今回参加するにあたり、私たちのテーマは2つあった。初めて蛇引の清水で幕営すること、真夏に重荷を背負い上げること(じつは暑さに弱い)。私たちは山開きが縁で五味沢に通うようになり、ボランティアにも成り行きで迷い込んだ素人にすぎない。道刈りにかかわる実力派の皆さんの中で、やれることが本当にあるのかどうかについては、疑問が残っていた。はてさて?
午前3時に自宅出発。東北道で迎えた夜明けの空は、完全に梅雨明けのものとみえた。小国町に入っても上天気である。「ここも梅雨明けか? 今日の登りは暑さとの戦いになりそうだな」と覚悟を決めたところで、8時20分、大石橋の駐車場に到着。そこには30人以上の屈強な面々が賑やかに集まっていた。想像以上に大掛かりの行事に、まずビックリ。
食料等の共同装備を分けてもらい、借りてきた70リットルザックに詰めて歩き始める。「すでに立ち遅れているようだ」と焦りそうになるが、結構な重さに加え、ザックのバランスを気にかけながらの吊橋道中はマイペースあるのみ。暑さへの対策は、このルートは今年3度目なのでペース配分をうまくやること、体温を上げない登り方に徹すること、だった。
角楢小屋手前の吊橋で、北から縦走してきた男性3人パーティに行きあう。山さんのホームページを見ていたようで、あいさつを交わした後に質問された。
「草刈りの方ですね。そちら、去年初めて刈払機を使ったという女性ですか?」「あ、違います。でももちろん、彼女も来てますよ!」
この行事もずいぶん有名なのだなと感心しながら角楢小屋へ到着。平らな道でこれだけ大汗をかいては・・・と、これからの登りを考えて少し心配になる。強力なボッカ2名が先行しているものと信じていたので、一息ついただけで小屋を出発。4番目の吊橋で大玉沢を渡り、いよいよ本格的な急登にかかる。いつの間にか空は曇っており、予想したよりは楽であるが、それでも暑い暑い暑い・・・やっとのことで5月にベア・ウオッチングで来た見晴らしの良い場所に着く。残る距離の見当がついたので休憩。さらにまた一汗かいて「蛇引の清水」の看板を見つけたときの嬉しかったこと!
水場への下りは相変わらずの泥道だった。が、テン場に着いてもシーンとして誰もいない!? 何より先に水場に直行し、頭から水をかぶった。予想どおりの水の冷たさに感謝感激、生き返る。「皆さん着かないね。どうしたんだろう?」そこへ1人到着、暑さと重さでバテているとの話で荷担ぎに下りる。
やがて蛇引班の皆さんが続々到着して、テン場は急ににぎやかになった。今年の新入りは若者2名(1人がトタン板で腕にケガ、1人は足首捻挫したとのことだが、泣き言も言わず働く根性には感動した)に我々中高年2名。テント張りや炊事はすべて先輩方に見習う。一方では分担して稜線への草刈機の担ぎ上げが整然と行われている。ベテランにとっては馴れた手順のようだ。高田シェフは手際よく指示を出して皆の力を集め、次々に3日間の食事を作っていった。ボッカ様のおかげで飲食物は豊富なり。
「今晩、雨が降ると思うかい?」「降ります!」
朝日に来ると、どんなに晴れた日でもきっと1度は降る。しかし夜半からの雨が、断続的に2日間も降り続くことになると予測したわけではなかった。
草を刈る梅津さん |
2日目、雫が空からだか梢からだか落ちてくる中で、炊事をし朝食をとり、草刈隊は稜線に上がる。糧食隊は昼食の仕度を続ける。
私たちはこの日、草刈隊の昼食サポートに同行した。森林限界を越えて登っていくと、霧の中から刈払機のエンジン音が聞こえてくる。平岩山に初男さん、大玉山に春日さんと梅津さん、雨と霧の中で2台が稼働中。草刈隊ご苦労様〜。
北大玉の分岐で縦走路に出ると、弁当&お届け隊は南北に分かれる。私たちは北方稜線の平岩山方面へ。道刈りの済んだばかりの登山道には、リンドウの大きな株が秋を待つ風情。初男さんと合流しての昼食はあいにく土砂降りの中となった。食後に平岩の清水へ下りる。意外にも平岩の清水は沢で、連日の雨で濁りが入っていたため水汲みは中止された。かわりに平岩小屋の候補地をていねいに教えていただいた。
キャンプサイトはなんとな〜く傾斜している。雨が降れば泥んこ状態、座る場所もなく食事中も立ったまま、移動するにも油断はできない。その中で皆さん楽しそうに飲む、食べる・・・この情景は2晩とも変わらずであった。何ともタフな方々ではある。アルコールの消費量もすごかったが、いくら飲んでも滑って転ぶ人はいないのが、またすごい! しかしテントに浸水し、1晩目にして寝袋が濡れた方はおられた。新米サポーターに気前よく新しいテントを貸し与えた結果である。(ひと夏の体験で逃げられても困るか?)
