名 山 行
名山と言えば多くの人が日本百名山を思い浮かべる。深田久弥氏の名著「日本百名山」の山である。私が百名山を意識し始めたのはそれ程早くはなかった。24歳ころから趣味として山登りを始め、ガイドブックを頼りに日帰り登山を楽しみ、たまに泊りがけ登山をしていたが百名山を意識して目指すことはなかった。また、当時は最近のように百名山を目指す人は多くなかった。私の場合、百名山より300名山を目指す中で百名山を意識するようになった。48歳、金沢在住時に知人のA氏に誘われてN氏の山行に同行したのがきっかけであった。N氏は仕事上同じ組織の相当の地位にあった人だが面識はなかった。N氏は300名山登頂を目指しておられたが、車に乗られず、行く先々の登山をする知人に車の便宜を頼んでおられ、北陸の300名山行に車を持つA氏の同行を求めた次第。私を含め4名がA氏の車で猿ヶ馬場山や医王山に登った。その後、私の車で二人で白木峰、経ヶ岳に登った。N氏により300名山のあることを知り、私も目指すようになった。200名山もあるがこちらは山と渓谷社が選定したもの。300名山は日本山岳会が各県山岳会の推薦に基づいて選定したもの。N氏はよりオーソリティのある300名山にこだわっておられた。私見でも百名山では名山が絞り込まれてしまい、多くの名山がもれてしまう。300名山になると、各地の名山が概ね過不足なく含まれている。その後、N氏は65歳位で300名山全登頂を果たされた。私は現職のころはまだ先があるという感覚で精力的には300名山行をしておらず、仕事の都合もあり、よくて年2回の遠出で5山位登れれば良い方だった。こんなペースだったので、70歳退職時にはまだ100山ほども未踏峰があり、気長に毎年10山で80歳までに全登頂できればと思っていた。しかし、70歳以降の心身の衰えは顕著で、いつまで山行を続けられるか危ぶまれる。65歳までに全登頂を目指されたN氏は賢明だった。72歳となった今、75歳までの全登頂を目指しているが毎年25山ほど登るペースをこなせるかいささか心もとない。歳を取ると無理は禁物なので、今は何がなんでも全登頂ではなくできるところまで登ろうという気持ち。300名山といっても短時間で簡単に登れる山から難峰まであり、難峰を早めに登っておきたい。話を戻すと、名山を特定することにおかしさを感じる人もいると思う。私も同感ではある。人それぞれの山行を通じて自分の好きな山ができる。また、山行時の天気や季節、出会った景色や草木、生き物、他の人、自分の心身の状態など複合的な要因によって山行の印象は大きく違ってくる。日帰りの低山であっても大きな感動を得ることはあるし、名山であっても終日雨の中を歩いた記憶しか残っていなことも少なくない。一方、人生に何か目標を定めるとき、目標を特定しないととりとめなくなってしまわないか。また、名山へのこだわりがなければ、日帰りで気軽に行ける山に山行範囲が限られ、遠くにある山々を知らないままに終わってしまう。それでよいという達観もあるかもしれないが、山に惹かれる以上、欲をいえばヒマラヤやヨーロッパアルプスの山々にまで接してみたい。深田氏も日本百名山で有名だが、氏のライフワークはヒマラヤの山々にあり、そちらの著書も多い。せめて日本の名峰と称される山々には触れてみたいというのが私の願いである。⇒トップページ