経場へ。
「結願所」の朱印が押された。  「結願」である。 南無大師遍照金剛
念願成就である。
念じていたほどの感慨は沸かず。    しかしこれで終わった!! という安堵感がジワ〜と湧いて来た。
身近な、お世話になった人々に御礼のメールや電話をする。無論いちばん最初は我が家の奥さんへ。

4時半ごろ山門を後にする。
長野という所で休息し、ヘッドランプを点灯する。これから夜道を白鳥温泉へ。五明トンネルを抜け、中尾峠を越えるこの山道で出会った車はたった3台。真っ暗な樹林の山道を大声で歌いながらの1時間。
温泉に7時着。湯に浸かり、風呂上りに大ジョッキー。温泉の前の駐車場の端が今夜の宿。お休みなさい。白鳥温泉のフロントにおられた方には、長々話しに付き合っていただきありがとうございました。Uターンのお父さん頑張って下さい。

10月23日
 23日は6時に白鳥温泉を出発。
引田で和三盆を土産に購入。讃岐相生で昼食。穴子丼800円也。いよいよ大阪越え

草に覆われた大阪峠の登り道 懐かしい1番 霊山寺の山門 高野山の大門

大阪峠は草薮。あまり踏まれていない。此処を歩くお遍路は少数派と思われる。道は明治の頃に、荷車や馬道として整備したらしく立派。今は荒れ放題。大阪峠を越えて霊山寺には16時過ぎに着いてお礼参り。
納経帳最後に「あなうれし行くも帰るもとどまるも 我は大師と二人ずれ」に墨書刻印をいただく。
霊山寺の尼さんに高野山の無量光院の宿坊を紹介され「坊の精進料理や朝のお勤めを経験しなさい」と薦められる。この寺は後日気が付くが、かの上杉謙信の剃髪した由緒ある歴史のある寺であった。
この足で徳島駅、フェリーで和歌山に21時30分着。港でテント泊。翌日の始発電車で難波経由で高野山に行く。

 私の四国遍路は4回の区切り打ちで、通算34泊であった。かかる日数はお遍路としては指して問題ではないが、定年退職後第二の勤めをし、仕事の合間を作り(お願いし)実施したので、かかる日数も私にとっては少ない方が良いので、34泊を私は満足している。私の周囲のすべての人々に感謝です。南無大師遍照金剛!

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