鏡面研磨(反射望遠鏡用凹面鏡)
私は鏡面研磨に興味のある古代史ファンです。と申しましても天体用反射望遠鏡の凹面鏡を何枚か磨いたことがあるといったものです。三角縁神獣鏡の研磨方法がどのようなものだったのか、ヒントになりそうな個所を拾ってみたいと思います。以下【 】がその個所を示します。 【白銅鏡では現代の光学品のような研磨方法だったのかどうか?】
【白銅鏡が凸面鏡なのは欠点が目立ちにくいという点があるでしょう】天体用反射望遠鏡の凹面鏡(以下、反射凹面鏡と略)の研磨工程(下向き手磨き法)の概要は以下の通りです。なお光学用の凸面鏡の研磨方法は基本的には凹面鏡と同じです。
製作所要日数(勤めのあい間に気長にやった場合)は、10cm鏡で1週間、15cm鏡で2週間、20cm鏡で1ケ月、40cm鏡(簡易研磨機使用)で4ケ月位かかりました。
1.鏡材ガラスの準備
反射凹面鏡のガラスの材質は大きく3つに分けられるでしょう。
(1) 普通ガラス
(2) 低膨張ガラス:熱膨張率が普通ガラスの3分の1程度であり、パロマ山天文台の200インチ鏡のパイレックスガラス等が該当します。これの使用理由は気温の変化で鏡面が変化して星像が乱れる現象があるためです。普通ガラスよりも硬くて荒ずり工程でへこますのに時間がかかります。
(3) 超低膨張ガラス:熱膨張率が殆どゼロです。ただしパイレックスよりもさらに硬いそうです。
材質が硬くても荒ずりまでができれば後は殆ど違わないと思います。なお硬い方が表面はきれいに仕上がります。
【白銅鏡の材質の硬さはガラスに対してどの程度でしょう?】反射凹面鏡のガラスの厚み:直径の6分の1が理想的です。薄いと使用時に湾曲するためぶ厚いものが使われます。
【光学用でない白銅鏡は薄くても構わないでしょう】ガラスは2枚必要です。反射凹面鏡(以下、鏡材とか鏡面などと略)になる方と研磨のためにいる盤ガラス(以下、盤)です。
2.荒ずり。
研磨材としてカーボランダム(人工品、紙ヤスリの黒い砂)という砂を使います。昔は天然の金剛砂(カーボランダムより切れ味落ちる)が用いられました。
【白銅鏡研磨では金剛砂が用いられたのかどうか?】荒さは#(メッシュ、1インチに何本か)で表わされます。#120(10cm鏡)〜#60(40cm鏡)が荒ずりでは用いられます。作業台に乗せた盤の上に水と混ぜた研磨材を撒き鏡材(鏡面が下向き)をかさねます
へこます(削る)寸法:r・r/(2・R)で計算します。rはガラスの半径、Rは鏡面カーブの半径です。Rの半分が焦点距離になります。たとえば20cm鏡(r=100mm)で焦点距離1mの場合は、R=2000mmで、2.5mmへこむことになります。
研磨での基本動作は3つです。
(1) 手前に直径の3分の1位引いて元の位置にもどす。これにより鏡面中央が削られ、盤は端が削られます。(1ストローク)
(2) 1ストローク毎に鏡材を10〜30度位まわす。これにより鏡材が光軸中心の回転表面になります。
(3) 作業しながら自分が作業台のまわりを回るか、適当な時間間隔で盤を30度位まわす。これにより盤が回転表面になります。
【白銅鏡研磨では(1)と(2)は同じとして(3)がどうだったか?】20cm鏡で1.5mmへこます所要時間は1〜2日位です。
荒ずりでは極端な横ずらし法によって、鏡面中央と盤端に力を加え早くへこますことができます。
2.荒ずり(その2)
#250カーボランダムで数時間作業します。これによって表面が球面に近くなりスリガラスがきめ細かくなります。
3.中ずり
#400、#800金剛砂(名称はエメリー等)で各数時間作業します。ここでの注意点は前段階の荒い砂目を完全に除くこと、引っかかりがないようにする(球面)ことです。
4.仕上げずり
#1500金剛砂で数時間作業します。たいへんきめ細かいスリガラスの表面になります。しかし磨いたのとはほど遠くて物は殆ど映りません。
5.磨き
ピッチ(アスファルト)を鍋に入れて火にかけて溶かして松ヤニをまぜ泡除去のため自転車油を少し加えます。
【白銅鏡研磨ではピッチを使ったのかどうか?】盤を水平に置き、周囲に紙テープ(新聞紙等で作る)を7mm位の高さに1周まき糊止めします。
盤の中央付近から溶かしたピッチを流し込みます。
頃合いを見はからって接着防止のため鏡面に石鹸水を素早く塗って流し込んだピッチの上にかさねて押さえます。すると余分なピッチが流れて大きな気泡もなくなり、ピッチ表面が鏡面と合うようななります
【白銅鏡では溶解金属の流し込みの後に型で押さえるようなことをやったのかどうか?】ピッチが冷えた後、周囲にはみ出たピッチや紙テープを切り落とします。
ピッチ表面に碁盤目状にV字形の溝を切ります。(磨き・整形用のピッチ盤の完成)
ピッチ盤の表面に水と混ぜた紅柄(最近は人工品の酸化セリウム等)をまき(筆で塗り)、砂ずりと同じようにして磨き作業をします。但し磨きでは吸い付くような力が発生するため鏡面の裏側に必ず鏡の直径の4〜5分の1位のハンドル(丸棒)を取り付けないと磨けません。
【白銅鏡の画像側の鈕の部分にこのハンドルの役目がなかったかどうか?】磨き作業によってスリガラスだったのがピカピカに磨かれた表面になります。
6.整形(その1、球面) 【白銅鏡では関係なし】
これまで表面は磨かれた状態ですが光学的には極めて不十分です。これを光軸中心の回転球面に整形します。このとき球心に点光源を置いた数十分の1波長の誤差が分かるきわめて敏感なテスト方法(フーコーテスト)を用います。ここでの注意点は悪い研磨方法を反省することです。すると自動的に球面に近くなるというものです。道理に外れた我の強い人は絶対に旨くいきません。
7.整形(その2、回転放物線面) 【白銅鏡では関係なし】
光軸中心の回転球面から回転放物線面に整形します。鏡面が球面だと鏡周に比べて鏡央の焦点距離が長い(球面収差)ため、鏡央を掘り下げて放物線面にします。掘り下げる量は、r/(512・F・F・F)です。Fは焦点距離を鏡径で割った値です。ここでもフーコーテストを用います。このテストでは出来ばえに応じて独特の光模様が見えすごい醍醐味がありますが、神経を使い身体を悪くしがちです。ここでの精度は全表面が光の8分の1波長とか16分の1波長を目標にします。
8.一番最後
裏面または鏡周にガラス切りを用いて署名します。これには手工芸品での責任表示の意味が多分にあります。
【白銅鏡での銘文の重みはいかに】天体望遠鏡として使用する場合は、凹面鏡のガラス表面に必ず(太陽観測用以外)アルミメッキをします。
【白銅鏡では溶解金属を流し込む型がどのようだったか。上下どちら向きか。流し込み直後に上型を押し当てたかどうか等についてまず知りたい所です】
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