3日目も雨。草刈りを続ける者、午前中に下山する者、キャンプを撤収していく者。あらゆる物体が湿った中で、落ちてくるのは雨水なのか樹の雫なのか、もうどうでもよくなってきた。荷造りして下山あるのみ。
幸い角楢小屋に着くころは晴れ間が広がっていた。昼食のソーメンを作っていただき一息。しかし日向の暑いこと! いよいよ東北地方も梅雨明けに違いない。青空の中に並び立つハシゴの上で、山さんと高田さんは汗ビッショリ、屋根葺きの仕上げにトンカンと調子を合わせる。
用済みの私どもは水場の角楢沢へ。もちろん水浴び。涼しい! ああもう山から下りたくない!
ここで隠しテーマの実験をした。汗だくで登り「水着で登ったほうがまし」と嘆いた経験はないだろうか? 今回はアンダーに水着を仕込んできたので、本当にましかどうか試せるのである。結果は良好、水着のほうが濡れても冷えないくらい。型と材質を選べばウェアは水陸兼用が可能、そのままで沢の水を浴びたのち山姿に戻ることができる。ただし水気の拭き取りはプラセーム(プール用スポンジタオル)に限る。
この裏技、熱射病予防には大きな効果がありそうだが、大切なことは事前に、温度変化に体を慣らしておくことだ。スポーツサウナから小国町「ゆーゆ」の水風呂(かなり冷たいゾォ)あたりまでトライしておくと良い。おっと虫除けも必携、ビーチサンダルの類も欲しくなるだろう。
さて行動中、1度だけ身の危険を感じたときがあった。弁当配達中の雨の稜線で、僅かの間だが「寒い」と思った。雨具の下で濡れていて、次の段階ではツェルト・テント・小屋が求められる状況。ちょうど平岩清水のあたり、小屋の建設が検討されている周辺のことで、小屋の必要性を実感することになった。
今回初めて「小国道刈り」の一部始終を見学できたわけだが、全体を知ったことで部分参加がしやすくなったと思う。無理なく半日や1日で荷運びを手伝うだけでも、十分お役に立てることがよくわかった。(参加してみたいと思っている方、ためらうことはありませんよ!)
「我々だって、宿泊用の個人装備がなければ2人で20数キロの負担は限度内だね」と事後の強気のセリフ。それにしても3年前、サブザックでも祝瓶山の下りで膝をかばっていたことを思えば、満足すべき進歩である。これを誰に、何に感謝したら良いのだろう。この山々にか、この仲間たちにか?
非力でも山の味方になれることは歓びである。山を傷つけるとき、知らず知らず自分自身も傷ついてきたのだ。ちょっと足場を変えて、山の側に立って汗をかくとき、山とともに自らが癒されてくることに気づく。これはやってみて初めてわかることであった。