転勤は拒否できる?
  (平成21年3月8日)
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OL時代、男性社員たちが、よくこんな話をしていました。
「あの役員に逆らうと飛ばされるぞ」
「そういえば、あの営業所の誰々も、 あそこに飛ばされたらしいな」 と。

ま、これは極端な例ですが、サラリーマンに配置転換はつきものです。

配置転換とは、
・会社内での部署の異動や
・勤務地が変わる転勤  などです。

なぜ配置転換をするのでしょう。

・多種多様な経験を積ませる
・能力を開発する
・適材適所に配置する  などでしょう。

解雇の号でも触れましたが、たとえ今は問題社員と思われていても、
配転により環境が変われば、いい人材に育つかもしれません。

そういう前向きな異動や、栄転、であればいいのですが、

左遷、島流し目的の転勤や、たとえ正当理由があったとしても、
生活環境が悪化するような転勤は、出来たら拒否したい・・。
でも、拒否すると解雇になるのかな??

・・・と、サラリーマンは常に、戦々恐々としています。
転勤命令といえども、業務命令ですから。

ここで気になるのが、
そんな転勤命令を拒否することが出来るのか否か? でしょう

この場合、採用時の約束がモノをいいます。

●採用の際、「あなたの仕事場はここですよ」と、
 勤務地が限定されていましたか?

 その場合で転勤をさせるには、個別の同意が必要です。

 会社の一方的な転勤命令は、権利濫用で無効となります。
 そして、その根拠となるのが、勤務地限定を明記した雇用契約書や就業規則等です。
  
では、
●「将来は転勤があるかもよ」と、
 勤務地を限定せずに採用された人を転勤させる場合は、

 個別の同意は不要です。

 それを承知で入社したんでしょ、ということで、
 雇用契約書や就業規則等のその明記を根拠に、
 包括的な合意があったとみなされるからです。

 この場合は、原則、命令を拒否できません。


では、転勤により何かしらの不利益を被る場合でも、
我慢して転勤しなければならないのでしょうか?

裁判所は、原則、
「転勤に伴う多少の不利益は我慢しなさい。」と言っています。

この場合の「多少の不利益」とは、
・単身赴任で家族別れ別れ
・新婚夫婦が離れ離れ
・長時間通勤になり、保育園の送迎が出来なくなる  等々です。
 (東亜ペイント事件、チェース・マンハッタン銀行事件 他多数)


・・・わかりました。仕事だから、転勤命令には従いますよ。
その代わり、単身赴任手当や週末に帰宅するための交通費ぐらいは
会社が負担してくれませんか。 また、社宅も提供してください。

と、従業員から代償措置の要望が。

裁判所は、
会社のこのような配慮は、『信義則上の義務』 だとしています。(帝国臓器事件)


以上をまとめると、

会社の転勤命令は広く有効とされる。その際の不利益は我慢しなさい。
ただし、会社も代償措置をする義務はあるからね、ということです。


それでも、例外的に、
転勤命令が権利濫用で無効となる場合もあります。

それは、その転勤命令自体に、
◆業務上の必要性がなく
◆たとえ業務上の必要性があったとしても、 当該転勤命令が、
 他の不当な動機・目的をもってなされたものである場合です。

 たとえば、
 労働組合員だから、とか、上司にたてついたから 等です。
 (それを立証するのは難しそうですが。。)

さらに、
◆通常の我慢の限度を超えた『著しい不利益』が伴う転勤命令は、権利濫用で無効。
 その場合、命令を拒否しても解雇はできない。
 という判例もあります。(東亜ペイント事件 S61.7.14最高裁)


『著しい不利益』の具体例として、

 子供たちが病気で、今後も同一病院での定期的な治療が必要で、
 さらに老親も体調が悪く面倒をみなければならない。
 その上、実家の農業もしなければならず、 自分(夫)が転勤したら、
 妻1人がこれらの荷をすべて背負わなければならない、 
 一方、会社には他にも適任者がいる、
 
 という事であれば、これは著しい不利益であり、
 この転勤命令は無効である、とされました。(北海道コカ・コーラボトリング事件 札幌地裁H9)

 など、他にも多々あります。


これらはあくまで例外ですが、それでも今後は、
従業員の育児や介護問題に配慮した人選が より求められます。
このことは、育児介護休業法第26条でも義務化されています。
こういうところでも、企業の、社会の一員としての姿勢が求められています。

ちなみに、女性の単身赴任は、
幼子がいるからといって、大目にみていいことにはなりません。

その転勤が今後の昇進等に影響するのであれば尚更、
女性への気遣いが、結果として、均等法違反に発展するかもしれないからです。

とは言っても、幼子がいる共働き家庭の女性の負担は大きいものです。

ですから、女性従業員を転勤させる場合、
・従業員のご両親による援助は期待できるのか、
・転勤先は自宅から近いか  
等の企業の配慮や、夫の協力も必要になってきます。


転勤は確かにいろいろな不利益が伴います。
しかし、それはまた、新たな出会いや経験ができるチャンスでもあります。

いろんな意味で、転勤は、人生の岐路になるんですね。



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