畦地梅太郎の名前を知っている人は少ないが、その版画を目にしている人は多いと思う。私もその一人で山の本の表紙や挿絵でその独特で印象に残る版画を目にしたことがあった。ただ、私の感覚には合わず、余り好印象は持っていなかった。65歳ころ、同様に自分とは合わないと感じていた辻まことの作品に惹かれたことなどもあり、この版画の作者について知りたいと思い、氏の本を読んでみた。読んでみてすぐにその飾らない訥々とした文章に惹かれ、氏の本を集めるようになった。氏の版画が挿絵になった画文集はほのぼのとした味わいや飄々とどこかとぼけた感じがあり、心がほぐされる感じがした。氏の複数の本の内容は重複があり、また同じトーンが流れており、悪く言うと似たり寄ったりだが、その点も含めて氏の人柄は文章からの印象のままではないかと思われる。氏の本の中では画文集とは少し異なるが自伝的なものが興味深かった。四国の片田舎で生まれ育ち、大学や美術専門学校にも行かずに徒弟的な修行を経て版画家として独自の作風を確立していった歩みに感銘を受けた。近年のレールの引かれたコースをたどる多くの人達とは全く異なる、自分に合わないことは無理しない自然体の生き方を流れるように続けながら自己実現していった過程に、人の在り方、生き方について考えさせられた。氏の本を読んでから氏の版画への感想も変わり、優しさや素朴さ、詩情、無垢な心を感じるようになった。登山に関しては、氏は登山の上達を求めた人ではなく、多くの登山愛好家者と同様のレベルだがその山行についての文章は独特のおかしみがあり、読んだことのない人には一読を勧めたい。⇒トップページへ |